愛を見つけた男の話   作:ベロブルグ市民

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心よ原始に戻れ

 

 

「しっ――!」

 

 槍を振るう。躊躇いなく繰り出された一閃はモンスターの急所を捉え、瞬きの間に二匹を仕留めた。吹雪によって視界が悪かろうとそこに然したる支障はない。

 手元で回し、次の構えへ。体重を乗せた全力の刺突を放てば、直撃したモンスターはその衝撃に耐え切れず塵と化した。

 周囲を見渡す。戦闘中の状況ではあるが、周辺に敵の影は見えない。

 

「伏せてっ!」

「!」

 

 上か、と判断する前に体が動いていた。

 頭上から奇襲を仕掛けようとしていた一匹を、一発の弾丸が撃ち落とした。

 

「ブローニャ、助かる!」

「前! また湧いて出て来てる!」

「……今日はいつもよりやけに多いな」

 

 背後にはベロブルグと日常を生きる市民達。即ち引く事は許されない。

 これがシルバーメインの日常。

 裂界造物と呼ばれるモンスター達との戦いである。

 

 

 

 

 

 

「おや、これはこれは、親愛なるヴィクター殿ではありませんか」

「……お前は、相変わらず慣れない顔だ」

 

 ベロブルグの地下。光を遮る空間で、歩みを止めたケーブルカーの前に二人はいた。

 ヴィクターは男を見る。

 青い髪、とってつけたような笑み、だが決してこちらから目線を逸らそうとはしない動き。

 ――そんな男の記憶は、ヴィクターには存在しなかった筈のもの。故に彼はこの星の異物であると、察した。

 口調はいつもより硬い。この男は間違いなく、殺す事に関して誰よりも長けていると確信している。そしてそれを誰にも気づかせる事無く。

 今この話の間とて、この男はヴィクターを殺そうと思えば容易く出来るのだろう。

 

「これは酷い。こう見えても奥方様には人気なんですよぉ?」

「なら気を付ける事だな。大守護者はお前を見つけ次第処刑するそうだ。コールドフッド、なんてヤツは特にな」

「物騒な話ですねぇ。気を付けると致しましょう」

 

 男へ安くはない金を渡す。

 ヴィクターは、少なくともこうしておけば男は敵にならないであろうと悟っていた。

 感情を度外視し、利益のみを優先する。理解しがたいが、そういう人種であると。

 

「それで、話は本当なのか」

「ああ、お客人の件ですか? ええ、何でも宇宙ステーションが襲撃されたそうで。

 ヤリーロ-Ⅵは、その場所から近いですからねぇ」

 

 確かヘルタだかと言う名前だったのは薄っすらと覚えている。

 けれど生憎だが、宇宙ステーションの存在など今はどうでもいい。

 ただこの星に生きる者達が全てだ。今までだってそうやって生きてきた。だからこれからも、同じようにしていくだけ。

 

「彼らの、星穹列車の力があれば、この星に封じられたあの偽神を倒せるのか」

「ええ、ナナシビトの選択次第……ではありますが。開拓の加護ならば、違いなく。

 あれは不可能を可能にする力。星の開拓者とでも言いましょうか。その本質に、あの方々は気づいていないようですが」

 

 ――何故、と自分自身に問いかける。

 何故俺にはその力が無い。何故俺には誰も救えない。

 この身が、彼らの、ナナシビトの一人であったなら。

 

「ですが、それでも。ヴィクターさんの歩みには価値がありますよ。

 商人たるこのサンポが保証致しますとも」

「生憎、俺に見る目は無い。ただ進む事しか出来ない。

俺に運命があれば、終焉が相応だろうさ」

 

 目指すモノはただそれだけ。

 全てを裏切り、全てを見捨てて、全てを終わらせる。

 きっと自分自身は本来そう人間だったのだ。そんな本当にどうしようもない程に、救えないような。

 けれどそんな自分を変えてくれたのはこの星の人々だ。だから何としてでも、あの未来を――。

 

「ですが、私個人としては些か見合って無いのですよ。ちょっとばかり偏ってしまっているのです」

「……足りないか。頼れる先は、カカリアはともかくスヴァローグぐらいしか」

「いえいえ、とんでもない。貰いすぎているのはこちらですよ」

「お前が?」

 

