空っぽだった自分にさよならを   作:しぃ君

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 週一投稿を早速破ったわけですが、私は元気です。


3話「いつか夢を見たなら」

 ◇歩夢◇

 

 人は常に変化し続ける生き物だと、あかり先輩は言っていた。正直、欠陥のある俺がその枠に入れているかは疑問があるが、だからと言って歩みを止める理由にはならない。教えられたことは守る。聞いたことは実践する。最低限、人と同じであるためにやっている事だ。

 

 

 課題を見せたり、掃除を手伝ったり、少なからずいいことをしている……はず。隣を歩く華乃を見れば、なんとなくそれは理解できる。

 彼女は、俺といる時にしては珍しく笑顔で鼻歌すら歌っているのだから、きっと悪くないはずだ。

 

 

「ほんと、ありがとね。あゆむ! 課題見せてもらっただけでも悪いのに、掃除まで手伝ってもらって……助かったよ」

 

「別に、これくらいなら……」

 

「ダメダメ、お礼は大事なんだから! そういう時は、どういたしましてって受け取っとけばいいの」

 

「……どういたしまして」

 

「うんうん、そういう感じ!」

 

「いや、なんで上から目線なんだよお前は」

 

 

 年上でもないというのに、何故か華乃はこういうお姉さんぶる時がある。他のクラスメイトでも対応が同じなだけに、特別というわけではないが変な気分だ。むず痒いというか、変な気恥しさがある。俺自身、顔にあまりでないのが唯一の救いだろう。

 もっとも、彼女に俺の抗議の声が届くわけもなく、お節介を焼くように話が進んでいく。

 

 

「昨日の今日でちょっと急過ぎる変化な気もするけど、良い感じじゃん。これを機に、もう少し笑ってみたら? ほら、にー!」

 

「…………」

 

「いや、笑いなさいよ。一人だけやってるあたしがバカみたいじゃない。ほら、にー!」

 

 

 自分で実演するだけでは無意味だと気付いた華乃が、俺の頬に指を押し付けて力づくで口角を上げるが──多分それは逆効果だ。作り笑顔だとしても、口だけが笑っていては本末転倒。彼女曰く、死んだ魚の目にも等しい濁った目と無理に口角だけ上がった俺の絵面は地獄だろう。

 

 

 もし、やることがあったとしても、それは俺が作り笑顔をしてでもなにか大切なことをしなければいけないと感じた時だけだ。それ以外で、人に嘘の表情を見せることはないし、したくない。そんな俺と華乃の戦いは3分ほど続き、先に彼女の方が音を上げた。

 

 

「……ごめん、やっぱ今のままの方がいいわ。こわい」

 

「怖くて悪かったな……ほら、行くぞ。廊下で奇行をしているのが見られたら面倒だろ?」

 

「……はぁ〜、あゆむって損なやつだよね。もう少し愛想良ければ、あんたをわかってくれる人も増えるのに」

 

「俺は、俺が信頼してる人が俺を知ってくれていれば満足だよ」

 

 

 あかり先輩も華乃も俺が変に勘違いされることを嫌っているが、本音を言えば俺にとってどうでもいいことだ。中空歩夢という空っぽな人間を、空っぽなままでも知っていてくれれば、理解していてくれれば俺はそれでいい。それで構わない。ただ、あかり先輩が『願う』なら、まぁ、それらしく振る舞う。

 

 

 誰かに嫌われることも、好かれることもどうでもいいが、彼女だけは別だ。俺を照らす灯りの前だけでは、少しでもマシな人間でいたい。優しくて、善い人間でありたい。──好かれたい。

 俺を動かすのはそういった熱だ。半年間も燃え続け、心を焦がす熱。

 

 

 叶うなら消えないまま、ただこの日々を過ごしていたい。ずっと続いて欲しい。実っても、実らなくても、この熱が消えない保証はないから。現在進行形で続く熱だけが、俺を生かしてくれるから。毎日毎日、あの部屋に行って新しい薪をくべる。心を満たす熱が枯れないように。

