暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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2、変わりゆく者

ライザの様子が変わった。

 

それは、タオにも分かった。

 

ライザは良き錬金術師であろうとしていた。だけれども、それはあくまで優しい錬金術師だったと思う。

 

だが、フィルフサの生態を聞き。

 

過熱した経済の中で人がどう動くかを聞き。

 

それで、決定的な変化が起きた。

 

タオにも分かる。今のライザは、必要とあれば躊躇なく人を殺す。余程の事がない限りはないだろう。

 

それでも、確実に一線を越えた。

 

前から、確かに古代クリント王国の錬金術師が相手だったら、容赦なく粉みじんに蹴り砕くだろうとも思ってはいた。

 

だが今のライザは違う。

 

例えば、ロテスヴァッサの王室が、また錬金術師を集め。オーリムから「資源の採取」を命じたりしたら。

 

ライザは王室を火の海に変えるだろう。

 

それも躊躇なくだ。

 

元々王都というカエルの井戸で偉そうにふんぞり返っているロテスヴァッサ王室の事を、ライザは良く思っていなかった節がある。

 

アンペルさんの腕を潰した事で、その怒りは燻っていたようだが。

 

これで決定打になった。

 

ライザは変わった。

 

フィルフサとの戦闘では鬼神のように荒れ狂っていたが。多分完全に心の中に鬼神が宿ったんだ。

 

タオは少し怖いなと思う。

 

今までライザは、良くも悪くも皆を引っ張って行くリーダーだった。適性は高く、先代のブルネン家当主が気に入っていたというのも頷ける。二三歳年上の男子でも、ライザには自然に従ってしまう。

 

そういうパワフルなリーダーシップがあった。

 

だけれども、ライザも子供だった。

 

それが大人になった感触だ。

 

大人になって、別に人間は変わらない。事実タオの両親はどっちもくだらない人間である。

 

だけれども、ライザの場合。

 

多分、容赦なく敵を鏖殺する心の安全弁が備わった。

 

もしもそれが外れた場合。

 

今後のライザは、両手を血に染めることを全く厭わないだろう。

 

クラウディアが門を通って外に行く。

 

何故クラウディアかは、音魔術の使い手だからだ。

 

タオは、複雑な気分だ。

 

ただでさえ、また超格上とやり合うのだ。雨の中だから、どうにか戦闘がなり立つ相手である。

 

迷っていたら殺される。

 

分かっていても、ライザの変貌を肌で感じてしまった今。どうしても、恐怖をぬぐえなかった。

 

それでも、今は戦わなければならない。

 

家にいる両親がくだらない人間であることは分かっている。事実タオが必死に本を守らなければ、今頃状況は詰んでいたのだ。

 

だがそれとは関係無く、世界の破滅を食い止めるため。

 

今は恐怖を目の前にして。

 

それでも引くことは許されなかった。

 

 

 

敵の陽動部隊が行動を開始するのを待ってはいられない。更に激しくなってくる雷雨。これはフィルフサに取っては脅威だが。

 

あたし達にとっても、それは同じだ。

 

足を滑らせるだけで、濁流にドボンとなりかねない。

 

雷雨下の濁流なんて、どんな魔物よりも恐ろしい存在である。一瞬の油断が、死に直結する。

 

ギリギリまで、クラウディアを待つ。

 

戻ってくるクラウディア。

 

彼女は、頷いた。

 

よし、行くぞ。

 

あたしは、顔を上げると、ハンドサインを出す。雨の中では、叫ぶよりもこっちの方が確実だ。

 

総員、動く。

 

あたし達六人は敵本命に。

 

入口付近は、キロさんだけがどうにかする。

 

今は、である。

 

そのまま突貫。上流から回り込む。凄まじい濁流が渦巻いているが、だからこそ此処を誰も守らない。

 

分かっている。

 

フィルフサも、それを理解している。

 

案の場だ。今、フィルフサが大軍になって、川を渡っている。それぞれの体を連結して、橋になっているのだ。

 

橋の土台はどうでもいい。

 

主力が渡りきればそれでいい。

 

