空っぽだった自分にさよならを   作:しぃ君

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 百合漫画原作を考えてたりする


16話「夏と恋」

 ◇歩夢◇

 

 風邪も治り、期末考査を終えた7月下旬。終業式だったこの日、俺たち生徒会メンバーは生徒会室に集まり2学期に向けての会議を行っていた。二学期で待ち構えているイベントは、9月の体育祭に10月の合唱祭、11月には文化祭も控えている。三連続イベントとは、忙しくなりそうだ。

 

 

「——というわけで、2学期も忙しくなりそうなんだけど……その前に、今は明日から始まる夏休みの予定が大事かな」

 

「生徒会でなにかやることでもあるんですか?」

 

「夏休みも登校はキツイよね~」

 

「そこら辺は大丈夫! 別に何日も予定を開けて欲しいってわけじゃないからさ。そ・し・て、やることは1つ! パトロールだよ!」

 

「ぱ、パトロール……? って、な、何するの、お姉ちゃん?」

 

「まぁ、これだけじゃわからないよね。僕の方から追加で説明するよ」

 

 

 俺たちの疑問を代弁したひなたの言葉に反応したのは凪先輩。彼は、丁寧にあかりさんのいうパトロールの内容について話し始めた。なんでも、学校の教師陣が行っている学区内の巡回業務の一部を生徒会の面々が代行する仕事らしい。先生だけでは関われない部分や、人員の調整から生まれた仕事らしいが、領収書を切れば先生たちがその日の飲食代を出してくれるシステムもあり結構人気なんだとか。

 もっとも、最悪の最悪は警察沙汰に発展するリスクもあるとかないとか、なんとも曰く付きだ。

 

 

 パトロールは基本男女ペアの二人一組。週に1回行い、それを夏休み期間中続ける。中でも、地元で行われる神社のお祭りには全員強制参加で拒否権はないときた。自由な学生に先生が揃うこの学園で秩序の側に立つとなると、途端にブラックな部分が出てくるのが不思議だ。正直に言えば明らかに生徒会の業務の範囲を超えている気もするが、メンバーからの反対意見は例年ほとんど出ない。

 

 

 無論、俺も反対する気はない。

 夏休みはどうせ暇だし、あかりさんにも滅多なことがなければ会えない。こうやって公然と会える機会は極力減らしたくないんだ。

 

 

「反対意見は……ないよね? なら、ペアを決めよっか。一応聞くけど、希望とかある?」

 

「俺は……特に」

 

「あたしも右に同じでーす! あっ、パトロールの予定だけ早めに教えてもらえると助かります!」

 

「はいは~い。凪くんとひなたは? 大丈夫そう?」

 

「僕も華乃ちゃんたちと同じかな。部活があるから予定は早めに聞きたいってくらいだよ」

 

「わ、わたしも! お姉ちゃんが一緒なら、いい、な」

 

「オッケー。んじゃ、私の方で調整しちゃうから、決まったら報告するね! それじゃあ、今日の会議終了! 各自解散!」

 

 

 部屋に響くあかりさんの声をもって、各々が帰る準備、又は部活への準備をし部屋を出ていく。いつもと同じく、残るのは俺とあかりさんだけ。残っても特に意味はない、意味はないけど、俺は彼女がソファにダイブするのを見送りながらカバンから取り出した本を開く。

 最近読むようになったのは絵の描き方についての参考書……のようなものだ。芸術大会以来、色々なものを読み漁っては絵を描いている。熱を感じているかの実感は薄いが、1つずつステップを踏んでいくのは新鮮な気分だ。

 

 

「勉強熱心だよね、歩夢くんは。またモデルになろうか?」

 

「いえ、今はまだ練習したいんで、また今度で」

 

「そっか。……そう言えばさ、パトロールのペアどうする? 君が何も言わないなら、私が勝手に決めちゃうけど」

 

「——何が言いたいんですか?」

 

「いやぁ、君は夏休みに全然私に会えなくてもいいのかな~って。こうやって2人きりで話す時間も減っちゃうわけだしさ」

 

「あかりさんが決めたことなら反対しませんよ——ただ」

 

「ただ?」

 

「一緒なら、いいなとは思います」

 

 

 嘘をつくつもりはない。あかりさんが決めたことに反対する気がないのは事実だ。それと同じくらい、一緒だったら嬉しいのも本当だ。生徒会のトップは彼女。あかりさんのイエスノーが生徒会の基本的な決定事項。俺自身それを疑うつもりはない。俺とあかりさんが組まないなら、彼女の中ではそれなりの理由があるんだろ。

 

 

 なにもなくそういうことを言う人じゃないのは知っている。

 知っているからこそ、あかりさんには俺を選んで欲しい気持ちがある。これは、紛れもない俺の我儘だ。

 

 

