暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、それぞれの成長の成果

おっかないなあ。

 

タオはそう思いながら、相手と間合いを計る。雨で弱っているとは言え、相手は将軍である。

 

さっきのとんでもない荒っぽいライザの攻撃にもある程度耐えたほどの奴。それと同格。

 

それに対して、タオは余りにも非力だ。

 

雨でやっと互角の土俵。

 

ただし相手の地力がタオと比較にならない。

 

計算上は、どう考えてもタオが勝てない。

 

だったら、今やるべき事は決まっていた。

 

突撃してくる将軍。

 

雨と泥を蹴散らして、凄まじい勢いで来る。

 

タオは身体強化の魔術を、主に頭中心に用いて戦う。タオが計算しきったのは、将軍の足の動きだった。

 

ジグザグに、こっちからも間合いを詰める。

 

相手はタオの戦闘スタイルを既に見きっている様子で、せせら笑うようにして押し潰しに来る。

 

そう来るのは、分かっていた。

 

踏みつぶされる寸前に。

 

ゴルドテリオンで強化されたハンマーを、地面に叩き付け。

 

体ごと回転しながら。敵の前足の一つを、強打していた。

 

それも、関節に無理な力が掛かるように、である。

 

強烈な衝突音とともに弾かれる。

 

地面に着地すると、泥まみれになるのも関係無く、タオは即座に走る。今の一撃を受けたフィルフサは、案外侮れないと認識を改めたのだろう。

 

即座に飛び離れると、前足の補強を始める。装甲を動かして、体を治している様子だ。

 

あんな器用な事が出来るのか。

 

だが、この雨の中だ。

 

絶対に限界がある。

 

ジグザグに走りながら、相手の後ろを狙う。勿論将軍も、即座に体を旋回させて応じて来る。

 

それでいい。

 

タオが今やるのは、この将軍を単純に引きつける事。

 

恐らくレントは有利、クラウディアは互角。

 

そしてライザは、最強の将軍二体組を、絶対に撃ち倒してくれる。

 

味方を信頼しているからこそ。

 

タオは、敵に侮れないと認識させ。

 

一体の集中をずっと引きつける事を、続ける。

 

そうすることで敵の総戦力を減らし、勝ちに行く事が出来るのだから。

 

 

 

レントは苛烈な戦闘を開始したライザを横目に、大剣を担ぎ直すと、ゆっくり将軍に歩いて行く。

 

薄緑の装甲をしているが、忘れもしない。

 

小妖精の森に現れたのと、同じ形をしている。

 

ただ別個体だ。

 

あの個体は、頭に剣を叩き込んでやって、それでも平気な様子で動いていた。

 

ライザの総力での一斉攻撃を受けても平然としていた。

 

魔術は通じない。

 

それが分かっただけでも、あの時の戦いは大いに意味があった。そして、今手にしているゴルドテリオンの剣。

 

この大雨。

 

はっきりいって、レントが有利だ。

 

だが、それでも相手は将軍。以前戦った時は、多彩な技を駆使して、激しい戦闘になったのを覚えている。

 

油断は絶対にしてはならない。

 

そして此処で勝つことで。今、敵の気を引くことに集中しているタオの負担を減らす。

 

「よう。 タイマンと行こうぜ」

 

指で相手を招いてやる。

 

親父に散々叩き潰されて、レントは自分の力に自信を持てずにいた。

 

だが、ライザに頼りにされて。

 

前衛で活躍していく内に。

 

確実に自分の力がついていくのが分かった。

 

リラさんに指示されて、一人で生きていくための知識もどんどん学んでいった。裁縫や野戦料理。

 

それにクラウディアが笑顔のまま教えてくれた。騙されないための心得。

 

クラウディアはお嬢様そのものの姿をしているが、極めてしたかなやつだ。それでいながら、子供みたいに純粋だったりする。

 

レントは、レントとして剣腕を生かし。

 