主に空を飛ぶフィルフサなどが、橋の土台にされているようだ。この雷雨では、空を飛ぶ個体は将軍級ですら役には立てない。

 

だから真社会性生物の特徴通りに。

 

そのまま、役に立てる方法で。命の全てを使っている、と言う訳だ。

 

残念だが、やらせはしない。

 

フィルフサに取っては死活問題なのだろう。だけれども、それをさせてしまっては、他の全てが駄目になる。

 

自分以外の何もかもがどうなってもいいと考えるような輩を、好き勝手にさせるわけにはいかない。

 

人間社会でもそれはそうだし、

 

自然でもそれは同じ事だ。

 

天敵がいないような生物は、基本的に個体数を少なくすることでバランスを取る。ドラゴンなんかが良い例だろう。

 

幼体の頃は数もそれなりにいるのかも知れないが。

 

大人のドラゴンなんて、殆ど見かけることはない。それは人間がいない地域にいるのではなくて。

 

単純に数が少ないのだ。

 

それで、自然のバランスが取れている。

 

フィルフサは違う。将軍級になるとドラゴン並みで。自然界でも当たり前に使われている魔術が通用しないという圧倒的なアドバンテージがある。それだけではない。中身が空っぽでは、そもそも餌にならないのだ。

 

確か、ヒトデとかが食べる場所がないという利点を生かして、天敵を減らす戦略を採っているらしいが。

 

それでもヒトデを専門に補食する生物もいる。

 

フィルフサは、あらゆる意味でバランスを壊してしまっている。

 

そしてフィルフサのためにも、これ以上の繁殖地拡大はよくないだろう。

 

当たり前の話だ。

 

もしも自分の対応力を増やすために、他の生物を食って回っているのだとしたら。

 

全てを食い尽くしてしまった先にあるのは、後は何もできない事実だ。

 

生物の進化と言うのは、究極は破滅ではない。完成形になるとそのままでやっていけるらしい。

 

だけれども、フィルフサはそれが出来ないだろう。この習性では。

 

渡河作戦をしている敵をたたくのは。

 

水際と決まっている。

 

濁流を渡るフィルフサが、半ばに達したとき。あたしは将軍を確認。周囲では、多数のフィルフサが蠢いている。

 

奇襲に備えているのだろう。

 

だが、この雷雨だ。あたし達だって、キロさんが発見していなければ。この群れを発見できなかった。

 

そして、それは敵も同じだ。

 

元々水に弱い生物である。生物であるかすらも怪しい存在である。いずれにしても、幽霊だのではないだろうが。既存の生物の常識が通じるとは思えない。

 

だがそれをもってなお。

 

この状況は悪すぎるのだ。

 

あたしが仕掛けたものを、起爆する。

 

同時に。

 

渡河作戦を終えたばかりのフィルフサの群れと。これから渡河しようとしている群れ。更には、渡河中のフィルフサ。

 

更には彼らが命がけで作った橋が。

 

鉄砲水に襲われていた。

 

濁流が、何もかも無慈悲に呑み込む。怒濤の勢いで泥水がフィルフサに襲いかかり、逃れようと緩慢に動くフィルフサを、なぎ倒して運び去っていく。

 

ごくりと側でタオが生唾を飲み込んでいるのが分かる。

 

この辺りの地形は、キロさんが全て知り尽くしている。

 

今、雷雨になって何処でどう水が流れているかも。なぜならば、キロさんは元々水があった頃から此処にいて。

 

此処を知り尽くしているからだ。

 

そしてそんなキロさんだから、何処が崩れれば鉄砲水になるのかも知っている。

 

文字通り、押し流されていくフィルフサの群れ。将軍数体も、それに巻き込まれるのが見える。

 

必死に濁流から逃れようとする一部は、クラウディアが容赦なく射貫いた。

 

僅かな生き残りが必死に上陸しようとするが。

 

其処にはレントとリラさん。更にはアンペルさんが、手ぐすね引いて待っていた。

 

水で装甲が脆くなっている。動きも遅くなっている。

 

