空っぽだった自分にさよならを   作:しぃ君

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 百合小説はプロットだけ作って後回しになりました。
 二作品同時執筆なんて無理な話やったんや。


20話「それでも」

 ◇歩夢◇

 

 チケットに書かれていた情報を頼りに訪れたライブハウスは、集まった人の熱気で溢れていた。人、人、人。来週行く予定の祭りと遜色ない人口密度とそれによる熱の伝搬。俺は人波に流されるまま観客席の方に入り、ステージから少し離れたテーブルに身を寄せる。チケットに付いていたドリンク券は華乃なりの気遣いか、はたまたこの店のサービスか。交換したコーラを飲みながら、彼女のバンドの番を待つ。

 

 

 入れ換わり、立ち替わり、何組ものバンドが音を奏でてはファンの熱狂の中、ステージ端に消えていく。垂れ流される動画を観るように、俺はその光景を眺め音を聴く。いい歌だ。音にも不快感はなく、すんなりと耳に入る。

 けど、華乃がいう心に響く歌、心を動かす歌だとは俺は思えない。確かにいい歌だ、お金を払ってでも聴く価値があると思える音楽だ。ただ、熱中できるかどうかの話は別。

 

 

「……まぁ、あいつと会った頃よりかはマシか」

 

 

 少なくとも、華乃と出会う前の俺ならこの場所には来なかった。

 

 

 そう、彼女と初めて会ったのは——彼女が俺の視界に入ったのは転入から2週間が過ぎた放課後の音楽室。生徒会に入って、少しづつ活動し始めた頃の話。音楽の先生に頼まれ、授業で使う資料の荷物運びを頼まれた日のことだった。

 未だに慣れない校舎の中を彷徨いながら辿り着いた音楽室、僅かに開いた扉の隙間から歌声とギターの音色が廊下に響いていた。

 

 

 有名なロックバンドの楽曲のカバー。俺でも聴いたことがあるその曲を奏でる音は、悪くなかった。少しつたない英語の発音を補うような響く声、一朝一夕ではないギターの音色。その音楽に引かれるように入った音楽室の中に華乃はいた。今より淡い金髪を腰まで伸ばし、楽しそうに歌っていた。

 

 

『新田……華乃』

 

『ん……? あ! 同じクラスの中空じゃん! どしたの? 音楽室に用事?』

 

『……あぁ、音楽の先生に頼まれて、新田こそ、どうしてここに?』

 

『あたし? あたしは、う~ん……歌の練習のため、かな。まだ組んだばっかなんだけどさ、学校外でバンドやってるんだ! んで、来週の週末に初ライブなんだよ!』

 

 

 これこれ、と彼女に見せられたライブのフライヤー。その中、出演バンドの欄の一番端に華乃のバンドの名前があった。『ハッピーエンドガールズ』、彼女らしい、安直で真っ直ぐな名前。

 この時の俺は……正直、あかりさん以外の人はあまり視界にいなかった。クラスメイトも、生徒会のメンバーも、誰も。華乃のことだって、うるさいクラスメイトだから覚えてただけで、意識して記憶に留めていたわけじゃない。

 

 

 そんな彼女に俺は、歌の感想を求められた。

 聴いてたんだったら少し感想が欲しい、と。

 今でもそうかもしれないが、意識してない時の俺の口調は酷く足りてない。配慮もなければ、興味がなければ一言二言で会話は切れる。

 

 

 あの時、華乃に放った一言は、今でもしっかり記憶に残っている。彼女の怒りと共に。

 

 

『悪くなかった。嫌いじゃない』

 

『……それだけ? ほんとに?』

 

『これだけだよ。悪いけど、他の仕事もあるから、もう行くぞ』

 

『っ!? なにそれ! あったまきた! 絶対、ぜーったい! あんたにうまいって言わせてやるんだからっ!!』

 

 

 言いがかりもいいところだったが、思い返すと、俺の態度も中々に酷いものだった。曖昧な感想を零して即逃げなんて、やられたらあまりいい気分ではない。ただ、この出来事があったから、俺と華乃はより深く関わることができた。

 クラスメイトに最低限馴染むことができ、軽い世間話くらいのものならできるようになったのも、間違いなく彼女のお陰だ。突っかかってくる彼女に引っ張られ、段々と俺は自分の視界を広げることができた。

 

 

 あかりさんが火なら、華乃は風。灯った火を煽り大きくする風。

 だからこそ、今日のライブは不安だった。

 

 