親父が挫折した道を乗り越える。

 

目標だった塔には、あっさりたどり着けてしまった。

 

次の目標は。

 

親父が。

 

あの大巨人が心を折られた、人間社会。

 

それに屈服せず、乗り越える。

 

それがレントの目標だ。

 

フィルフサの将軍が、突貫してくる。早い。泥水と雨を蹴散らしながら突っ込んでくる其奴は、がばりと頭に相当する部分を展開。

 

既に強烈な魔力が、収束を終えていた。

 

同時にレントも突貫。

 

地面を抉りながら、フィルフサ将軍の懐に潜り込み。全身でぶつかるようにして、その巨体を下から跳ね上げていた。

 

上空に魔力砲が飛んでいく。

 

そのまま貫いてやろうと大剣を振るうが、フィルフサは想像以上の素早さでさがる。虫が嫌いな人間は、ひえっとか声を上げたかも知れない。レントは食べたいとまでは思わないが、別に苦手でもなんでもない。

 

タオが虫にくっつかれて悲鳴を上げているとき。

 

それをとってやるのは、いつもライザだったが。

 

ライザがいないときはレントが追い払っていたのだ。

 

そのまますり足で、距離を詰める。距離を保ちながら、フィルフサの将軍は、ぐんと何か伸ばしてきた。

 

鞭。いや違う。

 

それが多節の触手で。先端に針がついている事を見切る。

 

リラさんに言われていた。

 

基本的に一人旅をするなら、全ての魔物を初見と思え、と。初見の相手に勝つには、地力と。それ以上に初見殺しに対抗する技の開発だと。

 

幾つも教えてもらったが、その一つ。

 

唸りながら、複雑な起動で迫る触手を、激しく弾き返す。いわゆるパリィだ。だが、相手は弾かれても、触手で執拗に上を狙って来る。

 

走りながら、剣撃を繰り返し、パリィを連続で決める。相手も、雨の中で弱体化しているとはいえ、確実に殺しに来る。

 

更に、将軍は背中の装甲の形を変える。

 

それは列を作る。

 

列がこっちに向いていることに気付いたレントは飛び退く。

 

地面を抉り、盛大に爆発が巻き起こされたのは、次の瞬間だった。走りながら、立て続けに来る触手の猛攻を更に弾く。

 

なるほど、今のは列に滑らせて。装甲の一部を撃ちだしてきたのか。それとも魔術かは分からない。

 

どっちにしても、知っている技だ。

 

剣術の中に、片刃専用のものらしいのだが。鞘に収めた刃物を高速で滑らせて、超加速する技があるらしい。

 

居合いというらしいのだが、両羽の剣が主体の今は珍しい技で。

 

しかも装甲が薄い相手専用の技であるらしく、対人戦特化で用いられているそうだ。

 

あのフィルフサ将軍。

 

レントの装甲が薄いとみたか。

 

違う。多分、人間よりタフなことを利用して、真正面から押し潰しに来ていると見て良いだろう。

 

だったら、それを逆手に利用させて貰う。

 

列に沿った高速攻撃第二射。

 

吹っ飛ぶ地面。

 

フィルフサが飛び退きながら、口から大量の魔力弾を放ってくる。雨の中、凄まじい正面火力で制圧に掛かって来ている。

 

だが、レントはそれら全てを弾きながら突貫。

 

あわてて触手で迎撃に来るフィルフサ将軍。その触手を掴むと。引っ張りつつ跳躍。足下を、列から放たれる高速攻撃第三射が擦る。直撃したら足がなくなるだろう。そのまま、上空から敵を強襲。

 

背中に、大剣を突き刺していた。

 

敵の体内で、衝撃波が炸裂する。

 

身体強化魔術くらいしか使えないレントだが。それだけでは駄目だと言われている。

 

それで、必死に練習した。

 

相手に突き刺した剣を、高速振動させる。

 

