愛を見つけた男の話   作:ベロブルグ市民

10 / 13
まさかの反響頂けたので、余談の続編。
Vtuber編と掲示板回は、また出来たらで……。


翼の生えた希望

 

 

 

 ある日の事――跳躍会議の際、ふとブラックスワンが現れた事から事態は始まった。

 

「ブ、ブラックスワン! どうしてここに!?」

「あら、そう驚かないで三月さん。……私がここに来たのは貴方達に頼みがあるからよ」

 

 彼女に関しては全幅の信頼を置いていいという事を、ベクターはピノコニーの経験で知っている。

 なのかは、彼女の雰囲気が苦手なのか避けてはいるが。

 

「それはナナシビトとしての力が必要、という事か」

「えぇ、そう。……実はね、私が持っている大切な記憶の一つが罅割れてしまっているの。

 ……それはきっと、その星で異変が起きているという事。貴方達にはヤリーロ-Ⅵへ向かって、この事態を解決してほしいのよ」

「ヤリーロ-Ⅵ……」

 

 ベクターが開拓で初めて向かった星。極寒に覆われながらも、生きる人々は希望を諦めない生存の街。

 ふとスマホが振動を鳴らしている事に気が付いた。メッセージ送信者は、ブローニャ。

 

「……待って、丁度ブローニャからメッセージ来た。……星核に関するモノと思われる異常が発生したから、力を借りたいって」

「私と彼女達の目的は一致しているみたいね。……さぁ、貴方達はどうするのかしら」

「それは勿論! 助けを求めている人がいるなら、行くのがウチらだよ!」

「俺もその意見には同意だ。ナナシビトとして、全力を尽くそう」

「……今回は、私とヴェルトも同行するわ。終末獣の一件もある以上、万全を期すべきよ」

 

 姫子の言葉にヴェルトは頷いた。

 終末獣フレスベルグ――あの戦いは文字通りの激戦だった。

 姫子とヴェルトが増援を考える寸前までだと言うのだから。

 

「うむ! 次の場所は決まったようじゃの! では、これより跳躍を開始する!」

 

 

 

 

 クリフォト城の間には、ブローニャとカカリアがいた。

 カンパニーでの一件以来だろうか。あの時はカカリアがいてくれたから、話がスムーズに進んだのを覚えている。

 ブローニャに選択を任せ、彼女が選んだ道を尊重し、元大守護者としてトパーズとの舌戦を当然のように制した。

 あれは彼女にしか出来ない役割だっただろう。

 

「ブローニャ! それにカカリアも久しぶり!」

「えぇ、皆久しぶり。ごめんなさい、突然メッセージを送信してしまって。

 話の通りだけど、星核に関わるモノだと否定できない異変が発生しているの」

「発生場所は常冬峰……かつてお前達が私と、ヴィクターと戦った場所だ。異変は数日前に、見回りをしていたシルバーメインの兵が謎の洞窟を発見した。現場は即座に封鎖。

 現在はこちらで常時、監視を続けている状況だ」

「洞窟の中の様子はどうなの?」

「内部は、謎の鎖と壁によって封じられている。――だがその奥には、星核に似た気配がある。

 かつて妄想に囚われていた私だからこそ、分かる」

「……準備が済んだら、その現場に向かおう」

 

 

 

 

「……何だかあまり寒くないね」

「貴様らとアイツのおかげだ。そのおかげでこの星は寒波から抜け出しつつある。……改めて礼を言おう」

「私からも言わせて。ありがとう、貴方達のおかげでヤリーロ-Ⅵは救われた」

 

 常冬峰にあった洞窟へ入る。

 目の前には壁の如く広がる鎖と中央に淡く光る石碑が一つ。

 

「これが……」

「どうかしら、ブラックスワン。貴方ならきっと何かわかるんじゃない?」

「……あぁ、そう。そういう、事なのね」

 

 ブラックスワンは気づいたように、頷く。

 

