暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
新しい土地を求めて、全てを蹂躙するのが生態だからです。
だからライザもそれを受けて立ちます。
死ぬわけには行かないからです。死なせる訳にも。滅ぼさせる訳にも。
フィルフサの将軍25体。
四体ずつ六箇所に別れ。中心にいる明らかに一回り大きい将軍を囲むように、いわゆる魚鱗陣を作っている。
弱り切ったフィルフサの群れが、その周囲に浮塵子のように集まっているが。
あたしには、それが橋を造るための要員だと言う事が、一目で分かった。
フィルフサは、苛烈な反撃を受けて。ついに徹底的な物量戦で挑む事を決めたらしい。
元々「門」が小さい事は、斥候の情報で知っていたのだろう。
だから、最初は飽和攻撃で門を突破しようとしていた。
事実陽動を駆使しても、結局は主力を門に届けることが目的で。一度門さえ突破してしまえば。
後は総力でなだれ込むだけと考えていたのだろう。
敵は考えを変えてきた。
門に対して、橋を造る。それも、多分フィルフサの体を使って作りあげる、生きた橋である。
それは恐らく、水も防ぐ……トンネルのようなものになるのだろう。
地下を通ってフィルフサが門へ行くことは不可能だ。
乾ききったこの土地は、水を貪欲に欲している。如何にフィルフサが環境を改悪し続けていても。
水がない土地が、水を欲しがる。
その自然の摂理までは、変えられなかったのだ。
だから既に地下深くまで水はしみこんでいるはず。
この土地は、もうフィルフサに取って楽園では無いのだ。
人間だったら、後退したかも知れない。
いや、クラウディアの言葉通り。
もし此処で後退できる生物だったら、ここまで世界を無茶苦茶にしていないのだろう。
人間もそれは同じ。
或いはだが。古代クリント王国の錬金術師達も、それらと全く同じ思考をしていたのだとしたら。
いや、やめておこう。
あたしは、フィルフサが誇り高い戦士であり。
将軍であろうと、自分で戦おうとする姿を見ている。
あれは、奴隷を使いつぶし。周囲の人間を塵芥と見下しながら、自分にだけ都合が良い世界を作ろうとしていた古代クリント王国の錬金術師どものそれとは違っている。
あり方が違うから、共存はできないだけ。
或いは、バランスが崩れてしまったから、もう共生はできないだけ。
本来は、ただの生物として、互いに落としどころを見つけられていたのだろう。オーレン族がそうしてきたように。
今はそのバランスが戻る事を願いながら。
ただ戦う。それしか出来ないのだった。
「動き出したぞ!」
リラさんが叫ぶ。
キロさんが、後ろを見る。
どうやら、散発的に動いている敵の部隊がいる。あの主力以外に、門を狙って仕掛けにくるようだ。
キロさんには、やはり門を守って貰う。
逆に言うと、キロさんにしか、それは頼めない。
手をかざして、敵の様子を確認。
予想通りだ。
群れが全て合体し、一つになって突撃して来ようとしている。筒状の構造物を作りあげるようにして組み上がっている。
橋を造って、主力を渡そうとしていたときと、考えは同じなのかも知れない。
そしてそもそも、あれは土台なんて必要としていないようだ。濁流の中を、どんどんくみ上げながら進んでくる。
崩れても、其処を別の個体が埋める。
「ばかでかい蚯蚓かよ……」
「雨に濡れているけれど、かなり装甲は分厚い。 仕掛けるよ」
「分かった!」
皆で、大雨の中を走る。
敵は、何が来ようと関係無い。意地でも門まであの筒を通そうと、次々と組み上がって来ている。
しかも水位よりも高い位置で、である。
仮に上手にあの筒に水を流し込むことが出来たとしても、途中で結合を自分から崩壊させて対応して来るだろう。
あれを壊しきるか。
あれが届ききるか。
そういう勝負が今、始まったのだ。
大雨の中、次々と装甲となったフィルフサが剥離していくのが見える。奴らにとっては猛毒の水の中で、それでも群れのために壁になっている。