振動させられるのは一瞬だけだが。それでも、剣は深く深く敵に突き刺さる。

 

今までも戦闘では使っていたのだが、使い手次第では当たり前にやっている技らしく。ライザも反応していなかった。

 

だが、これならどうだ。

 

悲鳴のような音を立て、必死にレントを振り払おうとする将軍。だが、レントはまず触手を引きちぎって放り捨てると。

 

踏ん張って、敵の頭に向けて、剣を抉り抜いていた。

 

竿立ちになる将軍。

 

これで死なないんだから驚きだが、見えた。コアだ。

 

フィルフサ将軍も黙っていない。跳躍して、背中から地面に体を叩き付け、押し潰しに来た。レントは潰される前に、将軍の一撃をかわす。潰される寸前で、肝が冷えた。

 

即座に反転して起き上がる将軍。

 

凄まじいアグレッシブさだが。

 

それでも、今のでコアの位置は把握した。動かす事も出来るかもしれないが、即座の対応だ。

 

踏み込んで、剣を突き立てる。

 

手応えあり。

 

コアを、突き刺し、貫いていた。

 

雨の中、将軍の動きが止まる。崩れ、そして溶けて行く将軍。レントは剣を振るうと。タオの支援に向かう事にした。

 

そして思った。

 

散々凶行を働いていた古代クリント王国の錬金術師よりも。この将軍の方が、よほど誇り高い戦士なのではあるまいかと。

 

 

 

クラウディアは、雨の中。激しい乱打戦を続けていた。矢を放つ。敵が射撃してくる。時には互いに相殺する。移動しながら、射撃を連続する。足がもつれたり、転んだりしたらおしまいだ。

 

射手は、狙撃を行う場合以外は常に動き続けろ。

 

それはリラさんの教え。

 

クラウディアは、戦闘に関してはみんなの中で一番素人だ。最初にみんなにあった時だって、本当に情けない姿を見せてしまった。

 

だから必死に勉強した。

 

追いつくためになんでも覚えた。

 

音魔術を併用しながら、具現の魔術を使って、無尽蔵の矢を放つ。この戦闘スタイルが出来上がったときは、本当に嬉しかった。

 

だからこそ。

 

今、これを使って。

 

この難敵を倒す。

 

将軍フィルフサとの戦闘で、せめて互角にもちこむ。ライザは絶対に勝ってくれる。だからライザのための時間を稼ぐ。

 

少なくとも、ライザの足を引っ張ってはいけない。

 

強烈な魔力砲が飛んでくる。

 

泥まみれになりながらも、横っ飛びに回避しつつ、音魔術で障壁を作って、少しでも直撃を逸らす。

 

それでも、何度も掠めて。

 

頭がクラクラしてきている。もしも直撃なんか喰らったら、それこそ肉の欠片も残らないだろう。

 

どんと、激しい音。

 

フィルフサの将軍が跳んだ。

 

どうやら業を煮やしたらしい。遠距離戦だと互角だと考えたのだろう。そう考えてくれたのなら、光栄なことだ。

 

実際には押されっぱなしで、心が折れそうだったのである。

 

上空に躍り出たフィルフサ将軍に、渾身の一撃を叩き込む。だが、通らない。フィルフサ将軍は魔術のシールドを使って、クラウディアの一撃を弾き返した。

 

そして、着地。

 

至近だ。

 

間近でみると、もの凄いプレッシャーである。これ相手に、真正面から蹴り技主体で攻めこんでいるライザのもの凄いこと。

 

だけれども、クラウディアだって。

 

籠の鳥だった状態から、みんなの手助けで、やっと外に出る事が出来たのだ。負けてたまるものか。

 

フィルフサの脇から、巨大な腕が生える。

 

蟹とか海老とかのものに似ているそれが、叩き潰すようにして振り下ろされる。

 

クラウディアは横っ飛びに離れ、必死に回避するが。

 

衝撃波だけで吹っ飛ばされる。

 

