旅人に命を捧げたい   作:一般テイワットエンジョイ旅人

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冒険者協会モンド支部

 冒険者協会。

 氷の国スネージナヤに本部が置かれるその組織は、依頼者と冒険者の斡旋業を行なう組織である。

 猫の捜索から秘境探索まで幅広い依頼が揃うその場所は、冒険のロマンを求める者や一攫千金を狙う者でごったがえしている・・・

 

 ことは無かった。

 各国に存在する冒険者協会の支部、その中でとりわけモンド支部はあまりにも深刻な人材不足に苦しんでいた。

 西風騎士団への志望者が多い影響なのか、モンドで冒険者を目指す若者達は他の国に比べて明確に少ない。

 「断罪の皇女」や「ベニー冒険団団長」等、将来有望な冒険者はいるが頭数は少なく、古株の冒険者も少ないため新人の教育も上手く回らない悪循環が繰り返されており支部長であるサイリュスは常に頭を悩ませている。

 

 そんなモンド支部の依頼掲示板、依頼と共に冒険者への勧誘のためのチラシも貼り付けられているそれを、2人の男女が眺めていた。

 

「うーん・・・これとかどうだ?"初めてお遣いする子どもを見守る"だって!」

「私の見た目だと完全に子どもを付け狙う不審者じゃないか、いいように理由をつけて西風騎士団に拘束されてしまう。」

 

 少女が掲示板の下の方に貼られてあった1つの依頼を指さし、それを男が身を屈ませながら覗き込む。

 

 ふわふわと宙に浮かぶのは、モンドにおける栄誉騎士である旅人の相棒こと"パイモン"。見た目は幼い少女のように見え自他共に女性としての認識を持っているが、実際は性別不詳であり、かつその素性は不明な不思議な存在である。普段は相棒である旅人、蛍と行動を共にしているが今回は旅人は不在のようであった。

 

「確かに、お前は見た目だけは怖いからな。でも良いじゃないか、西風騎士団に捕まっても結局騎士団で子どもの面倒を見る依頼が新しく舞い込んでくるだけだぞ!」

「まあそうなったら反省室でクレーと仲良く"ポンポン爆弾自動射出砲台"の開発の続きにでも取り組むか・・・」

「物騒だな!?何作ってるんだよ!」

 

 パイモンと軽快そうに会話を行なっているのは、背丈の高い男だった。

 冒険者達が見やすいよう、一般的な身長の人間に合わせて依頼が張り出されている掲示板を、屈んで見なければならない程度に男の身長は高い。

 その背丈だけでも周りも注目を集めるのだが、加えて彼の出で立ちも影響を与えていた。

 

 全身黒のスーツに黒のジャケットによって身を包み、金や宝石等の高級品を用いたと思われる装飾品いくつかが身につけられているのが見える。手先まで黒の革手袋を身に付け、足も黒靴で全身黒づくめという表現が相応しい。

 極めつけは昼夜問わずに身につけられたサングラスである。その奥にある目の色や動きが一切見えない程度の濃さを持つそれは、男の目線の情報を完全に隠し見た目の怪しさを助長させていた。

 

『明らかに見た目が裏稼業の人間にしか見えない、どう見てもファデュイ側の人間じゃないか』

 エンジェルズシェアにて1人の酔っ払いによって発せられた言葉。この発言に偶然居合わせたファデュイの構成員ことミハイルとリュドミラは否定しきる事が出来ず苦笑いを返す事しか出来なかった。

 

 端から見たら、幼い少女と怪しい大男の組み合わせだ。どう考えても事案である。

 西風騎士団か冒険者のいずれかが飛んできてもおかしくない状況であるが、お互いの雰囲気は長年の友人同士で織りなされる物のように見える。

 実際いつもの光景のようで見回りを行なう騎士は素通りし、付近にて依頼のための準備を行なう冒険者は気にも留めず自分の作業に集中している。

 近くで2人を見ている「栄光の風」店主のマージョリーや「冒険者協会モンド支部」受付嬢のキャサリンもやり取りを眺めてはいるが、特別アクションを起こす様子は無かった。

 

「じゃあこれはどうだ?"「鹿狩り」の客引き"!"「花言葉」の店番"!"「エンジェルズシェア」の配膳係"!」

「もう冒険じゃなくてアルバイトだな。・・・というか討伐任務とか、護衛任務とか、こっちの方が稼ぎが良いと思わないか?」

 

 男が貼り出されている依頼の中からいくつかを指さす。

 

 運搬用の熱気球の護衛任務であったり、ヒルチャールの討伐任務であったり、護衛・討伐任務の中ではかなり初心者に向けた物の数々。

 新米冒険者でもパーティーを組んで準備すれば対処可能、中堅以上であれば単独でも完了できる程度の依頼。

 冒険者協会は依頼を難易度でランク付けを行なっており、範囲はS~Dとなっているがこれらの依頼はC程度に当たる。

 

 キャサリンや同僚である冒険者達、それにパイモンは男がこれらよりも遙かに難易度の高い任務をこなしてきたことを知っている。これくらいなら軽々達成出来る程度の実力も持ち合わせているとも。

 

 だが、パイモンはその言葉にじとりとした目線を男に向ける。

 

「・・・おいらとアイツとした"約束"、もう忘れたのか?」

「・・・い、いや、それは分かってるが・・・ほら、スライムとかヒルチャール相手くらいなら私でも・・・護衛とかならそもそも出会わない可能性あるし・・・」

「そう言い出して、何回おいら達を裏切ってきたんだ?もう騙されないぞ。」

「うぐ・・・」

 

 大きかったはずの男の背中が、どんどん縮こまっていく。

 どうやら任務を受けるにおいて、パイモンと男の間には明確な上下関係があるようであった。それと男が何か大きな失態をパイモン相手に演じたことと"約束"とやらに逆らうことができないことも。

 

 幼い少女に見えるパイモンに大人しく従うしかない男。情けない光景に、その事情を知る周りの騎士や冒険者達も憐れむような目線を向け始める。

 

「・・・猫捜し、行こうか。」

「おう!キャサリン、これを受けるぞ!」

「はい!依頼受注ですね、少々お待ち下さい。」

 

 これ以上の追及を避けるようにか、男は任務の中でも初歩中の初歩である猫捜しを指さす。

 その依頼書をパイモンが剥がし、受付のキャサリンの元に持って行く。

 

 キャサリンも男の実力に見合わない依頼を渡されたことに何の疑問も浮かべず、速やかにそのまま受注が完了した。

 

「へへっ、さあ行くぞ!」

「・・・ああ。」

 

 猫を捜すため、ふわふわと飛んでいくパイモンの背中の後ろを肩をがっくしと落としながら男がついていく。

 その姿に向けられる周囲の視線に秘めた感情は様々だったが、少なくとも男が冒険者協会に所属して数年、幾度となく共に仕事をこなし、男の生き方、信念を理解している一部の冒険者達は皆同じ思いを持って男のことを見つめていた。

 

 

 "自業自得だろう"、と。

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