「……これは憶質が変異した物よ。誰かの記憶、ずっとこの場所にこびりついて離れなかったモノ。――私なら確かに解除出来るわ」

「良かった! それなら……」

「でもその記憶を紐解くという事は、貴方達も追体験する事になる。……彼の地獄を。この銀河には知らなくてもいい、或いは知らない方がいい事実もある。

 それを、貴方達は受け入れる覚悟はあるかしら?」

 

 何者かの記憶の追体験と言う言葉――それが誰を意味するのか、その場にいた者は分かってしまった。

 この場所で、彼と言われたら一人しかいない。

 

「……私は、知りたい」

「ブローニャ……」

「知りたいのです、お母様。私は、彼の事をほとんど知らなかった。ただ知っているのは、彼がベロブルグに生きる人々のために、命を費やした事しか。

 もし知る機会があると言うのなら、私はそれに手を伸ばさずにいられない」

「私も同感よ。……アイツの手がかりを探したけれど、ほとんど見つからなかった。クリフォト城にも、下層にも。

 あるのは記憶の中にある顔だけ。いつもどこか抜けてる、あの後ろ姿だけなの」

「……彼らの意見は定まったようね。列車の方はどう?」

 

 ベクターは頷いた。

 

「私も知りたい。彼と言う人間を、私達はほとんど知らないままだったから」

「そう……。分かったわ、それじゃあ始めるわね。まずこれは一つ目の記憶……」

 

 ブラックスワンが手を伸ばす。

 周囲の視界が切り替わっていく。

 

「これは冬の記憶――彼にとって絶望とも言える幕開け」

 

 

 

 

 まず最初に地獄を見た。

 吹雪を操る獣が蘇り、人々が蹂躙される結末を知った。

 星核の侵蝕により、人々は凍土の中で最後の眠りを迎える終わりを知った。

 死んだ、殺された――ありとあらゆる死に方をした。そうして絶望の未来を変えるために幾度の手を伸ばしても、何も変わらぬ事実を知った。

 

『……俺には、俺には何も出来ないのか!?』

 

 何も救えない。

 何も出来ない。

 あるのはただ無意味な生命と、繰り返される夢の終わりだけ。

 

『ならば俺は何の為に生きている……!? 何の為にこの呪いを与えられた!?』

 

 この生に意味は無い。

 この人物に価値など無い。

 残酷な終わりだけが、ただ繰り返されている。それに未来など無い。平穏などあり得ない。そんなものが入る余分は無かった。

 あぁ、そうだとも。

 俺一人では、何も変わらない。何一つ変えられない。

 

『それでも……!』

 

 この星で生きて来た者達の顔を思い出す。

 あぁ、そうだとも。

 例え何一つ変えられないのだとしても。

 

『それでも、必ず……! 貴方達を……!』

 

 幾度となく続く夢の終わり。

 忘却は変わる事無く、始まりを奪っていく。定めた決意も、覚悟も。大切な人達と過ごした記憶も、全て薄れては新たな結末に塗り潰されていく。

 骨が折れる音を何度も聞いた。肉を斬られる感触を何度も味わった。心が砕け散る音を何度も知った。

 耳が聞こえなくなると不便だ。眼が見えなくなるともっと困る。匂いは記憶を思い出すのに欠かせない。触覚は寒波の中で温もりを感じるには大切だ。――だから、まず味覚を忘れた。

 次に自分の過去を忘れた。この星に来る前の自分がどういう人間だったのか、どう生きていたのかなんて今はどうでも良かったから。

 最後に痛みを失った。自分の苦痛など、贄にくべてやった。

 

『……』

 

 だが、それでも結末は変わらない。

 自分の体が罅割れていく感覚を、感じて。けれどそれをどうでもいいと割り切った。

 

『……俺、は』

 

 虚ろな目で空を見上げる。

 極寒に覆われた、日の差さぬ空を。

 

『……何故、生きている……?』

 

 その質問以外、自分と言う人間の全てを忘れた。

 これは冬の記憶。吹雪に閉ざされ何も見えなくなった人間の、末路。

 

 

 

 

「――これで一つ目はおしまい」

 

 ブラックスワンの声で、現実に引き戻された。

 見ると、鎖の壁は解かれていて。氷の壁が立ちふさがっている。

 

