葬送のIFリーレン~道を曲がってしまったエルフとその影響について~ 作:無名
勇者ヒンメルの死から28年後。
北側諸国 グラナト伯爵領。
夕暮れの街の路地を、途中で調達した黒いポンチョのフードを目深に被りながら、私は歩く。
(早く、この街から離れないと)
今、私の置かれている状況を考えれば、とにかくここを出るのが先決だ。
かえって目立つので走り出すわけにはいかないが、なるべく足早に道を進む。
そうする私の前方には、こちらに歩いてくる赤髪の戦士と紫髪の魔法使いが見える。
……顔を伏せたまま、その二人の横を通り過ぎる。
「フリーレン様?……フリーレン様ですよね?」
「フリーレン!?何でこんなとこにいるんだ!?」
しかし2人ともにすぐ気づかれた。フェルンはともかくシュタルクまでやたらと目敏い。
ともあれ前に回り込まれて顔を確認されてしまったので、もう誤魔化せない。
ここで騒がれるのは困るので、横道の目立たない場所を指さして、3人共でそこに入る。
「なんで2人ともこっちに歩いてくるのさ」
「なんでって、フリ-レンを釈放してくれって伯爵に頼みに行くとこだったからだよ」
「その必要はなくなったみたいですけど……フリーレン様、まさか脱獄したんですか?」
「……仕方なかったんだよ」
そもそも投獄された理由自体が理不尽極まりないのだ。
街中をなぜか堂々と魔族が3匹も歩いているから、即断で殺そうとしただけだというのに。
それで衛兵に捕まって、しょうがなく入った牢で聞いた事情はと言えば、魔族が寄越してきた和平の使者だという。
まさに馬鹿げている。魔族との対話など、するだけ無駄だ。特にそれが、和平などを目的としたものであれば。
しかしまさか人間の衛兵を傷つけて逃げるわけにもいかないから、逃げる隙ができるまでは大人しく捕まっている気だったのに。
「牢にいたらドラートとかいう魔族が襲ってきてさ。なんとかそいつは倒したけど、そいつ牢番の衛兵を殺してたんだよね」
「……大変だったんだな。怪我とか……はしてなさそうだな」
「それはしてないけど、魔族って死んだら粒子化して消えちゃうじゃん。その場に残ったのは魔法使いの私と、魔法で殺された衛兵。この状況どう思う?」
「衛兵殺しで極刑ですね」
「でしょ。面倒くさいから私は街を出るよ。じゃあね」
流石に濡れ衣で死刑にされる謂れはない。旅立ちの日に処刑されかけたヒンメルとアイゼンじゃあるまいし。
そうして立ち去ろうとする私に、フェルンが声をかける。
「…待ってください。それだと残りの魔族が野放しに……この街を見捨てるつもりですか?」
「フェルンたちで倒せばいいじゃん」
「そんな簡単なことみたいに……」
「俺たちが敵うような相手じゃねえって」
フェルンの質問に簡潔に答えたら、2人ともに弱気な返事が返ってきた。
なぜそうなるのかわからないので、とりあえず発破だけかけておく。
「相手が強かったら戦わないの?……それに私は、2人があいつらより弱いだなんて微塵も思っていないよ」
それだけ言って歩き出すと、背後からバッとしゃがみ込む音がした。そしてシュタルクの叫び声が続く。
「待ってくれよ!!戦うからさ!!せめて手伝ってくれよ!!この通りだ!!」
どうやら土下座して頼み込んでいるらしい。……なりふり構わないのはある意味彼の長所だが、その程度で私の心は動かない。
そのまま歩みを進めると、先に腹を括ったらしいフェルンの声が聞こえてくる。
「往生際が悪いですよ。腹を括って……何してるんですか、ちょっと……全然動かない。なんなんですかこの人?」
「せめて助言だけでもしてくれよ!!お姉さんなんだろ!?頼むよ!!」
……気になる単語が聞こえたので思わず振り向く。
土下座の姿勢のまま石畳にしがみつくシュタルクと、何とか引きはがそうと頑張っているフェルンが目に入った。
これは『体に触れているものを固定する魔法』の応用……ではなく、単に石畳の隙間に指をかけて無理やりしがみ付いているようだ。
その握力を褒めるべきか、往生際の悪さに呆れるべきか……
しょうがないな。