二本足を増やしたフィルフサ将軍が、立て続けの攻撃で、クラウディアを狙って来る。必死に立ち上がって回避。距離をその分詰めるフィルフサ将軍。接近戦に、リスク覚悟で持ち込んだのだ。

 

このまま逃がさず、一気に仕留めるつもりだろう。

 

クラウディアは、狙撃戦を続けながら。

 

ずっとやっていた事がある。

 

この大雨。激しい音の中だ。

 

何よりも、あまりにも他の生物と違うと言っても。猛毒を常に浴び続けているも同然の状況。

 

フィルフサ将軍は、気付く余裕などなかった筈。

 

突貫してきた巨体に、クラウディアは対応が遅れて、吹っ飛ばされる。

 

地面に叩き付けられて、何度も転がった。

 

ライザに貰った服なのに。

 

立ち上がろうとした所を、更に鋏で横薙ぎに吹っ飛ばされる。嬲っているようだなと、クラウディアは思った。

 

岩に叩き付けられて。体が跳ねた。

 

昔だったら、もうこれで動けなくなっていただろう。だけれど、クラウディアもライザと、みんなと、一緒に戦い続けたのだ。

 

立ち上がる。それを見て、フィルフサ将軍は、更に腕を増やす。今度は節のある毒棘の触手。

 

これで一気に串刺しにして、殺すつもりだろう。

 

だけれども、この時。

 

クラウディアが待っていた瞬間だった。

 

立て続けに、極太の光の矢が、フィルフサ将軍を背中から貫く。

 

それは地面にフィルフサ将軍を縫い付け、更には装甲を盛大に破壊していた。

 

凄まじい音。

 

悲鳴なのか、それとも装甲の破損音なのかはわからない。だけれども、聞いているだけで苦しい不協和音だ。

 

フィルフサがもがくが、そもそも腕だの触手だのを増やして、装甲が薄くなっているのは分かっていた。

 

だから、ずっと音魔術で作りあげていた上空の矢を放つには、最高のタイミングだったのである。

 

呼吸を整えながら。

 

土砂降りの中で、最大火力の矢を作り出し、引き絞る。フィルフサ将軍は動けないと判断して。魔力砲に切り替えようとするが。

 

後手に回った。

 

その時点で、クラウディアの勝ちだ。

 

即座に矢を放つ。

 

頭を撃ち抜いた矢が、致命打にならなかった。それを悟ったフィルフサ将軍は、確実にとどめを刺すためにじっくり狙いを定めようとして。

 

そして次の瞬間、コアをバラバラに砕かれていた。

 

上空からの矢で敵を固定し。

 

今の矢で殻の内側の状態を探り。コアの位置を特定。

 

そして、上空から放った矢を全て音に変換し。

 

敵の体内で反響させて、コアを重低音で粉砕したのである。

 

音は条件が整うと、そのまま破壊兵器になる。クラウディアの音魔術の技量では、超至近距離のものしか壊せないが。

 

それでも、充分だった。

 

ばかな。

 

そう言わんばかりの様子で、倒れたフィルフサ将軍。クラウディアも、膝から崩れ落ちる。

 

流石に限界だ。

 

頼むよライザ。勝って。

 

そう呟くと、クラウディアは必死に傷だらけの体を引きずって、敵の猛攻を受けないように、岩陰に隠れる。

 

それでやっとだった。だけれども、あんな超格上に勝って。ライザを支援できた。それもまた、事実だった。

 

 

 

一体は機動専門。

 

もう一体は上空からの高火力による爆撃。

 

連携による攻撃をいなしながら、あたしは走る。レントもタオもクラウディアも、良い勝負をしている。

 

特にレントは、もう相手を倒し、タオの支援に回ったようだ。クラウディアはギリギリで勝った。

 

あたしも、負けてはいられない。

 

立て続けに地面を抉る魔力砲。威力を絞って数で勝負してきている。それも敢えて最初は観測射撃をして、その後に本命を撃ってくる。

 

