暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ 作:dwwyakata@2024
敵の群れ、ほぼ消滅。
それを確認してから、あたしは一旦装置を弄って、水の供給を停止した。現状、あまりにも色々とまずすぎる。
この玉をもし感情的に砕いたりしていたら、更に損害は大きくなっていたかも知れない。
そう考えると、ぞっとしてしまう。
あの時、ボオスをとめていなかったら。
一瞬でクーケン島が水没したかも知れないし。
そうなったら、此処に水が戻る事もなかっただろう。
キロさんが、様子を見てきてくれる。
その間に、一度クラウディアとタオが、アトリエに物資を取りに戻ってくれる。敵の主力は壊滅。
そして分かりきっていたが。
水の供給を止めても、すぐに雨が止むことはなかった。
むしろ勢いは更に増している程で。
遠くにドラゴンのような巨大な雷が、激しく落ちているのが見える。濁流の音も、恐ろしくなる一方だった。
元々土壌がやられて、荒野同然になっていた土地だ。
あたしも農業知識があるから知っているが、剥き出しの土というのは非常に脆いものなのである。
植物が生えていて、やっと土はその場に留まるようになる。
植物をフィルフサが食い荒らしたこの土地では、雨が降れば土壌は流れていく。土壌どころか、あの濁流の中で将軍級が潰されたように。大岩すらもが、流されていくことになる。
これは、あたしが引き起こした事だ。
或いはだけれども。雨を降らせるよりも、周囲に水を無作為に流した方がマシだっただろうか。
いや、駄目だ。
それでは、此処までの効果的なフィルフサへの打撃は期待できなかっただろう。門だって、多分守れなかった。
膝を抱えて、座り込む。
少し、頭がぼんやりしていた。
しばしして、クラウディアが戻ってくる。
そして、あたしの様子を見て。暖かい飲み物を用意し始めてくれたようだった。タオとアンペルさんが話し合っているのが聞こえる。
「恐らく、これで敵の将軍は殆ど流されてしまった筈です。 フィルフサの群れは殆どが壊滅。 それに、王種もこの状況では、繁殖どころではないと思います」
「そうだな。 だが、それでも王種を残しておけば、この土地どころか、他の土地にも大きな被害を出す可能性が高い。 昔の私は、王種を倒すどころではなかった。 だがこの面子なら……」
「危険すぎます……」
「分かっている。 だが、それでも。 誰かがやらなければならないんだ。 王都の騎士やらが何の役にも立たない事も分かっているだろう。 錬金術師だって、恐らく今使い物になるのは私とライザだけなんだ。 オーレン族も殆ど生き残っていないだろう今……此処で敵を倒して、フィルフサが入れない土地を作らないと、このオーリムには希望が微塵もなくなってしまうんだ」
アンペルさんが、リラさんをみてバツが悪そうに視線をそらしている。
だけれども、リラさんは至って冷静だった。
「アンペルの言う通りだ。 此処にいる王種「蝕みの女王」は、私の氏族を滅ぼした敵でもある。 私は何があっても此処に残り、奴を討つ」
「リラさん……」
「とめてくれるな。 この災厄も、数百年分の汚染を押し流すためには仕方が無い事なんだ。 それに……長年汚染され続けた結果、海すら今はすっかり汚れきっている。 汚染の元を、断たないといけない。 聖地が押し流されていく光景は、私も思うところがあるが。 これくらいしないと駄目なのも事実だ」
レントに。自分を吹っ切るかのようにリラさんが諭す。
そして、以降は何も喋らなかった。
クラウディアが、暖かいスープを作ってくれる。在庫の残り少ないワイバーン肉をふんだんに使ったものだ。
あたしも、流石に疲労と空腹が勝る。
精神的にどれだけ痛めつけられていても、腹は減る。
それは、不思議な話だけれども。
事実でもあるのだった。
キロさんが戻ってくる。そして、クラウディアが勧めると、無言で卓を囲んだ。
皆で、豪雨の音の中、スープをつつく。
