暗黒錬金術師伝説9 暗黒!ライザのアトリエ   作:dwwyakata@2024

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フィルフサの主力部隊を叩き、侵攻の脅威の過半を取り除いたライザ。

しかしフィルフサには王種「蝕みの女王」が健在です。

そして、その前には。
以前ライザの総力攻撃を涼しい顔で受け流した最強の「将軍」も。


蝕みの女王
序、決戦の前に


フィルフサ王種「蝕みの女王」麾下の軍団はほぼ壊滅。百万に達するフィルフサの群れの大半は濁流に消え、再建の目もなくなった。

 

数百年分の水が戻ったオーリムの聖地グリムドルには、しばらく雷雨が続く。王種、蝕みの女王は逃げる事はない。

 

だが、放置も出来ない。

 

今あたし達にできる事は。

 

最高のコンディションを構築し。

 

蝕みの女王を、確実に討ち取る事だ。

 

そうすることで、やっと古代クリント王国の錬金術師達がやってしまった極悪の業が一つ消える。

 

一つだけ償える。

 

世界に対しての。

 

恐らくは、フィルフサに対しても。

 

何もかもを滅茶苦茶にした、最悪の業を。ようやく一つ終わらせることが出来る。

 

アトリエに戻って来た。

 

風呂をすぐに沸かす。皆に交代で入るようにいう。一番最前線で戦っていたレントとリラさんが、先にはいる権利があるだろう。

 

コンテナから、残っている食事をクラウディアとタオが引っ張り出す。

 

先に一番大暴れしていたリラさんが風呂にし始めたので、レントが料理を手伝う。クラウディアに習っているが。

 

やっぱり、繊細な料理はどうしても苦手で。

 

途中から、クラウディアは雑な調理でも大丈夫な方法を試し始めたようだった。

 

レントもレントで、我流で色々試そうとしている。

 

大剣を使って、肉とか焼けないかと試しているようだが。

 

あたしが止めろといっておく。

 

剣が傷む。

 

ゴルドテリオンは未知の金属で、それに触れた肉をたくさん食べ続けて大丈夫かも分からない。

 

だが、レントはあたし以上にある意味雑な性格だ。

 

この様子だと、面倒だと思ったらやるんだろうな。

 

そう考えて、少しだけげんなりした。

 

あたしはソファでぐったりして、様子を見る。魔力を今までに無い程絞り出し、使った。

 

手足が痺れる気がする。

 

リラさんが風呂から上がってきたので、レントが次に風呂に。

 

クラウディアとタオは、何度か物資を補給しに戻る時に、風呂を済ませたとか言っていたっけ。

 

次にアンペルさんが風呂に入って貰う。

 

あたしは疲れきっていて。

 

風呂に入ったら落ちそうだった。

 

だから、今は少し先に休んで、それから風呂に入る事にする。

 

食事が出来たので、ぽつぽつと食べる。

 

そして、手を上げた。

 

「皆、戦闘用の服や武器後で預けて。 修理しておくから」

 

「ライザ、大丈夫?」

 

「ベストコンディションで戦わないと勝てる相手じゃないでしょ。 だから、出来るだけやることを今のうちに決めておかないと……」

 

クラウディアが心配そうだ。

 

あたしは、それを嬉しいと思うけれど。

 

今は、心身に余裕がない。

 

だから、表情も厳しいし目も据わっていると思う。

 

分かったと、タオが言う。アンペルさんが風呂から上がってきたので。次はあたしの番である。

 

風呂にはいって、思う。

 

この風呂。この戦いが終わったら、みんないなくなる。あたしだけが、使う事になるだろう。

 

大きさは充分だ。レントでも入れるようにしたのだから。

 

此処の場所は、一応アガーテ姉さんだけには知らせてある。何かあった時に、あたしに連絡を取れないと困るだろうから。

 

今はもう。

 

責任を背負った身だ。

 

無言で湯の中でリラックスする。全身が溶けるようである。しばし湯の中でぼんやりしてから、上がる。

 

続いて、クラウディアが風呂に。

 

あたしは、ベッドで先に休ませて貰う事にする。

 

殆ど不眠不休で戦っていたのだ。何度か仮眠は入れたが、それでも固い土の上だった。どうしても、疲れは取りきれなかった。

 

目が覚めると、それなりに時間が経過していた。

 

タオが、一心不乱にメモを書いている。

 

外は、もうすぐ夜明けか。ベッドでみんなくたばっているけれど。外で音がしている、多分クラウディアだ。

 

