暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
土砂降りを、戻した水で強引に引き起こし、それでやっと戦える状態になります。
しかし敵の数は百万以上……
「はあっ!」
気迫とともに、恐らくは将軍の直接護衛らしいフィルフサを蹴り砕く。柔らかくなっている上半身が、核ごと消し飛んで、そのまま崩れて溶けて行く。
あたしはみんなの援護を受けながら、走る。
時々コアクリスタルから爆弾を取りだし、周囲を薙ぎ払う。水で柔らかくなっているフィルフサは信じられないくらい脆くなっていて。とんでもない数が嘘のように弱体化していた。
門は、キロさんが大雨の中必死に守ってくれている。
だったら、あたし達がまずは敵尖兵を崩す。
それには将軍を全部倒すしかない。
この先鋒部隊は六体の将軍が統率している。だったら、その六体全部を、このまま蹴り砕くだけだ。
巨大な人型みたいなのが、豪腕を振り下ろしてくる。
あたしはその拳を、そのまま横殴りに蹴り砕いていた。
呆然と手を見やる人型。
そのまま回転しつつ、横腹に蹴りを叩き込んでやる。文字通り吹っ飛んだ人型のフィルフサ。
いや、人型というのにはちょっと体がずんぐりしていたか。
強いていうなら、密林に猿という人間に近い動物が住んでいると聞く。確か古代クリント王国の連中が、オーレン族をそう呼んで馬鹿にしていた動物。それが、今のフィルフサに近いかも知れない。
それにしてもだ。
倒しながら、順番に見やる。
前に倒した「見張り」もそうだが、どこか既存の生物にフィルフサは似ている。倒すとがらんどうであることも含めて、どうにもこいつらは妙だ。
どうして既存の生物に似る必要がある。
フィルフサはそれこそ、どんな形でも取れるのなら、それぞれ最強の姿を取れば良いだろうに。
実際問題、生物というのはそういうものだ。
その生きている世界において、もっとも生きやすい姿をしているものなのである。
だから、仮に人間が滅んだとして。
その後に文明を築くのは、人間に似た生き物では無いかと言う話をアンペルさんはしていたっけ。
レントが前に出てきた。
大剣を自由自在に振り回して、時間を稼ぐ。
あたしは仁王立ちのまま、栄養剤を飲み干す。味はどうでもいいから、パワーが出るものを作った。
信じられないくらいまずいが。
そのかわり、とんでもなく力が出る。
態勢を低くすると。
あたしは、周囲の空気を吹っ飛ばすような雄叫びを上げていた。
来い侵略者ども。
全部まとめて。
あたしが蹴り砕いてやる。
フィルフサが怯んでいるように見えた。ただ空気が蹴散らされるのを見て、それで押されただけかも知れない。
だが、それでも気迫で負ける訳にはいかない。あたしは躍りかかると、時間を稼いでくれたレントに変わって、獰猛に前衛に躍り出る。
「ライザ! 道を空けるぞ!」
「お願いします!」
アンペルさんが、後方から三連続で光を放つ。それは水滴すら両断しながら、敵の群れに突き刺さり。
空間ごと切り裂いていた。
切り裂ける「距離」はごく僅かだが。
それでも、存分にフィルフサを撃ち倒す。敵の波濤のような群れが崩れる。それでも全体からすればほんのほんの一部。
しかし、わずかな隙間を、更にリラさんが突貫して、滅茶苦茶に切り裂いてこじ開ける。
あたしは、レント、タオ、クラウディアと絶叫。
そのまま、敵の真ん中に踊り込む。
大きいのが立ちふさがろうとする。ラプトルに似ているが、とんでもなくでかくて、装甲も凄い。
これも、雨が降っていなかったらこんなに弱体化していなかったのだろうが。
悪いが、戦いというのはこういうものだ。容赦なくぶっ潰させてもらう。
叫びながら、全力で踏み込む。
飛び散る泥水。
明らかに怯む大型。いや、そう見えているだけかも知れない。主観では、そう見えた。フィルフサに感情があるのだろうか。
分からないが、少し下がったフィルフサに、渾身の前蹴りを叩き込む。
