空っぽだった自分にさよならを   作:しぃ君

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 構成を学びたい。


9話「あかりとひなた」

 ◇歩夢◇

 

 中間考査も明けた五月の下旬。衣替えも済み、多くの生徒がブレザーからワイシャツのみで登校するようになった頃、廊下の壁にテストの順位が貼り出された。今のご時世では中々みない光景、それを見に多くの生徒が集まる。学園長曰く、生徒の競争意識を高めるためだなんだと言っているが、この学園のモットーは『自由』。生徒は自分や友人の順位で一喜一憂し、その場を去っていく。

 

 

「……ん、前回より少し上がってる」

 

 

 かく言う俺も、その1人だ。喜んだり悲しんだり、オーバーなリアクションはしないが自分の普段の勉強の成果を確認くらいはする。順位は118人中23位。ギリギリ上の上に届かないくらいだが、前回より10位近くも上がったんだから悪くないだろう。それに下を見れば、87位には華乃がいる。彼女も、前回の3桁位から脱却してるのだから勉強会の意味はあったことがわかる。

 

 

 ただまぁ、俺の理想は遥か遠い。

 

 

「また1位か。ほんと、いつ勉強してるんだ、あの人は」

 

 

 3年生の学年1位、そこに堂々といるのがあかりさんだ。凪先輩の話によると、入学当時から今に至るまで1回も1位の席を誰にも譲ったことはないらしい。——恐ろしいのはそれだけではない。『自由』を掲げるこの学園は、実績さえ出していればある程度の単位不足は免除される。故に、変人・奇人・天才がそこそこの確率で紛れ込んでいるのだ。才能の方向性は個人によるが、3年生には大学の研究室に呼ばれ足しげく通っている生徒もいるとか。

 

 

 あかりさんはそんな中でも1位を取り続けている。並みの執念ではないはずなのに、俺やみんなにはそれを見せないんだから底が見えない。敵わない人だ。

 

 

 だけど、唯一わかることがある。それは、あの部屋(生徒会室)は俺や彼女にとって数少ない居場所だということ。いつもと同じように、今日も2人だけの生徒会活動が始まる。暇があれば、勉強のコツなんかを話題にするのもいいだろう。

 

 

 なんて、俺がのんきに考えていると……生徒会室の前に1人の少女が居るのが見えた。人見知りなのか、おろおろと辺りを見渡しながら何度も生徒会室のドアを叩いている。その音も弱々しいところを聞くに、なにか緊急の用事なのだろう。

 

 

「あー……えっと、生徒会室に何か用? 俺でよければ話を聞くけど……」

 

「あっ! あの、その、お、お姉ちゃんいますか!?」

 

 

 振り絞った大声が耳に響き、廊下に木霊する。

 プルプルと震え目に涙を浮かべる少女。俺と頭2個分は身長が違う癖毛の彼女の名前は——楠ひなた。あかりさんの妹だった。

 

 ◇

 

 事情を軽く伺い、少女——ひなたを生徒会室に招き入れた俺は彼女の対面に腰を下ろし、荷物を置いた。話を聞くに、姉であるあかりさんに呼ばれ放課後の生徒会室に来たらしい。もっとも、肝心のあかりさんは先生に呼び出され仕事を押し付けられたのか、時間になってもこの部屋に来ず。ひなたは途方に暮れていた、とのことである。

 

 

 それにしても、あかりさんの妹か。

 以前それとなく話は聞いていたが、雰囲気は正反対な印象を受ける。いつも……もとい他人の前では凛々しくキリっとしたあかりさんと違い、ひなたはどこか弱々しくへにゃっとしている。ライオンの前にいるチワワ、程ではないがあまり人慣れしていない小動物のようだ。

 

 

 容姿もそう。姉であるあかりさんとは違い、癖毛なのかもふもふとした黒茶の髪は、余計に小動物らしさを演出し童顔とたれ目、少女らしい体形がそれを補強する。

 

 