 

 ◇華乃◇

 

 二人だけの生徒会室。

 珍しくあかり先輩──生徒会長が居ないこの部屋は酷く静かだ。あたしは、レクリエーション大会の予算調整で過去の資料を読んでいるし、隣にいるあゆむは読書中。ゆったりと流れる空気の中で、電卓を叩く音だけが響いていく。

 

 

 喋るのは好きだけど、こういう時間も悪くない。あゆむが相手なら無理に気を遣う必要もないし、あっちが話題を振ることも多くないのでいつもなら──時間が過ぎていくだけのはずだった。

 

 

 きっと、昨日からの変化が彼の心を動かしたのだろう。あゆむ自身が気づかない、変化への渇望が無意識に彼の口を動かした。

 

 

「……華乃はなんで音楽を始めたんだ?」

 

「…………」

 

 

 なんとなく、真面目な話だなってわかった気がした。声のトーンが違うというか、いつもの雑談の時みたいな気楽さがない。ちょっとだけ堅苦しい空気。

 

 

 そういうのは嫌いだ。

 嫌いだけど、彼には恩があるし、不真面目に返すのはあたしのプライドが許さない。慎重に言葉を選んで、あたしは『夢』を語った。

 

 

「……小さい時さ、お父さんがライブハウスに連れてってくれたんだ。そんなに大きくなくて、人もいっぱいいたわけじゃないんだけど、そこで音を奏でてた人たちはみんな輝いてて──胸が震えた。熱くて、燃えるみたいな感覚があたしを焦がしてってさ、憧れたんだ」

 

「…………」

 

「あたしもああなりたい。あんな風に、誰かの心を焦がす音を、誰かの心を動かす音を奏でたい。それが、あたしが音楽を始めた理由。夢は、まぁ、安直だけどドームかな。あんな広い場所をお客さんでいっぱいにして、そこにいるみんなに音を届けられたらすっごく楽しいなって……どう? こんな感じでいい?」

 

「……あぁ、ありがとう」

 

 

 何を思ったのか、あたしの話を聞いたあゆむは普段からは想像もできない優しい微笑みを浮かべて、視線を落とす。

 熱は、心の原動力だ。

 心というエンジンを動かすのに必要な燃料だ。誰しもが持っていて当然で、それがないなんてありえない。

 

 

 でも、それが冷めてしまっている人も存在する。熱がなく、流れるまま毎日を過ごす人も存在する。仕方ないことだ。熱は無限じゃない。限界があって、それ以上はないし、限界を超えて壊れてしまったら元には戻らない。

 

 

「……あゆむは、そういうのあるの? 夢とか?」

 

「ないよ。ない……けど、嫌われたくない人はいる。俺が今頑張れてるのは、その人を好きでありたいからだ。その人に、好きになって欲しいからだ」

 

「へぇ〜、恋ってやつ?」

 

「かもな。わかんないよ。初めてだから」

 

 

 あぁ、もう、こういう時だけわかりやすいのが腹立つ。昨日もそう。あかり先輩が関わるとあからさまになる。どっちも恋愛偏差値クソ雑魚だから気付いてないだけで、矢印は特大だ。あかり先輩側からは微妙だけど、無意識の矢印は相応にあるだろう。

 

 

 応援はしたい、したいけど、気持ちは本人が自覚しなくちゃ意味がない。棚に上げてしまうけど、課題の答えとはわけが違う。恋愛の答えは、その答え1つで自分も相手も傷つける。だからこそ、他人の答えより自分の答え。考えて、悩んで、口にすることに意味がある。

 

 

「わかるといいね、あんたの思い」

 

「……叶うといいな、お前の夢も」

 

 

 夢、か。

 いつか、あゆむにもそういうものができるんだろうか。恋とは関係ない、自分の夢。恋以外の熱の矛先。

 

 

 もしできたら、その時は先輩として1つ助言でもしてやろう。あたしを憶えていれば、ね。




 次回もお楽しみに!

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