暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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4、混迷の島で

乾期が始まっているというのに、水が溢れ始めたクーケン島。

 

子供らは裸になって水路で遊んでいる。

 

きらきらと輝く水。

 

そのまま飲めるほどだが。流石にそれをやるバカは誰もいない。真水を飲むのは自殺行為だ。

 

それについては、既に誰もが知っている。幼い頃から、叩き込まれるからである。

 

ボオスは島を見て回る。

 

今の時点で、何件かトラブルはあったが、それでも致命的なものはない。護り手と連携しながら、一つずつ問題は解決していく。

 

ブルネン家が金を出して保証しなければならない問題は幾つもあった。

 

父さんは不満そうにしたが。

 

そもそも水の利権で暴利を貪り続けたブルネン家だ。

 

このくらい保証するのが当然である。

 

今後は、水利権なんかなくても島の指導者に相応しい事を、行動と態度で見せていかなければならない。

 

それを、ボオスはしっかり理解していた。

 

ランバーが来る。

 

耳打ちされた。

 

カールが来たと言うのだ。頷くと、会いに行く。

 

ライザの父であるカールは、畑と会話する奇人としても知られているが。島一番の技量と知識を持つ農夫でもある。

 

文字通りの意味で畑と会話して。

 

それで最高の作物を仕上げてくる。

 

だったら、ブルネン家でも敬意を払うのは当然だ。

 

実の所、先代がライザと仲良くしておけといったのは。この技量をライザが受け継ぐ可能性も考慮していた節がある。

 

だがライザは、残念ながら一箇所で留まって作業をする農婦には収まらない才覚の持ち主だった。

 

まあ、優れた才覚を持っているのは、先代も理解していたのだろう。

 

いずれにしても、今はカールの話を聞く必要があった。

 

「来てくれたかカールさん。 水についての見解があるのなら、聞かせてほしい」

 

「少し口調が柔らかくなったね」

 

「恐縮だ」

 

「ふふ。 ええとだね。 水は基本的には悪くない。 麦も他の作物も、充分に育つと見て良いだろう」

 

そうか、それは良かった。

 

ボオスも見て来ている。

 

どれほどの地獄が、このクーケン島の現状を支えるための土台となったのか。

 

それを覆すために、ライザ達が奮闘したのかも。

 

それが全部台無しになる事態だけは避けられた。

 

それだけで、どれほど報われるだろうか。

 

自分の事のように嬉しい。

 

いや、ボオスも既に当事者か。そもそもボオスが説明しなければ、異界だの乾きの悪魔だのを、父さんは本気にしなかっただろうし。

 

「ただ、クーケンフルーツはこれから味の質が落ちる」

 

「なんだって……」

 

「水の質が少し違うんだ。 勿論充分に食べる事が出来るが、微妙に落ちるのは確実だと見て良い」

 

「分かった。 それについては、俺からライザに説明する」

 

頼むよと、カールは温厚な笑顔を浮かべて去って行った。

 

そうか。やはりライザでも、その僅かな差を埋めることは出来なかったか。

 

悔しいな。

 

そう思っているボオスに、ランバーが言う。

 

「それでどうします?」

 

「フィルフサの件が片付いてから、ライザと対応を協議する。 あのライザが作った浄水装置、突貫工事だったと聞いているし。 何より後から追加機能をつける拡張性があるとも聞いている。 だったら、ライザだったらどうとでも出来る筈だ」

 

「そうですね……」

 

「次だ。 これから数日は、何か問題が起きていないか、俺たちで見て回る。 俺たちは異界での戦闘では力になれない。 アガーテ護り手長達には、街道での通行禁止を既にやってもらっている。 幾つか街道沿いにある集落には、避難勧告を出して回って貰っている所だ」

 

流石に、乾きの悪魔と言う単語は出せない。

 

ただ、何度かオーリムに行って戻って来たレントが。フィルフサの残骸になる殻を持ち帰ってきている。

 

これを証拠にして。

 

見せて回って貰っている。

 

こんな化け物は、見た事がない。

 

それは、誰もが口にする。

 

更には、斥候というのか。

 

奴らの偵察する個体が、彼方此方で目撃は既にされていたようだ。見た事もない魔物が出ているという噂は既にあって。

 

それで、アガーテ達の行動は、スムーズに行えているようである。

 

魔術が効かず。

 

剣術の達人ですら、相討ちがやっとの怪物が。凄まじい数で攻めこんでくる可能性がある。

 

それだけでも、どれだけの脅威になるか。

 

今の人間には、充分過ぎるほどに通じる。

 

アガーテはあの年で、護り手としては大ベテランだ。恐らくは、充分に注意喚起が出来るだろう。

 

後は、クーケン島の事を、ブルネン家でどうにか捌いていくだけだ。

 

ぐったりした様子の父さんが来る。

 

「やれやれ、やっとご老人方が帰ってくれたよ」

 

「父さん。 一つ話がある」

 

「なんだ……」

 

「この件が片付いたら、俺は王都に留学に行く。 タオも誘うつもりだ。 資金の準備をしていてくれるか」

 

父さんが固まる。

 

まあそうだろうなとも思う。

 

王都がくだらない場所である事は分かっている。

 

王都に行くのは、そこに死蔵されているだろう知識を得るため。

 

そして、アガーテと同じように。実際に自分の目で、如何にくだらない場所かを、確認する為だ。

 

ロテスヴァッサという国家が、錬金術師を集めて。あの古代クリント王国と同じ事をしようとしていたことは、アンペル師から聞いている。

 

そんな場所が、まともである筈がない。

 

もしも今後何か起きた時に、「王都だから有り難いに決まっている」という偏見を、排除しておく必要がある。

 

そのためには。一度王都の学園に、実際の様子を見に行く必要がある。

 

それにボオス自身も力不足を感じている。

 

もしも次に大きな問題が起きたときは、ライザ達と行動を共にして、解決に当たりたい。それには、今までのブランクが大きすぎる。知恵を力を蓄えるには、見聞を広める必要があるのだ。

 

「……分かった。 昔アガーテが騎士になると言ったときも、先代が大喜びで送り出していたな。 母さんはまだあの頃は壮健で、可愛い子には旅をさせて苦労も経験させろって、口を酸っぱくして言っていたっけ」

 

「頼む。 タオは俺以上の俊英だ。 ライザとともども、絶対に島の未来を担う」

 

「そうだな。 見ていて分かったよ。 あの子は本当に凄い学問を身に付けるだろう。 この島で腐らせるわけにはいかないだろうな」

 

資金の問題は、まだ父さんに頼むしかない。

 

これで、一通りの準備はできたか。

 

後は、最後の戦いだ。

 

それを、ライザ達が上手くやってくれる事を。ボオスは此処から祈るしかなかった。

 

 

 

(続)




島の問題を総力で解決し、島の有力者とも共有することに成功したライザ。
原作では有力者達を巻き込みませんでしたが、本作ではがっつり関与して貰っています。運命共同体に無理矢理するためです。

後は迫る最後にして最大の問題。

フィルフサの大侵攻への対策です。
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