真社会性の生物らしい苛烈な行動だが。
それに感心していたら、世界の全てを食い尽くされてしまう。
まずは挨拶だ。
敵の前衛に、クライトレヘルンを放り込む。凶悪なレヘルンの強化型である。敵の前衛が凍り付くだけではない。
そもそも、水は敵にとっての大敵なのだ。
激しく敵の前衛部分がボロボロ崩れて行く。大雨が降り注ぐ中、氷が粉砕される。あの筒の中に、将軍か、火力を担当できるフィルフサが来ていると見て良いだろう。
アンペルさんが、今の火力が飛んできた地点に、空間切断の魔術を叩き込む。
続けて、クラウディアが連続して矢を放つ。特に、敵の筒構造の下部分を狙っていく。上はまだ、雨を耐えれば良いかも知れない。
だが、下を崩されると。
最悪構造そのものが崩壊する。
だから、狙うのは下でいい。
氷を砕いた敵が、混乱しながらも更に進もうとするが。
アンペルさんが何度か観測射撃をした後。
叫ぶ。
「彼処だ! 狙ってくれ!」
「分かりました!」
まずクラウディアが連続して射撃。多数の矢を放つ。狙いは正確で、破壊力も魔力矢を作り出すのがやっとだった最初の頃とは比較にもならない。
次々と爆散して、ぼろぼろ落ちていくフィルフサ。
どれも小物ばかりだが。命を賭けて群れを通そうとしていた。
大きめのフィルフサが見えてくる。あれは将軍か。
敵の崩れた群れに突入して、リラさんが竜巻のようにあれくるい始める。リラさんにレントも続いて、次々と敵をなぎ倒していく。
タオは距離を取って、遊撃に徹し。
あたしは、場所を見極めていた。
まず、大きく弓なりに、上空に爆弾を投擲する。敵が筒を貫くようにして、内側から迎撃。
爆破。
恐らくだが、既にフィルフサはあたしが危険人物だと言う事を共有している。どうやっているかは分からないが。
あたしの投擲する爆弾が、魔力に圧倒的耐性を持つフィルフサの装甲を容赦なく貫通することを、知っているのだろう。
或いは、あたしに反応しているのでは無く。
爆弾に反応している可能性もある。
あの渓谷にあった様々な残骸。多くは古代の武器だった。それらは、魔術ではなく、火薬による兵器が主体。
現在では火薬兵器はほとんど残っていないが。
昔は、むしろ火薬兵器が戦場の主役だったのだ。
ならば、フィルフサも遭遇し。
種族で対策を知っていても、おかしくはなかったのかも知れなかった。
まあいい。
今のは、煙幕を作る為の攻撃だ。続いてクラウディアが、横殴りに連続して射撃を叩き込んでいく。
そして、今ので出来た隙を、タオが突く。
上流に上がって、大岩をハンマーで粉砕したのだ。
急いで逃げるタオ。
バランスを崩した大岩が、濁流にのって流れ始める。もう一発、あたしが爆弾を投擲する。
勿論それを迎撃する将軍らしい個体。
だが、それが命取りになる。
フィルフサの筒に、流れ来た大岩が直撃。流石にこれはどうにもできずに、フィルフサの群れが分解して。多数のフィルフサが濁流に放り出された。そのまま流されていく将軍は、もがいていたが。
すぐに水流の下に消えていった。
次。
呟くと、あたしは崩れて行く筒を構成していたフィルフサのうち、生き残りを皆と一緒に殲滅する。
大雨は、激しさを更に増していき。
時々、フィルフサの筒に雷が直撃しているのが見えた。
雷の恐ろしい破壊力はあたしだって良く知っている。
それでも、フィルフサは怖れずに進んでいる。よくやる。そう思いつつ、あたしは栄養剤を飲み下す。
すぐに態勢を立て直したフィルフサの群れが、筒を再構築してくる。その中に、大きなプレッシャーが複数ある。
なるほど、まずは将軍級を展開して、あたし達の所に直に届けようというわけだ。
敵は残っている主力を殆どつぎ込んでの攻撃に出ている。
此処を突破すればと考えるのは、ごく自然な事だ。だからあたしは先に動く。
濁流のすぐ側まで行き、爆弾を敷設。レントが、周囲に蠢くフィルフサを次々に斬り倒す。
何をしているのかは聞いてこない。
聞いている余裕がないからである。
あたしも、頭上を凄まじい殺気が飛び交う中、爆弾を敷設完了。ハンドサインを出して、後退を指示。
