暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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わずかな休憩を挟みながら、断続的な戦闘を行います。

土砂降りで体力を奪われるのは……

人間も同じなのです。


1、女王はいまだ遠く

休憩から起きだして、外に出る。

 

どうやら、大河とキロさんが言っていたものが復活したようだ。轟々と水が流れている。

 

水は紫色で、使ったらどうなるか考えたくもない。

 

フィルフサに最適化された土が、押し流されているのだろう。

 

或いはフィルフサに最適化された生物もかもしれないが。全ての生物を殺し尽くしていくフィルフサだ。

 

そんな生物がいるとしても、目に見えない程ちいさな生物たち。

 

それも侵略性外来生物。

 

気の毒だが、この地から出ていって貰う他はない。

 

手をかざすと、見える。

 

以前古代クリント王国の錬金術師どもが、奴隷を死ぬまでこき使って作りあげた「共生の碑」とかいうのが押し流されていく。

 

馬鹿馬鹿しい代物だ。

 

古い時代から、人間は一見良さそうな言葉や代物に騙される事が多かったそうだ。そういう事をする専門の詐欺師も存在していたらしい。

 

オーレン族は、共生を真に受けて協力もしたのだろう。

 

だから、奴隷を使い潰すやり方を見ても、それでも眉をひそめながらも一緒に生きようと考えたのだ。

 

相手は違う文化の持ち主だ。

 

そう最大限尊重しながら。

 

その結果がこの有様だと思うと、本当にハラワタが煮えくりかえる。同じ生物だと考えたくない。

 

だけれども、今はその怒りを。

 

まずはフィルフサにぶつけないといけない。

 

世界共通の敵。

 

古代クリント王国の錬金術師どもが、此処まで育ててしまった怪物。

 

フィルフサそのものに罪はないのだろう。

 

だが、此処で仕留めないと、未来も全てなくなってしまうのだ。

 

「ライザ!」

 

クラウディアが来る。

 

偵察にいっていたらしい。リラさんも一緒だ。

 

「フィルフサの動き、見て来たよ」

 

「お、ありがとう。 どうだった?」

 

「うん。 一度後退して、再編制に移ってるみたい。 あの辺りに小高い丘があって、雨の影響が小さいみたいで。 そこに将軍数体がいるよ」

 

「……クラウディア、休んでおいて。 あたしも見にいってみる」

 

頷くクラウディア。見張りもしてくれていたのだ。休んで貰う。

 

あたしはまだ少し在庫がある焼き菓子を口に放り込むと。

 

ばりばりと豪快にかみ砕いて。それで、少し頭を活性化させた。

 

リラさんはまだ平気と言う事で、案内して貰う。丁度一緒に起きて来たアンペルさんと一緒に、先の地点に出向く。

 

なるほど、確かに丘みたいになっている。

 

というか、建物かあれ。

 

何かしらの研究施設のように見える。

 

或いはだが。

 

意図を説明せずに、オーレン族達を無視して錬金術師どもが作りあげた施設かも知れない。

 

だとすると、用途は。

 

十中八九、フィルフサの研究だろう。

 

どういうわけか、古代クリント王国の錬金術師は、フィルフサを制御出来ると考えていた様子だ。

 

それはあの塔で見つけた手記など、様々な証拠が示している。

 

あの施設は、フィルフサを家畜として飼い慣らし、内部から資源としてコアを取りだすためのものだったと見て良い。

 

だとすると。

 

水に対して、対抗できるように。様々な処置をしていても不思議では無い。

 

リラさんが、手をかざしてみている。

 

その鋭いまなざしは、猛禽のそれそのものだ。

 

「ライザ、アンペル。 気付いたか」

 

「恐らく何かあるだろうとは思いますが」

 

「あれは罠だ」

 

「!」

 

なるほど、確かにあれはわかりやすすぎる。

 

フィルフサに取っても有利な地形だ。彼処に攻めかかって、王種も含む精鋭が反撃してきた場合。

 

今までの勝利が台無しになる程の大負けになる可能性が高い。

 

無言であたしは考える。

 

彼処を崩すにはどうするか。

 

フルパワーでの詠唱を続けて、全力での魔術攻撃を叩き込むか。

 

いや、まて。

 

敵が彼処に集まって来ているという事は、反撃を考えていると見て良い。そうなると、敵は別働隊を動かしているのではないか。

 

今は、あの遺跡の辺りにも大雨が降っている。

 

如何にある程度水をしのげるとしても、地下に潜るのは自殺行為と見て良いだろう。

 

だとすると、遺跡周辺のフィルフサは数が少なすぎる。

 

