「………あ、リュカ見ー付けた!なぁに、まだ迷ってるの?」
どこまでも続く青い空を眺めながら草原に大の字に横たわるリュカ。眼は開いているものの、どこか遠くを見つめていた。そんなリュカの顔を覗き込むのは彼の妹のシャラ。
「シャラ………」
「こんな所にいて………誰にも何も言わないで出掛けてくから、てっきり結婚が嫌でルーラでどっか行ったのかと思ってたよ。皆も心配して探してたんだよ?『リュカがどこか行っちゃった』って…」
「あ、言わなかったね。ごめんごめん……」
謝りの言葉を口にしながらリュカはゆっくりと身を起こす。その隣にシャラは座った。
「ビアンカも『折角街に来たんだから買い物の荷物持ちに付き合って欲しい』って言ってた」
『───ビアンカ』先日再会した幼馴染みの名前が話題に上がるとリュカはまた遠くを見る様な瞳になってしまう。そんなリュカの切なくも煮え切らない態度にシャラは溜息を吐きながら彼に背中をくっ付けて口を開く。
「なんで悩むのよ。ビアンカの事───子供の頃から好き、だったよね。奴隷時代のあの辛い時にだってビアンカにまた会う為に頑張ったりもしてたじゃない?アルカパにいなくて凄くショックだったの分かるし、それでやっとまた会えたのに……」
シャラの言葉に曖昧に微笑みを返すリュカ。
リュカは今、人生の分岐点に立っていた。
シャラとリュカが二人で色々な所を旅している理由は『生まれた時に魔物に拐われたらしい母親を探す為』だ。それはまだ理由も分からない幼い頃から父であるパパスがサンタローズを拠点に一人で続けていた。
双子が六才を過ぎた位からパパスは子供達を共に連れ立ってくれる様になり、そして10数年前に起きた忌まわしい事件でリュカとシャラはその父を亡くして、すっかり大人になった今は二人でその遺志を継いで母を探す旅をしている。何もかもを失くしてしまった今もリュカとシャラでも何の迷いなく持てる当面の『目的』だ。それにそれは二人の『生きる意味』と言っても過言ではない。
父の遺してくれた手紙の内容はその旨を伝える事と、母捜索の手掛かりだった。それには『伝説の勇者を探せ』とあったのだ。そして勇者に纏わる4つの武具を集めればいずれは伝説の勇者に辿り着くと言う事だった。だからこの捜索旅の目的はそれになった。
そしてパパスが大切に保管していた〔天空のつるぎ〕がまずは二人の手元にある。
それを頼りに伝説の武具や勇者に関わる話を追って辿り着いたのはサラボナという街だ。そこに住んでいる大富豪ルドマンと言う商人が家宝としていたのが〔天空の盾〕だった。
話を聞いてみると『ルドマン氏は娘達の花婿を探していて、その花婿に家宝を譲る』と言う話の真っ最中だった。そして花婿になるには大陸のどこかにある〔炎のリング〕と〔水のリング〕を手に入れなければいけない。
そしてリュカとシャラは火山や滝の洞窟を魔物達と一緒に死に物狂いで探検して何とか2つのリングを手に入れた。滝の洞窟に向かう時の道中を塞いでいた水門を開けて貰うべく立ち寄った山奥の村でその『ビアンカ』と再会した。それは偶然とは計りきれない、まるで運命の様な宿命の様な彼女との縁だった。
ルドマンにはデボラとフローラと言う年頃の二人の娘がいて彼女達の花婿を探していたのだが、危険な場所を顧みずに無事に生還を果たし、約束の二つのリングを手に入れたリュカ一行を非常に気に入ったルドマンは『同行して来た娘、ビアンカを花嫁に選んでも家宝を譲る』とまで言ってくれたのだ。なのでリュカは花嫁候補のデボラ、フローラ、ビアンカの三人の中から選んで結婚せねばならない───と言う状況だ。
そんな訳でリュカは結婚を余儀無くされているのだった。