此奴らは、射撃に関する知識がしっかりある。

 

どうしてそれが出来るのかはよく分からないが。アンペルさんに聞いた事がある。

 

寒い地方の狐は、音の出る方向を雪の上から察知する。それも多角的に音を聞くことで、雪の下にいる鼠を捕まえるという。

 

これを人間の用語では三角測量というらしいのだが。

 

偉そうに人間がそんなことを「発明」する前から、動物はとっくに知っていたということである。

 

フィルフサ将軍も、それは同じなのかも知れない。

 

そもそもこのオーリムには、最大の敵としてオーレン族がいる。

 

優れた身体能力と、高い魔術の技能を兼ね備えている強力な森の守護者だ。

 

渡り合う為には。

 

これくらいは出来ないといけなかったのか。

 

それとも、このフィルフサ達全般に感じている違和感と同じものなのか。

 

それは分からない。

 

ただ、合体したフィルフサ将軍は、苛烈な攻撃を続けてくる。絶対に地面には降りてこない。

 

あたしの蹴り技が、最初にけしかけた将軍を無惨に粉砕したのを見ているからなのだろう。

 

だったら、無理矢理にでも叩き落としてやる。

 

爆弾を取りだす。

 

当然普通に投擲しても空中で爆破されるだけだろう。

 

だから、爆弾を取りだした瞬間に猛攻を仕掛けて来る敵の弾幕に、敢えて突貫する。何カ所か削られる。

 

痛いが、それ以上に勝つためだ。

 

石を一つ、蹴り上げる。

 

蹴り上げたのは、頭一つ分くらいはある石。それが空中で爆散して、わずかに敵の視界を塞ぐ。

 

勿論それくらいでどうにかできる弾幕じゃない。視界を防がれている位置にも、容赦なく敵は攻撃を続けてくる。

 

敵の魔力は無尽蔵。

 

魔術も効かない。

 

だが、敵は雨に弱くて、空を飛んでいる。それを逆に利用して、勝たせて貰う。

 

爆弾を投擲。

 

それを、空中で撃墜するフィルフサ将軍。まあそうだろう。

 

だが、その爆破の影から、もう一個の爆弾。

 

それも、即応して爆破に掛かる将軍だが。そうされる前に、敵に届く前に起爆。雷撃が辺りを蹂躙。

 

フィルフサ将軍の全身にまでは届かないが。それでも大事を取って、フィルフサ将軍がさがる。

 

次の瞬間。

 

敵の上で。薔薇が咲いていた。

 

一つ取りだすだけでも、膨大な魔力を消耗するコアクリスタルの爆弾。それを三連続。あたしとしても賭だった。

 

視界を防いだくらいでは、二つが限界。二つ投げただけでは、絶対に中途で撃墜される。それも分かっていた。

 

だから二つ目は囮にして、三つ目を投げる。

 

それで、敵に届かせたのだ。

 

ローゼフラムの超高熱は、魔力に依存しない。しかも、この状態で弱り切っているフィルフサの装甲。しかもその装甲はこの土砂降りで冷え切っている。たえられっこない。

 

墜落してくるフィルフサの将軍。その姿は一つだけ。

 

あたしは深呼吸して、魔力を整える。

 

どうやら、飛んでいた将軍が全力で盾になって。自分を犠牲に攻撃担当の将軍を生かしたらしい。判断としては正しい。というよりも。

 

やっぱり此奴ら。

 

古代クリント王国の錬金術師なんかよりずっと誇り高い戦士だ。

 

だが、それでも相容れない存在だ。倒さないと滅ぼされる。だから、戦わないといけない。

 

こんな状況を作った古代クリント王国の錬金術師ども。

 

絶対に許さない。

 

そう考えながら、あたしは態勢を低くする。一体の将軍を焼き滅ぼしたローゼフラムの火力で、ダメージを受けていない筈もない。もう一体が凄まじい音を立てると、前面部を全開。