「ふふっ。別にそんな怖い顔しなくても、君と私は同じペアだよ。ひなたも一緒だけど、元々そう決めてたの。だって、来年もやるんだから先輩が後輩にやり方を教えるのは当然でしょ?」

 

「それも踏まえて男女ペアなら、俺とあかりさんになるしかない、と。意地が悪いですね、試したんですか?」

 

「わざとじゃないよ? 君の口から言ってほしかっただけ」

 

「猶更酷いですよ」

 

「ごめんごめん、ほら、もう少し涼んだら帰ろ? 今日は午前中だけだったし、最終下校時刻まで残るのは2学期になってから、ね?」

 

 

 結局、どこまでが考えた末の行動なのかわからない。微笑むあかりさんを見るとどうでもよくなってしまうのは、好きになった弱味とでも言うのだろうか。

 彼女と過ごしていると、わからないことばかりだ。

 

 ◇あかり◇

 

 暑い暑い、お昼過ぎの帰り道。

 私よりも背が高い歩夢くんの影に隠れながら歩いていた。他愛ない会話をする余裕すらない熱地獄。喉も乾くし、頬たれる汗が鬱陶しい。ワイシャツの下に肌着を着ているとはいえ、下着の線が気になる季節だ。

 

 

 直射日光に当たっていなくてこれなのだから、歩夢くんだって相当暑いはずなのに平気そうな顔をしているのが納得いかない。

 

 

「歩夢くんは暑いの平気そうだね、汗一つかいてないし」

 

「暑いですよ。でも、真夏の体育館に比べればマシです。蒸し風呂ですよ、あそこは」

 

「だね、集会も正直キツイし、今度夏場は放送とかで連絡済ませるように手配しようかな」

 

「いいと思います。熱中症にでもなったらたまったもんじゃないですし」

 

「はぁ~……にしても暑い。このままだと干からびそうだよ……コンビニとか寄る? 涼みがてら飲み物欲しいし」

 

「……飲み物だけならすぐ渡せますよ。俺、水筒持ってきてるので。勿論、あかりさんが嫌じゃなければですけど」

 

 

 彼はそう言うと、バックから1Lサイズの水筒を取り出し、私に見せる。コップタイプのものではなく、普通に飲み口がついてるタイプのやつだ。……今日何度も彼が口を付けたであろう、ものだ。

 前々から思っていたが、歩夢くんの羞恥心のラインはどこにあるんだろうか。体を押し付けるのはダメで、間接キスはあり。身体的接触がアウトと思えれば簡単だが、彼の手は少しだけ震えている。

 

 

 こういうのもダメなのかな。でも、それでも私に渡してくれるってことは、私ならいいってことなのかな。

 なんで、さっきみたいに上手くいかないんだろう。やっぱり、プランニングの問題なんだろうか。突発的な問題には散々頭を悩ませられることは多かったけど、彼が関わってくるとそれがより顕著になる。

 

 

 私の中で、彼という変数はどういう結果を生み出すのか未知が多い故なのか、はたまた……

 

 

「あかりさん? どうします?」

 

「……ぁ……えっと、頂こうかな? 因みに、何が入ってるの?」

 

「冷やした麦茶です。保冷用の水筒なのでそこまで氷も解けてないですし、味も薄くないと思うので」

 

「麦茶かぁ。いいよね、冷やした麦茶って! じゃあ、い、いただきます」

 

 

 受け取った水筒の蓋を開け、徐々に飲み口に唇を近づける。心を平静に。決して、表には出さない。普段通りの私を演じるんだ。そしたら大丈夫。大丈夫なはず。きっと、きっとそう。

 何度も自分に言い聞かせて、麦茶を口にした。味が薄いとか濃いとか、溶けた氷がどうだとか、わからなかった。

 

 

 間接的とは言え触れた唇に意識がいって、ただ冷たい液体が喉を通っただけで、何もわからない。事前に入っているものを聞いていなかったら、きっとトンチンカンな感想を口にしていただろう。

 焦らないで、落ち着いて。

 口にする言葉を間違えなければ、問題ない。

 

 

「……ぅ、む、麦茶美味しいね! 今度、いつも何飲んでるのか教えてよ」

 

「機会があれば、ぜひ」

 

「う、うん、よろしく……」

 

 

 やっぱりダメだ。

 ぜんっぜん大丈夫じゃない。

 顔熱いし、歩夢くんを見る度に唇の方に目がいっちゃう。意識しないようにすると、余計に、本当に余計に気が向いちゃう。

 

 

 たかが、間接キスでこれなら、もし、唇にするキスをしたら私……どうなっちゃうんだろう。

 

 

 君って、怖い。

 私が知らない私を引き出す君は、怖い。高鳴る鼓動が生き物みたいに、私を探し当てていく。

 君にしか見せない私が、増えていく。

 恐ろしい(幸せな)一時だ。終わらなければいいのに。

 

 

 次に君に会える日が待ち遠しくなるから。

 




 次回もお楽しみに!

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