「……少し時間を置きましょうか。きっと貴方達には、刺激が強過ぎたでしょうから」

 

 ブローニャが、その場で泣き崩れた。

 ――彼の真実を知った。その代償が、自分の想像を遥かに超えていたから。

 

 

 

 

「……ごめんなさい、ちょっと取り乱してしまって」

「大丈夫? 次は平気よ。次は、春の記憶。人間はただ辛いだけだったら全て忘れ去るけれど。長い旅路の中でも、それでも彼は忘れなかった。

 それはね希望があったから。忘れたくないと思った、光を見たから。旅人が星を標とするようにね。

 さぁ、行きましょうか」

 

 ブラックスワンが、手を伸ばした。

 また同じように視界が切り替わっていく。

 

 

 

 

 旅は思っていたよりも遥かに長かった。

 絶え間ない苦しみに膝を着きそうになる。忘れていた痛みで足が止まりそうになる。

 でも不思議な事に、諦めると言う気持ちは全く起きなかった。

 

『ヴィクター』

 

 それでも、と足掻き続けてきてようやく見えたモノ。

 見つけたんだ。見つけたんだよ。

 自分と言う世界はまるでずっと夜の中にいるようで。真っ暗で周囲は何も見えない。――でも空には星があったのだ。導のように輝く其が。

 とても小さな、数多の光。たとえ一つ一つは小さくとも、集まれば大きな灯となる。

 

『ヴィクター』

 

 あぁ、そうだ。そうだったんだ。

 貴方達との日々を、忘れる訳が無い。あの日々を、色づいた鮮やかな思い出を無かった事になんて出来る筈が無い。

 

『ヴィクター』

 

 例え俺と言う個人に価値が無かろうと、貴方達との日々はかけがえのないものだった。

 ただただ愛しいと思えたんだ。それでもまだ生きていたいと思ったんだ。

 そのためなら、この地獄を歩いていくのだって苦しくない程に。

 

『ヴィクター』

 

 ヤリーロ-Ⅵと呼ばれた廃の星と、そこに生きる彼ら。

 銀河と言う星々の中で例え誰もそれに目を向けなかったのだとしても。キミ達のためなら、俺は。全てを賭けよう。

 ――だから止まるな。きっと、いつか。望んだ終わりに、辿り着くために。

 

 

 

 

「……これが、彼にとっての希望。貴方達が伸ばしてくれた手は、本当に救いだった。きっとその先が彼自身の終わりだったとしても、貴方達と過ごした当たり前のような毎日を、彼は大切に想っていた」

 

 世界が元に戻る。

 

「……ヴィクター」

 

 ゼーレが静かに呟いた。

 ここにはいない誰かを、惜しむように。

 

 

 

 

「……これで最後ね。最後は……彼にとって最後に見た記憶。貴方達が終末獣と戦っていた時の、記憶。彼も同じように戦っていたのね」

 

 

 

 

「ここ、は」

 

 フレスベルグに取り込まれた記憶までは残っている。そこから浮遊し続けるかのような光景。

 そうして、地に足が付いた感覚と共に目を開く。

 ――それは、赤く脈動する心臓のような臓器が一つ。

 コイツの本体だ、と気づいた瞬間眼前が雷に包まれた。

 

「……っ」

 

 体の芯まで貫くような稲妻が、全身を覆った。

 殺されたと、本能が理解する。

 自身の活力が、体力が全て削り落とされたような不快感が体中を襲う。

 思わず膝を着いた。

 

「……!」

 

 続けて二発目がすぐ様迫る。

 また殺された。

 とうとう膝を着く事すら出来ず、吹き飛ばされて横たわった。

 

『ヴィクター』

「まだ、だ……!」

 

 記憶の中にある声。それに背中を押されるように手を握りしめる。

 歯を食いしばりながら、立ち上がろうとして。

 

「!」

 