文字通り。体に大穴を開けた、大きな四足獣の姿に似たフィルフサが。どうと後ろ向きに倒れる。
殺到してくる攻撃を跳躍して避けると。
上空に氷の足場を作って、ジグザグに更に跳んでくる攻撃を回避。
フィルフサの反撃も必死だ。
足を止めたら、身も蓋もない飽和攻撃に晒されるだろう。
あたしの脳も、凄まじい働きをしている。
敵を叩き潰す。
それだけに。
殺意一色に塗りつぶされて。ただ敵を探し求める。
突貫。
蹴り砕き、更に先に。砲台のような体を持っているフィルフサが、何匹もまとめて吹っ飛ぶ。普段だったら、こう簡単にはいかない。土砂降りの中でも、それでも態勢を崩さず。必死に抗おうとする。
フィルフサは生物なのだ。
繁殖のために、新天地を探している。
だが、それはフィルフサだけの新天地になる。
或いはだが。
人間が新天地に姿を見せた場合。フィルフサと同じか、それ以上の凄まじい破壊を産み出すのではあるまいか。
可能性は大いにある。
特に古代クリント王国の錬金術師のような連中は、何の躊躇もなく。
知恵を持つはずの生物でありながら、どれだけの蛮行でも平気で行うことが出来るだろう。
救いがたい。
そしてフィルフサに関しては。
身を守るために、殺し尽くさなければならない。
この存在がこれ以上増えると、何もかもが終わる。だから、それを許してはいけないのだ。
死角から、鋭い一撃。四本の足と、鋭い棘を持つ尻尾を持つ個体。前の二本の足は、鋏のようになっていて。さながら腕のように使えるようだ。
尻尾の一撃を杖で弾き返すと、鋏の内側に潜り込む。
さがろうとするフィルフサだが、そうはさせない。
近距離で拳を叩き入れ。そして何よりそれで相手を掴み。
踏み込むと同時に、ゼロ距離での蹴りを叩き込む。
ゼロ距離であっても、こういう蹴り技はある。
あたしも伊達に蹴り技を鍛えこんではいないのだ。
文字通り拉げたフィルフサが、全身をグシャグシャにつぶし。そして砕けて飛び散った。白い装甲の残骸や、コアの欠片らしいものが散らばる。
次。
振り返ると、見えた。
間違いない。あれが、将軍だ。
前に見たのと似た姿。あたしは殺意をそのままたぎらせると、突貫する。将軍も凄まじい雄叫びを上げて。
あたしを迎え撃ちに掛かる。
一体の背中が開くと、多数の小型フィルフサが上空に射出される。前に見たのと同じ戦術か。
だが、こっちは既にそれを見た事がある。
撃ち出された瞬間に、クラウディアが小型フィルフサを全て撃墜。更に、背中の装甲を開いたことで、フィルフサがもろに体内に雨を浴びた様子だ。
間抜けな将軍に、上空から突撃。
思った以上に素早くさがろうとする将軍だが、あたしは地面に杖を突き刺すと。辺りの地面を凍らせる。
フィルフサ将軍の足ごと、だ。
そして、杖を逆手に持ち替えると。
全力で遠心力を活用して、渾身の踵落としを叩き込む。
あれほどタフだった将軍の上半身が、文字通り拉げて潰れるが。それでも将軍は必死に逃れようとする。
全身から高出力の魔力を放って抵抗しに掛かるが。その時既に、レントが追いついていて。
ゴルドテリオンの大剣を閃かせる。
これだけの雨の中で戦い。
大量のフィルフサを斬っても、まるで切れ味が落ちていないそれを、将軍の横っ腹に突き込んでいた。
ぎいっと、凄まじい音がする。
悲鳴なのか、将軍の装甲がえぐれた音なのかは分からない。
同時に、タオが背後から将軍をハンマーで一撃。
あたしは踵落としの反動を利用して着地すると。真正面から将軍に突貫する。レントの剣で串刺しにされ、前後から柔らかくなっている装甲を強打されても。将軍はまだ抵抗を試みる。
口に集中していく魔力砲。
対ドラゴンなどの、対空攻撃にも使える奴だ。
丁度良い。
この大雨の中で、どれだけの出力を将軍が出せるのか、確認しておきたい。あたしは杖を振るうと。
フルパワーで、真正面から魔力を収束。
熱槍を千本分まとめて、叩き込んでいた。
ドラゴンにも痛打を浴びせる一撃と。あたしの超収束熱槍が真正面からぶつかりあう。
