ヘンリーとラインハットで別れて、気付けばもう三年の月日が経っていた。あれからすぐにサンタローズの南の船着き場から一般旅客船で大陸を移動して新天地を踏んだリュカとシャラ。
初めて訪れた土地は知らない町や見た事のなかった魔物達、真新しい品々に囲まれて忙しい日々を目眩るしく送っていた二人の間にはいつしかヘンリーの事は話題に上らなくなっていた。不意にリュカが何気なく口にしそうになる時もあるが、そうすると決まってシャラの瞳は悲し気に揺れる。そして笑って『平気だよ』と言う。そんな顔ややり取りが嫌なリュカはヘンリーが話題に上らない様に気を付けていった。
それでリュカはふと気付く。いつも喜怒哀楽がハッキリしていて泣き虫だった妹は、いつしか全然涙を見せなくなった。奴隷時代みたいに感情が無い訳ではなくて、時々大人びた表情をする様になった。それはやはりあの親友が此処にいない所為で起きている事態だろう。そんな姿を見ると二人の気持ちや事情が手に取る様に分かってしまうリュカの胸は他人事とは思えない位にどうしようもなく切なく痛むのだ。だからせめてもの願いで『これからはアイツの………ヘンリーの分までシャラを守ろう』と改めて誓う。
そうして新大陸のポートセルミと言う港街で少しづつ目的の情報を集めながら過ごしていた時にそれは訪れた。お人好しで人が良く、優し気な風貌のリュカが巻き込まれたカボチ村の事件で非常に喜ばしい事があった。その村に迷惑を掛けていたのは10数年前の事件の時にに生き別れていたボロンゴだった。それは大切な友との再会。
ボロンゴは猫ではなく『ベビーパンサー』と言う子供の魔物だった。そして今はすっかり大人になり『キラーパンサー』と言う立派な魔物に成長していた。その彼と友達になれた一件も今は魔物使いになったリュカが幼い頃から発揮していた才能だったのだろう。
子供の頃からリュカと共にいたボロンゴは非常に頭が良くて状況判断にも長けていた。だがいくらボロンゴが人間を襲わなかったとは言っても生きる為に畑を荒らしてカボチ村の住民達に迷惑と恐怖を与えてしまっていたのは事実。
それは奇妙な運命の様な物だったがその様な事に見舞われたカボチ村の人々はいくら訳を話しても、ボロンゴを連れたリュカとシャラを決して許してはくれなかった。親切から始まった事だったのに悲しい結末。
たが悲しい事があれば嬉しい事もあると言うのが人生だ。魔物だったが故に唯一見逃されたボロンゴは二人の父・パパスが亡くなった時に最期の時まで離さなかった愛用の剣をその場から持ち出してくれて、更に10年以上も保管してくれていた。そしてその〔パパスの剣〕を今、時を超えて子供達に差し出してくれたのだ。
時を超えて手にした父の形見とも言える品を見つめていたシャラは久しぶりに大泣きしていた。その大人になった泣き顔を静かに眺めていた兄の誓いは新たな意味が加わる事になる。
それから旅を続けて辿り着いたはルラフェンと言う街。そこには〔ルーラ〕と言う古代魔法を研究している魔法使いのお爺さんが住んでいた。そのお爺さんに協力して材料集めをした結果、その古代魔法をリュカが覚える事に成功する。それは行った事がある街に一瞬で行く事が出来る移動系の魔法で、試しに飛んでしまった場所はラインハットの城下町。三年ぶりに見たその場所は以前とは違う雰囲気で人々が穏やかに暮らしていた。それをシャラは嬉しい様な切ない様な瞳で見つめていた。リュカは彼女が泣くかと思ったが、そんな事はなかった事が返って切なかった。
そして山奥の村で幼馴染みとの再会。
それはこの後のリュカとシャラ、二人の運命を大きく動かすと共に決定付ける事になる。