何より濁流で翻弄され、弱り切っている。粉々バラバラにされていくフィルフサを横目に、あたしは詠唱を続けて行く。

 

水から飛び出してくるフィルフサ将軍。全身ぼろぼろだが、それでも飛ぶ事が出来る個体は、まだ生きようと言う意思を失っていない。

 

そして将軍や王種を逃がしてしまうと、フィルフサの群れは何度でも再起する。

 

生かして返すわけにはいかないのだ。

 

あたしは容赦なく、熱槍を叩き込む。

 

千発を収束させたタイプをだ。

 

普通だったら、大した効果は期待出来なかっただろう。だが、濁流から這い上がって来たばかりで。

 

将軍とは言え、濁流に揉まれてのダメージは、とてもではないが無視出来るものではなかった。

 

これが通じないなら、爆弾を叩き込んでやるつもりだったのだが。

 

熱槍で充分だった。

 

文字通り、翼を貫通した熱槍。

 

それで何となく分かったが、あの将軍。それぞれが、複数の生物の特徴を取り込んでいると見て良い。

 

飛ぶのはまた別の生物の特徴だったのだろう。

 

いずれにしても、完全にバランスを崩した将軍は、怨嗟の声を上げながら落下していった。

 

濁流に呑まれる、主力部隊最後の将軍。

 

かろうじて渡河したフィルフサを、皆と一緒に駆逐していく。タオが手をかざして、彼方此方にいる生き残りを的確に見つけてくれる。それを、逃げる前に濁流に叩き落とし。或いはバラバラに叩き潰した。

 

本来だったら、これだけの大水害。

 

生態系が滅茶苦茶になる。

 

絶対にやってはいけないことなのだが。

 

そもそもこの土地は、生態系が既に壊滅してしまっている。

 

こうして、一度完全に押し流すことで。

 

再生を速めるしかない。

 

それでも、むごい光景だなと思う。

 

あたしは、ぐっと俯く。

 

邪悪によって歪められた生態系をただすためとは言え。あたしは、これだけの暴威を振るった。

 

正しい行動だったとしてもだ。

 

それは、わすれてはならなかった。

 

すぐに後方に戻る。

 

敵の陽動部隊がまだ残っている。一応、保険は掛けておいたのだが。

 

強烈な雷が、多数降り注いでいるのが見える。大雨の中、弱ったフィルフサが、とんでもな向かい風に追い返されている。

 

それだけではない。

 

濁流が一部向きを変えて、フィルフサに襲いかかっているようだ。押し流されていくフィルフサは。

 

生態系の破壊者である圧倒的強者の趣などなく。

 

もはや。押し流される哀れな存在でしかなかった。

 

見える。

 

椅子に座った四つの影。

 

精霊王だ。

 

恐らく、門の近くで有事に備えているだろうとは思っていたが。やはりだ。クラウディアに呼びに行って貰ったのは、彼女らである。

 

濁流が、敵陽動部隊にも致命打を与え、相当数を押し流したのを確認すると。

 

精霊王達は、戻っていく。

 

「火」が笑顔で手を振っていたので、それに返す。

 

いずれにしても、ここまでは順調だ。

 

敵に与えたダメージも、決して小さくはないはず。他とは次元違いの規模の群れとはいえ、ただでさえ大雨に巻き込まれているのである。

 

洞窟に戻る。

 

水を上空に放出し続けている装置を確認。

 

目を細める。どうやら、調べて見ると、蓄積水量が半分を切っているようだ。まあ、これだけ景気よく水を撒いていればそうなるだろう。

 

広範囲に降り注いでいる雷雨の全てが、今噴き出している水というわけではなく。

 

今まで水がなくて、どうしようもない歪みが生じて。

 

それ故に、これだけの雷雨となっていたのだろう。

 

だが、それも。これだけの激しい雷雨が続けば、いずれは元に少しずつ戻っていくことになる。

 

キロさんと、戦果について話し合う。

 

今度の作戦は、皆の負担が小さく済んだ。それをよしとして、今のうちに食事を済ませてしまう。休憩も、皆で交代で取る。

 