均衡の末に、暴力のぶつかり合いは拮抗し。そして、空に破壊の力は逃れた。雲が一瞬吹っ飛ぶが。
すぐにまた雲が生じて、大雨が降り続ける。
この世界は、水に餓えていた。
奪われた水は、生き生きと空にも地面にもしみこんでいる。
叫びながら、ジグザグに突貫。
流石将軍。
レントを体を揺すって吹っ飛ばし。
更には背中から大量の鱗らしいものを跳ばして、周囲全部を攻撃。タオを遠ざけると。
最大脅威と認識したらしいあたしに、立て続けの第二射を浴びせようとしてくる。
だがその口の中に、クラウディアが放った矢が完璧なピンホールショットとなって叩き込まれ。
文字通り海老反りになる将軍。
あたしはそのまま、フィルフサの潰れている上半身の真下に潜り込むと。
全力で、蹴り上げていた。
文字通り上半身が消し飛んだフィルフサ。コアが露出する。
それを掴むと、引きちぎって。
残ったフィルフサの体をけり跳ばす。
コアがなくなると、冗談のように脆くなった将軍の体は、一瞬で瓦解していた。多少熱いが。
熱の扱いは、あたしの得意分野だ。
さて、今の戦闘。
周囲を見回すと、やはりか。
纏まっていたはずの将軍が、仕掛けてこないからおかしいと思っていたのだ。残り五体は、距離を取ってこっちを観察していたようだ。
後方にさがっていく大きめのフィルフサ。
多分だけれども、あれは情報を伝達していくフィルフサだ。だが、それでいい。簡単に突破出来ないと認識したら、群れ全体の動きが鈍る可能性が高い。もしもそのまま護りに入ろうと考えてくれでもしたら。
後は雨で、じっくり弱らせて粉砕してやれば良い。
一番今困るのは、物量をフル活用して、全力で押しに押されること。
湖すら、無理矢理超えて来るような物量の持ち主だ。
雨をどれだけ降らせても。一度にあの玉から出せる水の量が限られている以上、いずれは突破される。
一度突破されたら、乾期の世界を好き放題に蹂躙させてしまう事になる。
突破出来ると考えさせてはならない。
そのためには、五体の将軍を、即座に駆逐する必要がある。
一体の将軍が跳び、もう一体の将軍の背中にくっつく。これは。将軍の装甲が展開すると、巨大な翼になる。
魔力による浮遊力の発生か。
文字通り浮き上がる二体のフィルフサ。それも将軍。
上空から、あの超火力攻撃を乱射されると、はっきりいって手に負えない。しかも一体が飛行を担当するとなると、火力も機動力も、以前交戦した空飛ぶ奴とは比較にもならないだろう。
リラさんとアンペルさんは、後方で敵の群れを引きつけてくれている。時々支援もしてくれているが。
二人が敵の雑魚を引きつけてくれていないと、とてもではないが戦闘など成立しない。
レントが前に出る。
「俺が一体は引きつける」
「僕も……怖いけどどうにかやってみる!」
「私もやるわ。 頼むよライザ!」
「……任された!」
あの合体したフィルフサ将軍。特に飛行していない下にいる方。あれが多分、侵攻部隊の総指揮官だ。
全身は真っ黒で、とにかく威圧感が大きい。
そして其奴は、今あたし達がしとめた将軍を敢えておとりに使い。味方の戦力が減るのを承知で、此方の戦闘能力を測った。
手強い相手だ。
これが本能だけで生きている生物なのかと驚かされる。森や戦闘を知り尽くしているオーレン族が苦戦するわけだ。
王種は此奴以上だと見て良いだろう。
ならば。解決策は一つ。
此奴を、此処で撃ち倒す。
挑戦する意気や良し。そう判断したのだろう。将軍は上空から、凄まじい音を立てる。それが威嚇のための咆哮なのか。それとも、ただの魔術詠唱なのか分からない。
だが、分かっているのは、
此奴に勝てないようでは。
フィルフサの大侵攻を止める術などない。
そういう事実だった。
門に群がろうとするフィルフサの群れを、キロは撃ち倒し続ける。味方である霊祈氏族の仲間はもう一人もいない。
孤独な戦いを、何百年と続けて来たキロは。