フィルフサの不格好に崩れつつも、再構築を進めた筒から、予想通り将軍が跳びだしてくる。一、二、五、六。
そこまで出た所で、あたしは爆弾を起爆していた。
使った爆弾は、ローゼフラムだが。
薔薇が咲くように仕向けたのは、地下にである。
結果、緩んでいた地盤が崩壊。
フィルフサの将軍は、精鋭らしいフィルフサもろとももろに足場を失い、濁流に呑み込まれる。
側でレントが生唾を飲み込んでいるのが見える。
クラウディアが、叫ぶように聞いてくる。
大雨が酷いから、そうしないと声が届かないのだ。
「ライザ、大丈夫!?」
「なんとか!」
爆弾を立て続けにコアクリスタルから生成しているのだ。あたしが如何にまだ魔力を成長させているとはいっても、限度がある。
栄養剤を飲み下す。これも、先に生成しておいて。ポケットに突っ込んでおいたものばかりである。
尽きたら継戦能力を失う。
尽きるまでに、戦闘を続けなければならない。
濁流から這い上がろうとしていたフィルフサを、リラさんが容赦なく濁流に蹴落とす。将軍級だったが、リラさんの蹴りの前には関係無かった。
流されていくフィルフサ将軍は、すぐに濁流に消えた。あれは、絶対に助からない。
タオが警告してくる。
「水位が上がってる!」
「! 恐らく、下流でフィルフサの死体が詰まってるんだ」
「どうする、前線を下げるか?」
「……そうするしかないだろうね」
あたしは、後退と叫びながら、ハンドサインを出す。リラさんとアンペルさんが殿軍になってさがる。
その分、フィルフサは進める。更に筒を再構築して、門に近づけてくる。
あの筒は、門に直通させる必要はない。
濁流が暴れ狂う危険地帯さえ、あの筒で突破してしまえばそれでいいのである。水位が上がり始めると、どっと辺りの地面が水に飲み込まれる。さがっていなければ、危なかった。
あの水の勢い。
足を取られる程度ではすまない。
もし巻き込まれていたら。濁流に呑まれたフィルフサ達と同じ運命になっていただろう。
水位が上がってきたのは簡単な理由。
さっき叫んだとおり、下流の何処かでフィルフサの死体が詰まり始めたのだ。水に弱いフィルフサだが、数が数だ。死体も積もれば大山になる。
膨大な水が、それで行き場を失い。
一部が逆流してきた。
そろそろ、一度水をとめるべきか。
いや、それをしたら、フィルフサの群れが息を吹き返す。そのまま、どうにか戦うしかない。
先に比べて、足場が良くないが、此処で迎え撃つしかない。敵の筒は、再構築を開始して、無理矢理此方に向かってきている。
アンペルさんが何発も空間切断を叩き込んでいるが。死んだフィルフサの代わりが、すぐに来る。
敵はたくさん。
それを生かして、此方に攻めてくるつもりだ。
単純だが、正しい戦い方だ。
数が多いなら、それを生かす。
理論的には、人間がアーミーを使っていた頃の戦争もそうだったのかも知れない。ただし人間はそれぞれの人生がある。
こんな作戦、洗脳でもしていなければ成立しないだろうし。
真社会性の生物だから、できる事だとも言えた。
「藪をつついてドラゴン出したかな、これは……」
「……ライザ、あれ」
「!」
タオが指摘してくる。
なるほど、確かにいい。今ので、水が逆流して。一部の川の流れが無茶苦茶になっている。
クラウディアにも、狙撃地点を伝える。
あたしは詠唱開始。
フルパワーでぶっ放す必要がある。
クラウディアも、総力で音魔術と併用した詠唱を開始する。フィルフサは、確実に巨大な筒を成長させ、此方に向かってきている。
そしてフィルフサも、やられてばかりではない。
一斉に魔術らしいもので射撃してくる。筒の入口には大きさ的な限界があるから、射撃の精度も数も限られているが。確実にあたし達を狙って来る。
レントとリラさんが壁になって防ぐ。タオが、ハンマーを振るって、魔術をなんとか弾き返す。
ゴルドテリオン製のハンマーだからできる事だ。
どこの村でも使ってるような鋳鉄。場合によっては木のハンマーとかだったら、今の一撃で粉々だっただろう。
