空っぽだった自分にさよならを   作:しぃ君

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6話「休みの予定」

 ◇歩夢◇

 

 レクリエーション大会の翌日。学級委員の助けもあり撤収作業等を済ませた生徒会は、今回のイベント報告書の作成に追われていた。……もっとも、書くのは書記代わりの俺1人なため、いつも通り生徒会室はあかりさんとの2人きり。

 ノートPCに無心で文字を打ち込む俺を、彼女はぼーっとしながら眺めていた。

 

 

「……特にやることもないですし、今日は上がってもいいんじゃないんですか?」

 

「いや~、帰っても暇だしさ~? だったら、ここで君を眺めてた方が楽しいんだよね~」

 

「そうですか……」

 

 

 なんとも不思議な理由だ。

 そもそも、今の俺なんて何の面白みもなくカタカタとキーボードを鳴らしているだけなのに、何が楽しいのか。昨日のことといい、中々にあかりさんは測れない。けど、まぁ、自分の作業で暇をさせるのもなんだか申し訳ない。無言の静けさは嫌いじゃないが、それはお互いがお互いに好きなことをしてるからだ。不干渉であるが故に心地いい。

 

 

 こうまじまじと見られて作業するのも落ち着かない、そう感じた俺はテキトーな雑談を振りつつ場を繋げた。昨日のレクリエーション大会の様子、すぐ先に控えた定期考査、夏に合わせて始まるプール開き、一学期のメインイベントでもある芸術大会。先のこと先のことを話す間に、時間は戻り話題はゴールデンウイークへ。

 

 

「ゴールデンウイークかぁ、今年は短いよねぇ」

 

「4日もあれば十分だと思いますけど……あかりさんは何か予定とかあるんですか?」

 

「特にないよ。4連休を満喫して、ごろごろするだけ。そういう歩夢くんは? 誰かと遊んだりするの?」

 

「いえ、俺も特には。……あ、でも、映画は観に行こうかなって考えてます。読んだことのある小説が映画化するらしくて、覗きに行こうかな、と」

 

「へ~! なになに、どんな内容なの!?」

 

 

 思いの外、あかりさんの興味を引けたのか、彼女は勢いよく映画の話題に食いついてきた。——とは言っても、小説自体は割と『王道(ありきたり)』な内容だ。流されるままに大人になった青年が、社会の波に揉まれる中で「1枚の絵」に出会い変わっていく、そんな話。過ぎ去った青春を取り戻すかのように絵描きを目指す青年のヒューマンドラマ。過去に好きだった片思いの女性や、主人公を絵描きとして育てる師匠、色々な人の想いが交差していく内容は評価が高く、既に公開された映画も滑り出し好調らしい。

 

 

 主題歌も有名な人が歌っているとかで、配信サイトでも数百万回の再生数を叩きだしたとか、悪いうわさが聞こえてこない作品だ。

 故に特別な面白味はない。90点を固く取ってくる映画なのだ。それが難しいと言われればそうだが、120点を狙う意欲作ではない。

 

 

 本当に、何がそこまであかりさんを突き動かすのか、謎だ。

 

 

「——とまぁ、あらすじはこんなもんです」

 

「なるほどなるほど……結構よさそうじゃん。私も行こっかなぁ~」

 

「おすすめですよ。原作になった小説も悪くないですし」

 

「そっかそっか。じゃあ、いつ行く? 土日の方が、私は都合付くんだけど?」

 

「……はい?」

 

 

 おかしい。

 なにがどうなった。

 どこから一緒に行く話になった。

 理解を拒むように放たれた、あかりさんの誘い。彼女と休日を共にするのは、俺自身嫌じゃないがそれとこれとは話が違う。

 

 

「……お1人で行かないんですか?」

 

「いや、そりゃあ私だって1人で行きたいよ? のんびりショッピングとか、喫茶店でお茶とかしたいよ? でも、でもさ……ナンパが酷いんだよね。1人でいると高確率でされるし、友達といても友達ごと誘われるしで迷惑かかるし……」

 

「ちょうどいい風避けが欲しい、と」

 

「昔は凪くんが居たんだけど、彼も忙しいからさ。歩夢くんさえよければ……ダメかな?」

 

「——いいですよ」

 

 

 この人、もしかしたら俺が断れないのをわかってやってるんじゃないか。一瞬、そんな考えが浮かんできたがすぐにやめ、あかりさんを見つめる。上目遣いで懇願してきた表情も、俺の答えに喜ぶ表情もいちいち絵になるんだから卑怯だ。

 一度目にしてしまえばずっと視線で追ってしまう。

 だんだんと、作業も手につかなくなる。

 

 

