愛を見つけた男の話 作:ベロブルグ市民
「……」
今頃、上ではブローニャとカカリアを追いかけて開拓者達が向かっている頃だろうか。
――であると言うのならば頃合いだ。
目覚めさせるなら今だろう。そして為すべき事を為すのも。
「上層へ向かうのか」
「……はい」
オレグに声を掛けられる。参った、何と言おうか全く考えていなかった。
意外と自分は考え無しに行動するタイプなのだと、この時初めて思い至った。
「話はスヴァローグから聞いている。お前の狙いと願い。……俺とナターシャも初めて知ったがな。他に誰か伝えていたのか」
「シルバーメインのジェパードと言う人物には。彼は聡明で義理堅い性格なので、上で話すとすれば彼以外には」
ヴィクターと言う青年が繰り返しの中で得た答えと未来。
それを果たすために、何もかもを終わらせるために。
「そうか……。なら足並みを揃える事は任せておけ。お前はお前のやるべき事をやると良い」
「はい……。今までお手数をおかけしました。それでも信じてくれた事に感謝を」
「気にするな、寧ろこういう時こそ年長者の出番と言う物だろうよ」
診療所へ向かう。
地炎の幹部――と言うよりは中核の下へ。
「……そう、本当なのね。やはりこの吹雪は明らかに異常だったもの」
「ああ、それを止めに行く。色々と上で仕込みもしてきた」
「貴方がフックみたいに悪戯好きじゃなくて良かったって思うわ。人体を理解する事は出来ても、心まで読む事なんて不可能だもの」
「俺からすれば救えるだけでも凄い事だと思うが」
「時間さえかければ誰でも出来る簡単な事よ」
それを簡単と言わないのではないだろうかと思ったが、言葉は伏せておく。
またいつものように小言が始まると思ったからだ。
――頭の上がらない人物で考えた時、上層ではカカリアが、下層ではナターシャが思い浮かぶ。
共通点は考えると多分キリが無いだろうけれど、怒らせると怖いという事だけは間違いない。
「……結局、貴方は私の治療を受けなかったわね」
手を握られる。幾人もの命を救ってきた、医術の手。
貴重なリソースを自分なんかには割くわけには行かないと、色々誤魔化してきたからその恩恵を受ける事は無かった。
「それでも、貴方には感謝している」
「?」
「貴方がこの街を守ってくれているから、俺は何の不安も無く上層に向かえた。シルバーメインとしても振舞えた」
「……らしくない事を言うのね」
「ああ、最後だからな」
最後――ああ、そうだとも。
ベロブルグと言う都市を見るのはこれで終わりになる。きっともう、生きて見る事はないだろう。
「……本当なら、貴方にもいて欲しかった。知らなかったのだろうけど、貴方がいる時のこの街は少しだけ、いつもより賑わっているのよ」
「そうか、なら良かった。俺もこの街が好きだからな」
「だから……帰ってきて、なんて貴方の願いを踏みにじるような事は言わない。自分のやりたい事を精一杯やってきなさい」
「ああ、行ってきます」
「……馬鹿な子。本当に、馬鹿な子……。
……生きてて、欲しかったのに」
まもなく極寒の審判を以て戦端が開かれる。
カカリアが狙いを定める。開拓者達を終わらせるとその力を振るおうとして――。
「――貴方の夢はここで終わりだカカリア」
「!」
彼女の腹から刃先が突き出る。
引き抜かれると共に、人の姿に戻った彼女は倒れ込み落下していく。
「お母様っ!」
ブローニャがカカリアを受け止めようとして、支えきれず。ベクターが共にそれを受け止めた。
「……これが、星核、か。こんなもののせいで……」
「ヴィクター!? いつの間に……」
駆け寄ろうとした三月を、丹恒が手で静止する。
何かを言おうと彼女が口を動かそうとして、ようやく違和感に気付いた。
「俺達を、利用していたな?」
「……さすが開拓者、旅慣れしているだけはあるな。貴方達に気付かれないためには骨が折れたよ。
とくに貴方には」
「生憎、そういった事に気付きやすくてな」
ヴィクターは手にした星核を見つめていた。
血に濡れた槍を払おうともしない。
「何で、アンタ、が……。裏切りって、何を裏切るのよ。私とアンタは同じ目的でしょう!?」
「いいや、違うよゼーレ。俺達は最初から違っていたんだ」
日常の記憶ではほとんど否定をしなかった彼。そんな口から、はっきりと否定の言葉が紡がれた。
「俺の目的は、全ての終わり。何もかもを終わらせる事。そのために貴方達を利用した」
「終わり……? まさかっ」
動き出そうとして、大地が揺れ始める。
その強さにヴィクター以外の全員が膝を着いた。
「さあ、目覚めろ! 神にも倒しきれず、この星に封じるしか手段が無かった終末の翼よ!
最早お前の目覚めを阻むモノは何もない! 思うがままに復讐へ駆けるがいい――フレスベルグ!!」
氷雪に覆われた大地が割れる。天へ響く程の巨大な咆哮。それは地を貫き、下層まで伝わっていると直感する。
姿を現したのは巨大な黒鳥――所々に走る赤い紋様が、ソレを明確な化け物であると告げていた。
ソレはヴィクターの背後へ着地すると、巨大な羽を地面へ付ける。
「裂界を、吸収している……!?」
「これ以上、好き勝手させる訳には行かない! 止めるぞ!」
攻撃を仕掛けようと動く彼らの前へ、ヴィクターが飛び降りる。
その道を進ませはしないと。
「今、アレはこの星の裂界とモンスターを吸収している最中でな。邪魔をさせる訳には行かない」
彼が手にしているのは錆びた剣ではなく、一本の槍だった。刃先は潰れているが、それでも芯は歪まず曲がらず、ただまっすぐに。
「見せて貰おう、変数の力」
保存された記憶
こびりついている記憶。誰かと殺し合っている。
立つ者は記憶によって異なるけれど、そのどれもが流血の果てにあったものだった。
……幾千幾万を超える死闘。
けれどそれでも貴方は、笑ってあの人達の幸福を願うのね。