 何度も何度も聴いた歌やギターの音色。聴き慣れたと言っても過言ではないそれに、俺自身どんな感想を言えばいいのか、わからない。

 きっと華乃は、お世辞や甘い評価なんて期待してないはず。俺は自分の本心で彼女の音楽に向き合わなければいけない。

 

 

 不安と心配が、心をざわつかせる。

 甘い、コーラの味だけが口に残る。

 

 

「次がラストのバンドです! みんな~! 最後まで盛り上がっていってねー!!」

 

 

 番が来た。

『ハッピーエンドガールズ』がステージに立って、華乃がマイクを取る。メンバーの紹介をして、これから歌う曲の紹介をして——始まった。

 

 

 それは誰でもない、華乃の叫び。

 不安も後悔も、緊張も絶望も吹き飛ばす歌。

 

 

 最初の数秒で、確信した。理解した。

 聴きに来て、本当に良かった、と。

 

 ◇華乃◇

 

 幼い頃から、音楽に触れて育ってきた。父の誘いから始まった、あたしの音楽の道。それは——決して平坦なものではなくて、いつも躓いたり転んだりしてばかりで、スムーズにいけたことなんて一度もなかった。欠片みたいな才能を何度も何度も磨いて、ヒビが入る度に継いで、走ってきた。

 

 

 自分の長所を、自分自身で上げるとするなら、『諦めないこと』。

 今、歌っている曲にはその全てを詰めた。

 

 

 才能、苦難、不安、緊張、走り続ける中で襲われ、悩んだ種の数々。何度も足を止めそうになった。夢は所詮夢だと、ゴミ箱に投げ捨てようとした。けど、あたしは単純だから、始まりの日を思い出してはまた立ち上がって走り出した。

 

 

 悩みの種は、全部努力で押し殺して、ただ夢を追う。

 あゆむはそう、夢の通過点であり関門。あたしの心を動かす音、ドームまで響かせる予定の歌をまずはあいつにぶつける。

 

 

 だから、響け。

 それでもって、言い続けるあたしの歌。

 怖いことも、嫌なことも吹き飛ばすあたしの歌。

 揺れようとしないあいつの心を、動かせ。

 

 

『——————!!』

 

 

 ラスサビを駆け抜け、ステージから音が消えた。収まることを知らない観客の熱狂の中、あたしたちは舞台からはけて、控室に戻る。手が、ずっと震えてた。演奏してる時も、戻ってきてからも、ずっと。ドクンドクンと高鳴る鼓動も、全部が透き通ってる。

 間違いなく、出し切った。

 これ以上ない音を、これ以上ない歌を。

 

 

 これが、この熱が、あゆむには届いたのだろうか。

 冷めきらない体のまま、帰る準備が始まり、あたしはバンドメンバーに引っ張られながら外に出た。

 

 

 そこには、あいつがいた。

 

 

「あゆむ……どう、だった?」

 

「よかった、すごく」

 

「……そっか」

 

 

 たった一言。

 それだけで、わかった。『好き』には届かなかったんだと。それ以上、口を開くと悔しさが漏れ出てしまいそうで、そっと離れようと一歩後ずさるあたしをあゆむの言葉が引き止める。

 

 

「あの場にいる何人に届いたとか俺にはわからないけど……少なくとも俺には届いたよ。何があっても、何にもなくても、それでも、って諦めないあの歌。……おかげで、もう一歩踏み出せそうだ。本当に、ありがとう」

 

「……あぁ、もう!」

 

 

 単純な自分が今だけは嫌になる。ここまで言われたら、『好き』に届かなかったのを許してしまいそうで、本当に嫌だ。嫌だけど、笑ってしまう。

 

 

「一回しか言わないから、よく聞いてなよ?」

 

「……おう」

 

「あんたは、あんたの好きを大事に、大切にしな。一人にだけ向けるなら、それ以外にいかないなら、なおさらね」

 

「肝に銘じておくよ。ありがとう、華乃」

 

 

 微笑む彼、笑うあたし。

 別れる前に、背中を思いっきり叩いてあたしは走り出した。あゆむへ向ける感情は恋とは違う。奇妙な友情というか、兄弟に向けるソレに少し似ている。

 どこかほっておけない、そんなやつ。

 

 

 一人の友人として、あいつのこれからがうまくいくことを、星に願っておくのも悪くないのかもしれない。

 どうか、もしもの時はあたしの歌を思い出せますように、と。

 

 




 次回もお楽しみに!

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