敵の残存戦力は恐らく現時点で半数ほど。それも、将軍級はともかく。戦闘でもっとも厄介な、大量にいる小型種は殆ど行動不能とみていい。つまり敵の戦闘力そのものは、半分より目減りしていると言う事だ。

 

如何に将軍といえども、小型種一万には及ばない。

 

それは、戦って見て感じたことだ。

 

どうあっても結局主力になる小型種を封じたことで、フィルフサの大侵攻は既に半身不随に陥っている。

 

後は、敵を逃がさないようにする。

 

それが、もっとも大事になるが。

 

皆に、交代で眠って貰う。あたしは後。先に、キロさんとアンペルさん、それにリラさんを交えて話しておく。

 

「此処以外のオーリムは、やっぱりフィルフサに……」

 

「ええ。 殆どの土地が大侵攻で踏みにじられているわ。 数百年前……古代クリント王国時代まではそこまで酷くなかったのだけれどもね。 数百年前に、外にある装置を古代クリント王国の者達が持ち込んでから、決定的に状況が変じたわ」

 

「此処以外、何カ所であの装置が使われたか分かりますか?」

 

「残念だけれども、風羽氏族と緊密に連絡が取れていればわかったのでしょうけれども」

 

そうか。

 

だが、それは仕方が無い事だ。

 

元々オーレン族は、氏族単位……多くても数十人程度で集まって行動する民のようである。

 

そうなると、一人一人が如何に強くても、どうしても種族として連携して、緊密な作戦を採るのは苦手だろう。

 

伝令役をする氏族もいるようだが。

 

それもこの有様では、何処まで機能していることか。

 

「リラさんのいるリヴドルは確定として、他にもあの装置は恐らく使われていますよね」

 

「どういう事だ、ライザ」

 

「いずれ、あたしが責任を持ってあの装置全てを破壊します。 今回の作戦で、フィルフサに大ダメージを与えられることは分かりました。 相手が記録的に大きい群れであったとしても、です」

 

顔を上げるキロさん。

 

あたしは、少しだけ、無理をして笑顔を作った。

 

フィルフサだって、本当はこんな生き物だったのかわからない。実際リラさんは、昔は押さえ込めていたという話をしていた。

 

聖地の水が奪われた程度で、オーリムがここまで蹂躙されたのは不自然だ。

 

やはり、古代クリント王国の規模から言っても、最低でも十数カ所で似たような蛮行が行われ。

 

多くのオーレン族が騙され。

 

フィルフサが一気に攻勢を強めたとみるべきなのだろう。

 

アンペルさんが咳払いする。

 

「今まで封印してきた門の数を考えると、我々が知るだけで十五から二十というところだろうな」

 

「水の装置の位置は分かりますか」

 

「分かるものもあるが、どれも基本的に封印されていたり、各地のインフラに大きく噛んでいる。 全てを破壊するのは手間になるぞ」

 

「それでも、やらないといけません」

 

聖地に水が戻った事で、もしオーレン族が生き延びているのなら。此処を起点にして、一気にフィルフサに反攻作戦を開始できる可能性もある。

 

問題はオーレン族が殆ど生き延びていない場合だが。

 

その場合でも、あたし達は責任を持って、環境を戻す義務がある。

 

過去の人間の過ちだからと、勝手に責任逃れするのは子供以下の理屈だ。

 

力を持っていた錬金術師が。その力に相応しい責任を背負わなかった。

 

それだけで、その埋め合わせはしなければならない。

 

先祖の罪なんか知るかというのは簡単だ。

 

個人レベルでやったことなら、それも正論かも知れない。

 

だがこれは、世界レベルでの破滅を引き起こした事なのである。

 

そんな理屈は、とてもではないが通らないし。

 

通してもいけないのである。

 

「キロさん。 王種を潰せば、フィルフサの群れは崩壊するんですよね」

 

「ええ。 数えるほどしか成功例はないはずだけれども」

 

「やります。 もしも水をあたしの代で戻せないのだと判断したら、次善の策として王種全てをあたしの時代に全て潰します。 それでフィルフサは、一気に勢いを失うはず。 これからの戦いで、キロさんは生き延びてください。 そして、全てが終わったら、オーレン族の生き残りをこの水が戻った聖地に集めてください」

