ガバガバ構成で申し訳ないです……
◇歩夢◇
体育祭まであと数日。凪先輩からのアドバイスに背中を押され走り出した日々は、あっという間に過ぎ去った。多分、人生で初めて、興味がない分野や人に積極的に関わった気がする。それくらい、新鮮な体験だった。毎日毎日、違う誰かを手伝って、知らない人と話してほんのちょっとは見識が広がった気がする。
見なくてもいいと思って見なかったものが、一種の記号としてしか捉えていなかったものが、それぞれ違う形となって視界に映った。
眩しかった。
あかりさんから感じるものとは違う。違うけど、みんな全力で、それ故に輝いて、色付いて見えた。
今日だって、そうだ。クラスの面々から誘われて来た、学年別特別種目の借り物競争や2日目の学年対抗である騎馬戦の練習。
正直、借り物競争に関しては練習の意味があるか甚だ疑問だったが、気が付けば笑みが溢れてる自分がいた。バカみたいな練習なのに全力で、馴染みの運動部3人トリオと組んだ騎馬で暴れ回って、楽しかったんだと思う。
不思議だ。あれだけ越えられないって思ってた一線が呆気なくて、みんなの表情がはっきりと目で見えた。
顔は覚えてたはずなのに、初めて見る表情が今日だけで数えられないくらいあった気がする。
燻ってた種火が一気に燃え上がるように、今が最高だって感じられた。これが青春だって、わかった。
「…………こんな、簡単だったんだな」
「後悔してんの? 今更?」
「してないよ。今にならなかったら、結局どっかで消えてただろうし」
「ならいいじゃん! 過去は過去。たらればなんて考える暇があるなら、今を楽しんだ方が絶対いいよ」
「……そうだな」
今を楽しむ。そう、楽しむことが、大切だったんだ。何でも義務感とか、やれるからとか、そういう風に考えてたら熱は一向に冷たいまま。燃え上がることもなく、燻る灰になる。
忘れてしまった熱たちも、きっと最初はそうだったんだ。終わりが見えてしまって、純粋に楽しむってことができなくなって、続ける意味も不透明になって、燃え尽きる。
でも、少なくとも今は、それを考えなくていい。終わりはもっと先で、別れだってまだ時間がある。
「当日……がんばらないとな」
「おっ、調子でてきた? あたしなしでもいける?」
「いや、流石にそれは辛い……辛いけど、今なら司会進行って役も楽しめる気がするんだ。体育祭委員会や、クラスのみんなと作る体育祭を」
「……ふふっ、クサイこと言うじゃん。似合ってないよ、そういうの。悪くないけどさ」
らしくないよな、わかってる。似合わないことも知ってる。そういうキャラじゃなかったし、当たり前だ。
それでも、向き合った時間は嘘じゃない。成功は前提だ。目指すのは思いっきりぶつかり合って最高に楽しめるような、大成功。あかりさんが、自分の矜恃から求めるものを、俺は自分の意思で叶えたい。
騎馬戦でしゃがみ回避をしたり、借り物競争のお題で人が出たらお姫様抱っこでもして持ってこいなんてバカを言う奴らと、全力で楽しみたいんだ。
だから──
「華乃も付き合ってくれ、俺のわがままに。大成功にしたいんだ、体育祭」
「──言われなくても、付き合うよ。あんたに書類仕事押し付けっぱなしだとバチが当たりそうだし」
「別にいいよ、それくらい。お前が居なくて俺だけだったら、円滑なコミュニケーションなんてできなかったし、生徒会がいる意義を果たせなかった。お互いできることをやっただけだろ?」
「それは、そうだけど……まぁいっか」
そう、諦めるような笑みを見せて、華乃は言う。続けて軽く肩を小突いてくる彼女を傍目に、俺は静かに決意を固め、祈る。
どうか当日は晴れますように、と。
◇華乃◇
まるで、魔法にでもかかったみたい。そんな言葉が似合うくらい、あゆむは変わった。元々悪いやつではなかったが、あたしたち以外と関係を持つようになって、あいつの視野は広くなり、細かいところまで気が利くようになった。
なんというか、意外だった気はあまりしなくて、むしろこっちの方が素に近い気もしたのは、あたしだけじゃないだろう。
生徒会の仕事をとっても、あかり先輩が受け持つところ以外は基本的にあゆむが拾って対応してたし、あたしや凪先輩が動けない時はそれとなくフォローして、助けてくれてた。仕事だから、そう言えなくもないけど、優しかったのは事実だ。
はまらず動かなかった歯車が噛み合いだしたかのように、彼は生き生きとしていて、見てて気分がいい。
「……これ、あの人は喜んでるのかな」
これは同性故の勘だが、あかり先輩は結構我が強いタイプだと思う。独占欲というか、そういうドロドロしたものを腹の中に抱えてる感じ。それでいて、あゆむを導いて、成長を望んでいるんだから難儀な性格だ。
今の彼は性格がまるっと変わったわけじゃないが、普段からは考えられない変化が起きている。
『華乃も付き合ってくれ、俺のわがままに。大成功にしたいんだ、体育祭』
あんな、前向き過ぎて怖いくらいの言葉を、あゆむから聞くことになるとは思わなかった。あかり先輩じゃなくても動揺するレベルの変わりぶりだ。
一重に成長と言うよりかは、もっと昔の彼に回帰したような、そんな感覚。
「……まぁ、あいつのあんな顔見れたの初めてだし、悪くないよね」
表情筋が仕事をしているとは思えないいつものあゆむからは想像もできない、楽しそうな、幼い笑顔。もしかしたら、取りこぼしたものがやっと戻ってきたのかもしれない。
だから、今はただ、あの表情が曇らないことを願うばかりだ。
どうか、体育祭当日が晴れますようにと、祈るしかない。
次回もお楽しみに!
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