「おはようライザ」

 

「何書いてるの?」

 

「クーケン島の操作マニュアル。 誰でも分かるようにまとめてるんだ」

 

「そっか」

 

勿論あたしが操作する事になるんだが。問題はそれ以外の時だ。

 

今後は、アガーテ姉さんや、モリッツさんがこのマニュアルを共有することになる。

 

トラブルが起きたときのために、対策を幾つもしておく必要がある。

 

タオは、出来るだけ分かりやすく、まとめるつもりだと言う。

 

勿論、今やる理由は一つ。

 

戦いに負けたときのためである。

 

「それが終わったら、武器と防具を出しておいて」

 

「うん。 修理頼むよ」

 

「頼まれた」

 

あたしは伸びをすると、外に。

 

クラウディアがお洗濯をしていたので、軽く手伝う。女子力が壊滅的なあたしだけれども、それでも一応の事は出来る。

 

淡々とお洗濯を終えて、それですっきりする。

 

クラウディアが、苦笑いしながら話してくれた。

 

「オーリムで、何日戦ったか覚えてる」

 

「そういや時間の感覚が吹っ飛んでたよ」

 

「……アトリエにある時計を確認したんだけれど、丸三日。 ライザがあんなに死んだみたいに寝るの初めて見たけれど、無理もないよ」

 

「三日……」

 

そうか。フィルフサも必死だったんだなと思う。

 

そして数百年掛けて育てた百万の軍勢も、三日で消滅してしまったのだろうと思うと。蝕みの女王が少し気の毒にもなった。

 

だが、過度な憐憫は剣先を鈍らせる。

 

此処で、蝕みの女王を仕留めなければならないのだ。

 

そして分かっている。

 

恐らくだが、精霊王と匹敵するか、それ以上かも知れない怪物とこれから戦おうとしているということを。

 

生物に対する戦術が一切通用しない相手。

 

急所を貫こうがどれだけの火力の魔術を叩き込もうがびくともしない存在。

 

フィルフサの中のフィルフサ。

 

王種。

 

これから相手にするのは、そういう敵だ。

 

相手も、此方を憎んでいるかも知れない。いや、そもそもそういう感情が存在しないかも知れない。

 

いずれにしても、戦えば、死ぬのはどちらかだ。

 

逃げられるとは考えない方が良いだろう。

 

まだ、雷雨が続いているはずだ。

 

これが明けるまでは、フィルフサである以上、蝕みの女王も簡単には動く事が出来ないし。

 

無理に動いたとしても、長距離を移動するのは不可能だ。

 

仕留めるなら、今しかない。

 

此処には、アガーテ姉さんが来る。アガーテ姉さんは、既に街道などから人払いを済ませてくれているはずだ。

 

だったら、思い切りやれる。

 

仮に負けたとしても、敵も当面は動けないだろう。

 

キロさんに、門の閉じ方は既に伝えてある。

 

水を出す装置の操作方法も。

 

これで、最悪の事態が起きても。

 

死ぬのはあたし達だけで済む。

 

それで、充分過ぎる。

 

食事を済ませる。その後、軽く体を動かして調整。ほぼベストコンディションと言って良いだろう。

 

栄養剤をある程度補給しておく。

 

出来れば、伝説の回復薬とされるエリキシル剤を作っておきたかったのだけれども。この辺りには材料が殆どないそうで。

 

残念ながら、作る事は出来なかった。

 

栄養剤と、錬金術の回復薬をありったけ荷車に詰め込む。

 

何かの役に立つかも知れない。

 

爆弾を全て荷車に詰め込んでおく。今まで作った失敗作も、全てを詰め込んでおく。最悪の場合に、これを投げて抵抗するためだ。

 

まあ、これらを使うような時には。

 

負けは確定しているだろうが。

 

勝つためにいくのだ。少しだけ悩んだが。それでも勝率を上げるためだ。いざという時に、あがくための道具は幾らでもいる。

 

故に、荷車に道具類は詰め込んだ。

 

リラさんが来る。

 

アンペルさんも頷いた。

 

アンペルさんは、さっきまでお風呂に入っていた。元々長旅で、風呂はあまり入らない習慣がついてしまっている。

 

だから、今日くらいはと。長風呂をしていたらしい。

 

まあ、体にあまり良い生活行動ではないけれども。

 

それでも、こんな日くらいは良いだろう。

 

アンペルさんが風呂から上がってきて、すっきりしている様子なのを見て。リラさんも満足そうにしていた。

 

