白銀の烏と異世界母港【再々演】   作:夜叉烏

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夜叉烏です。

キャラの設定も前作・前々作から様変わりしています。
そして黒烏ちゃん登場!

【挿絵表示】



邂逅

 ロデ二ウス大陸に位置する農業国家――クワ・トイネ公国の政治部会では、重鎮たちが頭を捻っていた。

 2日前、東方海域を竜騎士が警戒飛行していたところ、正体不明の超巨大飛行物体と遭遇したのだ。

 領空へ侵入されたため、本土上空で待機していた竜騎士団に撃墜を命令したのだが、件の飛行物体はワイバーンよりも遥かに高速、また高高度まで上昇したため追いきれなくなり、取り逃がしたのである。

 

 当事者である竜騎士は、『外観はワイバーンに酷似しているが、胴体や翼は直線的な箇所と金属を思わせる光沢があり、人工物らしきものもあった』と報告したが、あれほどの巨竜…そもそも生物を人工的に造るなど有り得ないと判断され、『未知の存在を目の当たりにし緊張状態に陥った竜騎士の目の錯覚』で片付けられた。

 

 最有力とされているのは『神竜が攻めてきた』という考えなのだが、だとすれば領空を侵犯した段階で攻撃を加えているはずだ。

 神竜ともなれば、『1日足らずで国を滅ぼす』『非常に狂暴である』などと、物騒な言い伝えや伝説も多い。本当だったら、今頃彼らはここにいない。

 

 兎も角、攻撃するような素振りは見せなかったため、少なくとも一方的に虐殺を行うような勢力ではないと思われているが、首都にまで未確認騎の侵入を許してしまったため、軍のプライドはズタズタだ。

 

「皆の者、この報告についてどう思う?」

 

 クワ・トイネ公国首相カナタ・スイロンが皆に呼び掛ける。

 その声に、情報分析部に勤める男が手を上げる。

 

「…正直に申し上げますと、全く分かりません。領空侵犯対処のため出撃した竜騎士は『金属らしい光沢に直線的な構造』『人工物らしきもの』と報告していますので…辛うじてムーの関与が疑われる程度です。あの国は、飛行機械を実用化していますから。…ですが、彼らの所有するものとは似ても似つかず、現実的とはいえません」

 

「また、仮にムーの飛行機械だとして、このような辺境に出現するとは考え難く、速度も比べ物にならないほど速かったらしいです。可能性としては、ムーの遥か西方に出現した新興国家…第八帝国と名乗っているそうですが。その国が第二文明圏の全国家に宣戦布告した、との情報が入っています」

 

 あまりにも無謀な行為に、呆れを通り越して笑ってしまう者もいる。

 それは当然だ。名も知らぬ新興国が、世界第二位の列強を含む文明圏全体を敵に回すなど、自殺行為だとしか言えない。

 それに、その『グラ・バルカス帝国』という国が飛行機械を実用化しているとして、ムーよりも遥か西方にある同国の飛行機械がこの空域に現れるとは考えにくい。

 

「し、失礼します!」

 

「ノックもなしに何事か!?」

 

 外務局に努める若手職員が駆け込み、突然のそれに局長リンスイ・リアドロが咎めるように怒声を上げた。

 カナタがそれを制すると、職員へ落ち着いて話すように声をかける。

 

「哨戒中の軍船『ピーマ』より、全長200メートル超の巨大船を発見し、乗船していた者と接触したとのことです!先日の領空侵犯の件を謝罪したいと述べており、我が国との対話を望んでおります!」

 

 ここまでは、何とか理解できる範疇の報告だった。流石に『全長200メートル超の巨大船』という部分には、懐疑的にならざるを得なかったが。

 

「その…彼らが言うには、他の世界から突然転移してきたそうで…。元の世界と完全に断絶されてしまい、周辺の状況を把握すべく哨戒飛行を実施していたところ、偶然我が国の領空に侵入してしまったと…」

 

「「「は???」」」

 