 ただ、瞳だけは同じだ。弱々しさの中に1本の固い芯がある黒い目。なにか譲れない夢があるのか、信念があるのかわからないが、綺麗な目だ。

 

 

「ぁの……わたし、なにか変ですか? さっきからずっと、こっちを見られてますし」

 

「……いや、会長の妹さんの話は聞いてたんだけど、君みたいな子だったんだなって」

 

「あはは、似てない、ですよね。よく言われます。わたし、お姉ちゃんみたいにかっこよくも綺麗でもないし、頭もそんなによくなくて、運動もダメダメで……」

 

「姉妹でも似てるか似てないかなんてそれぞれだよ。少なくとも……君の目は会長によく似てる。強い芯がある綺麗な瞳だ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「嘘なんて言わないよ。少なくとも俺は君と会長が姉妹だと確信をもって答えられる。それくらいよく似てる」

 

 

 お世辞でもなんでもない。俺が思ったことだ。

 それでも、ひなたは嬉しかったのか小さく笑みを零し、感謝の言葉を呟いた。それからは、彼女の緊張も解けたのか話も弾み、あかりさんが来るまで2人だけの沈黙に遭遇することもなかった……が結局、ひなたが生徒会室に呼ばれた理由は最後までわからず仕舞い。

 ただ、まぁ、先輩と呼ばれるのは存外悪くないということがわかっただけでも、よしとしよう。

 

 

『中空先輩』、か。不思議な気分だ。これも、ひなたの庇護欲をそそられる雰囲気特有のものなのだろうか。謎は増えるばかりだ。

 

 ◇あかり◇

 

 学校からの帰り道。ひなたと手を繋いで帰る時間は、彼と居る時とはまた違う癒しや温かさがある。——けど、今日はそののんびりとした気分に浸れるほど、私は心穏やかではなかった。

 初めに、歩夢くんがひなたが私に似ていると言ってくれたのは、いい。ひなたも喜んでたし、何より文芸部と生徒会活動の兼任も引き受けてくれる言ってくれた。

 

 

 だが、だが、だが、許せない。

 普通、おかしいでしょ。

 いや、私の妹はハチャメチャにかわいいが、まず最初に『綺麗』と言う相手がいつも目の前にいるだろう。

 確かに、確かに、私だって綺麗と言われることは珍しくないが、それは基本どうでもいい相手や身近な友達からだ。 

 

 

 大事なのは、誰から言われたか。

 彼が軟派な性格じゃないのは知ってるし、そういう言葉を滅多に言わないのも知ってる。知ってるからこそ許せない。そもそも、誰の許可を得て私のかわいいひなたを口説いているんだ。いや、そんな意図が微塵もないのは理解しているが、それが猶更許せない。

 

 

 気合を入れて遊びに行ったデートの時も、似合ってる以上の言葉を結局言ってくれなかったし、それなのに軽率に優しいのか鈍感なのかわからないことしてくるし。

 匂いを嗅ごうと思った時に見た初心な君はどこに行ったんだ、全く。

 

 

 ──いや、待て。

 もしかしなくても、私、当ててたのか。

 匂いを嗅ごうとしてた時、もしかしなくても思いっきり当ててた? 

 

 

「っぅ~~~~~!?!?」

 

「お、お姉ちゃん? どうしたの?」

 

「……なんでもない」

 

「ほ、ほんと? どこか辛かったら言ってね?」

 

「平気平気、だいじょうぶ、だから」

 

 

 まさか、乙女の恥じらいがここになって出てくるとは。でも、あれから彼の態度に変化は見られないし、特別はしたいない娘に見られたってことはない……はず。

 あぁ、もう、なんだか最近変だ。

 彼を理解しようとすればするほど、自分のことすらわからなくなる。

 

 

 決めた。今度、彼から絶対に『綺麗』って言わせる。

 もし、もしもその時、私の体が変なことを起こしたら……改めて考えよう。私が歩夢くんに向けるもやもやとした思い、その正体を。

 

 

 彼を理解し、彼を通して知ろうとした私の思いを。

 




 次回もお楽しみに!

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