暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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3、確実な一歩

アンペルさんの所に、作ったものを見せに行く。

 

アンペルさんは、リラさんと何かひそひそと話をしていたが。それは仕方が無い。リラさんとは、でもやっぱり距離がある。

 

失礼だから聞かないけれど、夫婦ではないようだし。

 

恋人でも、肉体関係もあるようにも思えなかった。

 

不思議な二人だ。

 

本当に、二人が言う通り、利害だけで組んでいるのかも知れない。だとすると、誰もが憧れる。

 

恋愛感情関係無しの、男女の友達と言う奴なのだろうか。

 

あたし達悪ガキ軍団だって、たまに性別差で色々と問題があったりするのに。

 

ましてや大人でそれが出来ているのだとしたら。それはとてもよい事なのだとあたしは思う。

 

「ライザ、これを短時間で出来るようになると言うのは中々だ。 ただ、そろそろ屋根裏の部屋での調合では無理があるだろう」

 

「はい、それはちょっと……」

 

「近いうちに、他の場所での調合を考えなさい。 分かっていると思うが、もしも錬金術に失敗すると、事故になる可能性がある。 家など跡形もなく消し飛ぶような、な」

 

そうなってしまえば、あたしが死ぬだけでは終わらないと、アンペルさんはいう。

 

新しい技術のなかには、事故を起こした結果、それで封印されてしまうものも珍しくないという。

 

確かに、あたしもそうだろうなと思う。

 

いずれにしても、確かにアンペルさんが言うとおりだ。

 

それに、昨晩インゴットを作って見たが。

 

島の鍛冶屋に持ち込んだら、目を剥くような品質に仕上がっていた。

 

これでもあたしも、武器を直に触るから、インゴットの品質くらいだったら分かるのである。

 

これで武器を作ったら、どうなるかも。

 

それにだ。

 

そもそも、今あたしが作っているインゴットなんて、錬金術の初歩も初歩。

 

アンペルさんに貰った基礎的な技術書に記載があったけれども、強力な金属を抽出したインゴットになると、それこそ錆びないし、硬いし軽いし、魔力の伝導も比較にならないという。

 

「作った品をみて、恐ろしいと感じるか」

 

「はい。 これから更に強力なものを作ると思うと、なおさら……」

 

「それでいい」

 

アンペルさんはいう。

 

古い時代には、ろくでもない錬金術師が大勢いたと。

 

その話になると、リラさんもソファで寛ぎながらも、明らかに反応していた。

 

何かあったのかも知れない。

 

そう思って。真面目に話を聞く。

 

「今存在するロテスヴァッサ王国もそうだ。 一時期は錬金術師を集めて、研究を行っていたことがあった。 だがそこも、腐りに腐りきっていた」

 

「……」

 

直接足を運んで、見て来たような言い方だが。

 

それを聞くべきではない。

 

そう判断して、素直に話を聞く。

 

「ライザ、お前が力に溺れるようだったら、私はすぐに手助けを打ちきるつもりだった。 だが、お前はしっかり筋を通して行動している。 大人になればなるほど、それは出来なくなる。 悪い意味で大人になってくれるなよ」

 

「はい、それはもう」

 

悪い意味での大人なら、嫌になる程見てきている。

 

勿論、戦いなどになればダーティな手だって使う必要性が生じてくるだろう。

 

あたしに蹴り殺された魔物だって。焼き殺されるのも、斬り殺されるのも、みんな同じだ。

 

だけれども。あたしは殺戮を楽しむ気はない。

 

ただ、それでも分かるのだ。

 

戦いを求める本能みたいなものが。

 

だけれども、それに身を任せたら畜生だ。

 

それを理解しているから、あたしは自分を常に律しなければならないとも思う。

 

仮に、自分の欲求にもっと素直になってもいいとしても。

 

それは例えば、世界をよりよくするため、などの目的であるべきで。

 

自分が好き勝手に振る舞って、自分の思うように世界を変えて自分だけが楽しむとか。そういうことではあってはならないはずだ。

 

それについては、何度でも言える。

 

それを言えないように、変わるつもりはない。

 

「よし、新しい参考書を渡す。 私に出来るのは、知識を与えるだけだ。 これらの参考書をマスターした頃には、自分で考えて動く事も出来るはず。 よき錬金術師になれるように、精進しなさい」

 

「はいっ!」

 

びしっと答えると。

 

あたしは自宅に戻る。

 

今日は、一つ試してみたい事がある。

 

参考書を読んだ限りだと、出来るかもしれない。

 