 …こんな反応になるのも無理はない。神話なり御伽噺でしか聞いたことのない言い分を、大真面目に伝えてきたのだから。

 

「…では何か?件の巨竜はそいつ等の差し金であり、さらに領空侵犯をしておきながら、謝罪すると言っているのか?」

 

 職員の言葉に、リンスイは怒りを滲ませながら言った。分を弁えぬ愚か者が、とでも言いたげである。

 

「落ち着け。転移の真偽は兎も角、領空侵犯したことを謝罪しようと言っているんだ。それを受け入れずに追い返したとなると、私たちの品位が問われる。謝罪の言葉位は聞いてもいいではないか」

 

 頭へ血を登らせたリンスイをカナタが窘める。

 

「それに、あれほどの巨竜を従えているにも拘わらず、武力を盾に我々を恫喝せずに対話を申し込んできたのだ。少なくとも、パーパルディア皇国のような覇権国家ではないだろう」

 

 カナタの言い分に思うところがあったのか、リンスイを含めたクワ・トイネ公国の重鎮たちは、一応の納得を示すように頷いたのだった。

 ――こうして、クワ・トイネ公国は謎の勢力との交渉に乗り出したわけであるが、これが同国にとっての大きな転換点となったのである。

 

『あの時、感情に任せて彼らを追い返そうと命じかけた私を止めたカナタ首相の判断には、感謝の言葉しかない』

 

 後年、リンスイは自伝にそう記している。

 

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 戦艦『リットリオ』の艦橋からは、古めかしい帆船や、古風な街並みが遠望されていた。

 沿岸には鎧を着た騎士や民衆が押し寄せており、こちらへ視線を向けている。石造り、若しくは木製の船着き場に停泊している、全長50メートル未満の帆船を見慣れている彼らにとり、いきなり全長200メートルを超える巨艦の来訪には、度肝を抜かれただろう。

 

「良い街ね、リットリオ」

 

「あぁ。中々風情のある所だ」

 

 『リットリオ』艦橋の司令官席――座面や背もたれには華美且つ肌触りの良い低反発素材が使用されている――に腰かけるのは、見る者全員を釘付けにしてしまいそうな美女だった。

 腰のすぐ下まで伸ばした美しく輝く銀髪、肩と二の腕を露出した漆黒のノースリーブと、スリットが入れられ、黒いニーソが程よく食い込む健康的な太ももを覗かせた同色のロングスカート、全てを見透かしそうな桃色の瞳。

 多陣営連合海上護衛軍・ルルイエ駐留艦隊の総司令官白銀黒烏(しろがね くろう)中将は、傍らの女性へそう話しかけた。

 

 此方もまた、街中で擦れ違えば思わず振り返ってしまう程の美貌。

 流れるような緑色の長髪、180センチ以上という女性らしからぬ長身、整った顔立ち、豊満では済まないプロポーションを包む清潔且つ華美な軍服。

 サディア陣営所属KAN-SEN『リットリオ』もまた、黒烏の感想に同感とばかりに頷いた。

 

 確かに、目の前の港は前時代的な印象を拭えないが、それが逆にいい味を出している。都会の空気や騒音に疲れた者が行きたそうな場所だ。

 港内を満たす海水は、重工業が発達していないためか、これまで見たことのないほどに透き通っており、気持ち良く泳げるだろう。

 

「どうかなクロウ?これが終わったら一緒に…」

 

「気が早すぎるわよ、海水浴なんて。ついさっきまでお互い知らない者同士だったんだから」

 

 リットリオの言葉を先読みし、黒烏は窘める。

 『地中海の伊達女』ことリットリオは、基本的に女性に対して『シニョリーナ』と呼ぶが、契りを交わし、ケッコンを果たした間柄である黒烏のことは、普通に名前で呼んでいる。

 女好きで知られるリットリオも、流石に冗談で言っただけだとは思うが、領空侵犯の謝罪の後すぐにその国の海岸で泳ぐなど論外だ。

 