そして、確かに感じ取ることが出来る。

 

遺跡に大きな気配。

 

それも、将軍よりもずっとずっとつよい気配がある。此処からでもびりびりと感じる程である。

 

間違いない。

 

王種という奴だ。

 

「リラさん、この気配……」

 

「死んでも忘れるものか。 王種、「蝕みの女王」だ。 リヴドルを滅ぼした奴は、私が絶対に討ち取る」

 

「落ち着けリラ。 一度戻って態勢を立て直すぞ」

 

「……分かっている」

 

リラさんはマイペースだが、一度激高するとちょっとばかり歯止めが利かなくなるようである。

 

ただ、そんなリラさんでも怒るほどの状況。

 

それが、一番的確な今を示す言葉なのかも知れない。

 

無言で皆の所に戻る。

 

全員が休憩を終えたようなので、軽く作戦会議に入る。キロさんが、ふらっと洞窟を出ていった。

 

周囲を見てきているのかも知れない。

 

「なるほど、敵が首魁を敢えて晒してきたと見て良さそうだね」

 

「討ち取っちまおうぜ」

 

タオの言葉を受けて、レントが言う。

 

でも、それは悪手だ。

 

あたしが順番に説明していくと。タオも頷いていた。

 

「僕もそう思う。 フィルフサって種族は、将軍や王種を失うとどうにもならない種族なんだ。 それが敢えて急所を晒してきた理由は二つ。 本命の作戦行動を取る部隊がいるって事。 それに、人間なんか歯牙にもかけないくらい王種が強いって事だよ」

 

「あたしも同意見。 将軍でもドラゴンと本来なら渡り合えるとなると、これだけの規模の群れを統率する王種の戦闘力は想像もできないよ。 雨で弱体化していても、だろうね」

 

「それなんだが、一つ注意しておくべき事がある」

 

リラさんが、話をしてくれる。

 

白牙の民が、「蝕みの女王」と交戦した時の話だ。

 

頷いて、皆で話を聞く。

 

大侵攻が始まってしまい、白牙の民は散り散りになった。それでも、僅かな一部は、最後の賭として王種「蝕みの女王」に挑んだ。

 

決死の戦いで、皆死んだが。

 

その時、リラさんは、話を聞いたという。

 

「奴は一対の鎌を持ち、巨大で。 そしてある者が見ている。 奴の甲殻の中に、人のような姿があったと」

 

「内部に人……!?」

 

「私も以前リラに聞かされた。 様々な種類のフィルフサと、これほど交戦したのは私も初の経験だ。 王種との交戦経験はない。 王種は或いはだが……他のフィルフサとは、体の構造が違っているのかも知れない」

 

「厄介だぜ……」

 

レントが呟く。

 

あたしも同意見だ。

 

殻の中に、人型がある。もしもそれが本当なら。それはいわゆる形態変化をするのかも知れない。

 

今まで撃ち倒してきた将軍も含めたフィルフサの殻のなかはがらんどうで、コアがあるだけだ。

 

だが、もしも王種は巨体の中に第二の殻を持っていて。

 

更にその中にコアがあるのだとしたら。

 

その圧倒的な強さ……リラさんの同族を破った戦闘力にも説明が出来るというものだ。

 

しかも小型であっても人型。

 

嫌な予感がする。

 

どうもフィルフサは他の生物の姿を取っているように思えてならないのだ。有利な姿なんて他にも幾らでもあってもおかしくないのに。

 

それがどうして他の生物の姿を取る。

 

ましてや人型。

 

此方の世界の人間ではないだろう。

 

あるとしたら。

 

「どうした、ライザ」

 

「ずっと気になっていたんです。 もしかしてと思って」

 

「聞かせてみろ」

 

「フィルフサの姿……この世界の生物にそっくりなものっていますか?」

 

レントが怪訝そうな顔をするが。

 

クラウディアとタオは食いついた。

 

アンペルさんは、リラさんの言葉の続きを待っている。

 

「……そういえば、全く同じとは言わないが、似ている生物は確かにいる」

 

「!」

 

「例えば空読みだが、あれは大サソリと呼ばれる生物に似ている。 小型種も、いずれも似ている生物がいる。 将軍も考えたくは無いが、極地に棲息している大型の虫がよく似ている」

 

「ありがとうございます」

 

そうか。

 

どうやら、最悪の予想があたったと見て良い。

 

フィルフサは、どうして他の生物を真似ているのか。

 

それはまだ分からない。

 

だが、真似ている。

 

それは確定だ。

 

そして王種……いや、「蝕みの女王」だけかもしれないが。そいつは巨大な鎌を持つ虫か何かの姿と同時に。

 