いきなり武器は、ハードルが高い可能性がある。だから、まずは。家族と一緒に使える範囲のものから。

 

作っていきたいと。

 

あたしは考えていた。

 

 

 

昼ご飯を家で終えた後、あたしはお父さんに申し出る。

 

農業の手伝いをすると、

 

そろそろ、麦の一部は刈り入れの時期だ。本職にやってもらうのが、一番早いはずである。

 

このあたりは、あたしも計算をする。

 

それが悪い事だとは必ずしも思わない。

 

まずは、村の中で錬金術の性能を見せる事で、その発言力を上げていく。それだけの話である。

 

それは立派な努力であり。

 

村をよくするための行動である。

 

だから、あたしの考える正義と違うものではないし。

 

道を踏み外すものでもないはずだ。

 

「おや、ライザが自分から手伝いを申し出るとは。 嬉しいね」

 

「雹でも降らないかしら」

 

お母さんが無茶苦茶を言うと。

 

お父さんは、まあまあ良いじゃないかと言う。

 

あたしは咳払いをすると。

 

テーブルの上に、それを出していた。

 

それは、あたしが作った草刈り鎌だ。

 

インゴットを生成した。それを使って、作って見た最初の一つ。生成物を更に利用して錬金術をする。

 

その作業を始めてこなした末に出来上がったものだ。

 

一段階上の錬金術の産物であり。

 

そして、いきなり武器を作るのではハードルが高いと判断したから、最初に作った道具。あたしも、それなりに考えて、悩んだのだ。

 

その結果がこれなので。

 

別に文句を言われる筋合いは無い。それにこの草刈り鎌だったら、刃物であっても誰も傷つけない。

 

「ちょっと見せてみなさい」

 

お父さんが、真っ先に動く。お母さんも農業のプロだが、お父さんの境地には辿りついていない。

 

畑と会話する奇人ではあるが。

 

畑と会話できる境地に達している達人でもある。

 

だからこそ、農作業に使う道具については、一発でその質が理解出来るのだ。

 

「これは、どうしたんだいライザ」

 

「あたしが作ったんだよ。 錬金術で」

 

「……」

 

「そんな怪しげな事を」

 

またお母さんはそんな事をいう。

 

だけれども、お父さんは鎌を見て、黙り込んでいた。

 

二つ、作ってある。

 

一つはお父さんのために作ったのだ。まあ一つ作るのも二つ作るのも同じだし、むしろ時間も短縮できるので。

 

もう一つは、外で採取するときに使うつもりである。

 

外に、出る。

 

お父さんが、慣れた手つきで、麦を刈り始める。うちで作っている作物は、クーケンフルーツが主体だが、それに加えて麦、他に何種類かの作物もある。最近知ったのだけれども、あのうにの木もお父さんが世話をしているそうだ。

 

さくさくと、切れていく麦の穂。

 

これでも農婦だ。

 

お母さんも、鎌が尋常な代物では無いと一目で理解したのだろう。錬金術を口にする度に渋い顔をしていたが。

 

それも、これで変わるはずだ。

 

「あなた、それは……」

 

「これは凄い。 本当に錬金術というので作ったのかい?」

 

「うん。 ほら、これもあたしがつくったの。 自分用に」

 

「貸してみなさい」

 

確認するためだろう。

 

お父さんが。あたし用の鎌を手にとると、じっくり見やる。お父さんくらいの境地になると、それだけで農具の良し悪しを把握できると言う事だ。

 

「これは、都会に持っていけば一年分くらいの麦と同じ価値が出るね」

 

「あなた、それは本当!?」

 

「本当だよ。 それも、揃ったように同じ品質だ。 それに見てご覧。 これだけの品質の鎌なのに、銘も入っていない。 何よりも、どうやってこう加工したのか、私には分からない」

 

母さんがあんぐり口を開けている。

 

咳払いすると、あたしは告げる。

 

「この鎌、量産も出来るよ。 腕がいい農夫には、配りたいなと思ってる」

 

「ライザ……それは本当なんだね。 盗んだりしていないんだね」

 

「錬金術で作ったんだってば」

 

「母さん、これがどこかの業物ではないけれども、凄い品であること。 ましてやライザが盗んだりしないことは、私達が一番知っている筈だよ」

 

普段殆ど喋らないお父さんが、饒舌になっている。

 

それだけ、農業に関わると人が変わると言うことだ。

 

お母さんも、お父さんに農業関連で口を出すことは一切無い。それだけ、お父さんの腕を信頼しているのだ。

 