 多分、彼女ほど卑怯(綺麗)な人は他にいないんだろう。そう思ってしまうくらい、惹きつけられる。

 

 

「集合時間は帰ってから決めますか? 俺の作業、まだ時間かかりそうですし」

 

「だね。これ以上長居すると、本気で邪魔しちゃいそう」

 

「そうしてくれると助かりますよ。日程はあかりさんに任せるので、候補日と希望の時間、送っておいてください。確認して折り返しますから」

 

「はいはい〜! じゃあ、今日はお疲れ様~! 週末楽しみにしてるから~!!」

 

 

 荷物を持ってこれまた上機嫌に去っていくあかりさんを見送り、俺の視線はまたノートPCに移る。けど、思考までは追いついていなくて、彼女の笑顔が脳に焼きついていた。楽しみにしてる、か。

 俺は、どうなんだろう。

 彼女と休日に会うことを、楽しみにしているのだろうか。

 

 

 少なくとも、隣を歩いて恥ずかしくない格好にしないと。そんな考えだけが残り続ける。

 

 

「着れる服、あったっけ」

 

 

 男連中と遊びに行くならいざ知らず、隣を歩くのはあかりさん。違和感のない服を選ばなければ、待ち受けるのは居た堪れない視線の矢だけ。俺は平気だが、彼女に被害がいくのは問題だ。

 ——あぁ、でも、こうやって誰かのために悩むのも、悪くないな。

 

 

 不思議と、そう感じた。

 

 ◇あかり◇

 

 帰宅途中の帰り道。珍しく、1人でコンビニを出てきた凪くんを見つけた。彼とは小中高と続いた腐れ縁だが、私の素顔は知らない。特別仲がいいわけでもなく、あくまで付き合いの長い幼馴染み。

 多趣味で青春を謳歌したい彼と完璧で優秀な生徒会長として平穏無事に学園生活を終えたい私は、悪くないパートナーだ。予算関係で起こる部活動との摩擦も凪くんというワンクッションが挟まるだけで格段に楽になる。

 

 

 問題があるとするなら……それは彼が時々見せる察しのよさだろう。

 お陰で何度も素顔がバレかけたのは心臓に悪い思い出だ。

 

 

「あっ、あかりちゃん。もしかして今帰り? 今日もお疲れさま」

 

「おつかれ~、凪くんも部活帰り?」

 

「そうそう。後輩にたかられちゃってさ、よかったらあかりちゃんも一口どう? あんまんだけど」

 

「いいよいいよ、私は生徒会でお菓子とかつまんでたし」

 

「わかった……にしても、どうしたの? 今日はいつもより機嫌いいみたいだけど? いいことでもあった?」

 

 

 ほんと、こういうとこだ。

 細かい変化に気付くのは女子ポイントが高いが、自分の無意識に気付かれるとビクビクする。いくらモテ男子と言えど、察しのよさも困りものだ。

 ──いや、もう、意識すると口が緩む。休日のお出かけ、彼が観たいと感じた映画への期待。歩夢くんをより深く知る絶好の機会を掴んだんだ、嬉しくないはずがない。

 

 

 けど、それはあくまで表に出さない。同じ女子の華乃ちゃんならいざ知らず、彼に素に近い部分を見られるのは恥ずかしいなんて言葉では言い表せられない。

 

 

「少しだけ、ね。ゴールデンウイーク、歩夢くんと遊びに行くことになったんだ。彼のお出かけに無理矢理ついていくみたいな感じだけど」

 

「デート?」

 

「違う違う。本当に、ただ遊びに行くだけだよ。彼のこと、もっと知りたいの」

 

 

 そう、本当にそれだけ。

 彼のことを知って、私の中にある彼への想いを理解したい。私の素顔を知る彼、誰にバラすこともなく傍に居る彼。理解して、言葉にしたい。好きとか、嫌いとか、ハッキリさせたいんだ。掴みどころのない彼が、私の心に引っかかり続ける理由を見つけたい。

 

 

 昨日感じた彼の体温、匂い、思い出すとちょっとだけ心が温かくなる、そんな感覚。歩夢くんは大事な後輩で、理解したい人。

 もし、理由に答えを出した時、彼は私をどう思うんだろう。変わらず傍に居てくれるだろうか。それとも——

 

 

「それだけは、怖いな」

 

「ん? 何か言った?」

 

「なんにも~。ほら、早く行こ?」

 

「帰りが遅いと心配させちゃうもんね、おじさんたち」

 

「子どもじゃないんだけどね」

 

 

 答えで彼か消えた時、私は——どう思うんだろう。

 そんな未来は、あんまり考えたくなかった。

 




 次回もお楽しみに!

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