愛を見つけた男の話   作:ベロブルグ市民

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Orion

 

 

 始まりはいつだったか。

 そんなものは覚えてはいない。必要では無かった。

 痛みを最後に自覚したのはいつだったか。

 そんなものは忘れた。大事な思い出を、光景を、記憶を、たかが己の苦痛などで取りこぼしてはならない。

 全ては終わりを求めるために。

 だから俺は、何度でも立ち上がって見せる。彼らの未来を諦めてなどなるものか。

 例えこの身にかかった呪いが、偶然の産物に過ぎなかったとしても。

 

 

 

 

「今、分けられるものはこれで全てだ。後は、また機会を待ってもらうしかない」

「へへへ、いつもすいませんねヴィクターさん」

「構わないさ。貴方達とて、今の環境を良しとはしないだろうし」

 

 下層、鉱山地区――地髄と呼ばれる特殊な鉱物が産出されるそこではしばしば争いが起きる。鉱夫と流浪者によるモノだ。

 地炎の代表者であるオレグがある程度、収めてくれてはいるがそれでも限界はある。

 故にヴィクターはベロブルグの街で得られた物資のいくつかを彼らに提供していた。それでいざこざが落ち着くのであれば、と。

 流浪者達が去るのを見届けて、彼はこの後の予定を考えた。スヴァローグに会い過去のデータについて探るか、それとも今日はブローニャやカカリアと共に今後の方針について意見を交えるべきか。

 

「あの……ヴィクターさん」

「クラーラか。どうかしたのか」

 

 赤いコートを羽織った裸足の少女。幼いながら、それでも強い芯を持った人物。

 

「いつも頼み事ばかりですみません。その今、クラーラが不足しているモノがあって……言いにくいんですけど」

「大丈夫さ、何とかしてみよう。スヴァローグは俺からの頼み事で動きがとりにくいだろう。無理を言っているのはこちらが先だ」

「いえ、気にしないでください。クラーラもスヴァローグもそんな事考えてないですから。ヴィクターさんには沢山助けてくれましたお礼もありますし」

「そうか? こちらこそ気にしないでくれると助かるよ」

 

 年不相応な程にしっかりした少女だと、会う都度思う。

 きっと歳月を重ねれば、この星の記録に残る程の人物になるだろう。

 

「あの、後一緒にリベットタウンまでいいですか? パスカルも貴方に会いたいって」

「……そっか、そういえばしばらく会っていなかったな」

 

 いつかの時、彼女と共にとあるロボットの運命を決めた事があった。

 葛藤に悩む彼女の背をそっと押したのだ。

 

“クラーラだって我儘を言っていいんだよ”

 

 珍しくスヴァローグと衝突したものだから、些か入れ込んでしまったかなと振り返る部分はある。

 それでも、誰かをずっと思い続けて自分を犠牲にしてきた者が言葉にする我儘は、きっと悪い事じゃないのだ。

 

「……いつもそうだな、俺は」

「? どうかしましたか……?」

「いや、独り言だよ。まだまだ学ぶ事はあると思っただけさ」

 

 いつも思う。

 生きる度に、誰かと会う度に、いつも自分は何かを教えられている。その生き方に自分自身を変えられている、支えられていると感じる。

 それこそがきっと、自分にとって――。

 

 

 

 

 リベットタウンに向かい、パスカルとクラーラの二人と別れて帰路に着く。

 さて、これからどうしようか。そろそろシルバーメインに戻り、何か仕事の一つでもするべきだろうか。ジェパードに頼み込んで、兵士達のカリキュラムに砲術訓練を組み込んでもらったが、その成果と問題点をまだ聞けていない。

 とある未来を想定して考慮した。この星の人々が生きる為に抗う術。私達はこの星に生きていると強く叫ぶための――。

 そこまで考えたところで、近づいてくる足音が一つ。とても聞き慣れた音だった。

 