「これはお父さんにあげる。 あたしが、最初に村で誰かに錬金術ですること。 これから、ラーゼンボーデン村をあたしは錬金術で良くする。 その最初の一歩だから、お父さんにあげたかった」

 

「分かったよライザ。 お母さん。 錬金術について、しばらく様子を見よう。 この鎌があれば、収穫の効率は倍にも三倍にもなる。 これを作ってくれたのなら、私は錬金術というものを信頼するよ」

 

良き錬金術師になるように。

 

そう、アンペルさんは言っていた。

 

それは、恐らくだけれども。

 

この圧倒的な力を見て、闇落ちしてしまう者が多いのだろう。

 

闇落ちだけだったらまだいい。

 

エゴの怪物になってしまったら、それこそ世界が好き勝手にされる。

 

エゴの方向性が、自分の快楽や利益を求める方向だったら最悪だ。

 

文字通り、世界に何が起きても不思議では無い。

 

アンペルさんの言葉を聞く限り、この国……ロテスヴァッサでも、ろくでもない事があった可能性が高い。

 

アンペルさんは、きっとその被害者だ。

 

強い力には、相応の責任が伴う。

 

それは、あたしが魔術師として古老を超えたとき。

 

世界をこの島で一番知っているアガーテ姉さんに、言われた事だ。

 

そしてあたしは、順番にやっていくつもりだ。

 

まずは、発言力が大きい人間から黙らせるべきだろう。

 

自分達の武器を新調したら。

 

次はアガーテ姉さんに、剣を渡す。

 

あたしは、あたし達は。

 

散々、アガーテ姉さんに世話になってきた。

 

幼い頃からだ。

 

だからこそ、打算以上に感謝もある。

 

まずは、これでお父さんとお母さんは、あたしにある程度甘くなる。お母さんにも、何かしらの方法で機嫌を取るべきだろうけれど。それはまだだ。

 

まずは、島の外で集めて来た鉱石で作ったインゴットを使って、皆の武器を新調する。

 

これは一晩掛かる。

 

だけれども、掛ける価値はあるはず。

 

あたしの魔力も上がってきている。

 

エーテルで釜を満たすのは難しく無い。

 

勿論作る武器には、クラウディアのものも含める。

 

そうすることで選択肢を増やすのだ。

 

より多く、行く事が出来る場所を増やせるという、選択肢を。

 

更に島の人の役に立てば。

 

島で錬金術の立場を上げる事が出来る。

 

そうなれば、島でもできる事が増える。

 

今は、とにかく。

 

こういった事も視野に入れて、動かなければならなかった。

 

 

 

かなり夜遅くまでの作業となった。

 

ベッドで寝ていると、朝日が差し込んでくる。

 

どうしても農家の宿命だ。朝日の時間には目が覚める。こればかりは、幼い頃から叩き込まれた習慣である。

 

だけれども、あたしは朝日と同時に飛び出して、島を走り回って。

 

それで足腰を鍛えた。

 

それが、効いてきている。

 

ただ、長年無理をすれば、体を壊すという話も聞いている。それも考慮した上で、動かなければならないだろう。

 

無言で起きだす。

 

今日は朝から、集まる予定だ。

 

クラウディアは、今日は予定通りアップルパイを焼いてくる筈。朝からちょっと重めだが、別にかまわない。

 

朝食を済ませて、軽く農作業を手伝う。

 

昨日夜遅くまで錬金術をしていた事に、お父さんも気付いていたようだが。それについて、何も言わなかった。

 

実際お父さんの手際は普段も凄いのだが、今日は明らかにもっと凄い。渡した鎌の切れ味は凄まじく、それにお父さんの手際が加わると、文字通り鬼に金棒だった。

 

さくさくと作業が終わって、すぐに切り上げる。それを見ているからか、お母さんも何も言わなかった。

 

はあ、少し疲れた。

 

そう思っていると、レントとタオが一緒に来る。クラウディアも。

 

クラウディアは、バスケットにアップルパイを焼いてきていて。屋根裏にまで、良い香りが漂ってきていた。

 

まずは、皆にそれぞれ作った装備を渡す。

 

もちろん、あたし用のもある。

 

ただ、武器というのは。

 

まずは調整が必要になってくる。

 

レントは、新しい大剣を見て、目を輝かせていた。

 

「お……すげえな。 ちょっと素振りして良いか!?」

 

「うん、そのために作ったんだから」

 