その練り上げた体術と魔術を全力で使い。近寄る全てのフィルフサを倒す。
しかも、相手は雨で弱体化している。大物もいない。
水に濡れて弱り。
雨に濡れて柔らかくなり。
仲間の死体を無理矢理踏み越えて迫ってくるそれらなど、もはやキロの敵ではない。ただ、数が多すぎる。
眠らなくてもいいオーレンの民とはいえ、それでも体力が無限にあるわけではない。それも、ここ数日は。
あの良き錬金術師を。
最後に信用することにした人間達を信じて。ずっと苛烈な戦いを続けて来たのである。そろそろ限界か。
足が止まる。
殺到してくるフィルフサの群れ。
顔を上げて、詠唱をしようとした瞬間。
キロすら瞠目する、強烈な力がオーリムに入り込んだのが分かった。
四つあるその力は。
まずは周囲全域に雷撃を叩き込む。あわてて上空に跳び上がらなければ、巻き込まれていたかも知れなかった。
水に濡れていたフィルフサどもが、まとめて吹っ飛ぶ。
更に暴風が、フィルフサを押し返す。そして、それが熱の竜巻になって。周囲のフィルフサを蹂躙して打ち砕いた。
雨が、更に更に強くなる。
フィルフサが怯むのが分かった。数で押そうにも、これでは無理だ。
見ると、椅子に座った四つの姿。
青白い肌の色はオーレン族に似ているが。違う。
あれは恐らくだが。何度か接触したライザの仲間達から聞いていた「精霊王」。
外でフィルフサの侵攻に備えているという話だったが。
どうしてオーリムに入り込んで来たのか。
「オーレン族の戦士か。 巻き込み掛けてしまったな。 詫びよう」
「貴方たちは」
「精霊王と言われているものだ。 私は「風」。 どうやら此処での戦闘で加勢する事で、フィルフサを効率よく削れると判断した。 助太刀する」
「そう。 助かるわ」
一目で分かる。
オーリムに存在する自然の権化である精霊とは別物だ。というよりも、精霊というのは本来ああいった人格なんぞ持っていない。固定された姿だって持っていない。
恐らくだが、あれは。
人工物。それも、昔古代クリント王国の人間が作ろうと試みていた、錬金術の産物である、人工生命ではあるまいか。
門の周囲に展開すると、それぞれの戦闘術でフィルフサを蹂躙し始める精霊王。やっと一息つけそうだ。
貰った栄養剤を飲み下す。
味は前よりだいぶ柔らかくなっている。そして力が体の底から湧いてくる。これでまだ少しは戦えるか。
近くに来たのは、随分と幼い様子の精霊王。
椅子に座って、ちいさな手足をぱたぱたさせている。同じ姿でも、年齢が違うように作られたのか。
いや違うな。
これは互いの見分けがつくように、意図的に姿を変えている。実際の中身は変わらないのだろう。
「私の能力、特にフィルフサと相性が悪いから、ここで護りに徹するね。 オーレン族のおねいちゃん、私のバリアの内側に入っていて。 ずっと戦ってたんでしょ。 今のうちに休んで」
「ありがとう異界の強き者」
「へへ。 あの良き錬金術師達、本気で私達に向き合った。 私達を動力源くらいにしか考えていなかった奴らと全然違う。 だから、一緒に戦う価値はあると思ったんだ」
「そうね。 ……お言葉に甘えさせて貰うわ」
石柱の影にて、少し休む。
本当にずっと戦い続けていたのだ。
体を休眠状態にして、一気に回復に入る。周囲では「精霊王」と名乗った存在達が大暴れしている。
これならば、少なくとも大雨もある。
フィルフサが、この門を突破する事はできないだろう。
だが、キロも本職だ。
この精霊王達の力も、無限では無い事は即座に分かった。まずはライザ達が、ここに攻め寄せている敵の先発隊を打ち砕いて。
全てはそれからになるだろう。
石柱の影で目を閉じて休む。
戦いは、まだ始まったばかり。
「バリア」とやらに、がちんがちんと凄まじい音を立てて、フィルフサの攻撃が着弾し続けているのが分かる。
多分エンシェントドラゴン並みの実力があるこの精霊王達でも、それでもいずれは突破されるだろう。
頼むわライザ。
そう呟くと、キロは回復に集中する事にしていた。