詠唱完了。
狙うは、筒じゃない。
上流でもない。
一箇所、川の流れがおかしくなっている。恐らくだが、フィルフサの死体があまりにも多すぎて、詰まっているのだ。
そこに、全力でヘブンズクエーサーを叩き込む。
クラウディアも、上空に向けて。
文字通り、音魔術の究極みたいな術を叩き込んでいた。
空に放たれた矢が、上空で反転し。
フィルフサの筒に突き刺さる。
将軍に直撃していても、普通だったら倒せなかっただろう。
だが、雨で脆くなっている筒を貫通したクラウディアの矢が。将軍を濁流に叩き落とすには、充分だった。
バランスを崩して、将軍が濁流に落ちた瞬間。
どっと、濁流の流れが変わる。
邪魔になっていた死骸を、あたしの熱槍の集中投射。一発で石造りの家を粉砕するもの千をまとめた熱槍が14。立て続けに川に叩き込まれ。
其処にあった、溶けかけているフィルフサの死体の山を、文字通り爆砕したのである。
その結果、一気に川の流れが一本化され。
下流へと襲いかかる。
フィルフサの群れが、よく分かっていない様子で筒を再構築していくが。あたしはみんなにさがるように指示。
こんな強烈な水流が、この時点で引き起こされればどうなるか。
予想通りだ。
下流から、巨大な波が逆流してくる。下流でぶつかり合った水流が、行き場を完全になくして。
ついに上流へと、上がって来たのである。
フィルフサの筒が大混乱を起こしているのが見える。
だが、その混乱を嘲笑うようにして。
彼らがまき散らした紫の泥が、既に消えつつあり。茶色く変じ始めている凶悪な濁流が。文字通り、フィルフサの筒を直撃していた。
フィルフサの筒にとって、それが今までで最大の痛打になった。
どれだけ命がけでスクラムしていようが、こんな濁流を受けて無事でいられる筈などない。
そのまま、筒が崩壊して、大量のフィルフサが濁流に投げ出される。
「すげえ……」
レントがぼやく。
敵は、大混乱の中、必死に筒を再構築しようとしているが。上流に上がりきった波が、今度は逆に水の流れに沿って降りてくる。
水流が大混乱している証拠だ。
激しい波に再び攫われて、筒が完全に崩壊する。勿論今の波を喰らわなかった辺りは平気だろうが。
筒の中で、此方に対応しようと前に詰めてきていた敵の精鋭は、丸ごと水の下だ。
あたしも、くらっとくる。
流石に魔力を使い過ぎたか。
雨の中深呼吸して、回し蹴り。どうも散発的に仕掛けて来ていたフィルフサの小規模な群れが、大きく流れを迂回して来ていたらしい。小さいのを粉砕する。既に皆も気付いて、戦いはじめている。
この雨の中、ゲリラ戦を仕掛けて来るフィルフサの群れ。弱くは無いが、だが、あたしはもう黙々と。
何の容赦もなく、それを排除する。
確実にあたしは戦士としての本能に蝕まれている。
勿論頭では分かっている。
だけれども、こうしないと。いけないのだ。
敵を排除し終わる。フィルフサの筒は一度さがって、再編制を開始したようだ。水の流れが安定したらしく、水位が急激に下がっていく。
だが、雨が止んだわけでもない。
時々落雷が筒に直撃して、そのたびにぼろぼろとフィルフサが落ちる。元々決死の覚悟でスクラムしているのだ。
落ちてしまえば、確定で流されるか。雷雨の中で、溶けてしまうだけだ。
まだ敵は諦めていない。だが、激しい主に雨との戦いの中で、将軍は既に半減している様子だ。その証拠に、フィルフサの群れの動きが明らかに鈍い。
真社会性生物は明らかに厄介な存在だ。
虫の中でも、蟻や蜂の強さは群を抜いている。小さいが、実際には地面に落ちた芋虫などは、殆ど助からない。大きな種類で毒針を持つ蟻などは、人間が命を落とす事もあるという。
それが更に巨大化し、なおかつ魔術を使って他の生物の長所まで取り込んでいると思われるフィルフサだ。
弱い訳がない。
だが、真社会性生物故に、頭を潰されると本当にどうにもならないのが分かる。先ほどまでの威圧感が嘘のように、右往左往するばかり。