全員で家の裏に出る。かなり広い場所がある。肥などがあるのは別の場所だし、家畜もいないから臭いはそこまでない。

 

レント用には、肉厚の大剣だ。

 

こういった剣は、重さで切る側面もあるが、それはそれとしてちゃんと切れるようにもなっている。

 

ただし、刃が薄すぎると、保ちが悪くなる。

 

レントの使うような身の丈大の大剣になると、歯が脆いというのは致命的だ。ただでさえ高い武器なのから。

 

何度か振るって貰って、それであたしから見て最適と思える重心になるように、重りをつけなおす。

 

それで、レントも満足したようだった。

 

「これは良い剣だ。 今まで手にした、どれよりもな」

 

「良かった。 昨日、先に鎌を作っておいて良かったよ」

 

「ライザも、こう言うときは悪知恵が働くよね」

 

「いきなり実戦に出す武器を作る程大胆じゃないといいなさい」

 

タオに釘を刺すと、次はそのタオに試して貰う。

 

タオ用にはハンマーを作ったが、これは柄の部分にも金属を使っている贅沢仕様である。こうすることで、全体の重量を上げて、質量兵器としての破壊力を上げているのだ。

 

何度か振り回して貰って、此方も重心を調整する。

 

タオはまだまだハンマーに振り回されているが。

 

それを即座に計算することで、上手に戦う事が出来ている。

 

だけれども、その頭をもっと上手に使えたらなと、あたしは思ってしまう。

 

もっとタッパがあれば、違う選択肢もあるのだけれど。

 

そう思うけれども。今は、出来る範囲でやれることをやっていくしかない。

 

「どうタオ」

 

「やっぱり荒事は苦手だけど、それでもこれが良い武器だというのは分かるよ。 ありがとう、ライザ」

 

「どうしたしまして」

 

ふふん。

 

ちょっと嬉しい。

 

次はクラウディアだ。弦は無しで、弓だけを作ってきた。

 

これは今、クラウディアが魔力の物質化を練習しているから。更に言うと、音魔術の練習もしているというし、いずれ笛か何かを作っても良いかも知れない。あの時大事そうにしていた箱の中身は見ていないが、十中八九楽器だろうし。

 

クラウディアは覚えが早いようで、即座に弦を魔力から物質化して展開してみせる。

 

おおと、声が上がった。

 

確かに凄いなと、あたしも思う。

 

というよりも、眠っていた才覚が呼び起こされたのだと思うけれども。

 

立射の姿勢も決まっている。

 

だけれども。弓は当てられるようになったら、そこからが第一歩。そこからが勝負なのだ。戦闘時は動きながら射撃して、そして可能な限りの速射が求められる。競技や娯楽としての弓があるかも知れないが。それとは違って、破壊力も求められる。

 

ただクラウディアの場合、矢も魔力から物質化するようだし。それならば、ある程度のホーミングを持たせる事も可能だろう。

 

魔力を実体化させた弓だったら、それに付帯効果をつけて。火力を上げることも不可能ではないはずだ。

 

弓を引くクラウディアの姿勢を見て、レントとタオが凄いなと感心する。

 

二人とも、護り手の訓練を見ているから、立射の姿勢が綺麗かそうでないかくらいは分かるのだ。

 

これもまた、魔物との交戦が絶えないド田舎だからなのだろう。

 

「凄く重いね。 まだ私、練習が全然足りないわ」

 

「大丈夫、少しずつやっていこう。 あたしだって、最初は湯沸かし上手く出来なかったんだから」

 

「そうライザが言うと心強いわ。 でも、みんなと一緒にこれで戦えるようになるのかしら」

 

少し寂しそうにするクラウディア。

 

あたしとしても、なんとかしてあげたい。

 

それでも別に良いと言っても良いのだけれども。クラウディアは、あきらかにあたし達と肩を並べて冒険をしたがっている。

 

何か目的があるのは間違いなさそうだが。

 

それについては、今は聞かない。

 

ただ、クラウディアは思った以上に体力があるし根性だってある。

 

咳払いすると、クラウディアはいった。

 

「レントくんタオくん、ちょっとだけいったけれど、遠慮はなしね。 私がへたっぴな所があったら、遠慮無く言って」

 

「おう、任せろ」

 

「弓の習得は難しいんだよ。 基礎があるとはいっても、短時間で此処まで出来るのは本当に凄いよ。 ただ実戦にはやっぱり火力が足りないと思うから、後はそこだね」

 

「ありがとう。 リラさんと相談して、どうにかしてみるわ」

 