 三発目と、続け様の四発目。

 自分が殺された、と理解する。けれど今度は膝を着かない。

 脈動する、心臓を見上げる。

 何をすれば良いのか、この体が理解していた。

 己は星核を収容する器。であるのなら、これを封印する事も叶う筈。

 けれど、その代償は――。

 

『ヴィクター』

「は……」

 

 何を迷っているのかと、笑ってしまいそうになる。

 雷で焦げ付いた体。煙を上げながらそれでもと右腕を掲げた。

 この光景を最後に、俺は消えるのだろう。

 それでも、彼らが笑って生きていける未来があるのなら。

 

「――どうか、穏やかな未来を」

 

 そうして、長い旅は終わりを迎えた。

 

 

 

 

「これが、彼の最期の記憶。……そうして迎えた旅の終わり。これで私の役割はおしまいかしらね」

「……ヴィクター」

「……待って、何か奥の様子がおかしい」

 

 ベクターの声に全員が前を見る。

 ――奥に、裂界の塊のようなものが見えた。

 それは丸くなっていた形から少しずつ、人の形へと切り替わっていく。

 まるで半透明な、透き通るような人間の姿が一つ。

 

「ヴィクター……?」

 

 それは槍の形をした得物を構えた。

 感じるのは明確な敵意。

 

「! 来るぞ!」

 

 唐突に戦闘が始まった。

 

 

 

 

 記憶を取り戻したいのかい。

 

「ああ」

 

 それが、己の過去と直面するになっても。

 

「それでも俺は知りたい。この身が、この過去が、一体何を為したのかを」

 

 それなら、星を目指すと良い。キミにとっての、輝ける一筋の光を。

 

「世話になったな、エリオ。カフカによろしくと伝えておいてくれ」

 

 

 

 

「! 大技が来る……!」

 

 裂界造物は宙へ浮き、そのまま佇んだ。

 その背後を吹雪が覆ってゆく。

 何もかもを凍らせる極寒の嵐。それが襲い掛かってこようとして。

 

「ハッハー! ニセモノちゃんの吹雪なんざこの程度よ!」

「その口を閉じれないのか? 俺が助かるが」

 

 視界が晴れる。

 紫色の空を飛ぶ小さな鳥と、眼前に立ち槍を携えた一人の青年。

 

「ヴィクター……?」

 

 ブローニャはその名前を呼んだ。

 幾度となく呟いた日々。その言葉があれば、今を、明日を乗り越えられると思ったから。

 

「……すまないが俺は今、記憶を失っている。貴方達との関係は思い出せない」

 

 目の前の青年は申し訳なさそうな顔をした。

 それはいつも彼がしていたような表情にそっくりで。

 

「だから目の前のニセモノヤロウをぶっ飛ばしに来たんだろ! サッサとヤっちまおうぜ!」

「厳密には、記憶の取り返しだ。やるぞフレス」

「オウよ!」

 

 裂界造物が肥大化する。

 まるであの時の、巨大な終末獣のように。

 

「見た目だけでもマネるなんてやるじゃねぇか! 後は中身が入ってればサイコーなんだが!」

「あぁ、アレは空っぽだな」

「……申し訳ないのだけれど、あれは貴方の記憶なの?」

「そうだ。アレはかつての俺の記憶に、様々な余分がこびり付いた結果暴走したモノだ。

 ……どうやら星核が関わっていたようだが」

 

 青年が疾駆する。眼前へばら撒かれる数多の氷の槍。

 その全てを彼は走りながら防ぎ切った。

 槍の投擲――全力で投げたそれは、フレスと呼ばれた鳥の力によって更なる氷の力を得て裂界造物を貫く。

 

「合わせなぁ、そこのバアさん!」

「誰が婆さんだ!」

 

 カカリアとフレスによる同時の必殺。

 広範囲を凍てつかせる永久凍土の世界が完成する。

 

「ヴィクター! 合わせられる!?」

「……不思議とキミの動きは覚えている。問題はない」

「よしっ! 行くわよ、ヴィクター!」

「……ような気がする」

「ぶっ飛ばすわよ、アンタ!?」

 

 ゼーレと青年のほぼ同時の大技。

 幾千を切り裂く残光に、幾万を刺し穿つ尖槍。

 

