今回はちょっと短めですね。
クワ・トイネ公国及び、同国の仲介によってクイラ王国とも接触し、食糧・天然資源共に問題がなくなった《烏の巣》。
強大な軍事力に愕然とした両国――特にクワ・トイネ公国――だが、自分たちへ覇を唱えない温厚な勢力であり、さらに対価として相応の装備や技術を提供すると説明され、これ幸いとその話に乗った。
《烏の巣》が両国に対してまず行ったのは、食糧や資源を大量に輸送するための鉄道網、そして主要港の整備。
新規に製造した電気機関車数両と貨車、大型トラックを無償で提供し、複線線路を敷設。
クイラ王国に関してはプラントを多数建設し、各種掘削機械も持ち込み、原油をはじめ天然資源を効率的且つ大量に採掘できるように。
取り決めとはいえ、《烏の巣》が自国の領土を好き勝手弄り回し、掘り返しているわけだが、両国は庶民から政府高官にかけて悪印象は持っていない。
「我が国も変わったな…」
「えぇ…。接触からまだ8ヶ月…ですが」
様変わりしたマイハークの街並みを眺めながら、自国の発展ぶりに笑みを浮かべるカナタとハンキ。
自分たちの先祖が何十年もかけて整備した石畳の街道は、余すことなくアスファルトで覆われ、信号機や街灯が立ち並んでいる。
2人が乗るヴィスカー車自動車部門"ロールスロイス"が手掛けた防弾仕様の高級車の他、ちらほらとではあるがクワ・トイネ公国人が駆る自動車が走り、歩道ではカップルや子供連れが買い物を楽しんでいた。
《烏の巣》との接触から僅か8ヶ月で、公国は革命的な発展を遂げていた。
「正直、我が国はただ食糧を吸い上げられるだけになるのではないかと思っていましたが…いやはや、恐ろしいほどに理性的で寛容な方々だ。そな考えを抱いていた自分が恥ずかしくなってくる…」
「はい。道路や鉄道を敷設していただいたお陰で、輸送事情が大きく改善されました。それに、まさか敷設したインフラを自由に使っても良いとは…」
《烏の巣》は、ただ自分たちのためだけのインフラを設置して終わり…などということはしなかった。
自分たちが設営した道路や鉄道の無償使用を公国に許可。それについて追加の条件を示されるのかと肝を冷やした公国だが、それは完全なる杞憂。
ある国が属領の街道を整備した際、『この道は我が国のための資源を輸送するための街道である。貴様等蛮族が使ってよいものではない』と言い放った。
属領の奴隷を酷使して整備が完了したにも関わらず、労働力を提供したその属領が何一つ得していないのだ。
その他、第三文明圏を牛耳るパーパルディア皇国は、敷設した街道を属領民が歩くことは許したが、街道の整備税や管理税、通行税を徴収するなど、此方も強者の特権を利用して好き勝手やっている。
そのような行為がまかり通るこの世界において、《烏の巣》の対応は異端もいいところなのだ。
ともあれ、その寛容な対応によって物流は歴史上類を見ない程の快調。大型トラックとその運転手という職業が普及しつつある状況も、それに拍車を掛けた。
さらに、3Dプリンターを活用した簡易住宅やアパートが建築され、電気・ガス・水道の整備も行った。
簡易とは言うが、レンガを積み上げて建てた従来の家屋よりも住みやすく清潔であり、人々の生活水準は大幅な向上を見せている。
将来的には、全高100メートル以上の高層ビルや、大規模テーマパーク等が林立し、観光の方面でも成長していく予定だ。
「それに、武器まで輸出してくれるとは思いませんでした。しかも、彼らが使っているものと同様のものですよ?」
「えぇ。流石に、大盤振る舞いし過ぎな感もありますが…まぁ、彼らが問題ないと判断した結果でしょうし、ありがたく受け取っておきましょう」
そして、《烏の巣》からもたらされた技術の中には、軍事関連のものも含まれている。
歩兵携行火器から四輪の歩兵機動車、輸送トラック、野戦砲、各種ヘリコプターの供与に加え、それらの取り扱いや戦術ドクトリンを教育する軍事顧問の派遣などだ。
「《烏の巣》からは、第三国への横流しがないようにと、再三注意喚起が来ています。…ロウリアにあれらが渡っても、製作どころか使用すらできないでしょうが」
「だが、確かに技術流出はマズイ。信用していないわけではないが、金欲しさにやってしまう者が出てくる可能性も否定できないからな…。全員に周知させておいてくれ。武器兵器の管理は慎重を期すようにと」
「はい」
カナタの指示に、ハンキは力強く頷いた。
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クイラ王国は、クワ・トイネ公国とは対照的に、痩せこけた不毛の土地が広がる国だ。
だが、そこらを掘り返せばすぐに燃える水…原油が涌き出、更に、レアアースを初め各種鉱物資源が手付かずの状態で眠っているという、全地球国家からすれば喉から手が出るほど欲しい存在だ。
基本荒れ地が広がっているクイラ王国だが、これが軍の演習には最適であった。
「撃ち方やめ!」
断続的に鳴り響いていた銃声が、その命令が響くと同時に止まった。
