空っぽだった自分にさよならを   作:しぃ君

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2学期
23話「その先を望んだなら」


 ◇歩夢◇

 

 残暑も続く、二学期の始め。俺はあかりさんに頼まれた仕事をこなすため、視聴覚室を訪れていた。その、頼まれた仕事というのは──

 

 

「……体育祭の運営進行、か」

 

「なに〜? まだウジウジ言ってるの? 心配することないじゃん、あたしだっているんだし。2人ならなんとかなるでしょ」

 

「なんとかはするよ、会長からわざわざ頼まれたわけだし。問題は……」

 

 

 俺がこういうアクティブなイベントの進行なんかできるのか、という不安。心配とは、ある程度の自信があるから生まれる発想だ。今、俺の中にあるのは純粋な不安感。体育会系の部活やクラブにいたことはあるが、運営に回るのは始めてだ。

 勿論、事前の準備……もとい、今日やるべき事のアドバイスはあかりさんから教えて貰ったが、以前不安感は拭えない。

 

 

 二学期はイベントのオンパレードであり、あかりさんたちは合唱祭や、その先の文化祭に備えて動いている。だからこそ、トップバッターである俺たちがコケるのは大問題。最初が崩れれば後続が上手くいく可能性は極端に低くなる。続編がヒットしない映画よろしく、残念な気持ちで12月を迎えるのは想像に難くない。

 

 

「……失敗するかどうかなんて、そんなこと考えてる暇があるなら動かないと。時間は待っちゃくれないよ」

 

「そう、だな」

 

 

 大成功はあくまであかりさんの中だけの目標。俺はなるべく彼女の意志に添えるよう全力を尽くせばいい。簡単な話だ。

 変に凝り固まって動けないより、今は目の前の問題を解決するのが大事だろう。

 

 

「──失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

 

 そうして、自分の中の方針を定め視聴覚室の中に入ると、全学年の体育祭委員会のメンバーが静かに席につき、俺たちを待っていた。基本フリーダムなこの学校の生徒たちだが、イベント事には協力を辞さない生徒も少なくない。ここには、体育祭を全力でエンジョイするため、全力で物事に取り組む変に真面目な人達が集まっているのだ。

 

 

「えぇ、と。今日は、お集まりいただきありがとうございます。今年度の体育祭の運営進行を手伝うことになりました、生徒会副会長の中空歩夢と……」

 

「会計の新田華乃でーす、ども」

 

「至らない部分もあると思いますが、体育祭がより良いものになるよう力を尽くしますので、ご協力よろしくお願いします。それでは、本日の集まりの内容ですが──」

 

 

 拍子抜けだった、と思う。不安感に煽られて、最初の1歩がどうなるかビクビクしていたが、会議は驚く程にスムーズに終わった。やろうと思っていた、各学年のまとめ役や委員長などの役職の分担、毎年の目玉となる学年別特別種目の投票。

 順調も順調だった。特に気がかりだった学年別特別種目も、代々受け継いできた6競技の中から1つを選択して行う投票式だったが、争いやらが起きることはなく平和そのもの。あっさりと各学年の特別種目が決まり、今は例年の種目タイムテーブルと人数表を共有し、確認してもらっているところだ。

 

 

 本音を言えば、心底安堵している自分がいる。荒事にはならずとも多少揉めることを想定したが、こうもトントン拍子で進むのは予想外。物事が早く進み過ぎて手持ち無沙汰になるのも、そう、予想外だ。

 

 

「ね、言ったでしょ? なんとかなるって」

 

「……別に、俺もお前も何もしてないけどな。委員会のみんながしっかりやってくれたってだけで」

 

「それはほら、うちみたいな学園で体育祭の運営に参加しよう! なんて思うやつは基本体育会系のバカ真面目だったり、イベントエンジョイ勢だし」

 

「まぁ、それはそれで助かるけど……」

 

 

 イマイチ手応えがない。これも、俺がただ普通の成功を目指してるからなのか、はたまた彼ら彼女らの熱意に比べたら俺の熱はあまりに冷たいからなのか。わからない。

 でも、少なくとも雰囲気は良好で、問題の芽は見えない。このまま、この雰囲気が体育祭まで持ってくれればイベントの成功は確約されたも同然だ。

 

 

 ──もし、ここに立っていたのがあかりさんや凪先輩だったら、この雰囲気をより熱く、より良いものにできたのか。正解のない問題が頭の中をぐるぐる回る。

 

 

 回って、回って、結局は意味がないと切り捨てた。俺はあの2人じゃない。方針は今のまま、やれることをやれるだけやる。それだけだ。

 

 

 あとちょっと、あとほんのちょっとでも熱があれば変わったのか。そんな疑問は、そっと思考の隅に投げ捨てた。

 

 

 ◇あかり◇

 

 夏休みも開け、二学期のイベントに向けて走り出した初日の放課後。生徒会室には私が独り。ただ、ゴロゴロとソファに寝そべってスマホをいじっていた。合唱祭や文化祭の準備は着実に進んでいるし、残る心配は体育祭くらいだが……歩夢くんなら平気だろう。華乃ちゃんもサポートに入ってるしコミュニケーションで問題が起こることは少ない、はず。

 

 

 彼は、成長してる。

 きっと、今回のイベントの運営進行もいい起爆剤になって、歩夢くんを育ててくれるだろう。

 

 

「にしても……絵、ね」

 

 

 夏休みの課題として提出され、先生からも高い評価を貰うことが予想される彼の自由研究。絵の歴史、また技法の歴史や転換に関するレポート。図説付きで綺麗にまとめられたそれは、大学で出すもののようなしっかりとした形式に沿ったもので、見ている人間を意識したいいレポートだ。恐らく、と付けなくても、これが書けたのは間違いなく彼の絵に対する熱意の表れだろう。

 

 

 絶対はない。ないけど、会った時より確実に彼は前に進んでいる。私だけを特別視してることは……変わってないかもしれないが、以前よりは露骨にならなくなったし、ひなたや華乃ちゃん、凪くんともうまくやってる。

 話を聞けば、クラスメイトとの雰囲気も悪くないらしいし、彼が私から離れていくのはそう遠くない。

 

 

 と、勝手に思っている。

 夏祭りの彼の発言。私の言葉に対する返事。嬉しくもあり、時間が経つほどその言葉の意味を考えてしまう。

 いつか巣立つはずの彼。

 飛んでいく彼を、私が呼び止めたなら。

 

 

 折角羽ばたけるようになった翼を折ってでも、歩夢くんは戻ってきてしまう気が、する。私が望んだら、彼は進む未来を簡単に捻じ曲げてしまう、そんな予感がする。

 好いている。叶うなら来年もと、思っている。なのに、望んだら、全てを壊してしまう気がして、怖い。

 

 

 今、現在進行形で彼は自分の夢ややりたいことを見つけようと走っている。私を追いかけて始まったそれは、いずれ別の想いを持って走り続けなければ失くしてしまいそうなくらい脆く、弱い。

 

 

「……好きって、どうしたらいいんだろう」

 

 

 自分勝手に願うだけならいくらでもできる。わがままに願うなんて今まで散々やってきたのに、わがままを言いたい心と彼の行く末を見守りたい心。2つの心がある。

 彼に答えを求められた時、私はどうすればいいのか、わからないままで──胸が苦しい。

 

 

 だから、そんな怖くも嬉しい未来から目を逸らして、スマホに目を落とす。

 

 

「今日のデイリーミッション、やらないと」

 

 

 薄暗い生徒会室に、目に悪いスマホの光だけがポツンと灯っていた。




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