「……ふふっ」

「……? 何かキミに笑われるようなことをしたか俺は」

「いや、ヴィクター。貴方は貴方らしいなって」

「?」

 

 続け様に列車組の攻撃。

 そして最後にブラックスワンの一撃を以て、裂界造物は沈んだ。

 

「……さて、余分は大方退けたか」

「おうよ、今なら問題ねェぜ!」

 

 青年が手を伸ばす。

 憶質はそれに吸い込まれるようにして消えていく。

 

「――あぁ、そうか。俺は……」

「……ヴィクター?」

「……全部思い出したよ、ブローニャ。心配をかけたな」

「っ!」

 

 ブローニャが、ヴィクターの胸に縋りついた。

 それと同じように、ゼーレに飛び込む。

 

「おぉっとここでムスメさんの一撃! どう思いますかお義母さん」

「今すぐここで凍らせてやろうか貴様」

「おぉ、怖ェ。っとそうだ……! おい、そこの小娘!」

「? 私の事?」

 

 フレスと呼ばれていた鳥、かつては対峙した終末獣がベクターの目の前に下りてくる。

 かつての姿に比べると、それはとても小さい。パムより小さいのではなかろうか。

 

「パムに比べると可愛くないね」

「ここでまさかのライバルちゃん出現!? じゃねぇじゃねぇ。

 オマエら、この先も開拓の旅をするんだろ? だったらコイツを渡しておくぜ」

 

 ベクターの手に握られたのは一枚の羽根。透き通った氷のようなそれは、まるで綺麗な硝子細工のよう。

 

「これは……?」

「オマエらがこの先も開拓を続けるって言うんなら、間違いなくナヌークのヤロウと決戦になる筈だ!

 そん時はこいつを握ればすぐにオレが来るぜ! アイツには返さねぇとならねぇ借りが山ほどあるんでなァ!」

「ソイツだけではない。我らベロブルグ、全勢力を以て駆け付けよう。お前達には、世話になり過ぎた。

 ……これからもこの先、ヤリーロ-Ⅵはお前達の港である事を保証する」

 

 こうして、彼の帰還は終わりを告げる。

 この日から、ベロブルグはいつもより少しだけ慌ただしい街になった。

 

 

 

 

 それから数日して。

 

「クソ! 貴様、今日と言う今日は許さん! 氷漬けにしてくれる!」

「ハッハー! やってみなァ、バアさん! って足早ッ!?」

「貴様の敗北は決まっている!」

「全力逃亡ってか! よっしゃ、逃げるぜェー!!」

 

 今日もドタバタと聞こえてくるクリフォト城の足音。

 どうやら今日もまたフレスがカカリアをからかっているらしい。

 

「……賑やかになったなぁ」

「貴方が帰ってきてくれたからよ。……お母様のあんな顔、私も初めて見た」

「大守護者も色々大変だったのねぇ……アイツにからかわれるとムカつくのは同意だけど」

「ん……?」

 

 窓から空を往く何かが見えた。

 きっと、列車が走っているのだろうか。

 

「……あぁ、行ったんだな」

「えぇ、彼らはきっとまた世界を救いに行ってるんでしょう」

「今私達は私達の事を、よ。いつか彼らが会いに来てくれた時、胸を張れるように」

 

 こうして戻って来た平穏。

 また今日も、新しい一日が始まった。

 

 

 

 

「……ふふ、私だけが得をしてしまったみたいで申し訳ないわね」

 

 誰もいない一室。

 そこでブラックスワンは一つの光円錐を取り出した。

 

「これだけは私が守るって決めたもの。……えぇ、そう。私の、私だけのもの」

 

 ――最後に、彼が見た光景。

 優しい眠りの中で、星と人の安寧を願った記憶。

 それは今ブラックスワンの手の中にあった。

 

「……素晴らしい記憶をありがとう、愛を見つけた人」

 

 そうして、その光円錐に小さく口づけをして胸もとにしまう。

 これは誰も知らないたった一つだけの記憶。彼女以外知る由もないモノだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。