 

恐らく、フルパワーでの魔力砲を撃ってくるつもりだ。

 

収束していく魔力。

 

大雨でなかったら、収束の速度も。この収束していく魔力の量にしても、段違いだっただろう。

 

あたし達六人がかりでやっとどうにか出来る相手だった筈だ。

 

突貫。

 

魔力砲をぶっ放そうとする将軍フィルフサだが、遅い。僅かの差で、あたしは至近距離から、蹴りで敵の上半身を蹴りあげる。

 

空にぶっ放される魔力砲。

 

あたしは軸足を地面に魔力で強引に固定すると。

 

そのまま、蹴りのラッシュを叩き込んでいた。

 

一発蹴りが入るごとに、フィルフサ将軍の装甲が拉げ、吹っ飛ぶ。六発の蹴りを叩き込んだ時点で、コアが露出。

 

雨の中で濡れるコアを。

 

あたしは、軸足を外しつつ。

 

旋回して、後ろ回し蹴りで打ち砕いていた。

 

フィルフサ将軍が、苦しむような声を上げる。一瞬だけ空に穿たれた穴も、すぐに雲に塞がれていた。

 

その時、やっとあたしは。

 

後方で炸裂し続けている魔力が大きすぎる事に気付く。

 

ついに敵の先鋒が離散し始める。

 

どうやら、最初の戦いは。あたしたちの勝利に終わったようだった。

 

 

 

将軍を失うと、雨の中でのフィルフサは哀れな程脆かった。戦うまでもない。雨の中で右往左往して、溶け崩れて行く。

 

生物としてどうなのだろうと思うもろさだが。

 

本来この弱点があって、フィルフサは繁殖と死亡のバランスが取れていたのだろうと思う。

 

これでも、外を散々走り回ってきて。

 

護り手と一緒に魔物とも戦って来たのだ。

 

如何に自然が厳しいバランスでなり立っているかはあたしも知っている。だから、こんな事は許せない。

 

これは、バランスを崩した側の問題だ。

 

キロさんと合流する。キロさんは無事だったけれど。相当に傷ついていた。苦笑するキロさんに、傷薬を分ける。土砂降りの中、皆で一度洞窟の中で合流。大雨は、まだ続いている。

 

「一度アトリエに来ますか? お風呂や物資の補給、出来ますよ」

 

「大丈夫。 それに、大雨だからといって、フィルフサが動きを止めるとは限らない。 一度大侵攻を決めた群れは、そう簡単には方針を変えないのよ」

 

「なんだか融通が利かない生物ですね」

 

「……本来は生物ですらないのかも知れないわ。 中身はがらんどうで、上位個体には絶対に服従。 こんな生物は、フィルフサの他には見た事もない」

 

キロさんが、トイレやお風呂について教えてくれる。

 

洞窟の中に、あまり衛生的では無いそれらがあるので、利用させて貰う。此処を拠点に、キロさんは戦い続けたのだ。

 

それは、これくらいのものは作っているだろう。

 

ただ、あたしも一応恩くらいは返したい。

 

熱処理をして、風呂もトイレも多少は衛生的にしておく。

 

これで、長期戦になっても少しは持ち堪えられる。

 

持ち込んだ保存食を皆で分ける。暖かい食べ物と水。リラさんが頷く。というか、やっぱり動いた後は食べるんだな。

 

がつがつと行っているリラさんを見て、キロさんは少し柔らかく笑ったようだ。

 

咳払いするアンペルさん。

 

「後方に強い気配があった。 キロ。 あなたの戦友か?」

 

「いえ、貴方たちが言っていた精霊王よ。 状況を見て、加勢する方がいいと判断したようだったわ」

 

「!」

 

「ただ、戦闘のけりがついたら戻っていったわね。 恐らくだけれども、異界だと消耗が激しいのだと思う」

 