内部に人間……いや十中八九、オーレン族の手練れの戦士を真似た姿を持ったという事だろう。

 

どうしてそんな事をしているのかは分からないが。

 

ただ分かるのは。フィルフサは動物の姿だけではなく、能力まで取り込んでいる可能性が高いと言うことだ。

 

「フィルフサって、卵を産んで増えるんですか?」

 

「いや、そんな話は聞かない。 地面から勝手に出現するという話は聞くが……」

 

「最悪の事態かも知れないな」

 

「アンペル、聞かせろ」

 

アンペルさんは言う。

 

フィルフサは、そもそも殺した相手を食う様子がない。殺すと砕いて地面にしみこませてしまう。

 

そしてその地面は、いずれフィルフサが汚染して紫の世界に変えてしまう。

 

もしも、これらが目的を一致した戦略的に意図した行動だとしたら。

 

そこまでアンペルさんが説明しても、自分には分からないとレントが言う。

 

だが、あたしは分かった。ぞっとした。

 

タオもクラウディアも、気付いたようだった。

 

「まさか、フィルフサは繁殖行動の一環として、他の生物を殺して回っているの」

 

「いや、俺たちだって生きるために食べるだろ」

 

「違うよ、フィルフサは食べないんだ」

 

「……そういえばそうだな」

 

レントはこういうのは苦手だ。

 

だから、説明していくしかない。アンペルさんが咳払いすると、説明を開始する。

 

「多分だが、フィルフサは我々とは根本的に違う生物なんだ。 最初は目に見えないほど小さいのか、それとも違うのかは分からない。 分かっているのは、フィルフサは殺した相手を砕いて地面に混ぜ込んで、其処から増えていく。 つまり、殺した生物の特徴を取り込んでいるんだ」

 

「なんだって……!?」

 

「これに古代クリント王国の錬金術師をはじめとした連中が、何かしら悪さを更にしているかもしれない。 もしも蝕みの女王という王種が二重の構造を持っているのだとしたら、強さも納得だ。 王種が二匹、重ね着をしているようなものだからだ」

 

なるほど、フィルフサが大侵攻をするわけだ。

 

元々水があると繁殖できないフィルフサは、そもそも土地に水がある状態では、その「増える」という行動がそもそもできないのだろう。

 

地面の中に埋まっているフィルフサの子供。

 

それがちいさな生物から始まって、大きくなっていくのか。

 

それとも別のプロセスを経るのかは分からない。

 

分かっているのは、他の存在はすべてが養分だと言う事。

 

自分の種族を増やすためには、水がない場所を作りあげるしかないという事だ。

 

絶滅しないためにも、フィルフサは。

 

土地の生物が抵抗力をつける前に、新しい能力と、繁殖のための土地を確保しなければならないのだ。

 

水がフィルフサにとって猛毒になる理由はまだこの段階でもわからないが。

 

フィルフサの大侵攻は、繁殖と連動した行動という事になる。

 

それは、必死になるわけだ。

 

特にこの土地。

 

今、既にフィルフサには適していない土地になっている。

 

もしも、最後の選択肢を取ろうというのなら。フィルフサはこの土地を去って、今まで侵略して踏みつぶしてきた場所に戻るだろう。

 

だが、それが種族の後退につながるというのなら。

 

フィルフサは、リスクを背負ってなお更に先に進み続けるのだろう。

 

「なんだよそれ。 他が滅びるか、フィルフサが滅びるかしかないじゃねえか」

 

「ある意味、行きすぎた商売みたいだわ」

 

「クラウディア?」

 

「お父さんが昔言っていたことがあるの。 今は人間が少なくて、商売の規模はどうしても小さくなるのだけれども。 でも、数百年前、人間が今の何十倍もいた時代の記録をどうしても見る事があるんだって」

 

古代クリント王国の時代か。

 

そのまま、クラウディアの話を聞く。

 

「そういう時代は、勝つか負けるかなんだって。 他の人間を何もかも蹂躙し尽くして、自分が勝ち残るしかない。 躊躇したり相手の事を考えると、即座に蹴落とされる。 悪い事もなんでもやって、それで生き残る事が正しいってされるんだって」

 

「バカじゃねえのか。 そんなの誰かが勝っても、最後は焼け野原になるだけじゃねえか」

 

「そんな事は分かっているの。 だけれど、負けるとそれでおしまいになるし、下手をすると家族や養っている人達まで失う。 だから老人になっても欲望をたぎらせて、他の人間全部を蹴落として、奴隷にすることを考えるんだって……。 フィルフサは、それみたいだね……」