 

「……分かったわ。 今は濁流渦巻く荒々しい土地だけれども。 既に蓄積されている水は半分になっていると言う話ですものね」

 

頷く。

 

キロさんは、本当だったら出会い頭に首を刎ねる権利だってあっただろうに、それを行使しないであたしを見極めてくれた。

 

それだけで、あたしは責任をしっかり果たす義務がある。

 

さて、次だ。

 

フィルフサも、大侵攻をまだ諦めていないと見て良いだろう。王種があんな場所に陣取っていることからも確かだ。

 

そして濁流であろうと、フィルフサそのものが橋を造って、無理矢理突破する事も可能である事は分かった。

 

やはり、敵の将軍を相応の数削らないと。

 

王種への戦いを挑む事は自殺行為になるだろう。

 

後半数くらいは……三十体程度は少なくとも将軍がいる。それをどうやって仕留めていくかが問題だ。

 

相手はこの状況でも大侵攻を諦めていない。

 

そこにつけいる隙はないだろうか。

 

肩を叩かれる。

 

休め、というのだ。

 

あたしは頷くと、素直にそうする。

 

流石に疲れきっていることもある。体も頭も正直だ。

 

横になると、意識がぷつんと落ちた。

 

あまりにも疲れているからか、夢もみなかった。

 

 

 

アンペルは、実は睡眠をあまり必要としていない。体質的なものなのだろう。

 

オーレン族ほどではないのだが。それでもいわゆるショートスリーパーというのだろうか。

 

数日の徹夜を平気でこなす事もできた。

 

今は、実の所年齢が相応に体に来てしまっている。

 

若く見えるように錬金術などで工夫はしているのだが。それでも若い頃に無理をしすぎた事や。

 

何よりも、体の加齢による衰えもあるのだろう。

 

最近は徹夜は体に響くようになったし。

 

昔のようなショートスリーパーでは無く、きちんと眠るようにもなっていた。

 

この体質のおかげで、ロテスヴァッサの王宮にいた頃は、相応の成果を上げることが出来ていたし。

 

其処を離れた後も、暗殺者につけいる隙を殆ど与えなかった。

 

とはいっても、今の時代だったから、暗殺者も規模が小さかっただけかもしれない。

 

古代クリント王国の時代に同じ事をしていたら。多分人間の数が現在の数十倍もいる事もある。

 

暗殺者は一世代程度では諦めてくれず。

 

結果として、逃げ切れなかっただろう。

 

そういう分析もしていた。

 

ライザが眠ったのを見て、アンペルは自身も休むことを宣言。そのまま、横になって目をつぶる。

 

ライザの才覚を見ていると、天才と呼ばれていた親友や。

 

それに次ぐと言われていた自分が、凡人にしか見えなくなってくる。

 

何より、自分の事で精一杯だったアンペルとは違う。

 

ライザは恐らくだが、今後生きているだけで世界に大きな影響を与え、ダイナミックに変革していくだろう。

 

クーケン島という僻地に生まれてこれである。

 

もし王都辺りに生まれていたら、或いは。

 

いや、それは可能性の話だ。

 

それに、クーケン島に生まれたから。戦士として適性があるレントや、学者としてアンペルも舌を巻くタオ。それに人間の組織的生物としての生き方を知っているクラウディアとも出会うことが出来た。

 

それを考えると、きっとクーケン島に生まれた事にも意味がある。

 

クーケン島の人間が、古代クリント王国の人間の子孫であることなんかは、まったく関係がないだろう。

 

遺伝なんてものは、ほぼ起こらない。

 

起きたとしても、それはただの偶然。

 

それは、百数十年生きて。世界中を贖罪のために走り回ってきたアンペルが、一番良く知っていた。

 

無理矢理眠る。

 

雨音が激しくて簡単に眠らせては貰えないが。それでもどうにかする。

 

夢はみない。

 

しばしして、起きだす。

 

良い匂いが、どうしても食欲を刺激したからだ。

 