よし。

 

そして、最後はあたしだ。

 

新しい杖、それだけじゃない。

 

新しい靴。

 

とはいっても、戦闘用の靴だ。グリーブとかいうのだったか。

 

あたしの本領は蹴り技である。普段はあまり使う機会がないが、それは切り札の一つとして温存しているからだ。

 

杖で魔術の強化、同時に接近戦での蹴り技の火力向上。

 

それがあたしが求めている事である。

 

レントの話を聞いて、みんな進み始めている事は分かった。

 

だったら、あたしだけ戦闘で遅れを取るわけにはいかない。

 

杖を振るって、熱の槍を出現させる。

 

そして、練習場で展開。

 

特に詠唱はしていないが、それでも七つ同時に出現させる事が出来た。

 

おおと、レントとタオが声を上げる。

 

クラウディアは、ちょっと怖がっている。

 

同時に、熱の槍を目標に叩き付ける。

 

目標としていた邪魔な大岩が、融解して粉砕されるのが見えた。

 

「うん、この杖、今までのとレベルが違う」

 

「その杖だって、優先的に回して貰っていた奴だろ」

 

「錬金術、凄いよ。 でもこれは、人を傷つける力であってはいけないね」

 

続いて、靴も試す。

 

既に履いて、足を痛めないかは確認している。

 

あたしはどうしても散々歩くので、靴で足を痛めるようでは話にならないのである。

 

靴には昨日殺した鼬の皮などでクッションを作り、踵などのこすれる部分にも同じ処置をしている。

 

それでいながら頑強さを確保しなければならないのだが。

 

今は、まずは歩いていて足に負担を掛けないことが最優先だ。

 

気合いとともに踏み込むと、蹴り技を叩き込む。

 

目標としていた案山子では駄目だ。

 

一撃でへし折れるどころか、粉々に砕けていた。

 

あたしの蹴りを見ると。

 

レントもタオも青ざめる。

 

これは昔からで。昔、タチの悪い行商人に絡まれたとき。まだ十三のあたしが、其奴を蹴り砕いて半殺しにした事件があってからだろうか。

 

そいつはあたしを責めていたが。

 

普段は悪童扱いするアガーテ姉さんが事の一部始終を見ていた事によって、その行商人は内臓を痛めたまま島の外に放り出された。

 

その後どうなったかは、あたしも知らない。ただ、その時モリッツさんが、驚くほど冷淡に商売をもうしないぞとか息巻く行商人に、どうぞと返していたのは覚えている。

 

普段は嫌みな親子だと思っているあたしだけれども。

 

ちゃんと島のことをモリッツさんが考えているとも思うようになったのは、その時かもしれなかった。

 

「す、すっごい蹴り技……」

 

「熱魔術が基本のあたしだけど、蹴り技をやるときは足に魔力を集中させてるんだよ。 元々農業で鍛えた足腰だから、戦闘で使わないと損だしね」

 

「う、うん……」

 

クラウディアも引き気味だ。

 

だが、これは火力を出し切れているとは言えないか。

 

訓練に使っている広間にある岩を確認。

 

やるならこれだろうか。

 

気合いと共に、もう一度全力で蹴りを叩き込む。

 

前は、靴跡が残るだけだったが。

 

今回は、文字通り一撃で岩がめり込み、大きく砕けていた。

 

「うお……すげえ……」

 

「レントのパワーを完全に超えてるね……足だけなら」

 

「ちょっとこれは真似できる気がしねえ」

 

「うん……」

 

クラウディアまでそんな事を。

 

レントはパワーで言うとあたしより上なんだけれどな。

 

いずれにしても、これではっきり分かった。

 

岩より柔らかい相手なら、これで確殺出来る。

 

人間だったら、誰でも殺せるだろう。それがどれだけ鍛え抜いた歴戦の戦士でも。

 

これは、そうするつもりで考える事では無い。

 

そういう選択肢があるよと言う意味で、考えておく事だ。

 

どうしても、色々な相手との戦闘は想定しないといけない。

 

昔は人間同士での戦争があったらしいのだけれども。今の時代は、どこでもそんな事をする余裕なんてない。

 

あるとしても、賊の討伐くらいで。

 

この近くで、賊なんて出現もしない。

 

辺境になると匪賊なんて論外の連中が出ることもあるらしいけれど、うちの近くでそういうのの話は聞かない。

 

流石に人を殺して肉を食うような匪賊になると、見敵必殺が基本になるらしいが。

 