「ライザ」

 

「はい!」

 

「私からも号令を頼む。 戦闘指揮は、全てお前に任せるぞ。 フィルフサの群れを短時間で殲滅した手腕、古い時代の軍事専門家であるアーミーの指揮官ですら舌を巻いただろうものだ。 今こそ、その全てを使ってフィルフサの王種……殆ど撃破例がない災厄の主を叩き潰すノウハウを作りあげてくれ」

 

「分かりました!」

 

あたしにも、分かっている。

 

オーレン族の中では、フィルフサの王種の撃破例は、今まで少数ながらあった。

 

しかし、「蝕みの女王」はその中でも特に例外と判断して良い個体である。これは疑う余地がない事実だ。

 

二重に王種が重ね着しているような、イレギュラー中のイレギュラー。恐らくだが、王種の中でも上位に食い込む怪物なのだろう。

 

最強かどうかは分からないが。

 

ただ、此処で「蝕みの女王」を撃滅できれば。オーリムのためにも。此方の世界のためにもなる。

 

それだけではない。

 

古代の錬金術師がやらかした罪業を、少しでも償える。

 

何もかもを、あたしが解決できるかは分からない。だが一つでも解決できたら、それは素晴らしい成果。

 

人間は、少なくとも一度もう取り返しがつかないミスをしている。

 

古代クリント王国の時代にだ。

 

それだけではない。

 

ロテスヴァッサ王国でも、同じミスをしかけて。アンペルさんに阻止されている。

 

条件さえ整えれば、人間は恐らくどれだけ醜悪なミスでも、世界が滅びるようなミスであっても。

 

それこそなんどでも繰り返すことだろう。

 

だから、二度と同じミスを繰り返さないように、幾つでも手を打たなければならない。

 

錬金術は才能の学問だ。

 

それらのセーフティですら、あたし以上の才能を持つものからすれば、破るのは児戯に過ぎなくなるかも知れないが。

 

それでもやるんだ。

 

あたしは、少なくとも。

 

フィルフサの王種。「蝕みの女王」に同情することはあっても。倒す事に、躊躇はなかった。

 

「乾期は既に始まり。 フィルフサの大侵攻は粉砕しました。 だけれども、全ての元凶がまだ残っています」

 

皆を見回す。皆、黙ったまま話を聞いてくれる。

 

あたしは咳払いすると。

 

順番に。言うべき事を告げていった。

 

「フィルフサはまったく正体が分からない存在です。 だから、それを無差別に憎んで良いかというと、それは違うということになるでしょう。 だけれども、そもそも本来のあり方から歪められ、人為的におぞましいまでに増えてしまった結果、制御不能になったのは事実です。 全てを終わらせるためにも、フィルフサの王種……「蝕みの女王」を今から倒します。 「蝕みの女王」が本来は古代クリント王国の犠牲者であっても、です」

 

あたしは、力を込めた。

 

此処で、引くわけには行かない。

 

今まで蹂躙されたオーリムのためにも。

 

贖罪のためにもだ。

 

「みんな、勝とう! 勝って、笑って帰ろう!」

 

「おおっ!」

 

雄叫びが一致する。クラウディアも、普段は言動が控えめなのに。戦意を確実にたぎらせていた。

 

 

 

フロディアは、夜中の内に同胞と合流。

 

オーリムを監視するシステムを利用して、状況を把握していた。

 

信じられない。

 

フィルフサの群れの中でも特に危険な「蝕みの女王」の一群が、文字通り消滅している。

 

残っているのは「蝕みの女王」および、その近衛だけだ。

 

生唾を飲み込む。

 

神代の錬金術師でも、これを出来るかどうか。本当の怪物が生まれて、そして急速に育っている。

 

やはり殺すべきでは無いのか。

 

今だったら、不意を打てばやれる。そういう気持ちが浮かんでくる。

 

だが、それを判断するのはフロディアではない。

 

同胞は元々、人間社会に溶け込むために鉄の掟で動いている。

 

人間とは本当の意味では違うから、価値観も違う。

 

混血した存在にも、その価値は一部受け継がれるようにもしている。

 

主がそういう風に作りあげたのだ。

 

ただ、フロディア達同胞を作りあげるシステムは、主が作ったものではないと聞いたこともある。

 

いずれにしても、コマンダーの到着を待つしかない。

 

コマンダーが来る。

 

数名の同胞の中に、音もなく現れていた。

 

状況の説明をする。

 