 長い旅の中で、思いもよらぬ感情が動いた。

 沢山の人を見てきた。沢山の本心を知った。故に人の事は見たらある程度分かると自負している。

 この男は受け手になると際限がない。形の無いモノを吊り上げ続けると。

 そんな男から、まさかそんな言葉が出るとは考えもしなかった。

 

「貴方と言う人間の中身を、他に二人と知りません。一人は貴方と違って出来る事なら一生関わりたくないのですが」

「俺みたいなヤツがいるのか。それは考えもしなかった」

 

 まるで他人事のようだと思いながら、そう口にした。

 事実、そうだった。駆け抜けた日々であると言うのに、充実感は無い。空っぽの箱のように。

 空っぽなのに確かな重みがある。そんな毎日だった。

 

「ええ、貴方のような運命の方は奇特な事でしょうから。そんな価値を私は知っています。貴方自身も知らないモノですからね」

「……俺の体質に、いつから気づいていた?」

「私と他の方々への警戒がどこか違いますから。簡単に気付きました。

 正直、勿体ないと考えてはいますよ」

「何がだ」

「貴方がこの星で運命を定めている事に関してです。仙舟にピノコニー――貴方が知らぬ星々とその光景はまだまだ無数にあります。きっとヤリーロ-Ⅵの文化として溶け込めるモノもあるでしょう。

 人生は、生きてるだけで儲けものですから。今からでも、遅くないのでは?」

「……」

 

 その瞳に虚実は無い。

 品物を売る商人の瞳だと感じた。誰にも目を向けられる事無く売れ残ってしまった、けどそんなものにも価値は残っているのだと言うように。

 

「……墓場など、とっくの昔に決めている。だから俺はそれでいい」

「そうですか。……ええ、残念ですがそれが貴方の決断だと言うのなら、このサンポ受け入れますとも。

 友人が減るのは、実に悲しい事です」

「……まあ、御託はいい。

 それでお前はどうするんだ。来るのは近いんだろう?」

「勿論、おもてなしに行きますとも。旅人には案内が必要でしょう」

「……そうか、じゃあまたどこかで」

「ええ、貴方の旅の成就をお祈りしておりますよ。勿論、かけがえのない友として」

 

 慇懃無礼な聞き慣れた言葉を後にして、地上へ向かう。

 空を見れば、未だに吹雪へ閉ざされた世界が一つ。

 

「分かっているとも。この旅の終わりに俺は――」

 

 

 

 

 

「……残念、実に残念ですよヴィクターさん。

 ヤリーロ-Ⅵはどう足掻いても己だけでは滅びを免れなかった。故にナナシビトが来るのは必然。救済は彼らの手に委ねればいい。だが貴方は其を良しとせず、ただ我武者羅に、懸命に走り続けた。

 ですが運命は決して、貴方には微笑まないでしょう。その険しい旅路も乗り越えてきた苦難も全部、ただの徒労でしかなかったのですよ」

 

 

「けれど、貴方の価値はきっと。救えなかった誰かを、救うでしょう」

 

 

 





「保存されたテープ」
スヴァローグのデータに保存されていた会話の内容。

「……つまり地髄ならばやつの護りを突破出来ると」
「過程の段階を出ない。フレスベルグはまだまだ未知数の存在だ。仮に貴方のプラン通り進行したとしても、未知数の問題は出てくるだろう」
「構わない。いくつかそれで弾を用意してほしい。ベロブルグにいくつか旧時代のモノを用意させた。規格は合う筈だ」
「承諾する。それと別件ではあるが疑問がある」
「何だ」
「何故、そこまでこの星を救おうとする。人の意志でそこまで足掻く」
「……そうだなぁ」
「……」
「……あんまり深く考えた事は無かったけど。この星の空を見たくて。嵐が止んで、空が開けば、澄んだ彼方に銀河が見えるんだろうってな。それをさ、この星の人達に見せたいんだと思う」
「そのためだけに」
「ああ、そんなかけがえのないものを、見つけたんだよ俺は。きっとある。誰にでもだってある。ようやく、ようやく見つけられたんだよ」

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