幸いにも、うちの護り手たちがそういうのにあった事はないそうだ。

 

あたしも、そういうのが襲ってきたら殺すつもりではあるが。

 

それはもう人じゃない。

 

だから、殺す事に、躊躇はなかった。

 

「とりあえず、切り札の火力は更に上がったね。 蹴り技は本当に切り札としてしか使えないんだけれども、この足具をもうちょっと調整すれば、更に身軽に動く事も出来そうだね」

 

「俺にもくれないか。 蹴り技は俺は使うつもりはないが、踏み込みの時にやっぱり今の靴だと物足りないんだ」

 

「分かった、後で作るよ」

 

すぐに粘土を持ってきて、レントの足形を取る。

 

タオも少し悩んだ後、同じように足形を取った。

 

クラウディアはどうする、と聞くと。

 

今はいいかなと、断られる。

 

まあ、それで良いだろう。もしも今のままでは足りないと思うようなら、作ってあげればいい。

 

二足作る分には、それほど苦労はない。

 

それと、だ。

 

もう一つ。作ってあるものがある。

 

レントに見せる。それは、レントが使っているのとは違うもの。通常の片手剣である。

 

「レント、これがどうかちょっと試してみて」

 

「サブウェポンか?」

 

「いや、それはまた後で作るよ。 これはアガーテ姉さんにプレゼントしておこうと思ってね」

 

「ああ、確かに世話になってるからな」

 

頷くと、レントは力強く剣を振るってみせる。

 

何度もひゅうひゅうと風を切って、剣が鳴く。レントはガタイもしっかりしているから、剣を振るっていると様になる。

 

この島以外だったら、もてるかもしれない。

 

この島だと、もっとガタイが良いのに暴力ばっかり振るっているザムエルさんがいるから、武力がある男子がモテる事はあまりない。

 

その悪い所が、可視化されているからだ。

 

「俺が振るう分には最高だな。 後はアガーテ姉さんに渡して、使い心地を試して貰ってくれ」

 

「了解。 じゃ、いったんお菓子にしよう。 アップルパイもあるし」

 

「そうだな。 クラウディア、ごちそうになるぜ」

 

「僕もありがたく貰うよ。 頭を使ってるからか、甘いものがほしくて仕方が無いんだ」

 

音は聞こえていたのだろう。

 

元々戦士だったお母さんは覗いていたようで。錬金術の性能については、理解はしてくれていたようだ。

 

だけれども、警戒心の方が視線に強く出ている。

 

多分まだ、錬金術を信用してくれていない。

 

これはもうちょっと色々やらないと駄目だろうと思う。

 

まずは、アガーテ姉さんに、プレゼント。

 

少しずつ、村の人に錬金術の良さをアピールして。それで村での錬金術の立場を確保していかなければならない。

 

それはそれとして、クラウディアの作ってくれたアップルパイをいただく。

 

最初はあのメイドさんが作ったのかなと思ったのだけれど。

 

クラウディアが手ずから焼いたらしい。

 

実においしい。

 

というか、リンゴとかもかなり良いものを使っている。レントもタオも、一口食べた途端に無言になったので。あたしが咳払いして感想を言うように告げる。本当に美味しいと二人とも口を揃えたが、クラウディアが不安そうにしていただろうが。

 

そう、私が無言で圧を掛けると。

 

二人ともごめんなさいと視線で謝るのだった。

 

いずれにしても、すごく美味しいアップルパイだったので、ついつい食べてしまった。そのまま、ある程度雑談して、今後の方針も決めてから解散。

 

あたしは、父さんと母さんに話をして。

 

剣を見せる。

 

鎌を既に見せているのだ。父さんも母さんも、これをあたしが作った事を、疑いはしなかった。

 

二人とも元戦士だったのだ。特に母さんは優れた剣士だったと聞いている。

 

母さんが少し振るってみて、瞠目していた。

 

「これは王都の鍛冶師が打つレベルのものだね。 本当にすごいよ。 これを、錬金術だかで作ったのかい」

 

「まだ初歩だよ。 もっと凄いのだって作れる」

 

「そうかい……」

 

「母さん。 凄い剣なら、それでみとめてあげよう」

 

父さんが助け船を出してくれる。

 

母さんは、剣を懐かしそうに見てから。それで、あたしに返してくれた。

 

まだ認めてはくれないか。

 

でも、いずれ認めさせてみせる。

 

そう、あたしは誓うのだった。

 

だって錬金術はこんなにも凄い力で。使い方によっては、みんな幸せに出来る筈なのだから。

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