少し前まで鎧兜と剣で身を固めていたクワ・トイネ、クイラ両国の兵士たちが、やや慣れない手つきで銃を降ろす。
「小休止だ。ゆっくり体を休めるように!」
黒を基調とした戦闘服を纏った、《烏の巣》から派遣された軍事顧問団の男が命じるや、兵たちは緊張を解き、しゃがむなり座り込むなり、それぞれの方法で休憩をとり始める。
「ふぃ~。疲れたな」
「しっかし、相変わらずこの武器はすげえよ。剣よりも軽いし、連発もできるし、何百メートルも先の敵を倒せるんだからな!」
とある2人組の兵士が、装備の話題で盛り上がる。
彼らが持っているのは、『クロキッドKAR-86』。ユニオンの国営企業『クロキッド社』銃器部門が開発した自動小銃だ。
使用弾薬は7.2×19ミリ高密度パルスプレット弾を使用するが、KM33ハンドガンと同様、ジェネレータを動力とし、炸薬の類は用いない…所謂レールガンの一種だ。
KM33と動力は同じだが、同銃のジェネレータを多段アレイ化させたものが搭載されており、貫徹力・ストッピングパワーが桁違いに大きい。
しかも、ナノマシン素材を惜しみ無く用いて作られたこの銃はとても軽く、60発が込められた弾倉を取り付けた状態でも3キロ程。
もう、重い剣や盾を装備して、ヒイヒイ言いながら行軍することはない。
「それに、この短剣の斬れ味よ」
「ヒヤっとする位斬れるよなぁ。銃なんて便利なもんがあるのに、刃物の質でもうちの国の先を行ってるぜ?」
レッグホルダーに納める形になっているのは、超振動機能が付与された軍用ナイフ。白兵戦用やサバイバル用に配布されている。
刃渡り20センチ少しのそれは、クワ・トイネやクイラで使われていた剣よりも頑丈で錆び難い上、超振動機能による斬れ味も鋭い。手に持って使う以外にも、銃剣に装着できる造りになっている。
人体の硬さを忠実に再現したマネキン相手の訓練では、その性能に驚くあまり動きが止まってしまい、教官にどやされた程だ。
「そして何より、この服だよなぁ?」
「あぁ。もう鎧なんて着れないぞ」
彼らにとって最もありがたかったのが、新たに配布された戦闘服。
金属製のため重く、太陽の熱をよく吸収し嵩張る鎧なんてとても着る気にはなれないほど上等なものだ。
長袖のトップスとミリタリーパンツ、その上から防弾チョッキや弾倉ポーチ、無線機を取り付けているのだが、動きやすさの次元が違う。
薄手のためすぐ破けてしまうのではないかと思ったものだが、それはただの杞憂。
そして、この服の売りはそれだけではない。寧ろ、男性陣にとってはかなり重要なものである。
「そう!前屈みのまま、膝を少し曲げてみて」
「うわ、凄い!さっきよりも当たりますね!」
自主練だろうか、休憩中にもかかわらず、嘗ては敏腕の弓兵として活躍していたイーネが、《烏の巣》から派遣された女性隊員から指南を受けている。随分と打ち解けているらしい。
使用感も性能も、弓と銃では大きく違う。それでも、『敵を狙い撃つ武器』の扱いにはやはり長けているのだろう、少しアドバイスをもらっただけで、イーネは200メートルは離れている的に次々と命中させていった。
通常の歩兵分隊に配属するよりも、狙撃手として活躍させた方が良いのかもしれない。
「「素晴らしい…」」
女性隊員もまた、長袖のトップスにミリタリーパンツの装いなのだが、若干目のやり場に困るデザインなのだ。
薄手で密着するタイプのそれは、着用者の身体のラインを浮き出させており、ややきつそうな印象を受ける。露出がないにも関わらず、ついつい其方へ目が行ってしまうのだ。
…これは別に、開発者が変態であるとかそういったものではない。
身体に密着させることで機動力を確保するのは勿論、止血効果を狙っているのだ。自動防漏タンクのようなもの…とでも言っておこう。
「イーネちゃん、意外とあるんだな…」
「おっと、声に出すなって。殺されるぞ」
身体を動かす度に上下に揺れる双丘を見ながら、2人は休憩時間を潰していった。
この2人のみならず、この場の男性全員が、目の保養とばかりに他の女性隊員へ視線を向けていたのは、言うまでもないだろう。
《烏の巣》から配布された女性用の隊員服のイメージです(AI絵)。
【挿絵表示】
久しぶりに漫画読み返してみたけどイーネちゃん可愛いね…。
・クロキッドKAR-86
防弾アーマーの進化や頑強なセイレーンの陸戦用クローン兵に対抗できる自動小銃の開発を行っていたクロキッド社銃器開発部門が開発したアサルトライフル。
見た目は映画『アバター』でRDAの兵士が使うアサルトライフル『リコン M69-AR』。
使用弾薬は7.2×19ミリ高密度パルスプレット弾。KM33ハンドガンと同じジェネレータを多段アレイ化させたものを動力として搭載しており、.50BMGに匹敵する威力とストッピングパワー、総弾数を実現している。
ナノマシン素材をふんだんに使用したことで、60発入りのマガジンを搭載しても2.5キロという軽量設計になっている。
オプションとしてショートスコープやアンダーバレル式グレネードランチャーの装着も可能。