起きだすと、クラウディアが燻製肉を煮込んでいた。これは、ワイバーンのものか。素晴らしい味である事は知っている。

 

此処でこそ、使うべき。

 

そう思ったのだろう。

 

それで正しい。起きだすと、もう鍋を囲んでいる若者達に混じる。

 

甘い食べ物もほしいが。

 

今は、兎に角先に栄養と熱だった。

 

鍋を囲んで、無心に食べる。リラが呆れ気味に言う。

 

「やはり其方の世界の人間は、何歳になっても変わらないんだな」

 

「君こそ、私と出会って数十年になるが、変わった様子がないぞ」

 

「数十年なんて、オーレン族にとっては瞬きの間だ。 アンペルの過ごした年月は、本来の人間の数世代分だろう」

 

「そう言われると痛いな」

 

苦笑してしまう。

 

それはそうと、このワイバーン燻製肉の鍋がとても美味しくて温まる。

 

キロが洞窟で栽培していた野草も馳走してくれたようで。それが味に深みを加えてくれている。

 

ちょっとこの洞窟が崩れないか心配になったが。

 

キロが数百年、此処を拠点に戦っていたのだ。

 

そこまで脆くは無いだろう。

 

はあと大きくため息をつくタオ。

 

クラウディアがくすくすと笑う。

 

「タオくん、食べてすぐに横になったら駄目だよ」

 

「分かってる。 クラウディアは体型を保つための工夫とかしてる感じ?」

 

「してないよ。 隊商だとどうしても歩くことになるし、それにライザ達と出会ってからは、太る暇なんてなかったもん」

 

「そうだよね。 まあ僕もそれは同じなんだけどさ」

 

本来は失礼に当たる質問なのだろうが。

 

クラウディアは悪意がないことを知っているからなのだろう。笑って流している。

 

良い仲間だ。

 

ライザを中心に集まった仲間達は、恋愛感情関係無く結びついている。

 

人間は万年発情期である珍しい生物で。

 

どんな物語でもそうであるように。惚れた腫れたが大好きな存在だ。

 

そんな中で、この中心となるメンバーが、恋愛感情なんて一切なく結びついていることは面白い。

 

新しい仲間が、この戦いを生き残れば当然増えてくることだろう。

 

その仲間まで、恋愛関係無く結びついていくかは分からない。

 

いずれにしても、この中核となる四人に、恋愛感情が一切無い事はとても言い事だったのだろうとアンペルは思う。

 

アンペルは後見人だ。

 

この素晴らしい若き天才達の仲間ではない。

 

仲間であってはならず。見守らなければならないのだ。

 

何もできなかった者として。

 

ライザが食事を終えると、多少昂ぶっていた気も収まったようで。立ち上がって、外に行く。

 

アンペルはトイレを利用させて貰う事にする。

 

ライザが熱魔術で定期的に綺麗にしているようで、不快な匂いもなく汚物も見当たらず。利用は快適だった。

 

すっきりしたので、外に出る。

 

目を細めたのは、更に暗くなっている事を感じたから。

 

これは、もう恐らくだが。装置から噴き出している水は関係無くなっている。

 

最初に空に舞った粉塵と、膨大な水が原因となって。広域に雷雨が降り注ぎ続けているのだ。

 

キロが戻ってくる。

 

先に出ていたらしい。そして、偵察をしてきてくれた様子だった。

 

「フィルフサの群れを確認したわ。 再編制をして、敵の残りの殆どが集まっている様子よ」

 

「好機ですね」

 

「そうね……」

 

ライザの笑顔を、雷が照らす。

 

ライザは戦士としては、際限なく容赦なくなれる存在だ。それがよく分かった。

 

そしてそれが、こう言う場では強みになる。

 

作戦をライザが説明し始める。

 

アンペルは、それに対してアドバイスをするだけでいい。事実ライザの作戦は、田舎街で実戦を散々経験してきたものの。

 

地に足がついたものだった。

 

ライザは錬金術師としてだけではない。

 

大昔のアーミーとやらでも、上級指揮官としてやっていけたのだろうな。

 

そう、アンペルは思った。

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