「ねぇ」

「ゼーレか、今日の巡回は済んだはずだぞ。何故まだいる?」

「終わった事なんてどうでもいいのよ。それよりいつまで、アイツらにあんな事続けるつもり?」

「あんな事……? 何かあったか?」

「流浪者達に施しを続けてるって事よ」

 

 その言葉に、彼はああその事かと思案した。

 流浪者達はたまに物資の催促や注文をしてくる。それは生活必需品であったりなかったり。中には趣味で片づけられるようなものも入っていた。

 シルバーメインと地炎、どちらの組織においても幹部の地位にいる彼であるが、それを利用してある程度の品物の調達が出来るのだ。

 たまに無茶をやらかして、裁判沙汰になりかけた事もあったが―その時はブローニャが必死になって庇ってくれたから頭が上がらない―。

 

「……意味が無かったら、ダメなのか?」

「そういうワケじゃないわ。鉱夫との衝突を避けてくれてるのは間違いないもの」

「じゃあいいじゃないか」

「アンタねぇ……」

 

 当たり前のようにそう答える彼に、ゼーレは苛立ちを隠せなかった。

 彼との付き合いは長い。少なくとも彼女の古い記憶の中に彼の姿はある。

 同じ地炎幹部の立場であり、どちらも現場仕事を好む体質であった。故に顔を合わせたり背中を預ける機会も多い。

 その中で、彼の欠点も自然と見えて来ていた。

 

「……アンタがシルバーメインに潜り込んで、色々と探ってきてくれたり物資を融通してくれてるのはここじゃ有名な話よ」

「どっちも、本職なんだけどな」

「ここじゃそういう事にしておきなさい。……話を戻すけど、アンタ最後に食事取ったのはいつ?」

「……」

「……」

 

 彼が顔を背けた。

 こういう時は、大体言いたくないと言うサインである。ちなみにボルダータウンの住人は全員知っている常識であった。

 聞き分けの悪い子どもの相手をするように、ゼーレはヴィクターの顔を掴んで自身と向き合わせた。

 

「食事は、ちゃんと、取りなさいって、ナタにも言われたでしょうがっ」

「……人は、水と塩があればある程度は生きていける」

「そういう問題じゃないってのっ。ああ、もう。やっぱり見間違いじゃなかった。前より痩せてるじゃない」

「鍛えたら太る」

「次、いい加減な口答えしたらナタ直伝のグー飛ばすわよ」

「……」

 

 ヴィクターにとって頭の上がらない相手の一人であるナターシャ。近頃、ゼーレが彼女に似てきているような気がする。

 

「アンタはもっと自分を大事にしなさい。誰よりも頑張ってるのは知ってるわよ。だから誰よりも報われて欲しいの」

「……そうか、善処しよう」

「ちゃんと証明してよね」

「努力はする」

 

 足取りが二つ。

 ゆっくりとした時間の中で、響いていく。

 

 

 

 

「ゼーレ、ナターシャ。貴方達の思いは知っている」

 

 

「だけど、それでも俺は――」

 

 

 

 





保存された記憶


「……ヤリーロ-Ⅵは元々、廃星だった訳ではない。ただたまたま、とある存在が星神達にとっては邪魔で、近くにあったから選ばれただけだ」

「それは星神どもを恨んでいるだろうよ。例え何百年と言う時間が過ぎ去っても、薄れる事無く。その怨念を閉ざすには、凍らせるしかなかったわけだ」

「ああ、そうだ。ヤリーロ-Ⅵは星核と関係無く、銀河の為に自ら廃星となる事を選んだんだ。でなければ存護の加護にあるあの星が滅びを選ぶものかよ」


 星神になり切れなかった存在――終末獣フレスベルグ。
 いずれそう遠く無い未来に目覚め、ヤリーロ-Ⅵに危機をもたらす。
 だから、ヴィクター。貴方はそのために自分の未来を……。本当に不器用な子。
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