相変わらずフワフワした様子で。だが、コマンダーであるパミラは、明らかに驚いていた。

 

「あらあらー。 まさかあれほどの群れを、正面から倒すとはねえ」

 

「あまりにも危険な錬金術師です。 今はまだ良いですが、もしも変節したときの世界への悪影響は計り知れません」

 

「そうね。 でも、私はそこまですぐに殺すべき相手かは微妙に思うのよー」

 

「何を悠長な……」

 

同胞の一人が呻く。

 

王都の貴族の妻をしている同胞だ。子供もいずれ、同胞としての意識を持つようになる。

 

昔は「高貴な血統」とやらを掛け合わせて、結果として遺伝病だらけになってしまうのが貴族と王族だったのだが。

 

流石に此処まで国家規模が縮小すると、そんな事も言っていられなくなる。

 

だから、同胞にもつけいる隙が生じたわけだ。

 

とはいっても、王都の貴族なんか、今や井戸の中のカエルも同然であり。

 

実効的な権力や軍事力なんか、ないに等しい。

 

ただそれでも顔役には違いないので。こうしていつでも消せる、操作できるように。同胞は近くに潜り込んでいるわけだが。

 

「いずれにしても、今は駄目よ。 少なくとも、「蝕みの女王」を排除できるかどうかを見て確認しましょう」

 

「もしも彼奴を倒せてしまうようでは、我々の手に負えなくなる可能性が……」

 

「最悪の場合は私が斬るから問題ないわー」

 

ゆったり言われるけれども。

 

とんでもない殺気を感じて、フロディアはびくりとした。

 

このコマンダーの出自もそうだが。実力は計り知れない。

 

同胞が動く作戦の主要なものには必ず噛んできて。神代の装備で武装している同胞十人が束になってもかなわない実力を見せていくのだ。

 

剣技も戦闘知識も頭一つどころか、次元が違っている。

 

そんな怪物が、側にいることを。今更ながらにフロディアは思い出していた。

 

「とりあえず、戦闘の様子を見ましょうか。 その後、あの子には私が報告をしておくからねー」

 

「分かりました」

 

「ふふ。 はじめてこの世界で、錬金術師が良い方向で歴史を変えるかも知れないわねー」

 

「もしそうなればいいのですがね」

 

その可能性は極めて低いだろう。

 

この世界の錬金術師は、神代の時代から下衆揃いだった。錬金術と言う圧倒的な力が見せるものに脳を灼かれ。

 

すぐに倫理もなにも投げ捨てるような輩だった。

 

だから際限なく悲劇を繰り返したし。

 

そしてその悲劇をまったく反省もしなかったのだ。

 

古代クリント王国が滅亡したときに、本格的に同胞は動き出したが。

 

当面は古代クリント王国滅亡時に生き残った錬金術師共を無差別に狩る事が仕事だった。

 

生き残った錬金術師を皆殺しにした後は、その聖典やら遺物やらを徹底的に回収して、主の元に届けた。

 

主はそもそも人間ではないし。錬金術の道具はともかく錬金術そのものは使えないから、それで過ちを犯すことはない。

 

そもそも主にはエゴがないので、過ちなんか犯しようがないのだ。

 

だから、同胞達は主を信用する。

 

そのパートナーであるパミラもだ。

 

フロディアもそれは同じ。だが、人間として長く人間に混じってきたから、だろうか。どうしてもひりつくような焦燥感を覚えてしまうのである。

 

システムを介して、オーリムを見る。

 

少し雨が下降りになってきたが、それでも雷雨のままだ。ただ、鉄砲水は少しずつ緩和され始めていて。

 

彼方此方での水害は、徐々に収まりつつあるようである。

 

紫に染まった土壌は海にまで押し流され。

 

やがて完全に浄化されるだろう。

 

一度土は完全に失われるが。其処は、自然の回復能力を待つしかない。まあ、あまりにも回復が遅いようであれば。

 

同胞の内にいる、自然回復班が動くだろうが。

 

問題は、これらの事を行った錬金術師ライザだ。今後も警戒しなければならない。

 

今は泳がせておけ。

 

そうコマンダーはいうが。

 

改めて考えても、この一季節だけでこれだけ成長する怪物だ。本当に放置していていいのかと、なんども思ってしまう。

 

フロディアは考えを切り替える。雑念を追い払う。

 

今は、大事なときだ。歴史が動く可能性が極めて高いときである。少なくともコマンダーの指示に従い。

 

歴史が変わる様子を、見守らなければならなかった。

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