「残念だ。折角クロウの可愛らしい水着姿をお目にかかれると思ったんだが…」

 

「…ほら、さっさと行くわよ。内火艇を出して」

 

 ニヤリとした笑みを向けてくるリットリオに、恥ずかしそうにやや顔を伏せながら言い返すと、華美な司令官席から立ち上がった。

 

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 第二砲塔横の甲板に着くと、既にタラップと内火艇が降ろされており、饅頭と護衛の兵士が待機していた。

 黒烏自身、セイレーンによって造られた個体であり基礎戦闘力が高い――もちろん、KAN-SENであるリットリオも同様――ため、護衛は要らないのではないかという考えもあった。

 ただ、武器を持った兵士の存在による威圧は必要であると判断されたこと、何より黒烏の身を案じるKAN-SENたちの熱望によって実現したのだ。

 

「よろしくね」

 

「お任せを」

 

 自動小銃を手にし、先頭に立つ兵士へ気さくに黒烏が挨拶。兵士も言葉少なながら、自信たっぷりに応えた。

 彼も後ろに控える数人の兵士も、ただの人間ではない。

 

 ――第一次セイレーン大戦・二大陣営の設立と紛争・第二次セイレーン大戦…立て続けの争いを経て、転移前の世界人口の9割近くが滅亡。

 今でこそ、セイレーンの脅威が沈静化し平穏が戻ったとはいえ、人類はあまりにも血を流し過ぎた。

 社会を動かす人手が足りないどうこうの話じゃ済まない、人類という種の存続すら危うい。可及的速やかに人的資源を確保し、種を残さねば…そんな状況の中、セイレーンから分捕ったとある技術が彼らの目に留まった。

 

 遺伝子工学をはじめとした、バイオテクノロジー関連――人工子宮技術である。

 これで人造人間を多数造り出し、戸籍を与え、人間社会へ溶け込ませるのだ。

 

 人工的に生命を造る…神をも恐れぬ禁忌、生命への冒涜とも呼ぶべき行為へ手を出した人類だったが、当時の世界は禁忌や倫理観がどうこう言っていられる状況ではなかった。

 生殖機能を持った人造人間は、相手の興奮を煽りやすいよう、容姿端麗に造られている。それが奏功したためか、残り少ない人間は彼らとの間で次々と子を設け、年々世界人口は増加していった。

 

 なお、オブザーバー手製のオリジナルである黒烏や、人類が製造した軍属の人造人間は、戦闘に特化させたことで生殖機能は持たない。戦闘に於いて必要ではない身体機能は、基本断捨離されている。

 ついでに言うと、ただ単に『人口を増やして人的資源の回復、種の保存を担わせる』――悪く言えば苗床用の個体と違って、寿命の概念もない。『メンテナンスさえしておけば半永久的に使える』のだ。

 …戦闘用の人造人間は『人間』ではなく、完全な『兵器』として扱われているといってもいいだろう。

 

 戦闘特化の人造人間は、一般人からすれば『人間の姿をしたナニカ』であり、距離を置かれてしまう――酷い場合だと『化け物』呼ばわりされる――などの社会問題が発生している。やはり、人間はそういった差別感情を持ってしまう生き物なのだ。

 一応、《烏の巣》ではKAN-SENしかいないため、そのような事態は起こらないが。

 

「さぁ、今後のためにも行きましょうか。失敗は許されないわよ」

 

 気合を入れるように黒烏がその場の全員へ宣言するように言うと、内火艇に降ろされたタラップを下り、リットリオと兵士たちがその後に続いて行った。




最近はアズレンよりもブルアカが熱いんだよなぁ。
因みに戦闘用人造人間は、定期健診的な感覚で専用の特殊培養液に浸ることで身体の老化を止め、半永久的に働きます。

あ、感想等よろしくお願いいたします。今作はSF風味が強い武器・兵器が出てくるので、SF映画(主に『アバター』とか)を観まくってどんなのを採用するか決めてるところ。
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