かなり多めに作ったようだが。戦闘の規模、それに連続での戦闘もある。すぐに皆、鍋のスープを平らげていった。
「私とタオくんはさっきアトリエでお風呂もお花摘みも済ませてきたから、みんな先にいって」
「ありがとう。 先に使わせて貰う」
リラさんが先にトイレに消えた。レントも、その次に。
あたしは、その後に。
キロさんも、無言でトイレに消えて。
そして、漸く皆が一段落したと思ったのだろう。
鍋のスープがなくなる頃に。咳払いして、話を始めてくれた。
「状況の確認をして来たわ」
「お願いします、キロさん」
「ええ。 フィルフサの大侵攻を実施する個体は全滅した様子よ。 散発的に仕掛けて来ていたフィルフサもいなくなったわ」
「そうか。 やっとだな……」
リラさんがぼやく。
感慨が深そうだ。
当然だろう。
リラさんの氏族白牙は、戦闘に特化した存在だったらしい。それが手も足も出せずに敗退した最悪のフィルフサの群れ。
それがこうも簡単に瓦解していくのだ。
ある意味、最悪の手を躊躇なく古代クリント王国の錬金術師どもは打ったのだと言えるだろう。
完璧な程に、異界を汚染し。
そして邪魔者を排除した。
連中も排除されたのは、自業自得で、今はなんとも思わない。
せめて地獄で、フィルフサ達に再会して。その場で永遠に貪り喰われてしまえとしか言えない。フィルフサが餌を食わないことを思い出して、大きな溜息が出た。疲れて、思考が支離滅裂になっている。
「雨はこの様子だと、しばらくは続くでしょうね」
「一度水の供給を止めました。 雨が収まり始めてから、残りの水をゆっくり放出するように設定します」
「ありがとう。 この土地が、完全に水没してしまうものね」
「本当に古代の錬金術師がすみません。 私が、責任を取って必ず水は戻します」
頭を下げる。
リラさんが咳払いした。
「ライザ、お前が其処まで謙る必要はない。 責任を果たす力と覚悟と意思があるのは事実だろうが、本来だったらお前は此処までしなくてもいいんだ」
「リラさん……ありがとうございます」
リラさんが。
被害者の側がそういうから、意味のある言葉だ。
それにリラさんだって、アンペルさんと最初に出会った時は殺そうとしたと聞いている。だったら、この現状に色々と思うところだってあるだろう。
それでも、そう言ってくれた。
だから、あたしは涙が出る。
数百年分の惨劇を押し流す光景を見ているから、かも知れないが。
「……続けるわ。 王種「蝕みの女王」は、戦闘に特化した将軍や大型をほぼ失い、殆ど近衛もいない状態で、巣に閉じこもっているわ。 今、周囲に豪雨が降り注いでいて、力が戻る可能性は無い。 もしも仕掛けるならば、休んでからにした方が良いでしょうね」
「しばらくは、此処を任せてしまっても大丈夫ですか?」
「ええ。 この大雨、敵の残存戦力の少なさ。 もう、一人で此処を守りきれるわ」
「皆、アトリエに一度戻るよ。 しっかりリフレッシュしてから、最後の決戦に挑もう」
あたしは立ち上がる。
敵の大攻勢ははねのけた。
そして、この大雨だ。あの遺跡らしい場所に恐らくフィルフサの王種。この大侵攻の首魁はいる。
ただし、あたし達も疲労困憊の状況。
更にフィルフサは、これからしばらくは回復どころじゃない。
群れを上げての大侵攻が完全に失敗したのだ。
しばらくは身動きすら出来ないだろう。
その間に休み。
そして、最後の戦いの準備をしてから、出る。
勝率を少しでも上げるためだ。
キロさんに礼を言うと。あたしはトイレや風呂を熱魔術で処理してから、みんなと一緒に門を潜る。
次に此処を潜るとき。
最後の戦いに、赴く事になる。
門の外は湿気が凄まじく、乾期とはとても思えない。あたしは、晴れ渡った……乾期特有の雲一つない空を見上げながら。
これも見納めかなと、思っていた。
(続)
いわゆる嚢砂の計によっての殲滅作戦。
本来だったら信じられない被害が出る禁じ手の一つなのですが、オーレン族には残念ながらもはや守るものがないのです。
作戦は次の段階に進みます。