さっきまでの交戦地点にさがるのはまずい。
地面が完全にぬかるんでいて、広くて戦いやすそうに見えて、実際は死地に等しい。
事実其処に落ちたフィルフサはもがくばかりで、彼らにとっての毒である水にやられて死んで行く。
だが、それも態勢を立て直したようだ。
後方にいた将軍が前に出てきたのか。それとも、群れを中核としてまとめていた将軍が動き出したのか。
再び、明らかに秩序を持って筒が編成され始める。あたし達は続けて攻撃を浴びせていくが。
ぼろぼろとこぼれ落ちるフィルフサよりも。
明らかに、筒が前進してくる速度の方が早い。
レントが、渡しているスリング……大型の石を飛ばせるくらいのものを振り回しながらぼやく。
「まずいな。 ライザ、最終防衛線はどの辺りだ」
「ここだよ」
「そうだろうな」
「この後ろは岩山になっていて、川の水が流れ込まないんだ。 あの筒が此処に到達したら、後続のフィルフサは雨だけ気にすれば良くなる。 其処にあの大軍が到達したら終わりだよ」
タオがぼやく。
タオは観測手をしてくれている。
それに沿って、あたしとアンペルさん、クラウディアが狙撃して効率よく敵を削っていくけれども。
それにも、どうしても限界があった。
栄養剤が、もう尽きる。
コアクリスタルで増やすのもちょっと魔力の残量的に無理臭い。それに、散発的に動いている敵もいる。
キロさんは、此処に来られない。
それに、精霊王はキロさんの証言を聞く限り、一度力を使うと、かなり消耗するようである。
連戦は無理と判断して良いだろう。
考えろ。
考えろあたし。
自分に言い聞かせる。そして、周囲を見る。レントは必死にスリングを振り回している。
リラさんは、衝撃波みたいのを飛ばして敵を削っているけれども、やっぱりこの人の本領は接近戦だ。
弓矢を渡せば活躍もしたかも知れないが。弓もなければ、何より矢を用意できない。
アンペルさんも、次々敵を切りおとしているけれども。それでもきりがない。敵は死体も有効活用して、盾にしている。
クラウディアが、肩で息をついているのが分かる。
雷雨の下だ。
体熱が上がり過ぎるのは避けられるけれど。
指先が凍えると、今のクラウディアが使っているような弓だと。誤射の時、指が持って行かれかねない。
勿論それを防ぐための装備を色々渡しているのだけれど。
それでも限界がある。
ヘブンズクエーサーは、もう一発たたき込めれば良い方か。
敵の将軍が、恐らく冷静な指示をして、どんどん筒を此方に向けている。もしも狙うとしたら。
顔を上げる。
「タオ、計算頼める?」
「で、出来るけど。 暗算!?」
敵は筒の中に将軍がいて。爆弾を叩き落としに来る事は分かっている。
半減したとしてもまだ十二から十三はいるだろう。しかもこの急速な指揮系統の回復。下手をすると、群れの中核になっている様な個体……。
以前「斥候」として、あたし達の前に現れ。
当時のあたしの全力攻撃でほぼ傷一つつかなかったあの強力な将軍みたいなのが、いてもおかしくない。
それは即応して、爆弾を破壊しに掛かるだろう。
そう、その存在を感知すれば、だ。
ならば、最後の手を使う。
魔力を絞り上げて、コアクリスタルから爆弾を取りだす。そして、この場を任せて、タオに計算を頼む。
タオは知らないよといいながら、計算をする。冷や汗を流している事からみて、相当きついようだが。
やがて、顔を上げて、座標を指定してくれる。
頷くと、あたしは走る。岩山の上に。そして、タオの指定地点を見る。
よし。
此処を防ぎ切れば、敵の猛攻を一段落させることが出来る。後は、敵が戦力を再編制する前に、王種を倒せば。
恐らく、この猛烈な侵攻は、終わらせることが可能だ。
新しく、よその土地から別のフィルフサ王種が来た時には。
此処には水が溢れ。雨も降り。
フィルフサが足を踏み入れられない土地になっているだろう。
あたしは何度か深呼吸。
雷雨の中での激戦だ。
雷が至近で着弾しなかっただけ、奇蹟と思うしかない。
