「落ち着いたか、シャラ?」
「…うん、大丈夫……ありがとう…」
シャラはヘンリーから聖水の入ったガラス瓶を受けとると一気に飲み干す。滅茶苦茶に乾いてた喉にそれはすぐに染み渡った。
「えーと…あの、まずは……ごめんなさい。あんなに…取り乱しちゃって…本当に失礼しました…」
「いや、……悪かったのはオレみたいだしな」
苦笑して頭をポンポンと軽く叩くいてくるヘンリーをシャラは不思議そうな顔で見つめている。
「ん?どしたんだ?」
「あー……ちょっと…聞き難くくて…」
「ん?…大丈夫だから言えよ」
「う…ん……」
「おう?」
「あ、あー………あ…のさ……ヘンリーは何であんな状態だったわたしと、一緒にいてくれたの?あんなの面倒だし怖かったでしょ?滅茶苦茶大騒ぎしちゃったし…」
先程までの自らの凄い醜態を思い出しては耳まで真っ赤に染めて俯くシャラ。
「あーさっきのは実際……」
「実際…?」
「嬉しかったよ」
聞こえた言葉が信じられなくてシャラはバッと顔を上げた。そこには笑顔のヘンリーがいる。
「な、う、嬉しかった?…なんで?」
「オレは、今もシャラの事、愛してるからだな。そんな女の事嫌な訳ねぇだろ」
「え、あ、だからね、ヘンリー」
「良いからオレの話も聞けって」
「うー、…分かった。まず聞いてみる」
「よし。つまりさ、3年前にオレが選んだ道は今も後悔はしてないよ。お前らと一緒には行けなくなったけど、その代わりとは言えないけどあんな状態の国でも無事に安定に向かったんだ。こんなオレでもあの国の為に役立てたんだぜ。それもこれもぜーんぶ、おまえとリュカと色々成長出来たのと、お前らが一緒に国の危機を救ってくれたお陰だ」
ヘンリーは到って真面目な顔と声で続ける。
「王子として生まれた義務だと思ってな、この3年は本当に我武者羅に、今までのオレではあり得ない位に真面目に働いたんだぜ?その甲斐あってオレは人々から『立派な王兄』と言われる程になっていた」
言葉を紡ぎながらシャラと視線を絡ませたヘンリーはとても優しい表情をしていた。
「で、覚悟はしてたんだけどやっぱりさ、王子、王兄としてはいくら立派な人になっても一番大切な女を泣かせて得たモノなんて全然幸せなんか感じなかったんだ。しかも!オレちゃんと言ってなかったみたいだしな」
「…そんなの、勝手過ぎるよヘンリー…」
「わはは、やっぱりか?やっぱりそうだよなー。でもさこれで【ラインハットの王兄】の責務は一生分くらいは果たして来たし、その功績とまた危機が訪れたら助ける約束で、破門して貰ったから、もうオレは『ただのヘンリー』なんだ」
「え…?なに……?………………?」
「ラインハットは捨てて来た。もう何も無いただの男だけど、シャラの事は死んでもずっと愛してる。……オレと結婚して下さい」
「…………………………………………な、」
シャラは目の前が真っ白だった。ヘンリーの言葉に頭が許容量を超えて『何がどうなってそうなった』と色々な事が無茶苦茶に交差していた。
「返事は…くれねーの?」
「あ、……………………………………………」
それでもシャラの頭はこの状態に理解が追い付かなくても、心はとても静かだった。
シャラの目の前にいるのは忘れたくても忘れられなかった、ただ一人の愛しいひと。そしてその耳も、瞳も、肌も、シャラの細胞の全てがこの人の───ヘンリーの側に居れる事をただただひたすらに喜んでいるのだ。
それら全てがシャラに『迷う必要なんてどこにも無い』と訴えている。
それはそれはとても自然に口唇が動いた。
「わたしも、ヘンリーを愛してる」
その時に見たヘンリーの笑顔は何とも言えない程の幸せそうな笑顔で、それを見てシャラは『死んでも忘れない』と密かに誓った。