精霊王が。

 

そうか。自分の世界を守る事にしか興味が無さそうだったが。それでも、利害が一致したから、助けてくれたのか。

 

キロさんだけだったら、門を守りきれなかったかも知れない。

 

もしフィルフサの群れが門の突破に成功していたら、被害は計り知れなかっただろう。遺跡の辺りが、丸ごと精霊王との戦闘で消し飛んでいたかもしれなかった。

 

「精霊王達が、加勢してくれたんだ。 興味深いね……」

 

「フィルフサから世界を守ろうって心はみんな同じ……だといいね」

 

「うん……」

 

クラウディアは、多少ほろ苦そうに言う。

 

あたしもそれは分かる。

 

精霊王は精霊王の考えで動いている。人間とはふるえる力も桁外れだ。だから安易に動けないのだろう。

 

だから頼るつもりはないし。

 

今回は、一緒に戦ってくれただけでよしとする。

 

本来は敵にならなかっただけで感謝しなければならないほどの相手なのだ。むしろ。これ以上もない結果だろう。

 

休憩を入れて。外の様子を確認する。

 

既に雨の中、動いているフィルフサはいない。敵は一割近い戦力を失った。しかも、前衛として此方の世界を蹂躙するはずだった精鋭をだ。

 

さて、どう動く。

 

フィルフサは見た所、知能があるとは思えないが、戦術はきっちり使ってくる。これは生物としての本能の持つ知恵なのか、それとも。

 

いずれにしても、今は交代で休憩して、次も先手を打つべく動かなければならない。

 

狙うのは王種だ。

 

王種に関しては、全員で当たらないと多分倒せないだろう。あたしだって、そこまで自分の力を過大評価していない。

 

そして王種に雨が通じるのかも分からない。

 

持ち込んだ爆弾は、どれもあたしが今作れる最高の品ばかり。

 

今、大雨の中、物資を補給にアトリエに戻る事は出来るが。全員でそれをやるのは悪手だろうし。

 

特にあたしが此処を離れる訳にはいかない。

 

アンペルさんもだ。

 

しばし考えながら、あたしは顔を上げていた。

 

「キロさん」

 

「どうしたの」

 

「王種を一気に倒すことは可能でしょうか」

 

「これほどの規模の群れになってしまうと無理でしょうね。 今までも同胞が王種を倒した事は殆どないと言う話よ。 しかも、その数少ない王種討伐例は規模が小さい群れを相手にしての話。 これほどの規模の群れとなってしまうと……」

 

リラさんも言っていた。

 

そもそもフィルフサを押さえ込めていたと。

 

逆に言うと、それで限界だったのだ。

 

雨が降る環境下ですら。

 

しかし、だからこそに言える。此処で討伐例を作れば、オーリムにおけるフィルフサとの戦いに。

 

新しい歴史を作る事が出来るのではないのだろうか。

 

順番に確認する。

 

「仮に此処に攻め寄せているフィルフサの群れ……「蝕みの女王」に率いられた群れを滅ぼす事が出来たとします」

 

「たらればの話だわ」

 

「分かっています。 もしも完全に群れを撃滅し、水を戻す事が出来た場合は……他の氏族と連絡を取ることが出来ますか」

 

「此方からは難しいでしょうね。 風羽氏族という快足に特化した氏族が存在していて、大きな状況変化があると主だった氏族との連絡をつけるために動いていたという話は聞いているけれども。 仮にまだ大きな氏族が残っていたとしても、逆に此方……私達霊祈の壊滅も向こうには知られている筈。 どれだけ戦況が良い地域であっても、フィルフサの群れを押しとどめるのが精一杯の筈で、とても人など回す事は出来ないでしょうね」

 

そうか。

 

それは、とても苦しい話だ。

 

そうなると、やはり。まずは此処をどうにかすることを考え。

 

それ以降は、水が戻った地域を増やしていき。

 

確実に復興させていくことを考えなければならないだろう。

 