 

悲しそうにまつげを伏せるクラウディア。

 

そうか。そうだな。

 

確かに、それはフィルフサに近いかも知れない。

 

あたし達は、むしろ昔はフィルフサだったのかも知れない。

 

事実、フィルフサを叩き起こしたのは古代クリント王国の錬金術師だが。

 

フィルフサがいなければ。

 

最悪の侵略性外来生物になっていたのは、数百年前の人間、そのものだ。

 

或いはだが、古代クリント王国の連中がやっていた奴隷制は、そういった過熱しすぎた競争に負けた人間を使い潰すためのもの。

 

人間が実は多くなりすぎていて。

 

そうやってすり潰す事で、数の安定を保とうとしたのか。

 

だとすると、愚かすぎる。

 

知的生命体のすることじゃない。

 

大きく嘆息するあたし。これは、良い奴悪い奴で片付けられる話じゃない。

 

あたしは良き錬金術師としてあろうと思っている。今後も、それを崩すつもりはない。

 

だが、こういう過熱社会が到来したとき、それをとめられるのだろうか。

 

もしも力尽くでとめたりしたら。

 

むしろあたしが、魔王とか呼ばれるようになるのではないのだろうか。

 

いや、それでも。

 

あたしは魔王と呼ばれようと、こんな大惨事が起こるなら、それをとめなければならないだろう。

 

覚悟を決める。

 

あたしは魔王になってもいい。

 

それでも、この状況を。

 

この地獄を。

 

絶対にとめなければならない。

 

焼き菓子が最後の一つだ。あたしはそれを口にすると、立ち上がる。雰囲気が変わったことに、気付いたのだろうか。

 

タオがびくりとしていた。

 

あたしは決めた。

 

錬金術は力の学問。だったら、作ったものに責任を持たなければならない。それをやらなかった連中が、この地獄を造り出した。

 

だったらあたしは、魔王と呼ばれようが。

 

石頭と呼ばれようが。

 

錬金術師としては、最善を尽くす。もしも何かあった場合は、己が滅びようとその責任を取る。

 

深呼吸すると、雨の中に出る。丁度、キロさんが戻って来た所だった。

 

「ライザ?」

 

「キロさん、偵察の結果、教えてください」

 

「ええ……」

 

雷が、遠くで鳴る。

 

敵に先手はくれてやらない。

 

次の作戦は、既に決まった。更に、此処で敵の戦力を削る。

 

今、王種は要塞と言って良い場所にいる。そこに正面から乗り込むほどの戦力は、あたし達にはない。

 

だったら、更に要塞の敵を弱体化させる事を考えなければならない。

 

それには、まだまだ。

 

敵の総戦力を削り取らなければ駄目だ。

 

あたしの中の迷いが消えた。フィルフサは人間そのものだと言える。もしも、今後人間が敵になった場合。

 

それが、人道に対する敵で。

 

世界の敵であった場合。

 

あたしは、容赦なく其奴を蹴り砕く。

 

何もそれは、古代クリント王国錬金術師のような、下衆の中の下衆だけではない。

 

何も考えずに善意で地獄を造り出すような奴や。

 

自分の行動に責任を持たないような自称現実主義者もそうだ。

 

あたしは今、既に力を持っている。

 

だから、それを最大限に生かさないといけないのだ。こんな世界を、二度と出現させないためにも。

 

洞窟の中で、話を聞く。

 

やはりだ。敵の別働隊が、突撃の準備をしている。今度は三方向から、一気に突破を狙っているようである。

 

だとすると、手数が足りない。

 

敵は将軍六体から編成された突撃部隊三つ。いる位置を確認。外に出て、濁流の様子も確認。

 

なるほど、そうなってくると、分かってきた。

 

どうやらフィルフサの群れは、陽動部隊を用意して、本命の部隊を突入させ。雷雨と豪雨を突破するつもりのようだ。

 

キロさんが、陽動部隊を引きつける役は買って出てくれるという。

 

リラさんとアンペルさんも。

 

これで、敵の部隊を各個撃破出来る準備は整う。

 

だけれども、それでも陽動部隊と言っても。油断すれば一気に押し切られて。門を突破される。

 

もう一声ほしい所だが。

 

「私に考えがあるわ」

 

クラウディアが挙手。

 

そして意見を述べる。現実的な話だ。そして今の状況だったら、少しは負担も減ると見て良いだろう。

 

だが、まずは試してみてからだ。

 

敵の突撃が開始されるまで、それほど時間は掛からないだろう。

 

ならば此方も、

 

待ってやる理由は、一つもなかった。

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