それだけじゃあない。視界が悪い中、流れ弾に当たらなかったことは、本当に凄いというしかない。
だけれども、奇蹟だの偶然だのなんか、幾つも幾つも連鎖するものじゃない。
恐らくあたしの奇蹟の在庫なんて、とっくに尽き掛かっている。
残り最後の奇蹟は、フィルフサ王種を撃ち倒すために取っておきたい。多分、将軍を凌ぐ怪物なのは確定なのだから。下手をすると、数十の将軍を集めたくらい強いかも知れないのである。
そんなときこそ、奇蹟を使いたい。残しておきたい。
あたしでも、そんな風に考えるほど、今の戦況は良くない。大雨を上手く発生させられなかったら、多分初日で全滅している。
だからこそ、その中でも。
あたしは、ベストを尽くすのだ。
投擲する。爆弾は、川の中に放り込まれる。あの流れ、タオが計算した通りである。川の中に投擲した爆弾にすら、将軍は反応する。だが、投擲したのは筒よりずっと上流である。
気付いたときには、既に起爆準備に入っていた。
起爆。
起爆したのは、ルフトの強化版。レーツェルフト。風を巻き起こす爆弾ルフトを、更に強化した代物。
これが水の中で炸裂するというのは、どういうことか。
そう。
濁流が、直接フィルフサの筒に、直撃すると言う事だ。
それでも、将軍はシールドを展開して、自分への直撃は避ける。だが濁流は、膨大な数のフィルフサで構成されている筒を襲う。
結果。筒を構成していたフィルフサ達は、死体を使って盾にしようが、耐えられなくなった。
崖の至近まで迫ろうとしていた筒が、崩壊する。中途からへし折れる。
猛毒の濁流を喰らったようなものだ。
どんなに真社会性生物として、命を捨ててスクラムを組んでいても。物理的に耐えられないのである。
凄まじい怨嗟の叫びが、聞こえたような気がした。
へし砕けた筒が、濁流に落ちて倒壊していく。
その中に、将軍も混じっているのが見えた。もがいているが、膨大な味方の死体に物理的に押し潰され、濁流の中に消えていく。
恐らく指揮をしていたらしい将軍も見えた。
そいつは、こちらに最後の力で、魔力砲を撃とうとしてくる。あたしも最後の力を振り絞って、詠唱を開始。
濁流の中、一瞬が一時間にも思えたが。
次の瞬間。
流れてきた大岩が、将軍を直撃していた。
普通だったら、それでも押し返すことができたのかも知れない。
だが、雨の中での戦い。
そして濁流に押し流されながらの状況。
装甲も脆くなっていた。
本当に、子供が岩に卵を投げつけでもしたかのように。最強の生物の一角だろう将軍がへし砕けるのが見えた。
あっと言う間もない。
自然の恐ろしいまでの脅威。
いや、違う。
これは或いはだが。
この土地を、思うままに蹂躙し続けたフィルフサに対しての。この土地の怒りだったのかもしれない。
勿論そんなものはないかもしれないが。そう見えても不思議ではないくらいに、凄まじい光景だった。
あたしは、大きく嘆息する。
見ると、大きな岩が幾つも流れてきている。それらは、次々にフィルフサを直撃して、砕きながら濁流の中を流れていた。
タオが大慌てで指摘してくる。
「まずいよ! あんな大岩が流れてるって事は、多分相当に降水量が危険なんだ!」
「数百年分の雨が降っているんだ。 それも当然だろうな……」
リラさんがぼやきながらも。避難誘導を開始。
あたしは、じっと壊滅し、筒がほどけて消滅していく様子を見送る。
大侵攻の敵主力部隊は。
かくして、壊滅した。
無言になる。
悪意をもって、フィルフサは大侵攻をしようとしたわけじゃあない。自然のバランスを崩されて、ああいう怪物になって。
ひたすらに生存しようとして。他の生物を蹂躙する事を何とも思わなくて。
世界を自分に都合良くしようとして。
あのフィルフサという生き物は。
人間にそっくりじゃないか。
そう、何度も思ってしまう。
「ライザ!」
「行きます」
リラさんが、叱責するように声を掛けて来る。歴戦の傭兵でも、人を殺しすぎるとおかしくなると言う事があるらしい。
ひょっとするとだけれども。
あたしも、そうなりつつあるのかも知れなかった。