それが、古代クリント王国が彼方此方で滅茶苦茶にしたオーリムに対する責任の取り方である。

 

あたしはそれを出来る可能性が高い。

 

それならば、やらなければならないだろう。

 

作ったものに責任を持つのが錬金術師だ。それを、古代クリント王国の錬金術師どもはやらなかった。

 

あたしに責任が来るのは、理不尽にも思えるが。

 

逆に考えるべきだろう。

 

錬金術は才能の学問。

 

一気に負債を解消する時が来た、と。

 

「キロさん。 私達で、この地の水を取り戻し、その上でフィルフサの王種……「蝕みの女王」を討ち取ります」

 

「……無謀だわ」

 

「それでもやります。 既に、この地に水は戻り始めている。 素の力で倒せないとしても、水の力を借りれば、少なくともこの地からフィルフサを追い出す事は出来るはずです」

 

仮に敗れた場合のために。

 

キロさんに、装置の操作方法を先に説明する。

 

この辺りの地形を鑑みると、恐らく門の周辺は豊かな水と自然が溢れる土地に、何百年かかけて戻っていくはずだ。

 

少なくとも膨大な水がまずは戻る。それで、フィルフサの群れにある程度ダメージを与えておけば。

 

仮に大侵攻が発生してしまっても。規模は、前回とは比較にならない程小さく出来る筈である。

 

水の中で、小物のフィルフサは文字通り溶けてしまっていたし。

 

将軍級ですら、あれだけ弱体化していたのだ。

 

水を無理矢理突破して此方の世界に来た所で、奴らはもう息も絶え絶え。

 

その時には、精霊王達が控えている。或いはクーケン島は吹っ飛んでしまうかも知れないが。

 

少なくとも世界が滅ぶのは避けられるだろう。

 

「門の閉じ方についても説明します。 ただ、もしも門を閉じる場合は、キロさんは私達の世界に置き去りになってしまいますが……」

 

「かまわないわ」

 

キロさんは悟ったのだろう。

 

あたし達が敗れた場合の話をされていると。その場合は、門を閉じる判断もありだと言う事も。

 

キロさんは聖地からは置き去りになってしまうが。水が戻り。大侵攻が出来なくなれば、フィルフサの群れも聖地にはいられなくなる。それも選択肢として生じるのだ。

 

頷くと、あたしとアンペルさんで一度門を通り。あたし達の世界に戻る。

 

門からは強烈な湿気が溢れてきていて。湖の上でもカラッカラだと感じる程の乾期が始まっているのに。

 

異質なほどだった。

 

リラさんによると、オーレン族は文字を本来持たなかったらしい。それが、古代クリント王国の侵攻以来、どうしても文字を持つ必要が生じて。先に話題に上がった風羽氏族などが連携を取る際に、文字などを作って広めたそうだ。

 

その文字を使って、メモをリラさんに書いて貰う。

 

キロさんは、頷くとメモを受け取る。石を動かすだけだ。

 

問題は聖堂の経年劣化だが。

 

はっきりいってオーリムの聖地グリムドルに水を戻す、という第一目標は既に達成出来ている。

 

門がこの後壊れたとしても。

 

グリムドルはいずれ元には戻るだろう。

 

「此処で、門を閉じてしまってもいいのよ」

 

キロさんはそう静かに言う。

 

あたしは、首を横に振った。

 

やれることをやらないで、錬金術の悪意の面だけを用い。エゴを充足させるためだけに生きるのでは、古代クリント王国の恥知らずどもと同じだ。

 

あたしはそうはならないと決めた。

 

だから、絶対にやると決めたことは達成する。

 

それだけだ。

 

また、門を潜る。すごい土砂降りの中、アジトに。

 

フィルフサの群れも、そう時間はくれないだろう。

 

先手を取り返されたら、多分負ける。

 

どうにか次の手を、敵より早く考え、打たなければならなかった。

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