暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
信じられない。
そう呟いて、門を通っていったライザ達を、フロディアは見送っていた。
既に乱戦が終わった後を見計らって、門を通って状況は確認している。
実は現時点でも、フロディア達が確認している稼働中の門は幾つもあり。オーリムの状況は把握している。
たまに大侵攻を未然に防いだりもしているので、状況はある程度わかっているつもりだったのだが。
それも主との連携を行ってできる事。
主も管理者権限が邪魔していてできる事に限りがあるため、大侵攻を防ぐ場合は、フロディアら同胞が百人単位でピンポイントの作戦行動を行って、敵を仕留めてそれでも大きな被害を出す。
そういった作戦では、主が提供する道具類も活用して。それでも大きな被害を免れないのだが。
まさか、古代クリント王国の時代に略奪された水を完全に取り戻して。
これほどのフィルフサに対してのアドバンテージを作り出す事が出来るとは。
しかも、此処……グリムドルに今侵攻している群れは、くだんの「蝕みの女王」だ。
要警戒王種の中に含まれる一体で、もっとも危険なフィルフサ王種。その実力は、今まで同胞達が仕留めてきた王種とは次元違いとも言われている。
それに。そのあまりにも強大すぎる存在に対して。
まだ錬金術を始めて一季節も経っていない人間が、優位に戦いを進め。
あまつさえ、勝とうとしているというのか。
フィルフサは世界共通の敵だ。フロディア達にとってもそれは同じだ。邪魔はしてはならない。
それは分かっている。
だが、それ以上にだ。
錬金術師どもがやらかしてきた事を、フロディアは知っている。同胞達と、共有し続けている。
最初の痛みの記憶もはっきり持っている。
それを持つ事が、同胞の証。
それに対する怒りで、同胞は団結しているのだから。
だからこそ、危険信号が頭の中で点灯している。フロディアは、雨を拭いながら門を潜り。そして、無言で礼をしていた。
コマンダーが。パミラが来ていたのだ。
「うふふ、どうやら想像以上の状況のようね」
「主がどう判断するかは分かりませんが、或いは本当にフィルフサ王種……それもずっと最大警戒の対象だった「蝕みの女王」が討ち取られるかも知れません。 それをとめるわけにはいかないかと判断します」
「その判断は正しいわねえ。 もしも何かを仕掛けるとしても、「蝕みの女王」を倒した後になるでしょうね」
「……それをやりかねない相手となると、主と敵対した場合……我等では勝てなくなるかも知れません」
ふふと、口元を抑えてパミラが。コマンダーが笑う。
上品な笑い方だが。
此奴の実力は、主を「あの子」呼ばわりし。
更には、その同盟者としても振る舞うほどのものだ。文字通りの神域。恐らくは、「神代」の錬金術師どもでも、単体ではかなわないだろう。
だから、底知れないプレッシャーがある。
「もしもストッパーを掛けるなら今ですが……」
「いや、それを判断するのはあの子よ。 貴方はあの子に情報を集めておきなさい」
「分かりました。 それで、貴方は」
「もしもフィルフサが此処を突破した場合、精霊王達と連携して滅ぼす。 大雨で弱体化しているだろうし、どうにでもなる筈よ」
確かに、この怪物の実力なら可能か。
礼をすると、一度その場を離れる。
フロディアにできる事は限られている。だから、此処は任せるしかなかった。
エネルギッシュに活動しているライザを見て、アンペルはもう口出しは不要だなと考えていた。
ずっと抑圧された人生を送ってきた。
どうして長寿なのかは分からないが。
いつの間にか人より成長が遅いことに気付いて。
錬金術ができる事を偶然から知って。
そして、ロテスヴァッサに招かれて。其処で、人間の最暗部を見た。
周囲は、アンペルを実験動物としか見ていなかった。
そして、倫理観がない方が偉いと本気で考えている外道共の巣窟だった。
必死に抵抗した。
人間であるために。
寿命という観点から、自分は人間では無いのかも知れないと言う恐怖が何処かにあったのかも知れない。
自分を突き動かす正義感が、親友の裏切りで潰えたとき。
何もかも、研究所の成果を破壊して。
逃げ出すことしか、その時は出来なかった。
暗殺者に追われながら二十年以上逃げ回り。その追跡がやっと止まった時には、すっかり捻くれきっていた。
後は、贖罪の人生。
門を閉じて回る事だけを行い。その途中でリラとあった。
ずっと贖罪をして生きるのだろうと思っていた。
だけれども、ライザを見ていると。光が生じてくるようにすら思える。
自分には出来ない事を、なんでもライザならやってくれるようにすら感じる。
今アンペルに出来るのは、ライザを支援することだけ。
幸い知識だけはライザより豊富だ。古代の言葉も読める。錬金術師が得意げに作る暗号についての知識もある。
だが、それ以外はもはや、全てがライザの方が上だと認めざるを得なかった。
それでも悔しくないのは。
ライザが良き錬金術師そのものであるから。
戦闘時の荒々しさは鬼神のそれだが。
しかしながら、同時にそれは。悪に怒る鬼神のものであって。理不尽なものではあり得なかった。
「アンペルさん!」
ライザに呼ばれる。
腰を上げて、其方に向かう。
どうやら、ライザがタオと話し合って、作戦を考えついた様子だ。
後はアンペルが、その作戦を見て、現実的な方向に動かせるように、支援していけばいいのである。
頷くと、話に加わる。
そして、ライザの作戦を見て。
嘆息していた。
こういった部分は天性の才覚が出る。ライザは戦士以上に、指揮官としての適性も持っている。
苛烈だが、確実な作戦を見て。
アンペルは、もう教える事なんて一つもないのだなと。少しだけ寂しさを感じていた。
(続)
軽く百万を超えるフィルフサの大軍勢。
もしもライザの世界に攻めこまれるともはや人間は破滅確定です。
水際作戦が始まりました。
負けたら後がない作戦が。