「だからさ、確かにリュカの感じてる気持ちも分かるんだよ?だってルドマンさんはちょっと………いやかなり強引だったし『結婚しないで天空の盾だけくれる』って選択肢はくれないんだから、ね。あの人は何が何でもリュカを結婚させたい様に見える」
「……………そう、だよなぁ………………」
二人が引っ付いてる背中にシャラが思いきり体重を掛けて膝を抱えてもリュカはびくともしない。勿論それを分かっててシャラはじゃれている。
「でもさ、考え様によってはリュカもそろそろそう言う年頃なんだし、ある意味良い機会なんじゃないの?大体、ビアンカは初恋相手なんでしょ?昔からずっと好きだったんでしょ?彼女、凄い美人に成長してたじゃん。性格だって、勿論大人になった所はあるけれどさ、大事な部分は子供の頃と対して変わってなかった、とわたしは感じたんだけど」
リュカやビアンカの話───と言うか恋話をしているシャラは何だか楽しそうだった。そしてその楽し気な表情を少しだけ真面目にして続けた。
「それに〔天空の盾〕に纏わる色んな件で複雑な気持ちになってるんだろうけどリュカはそう言う所、割り切れないからなぁ。別にあんまり深く考えなくても良いんじゃない?ルドマンさんは『取り敢えず誰かと結婚したらくれる』って言っててさ、それならビアンカを選んでも良いって事だもん」
リュカはずっと無言でただ遠くを見つめて風に乗るシャラの声だけを聞いていた。
「リュカ、結婚しちゃいなよ?わたしは今回ビアンカと逢えたの運命的で凄く良いと思うよ。探してた物と結婚と幼馴染み、それが被るなんて素敵じゃない」
シャラが背中をくっ付けたままでベターっと伸ばしながらそう言ってもリュカは一向に何も答えない。彼のその『未だに困っている空気』だけが伝わってきた。そしてシャラは大きな溜息を吐いて『もしかしたら』と思う最後の手段を口にしてみた。
「ねぇ、お兄ちゃんまさか………もしかしてわたしの事を心配してる、とかなの?」
シャラのその考えと発言はリュカの的を得ていた様で、その妖艶な話し方にリュカは内心ドキリとして冷や汗が伝う。
「ねぇ……………?」
「………………………………………………」
瞳を閉じたシャラは返事の無いリュカの空気と息の飲み方が変わった事で『やっぱり』とそれを確信した。そして『それならば』と静かだがしっかりした声音で言葉を紡ぐ。全てはこの優しい最愛の兄の為に。
「わたしの事は大丈夫だよ。例えリュカがお嫁さんを貰っても絶対にどこにも行かないから。ずーっと一緒にいる。約束するよ。それに………それにね、あのねわたしは、リュカには、初めて好きになった人への想いを、叶えて欲しいんだ」
「シャラっ……………………!!」
その言葉を発していたシャラの声は酷く震えていて、それが途切れると同時にクルッと体制を変えたリュカがシャラを強く強く抱き締めた。
「…分かった……分かったから。そんな事言わせちゃって、ごめんシャラ。ごめん……」
「ううん良いの、わたしだって………リュカには幸せになって欲しいんだからね、お兄ちゃん」
リュカの肩に顔を埋めてシャラはもう一度静かに瞳を閉じる。そして静かに深呼吸をすると胸いっぱいに広がるのは埃っぽい、けれど乾いた草とお日様の匂いがする健康的な香りだ。それは昔から良く知っている変わらないリュカの匂い。それを感じて凄く安心したシャラは自分を抱き締めてる腕にそっと腕を重ねた。リュカとシャラの双子の兄妹は二人で強く抱き締め合ってそしてシャラが小さく一言呟いた。
「幸せになってよね………リュカ」
それに確かに頷いたリュカを見て、腕の力を強めたシャラの瞳からはキラリと光る雫が1滴だけ頬へと流れ落ちた。