そのまま私が戻ってきたのを見て、二人とも驚いたようにこちらを見て黙った。
そうして土下座のままでいるシュタルクを見下ろして、口を開く。
「……助言っていうけどね。そもそも、たぶんあいつら2匹合わせても紅鏡竜より弱いでしょ。そんなもの必要ある?」
「そんなことないだろ?街中で、あいつらはフリーレンの事しか見ていなかったぞ。俺たちなんかいつでも殺せるって思ってた証拠だ」
「それは魔族の特性による思い込みだね。フェルン、前に魔族の特性は話したよね?なんでかわかる?」
シュタルクの疑問に直接答えず、フェルンに問いかける。すると答えが返ってきた。
「……魔力量でしょうね。それでフリーレン様以外は警戒に値しないと判断したのかと」
「そうだね。そしてそれは、こちらからも言えることだ」
体外に表出している魔力量。これが多いか少ないかは、魔法使いの修練を積んだ者には普通は一目瞭然だ。
勿論これだけで技術面や魔法の特性までは判断できないので、これのみで強さを判断するのは軽率ではあるのだが。
しかし少ない魔力で使える魔法はやはり質も規模も劣ったものになるのは事実で、だいたいの実力を見る指標にはなる。
そして魔族はこの魔力量による判断に頼る傾向がかなり強い。
まず魔族は基本的に魔力量により仲間内での序列を決めているので、それによる刷り込みがある。
そのうえ魔族は、何やら魔法使いの誇りというものを奴らなりに持っているのだ。
だから本能のみで判断し、時に魔力以外の強さを察する魔物よりも、かえって偏った見方をしがちなのだろう。
こちらにとっては好都合な事だ。自身の魔力量という強さを、隠さず誇示してくれるから。
ともあれその魔力量で判断するならば、あの2匹ではおそらく紅鏡竜に歯が立たない。
何の魔法を使うのかは知らないが、魔力量から想定できる火力ではとても紅鏡竜を仕留められそうにないからだ。
防御面も同様で、あの程度の魔力で使える防御手段では、紅鏡竜の攻撃を捌き切ることは到底できない。
なのでその紅鏡竜を倒せるシュタルクに、フェルンまでいるなら普通に考えればまず負けはない。
そう思ったのだが、しかしフェルンもまだ納得していない様子で私に聞き返してくる。
「しかし、それはあくまで推測でしょう。奴らがどういう魔法をいくつ使うのかもわかっていませんし……」
「魔族は1つの魔法を生涯研鑽するから、原則使う魔法は1匹につき1つのはずだよ。例外がないとは言えないけどね」
「そうなんですか。例外というのが気になりますが、1つだとすればそれに上手く対処ができるかどうかですね……」
「あとそれとは別に飛行魔法はどの魔族も使うから、それは警戒すべきだね。特にシュタルクは、飛ばれる前に仕留めた方がいい」
「……2つ魔法使うのは例外じゃなかったのか?どうなってるんだ」
「飛行魔法は奴らにとって魔法ですらないんだよ。ただ歩くのと同じように、できて当たり前のものなんだ」
だからそれだけでも、かつての魔族は人類にとって脅威だった。
人の届かぬ空から一方的に攻撃されるというのは、実に厄介なものだった。
とはいえ空からの遠距離攻撃だけで狙って戦士にとどめを刺すのは骨が折れるので、結局は下りてくるだろう。
それに今は人の魔法使いも空に上がれる。もはや空は魔族と魔物の独壇場ではない。
そして、今の2人が根本的に気にするべきはそういう能力の話ではなく、心構えだ。
最後にそのことだけ伝えておくことにする。
「そもそも奴らの魔法なんて見なくていい。できるなら、不意を打って殺すんだ。相手が構えるのを律義に待つ必要はないよ」
「……それはそうか。何もさせずに倒せたら、それが一番いいよな」
「躊躇せず、殺せる時に殺すようにね。もし逃がしてしまえば後でこちらが奇襲される恐れもある。奴らは決して馬鹿じゃない。狡猾だ」
「……わかりました。なんとかやってみます」
「じゃあ、助言は終わり。頑張ってね」
そういって再び彼らに背を向けて、歩き出す。
しかし去る前に、土下座をやめて立ち上がったシュタルクが問いかけてきた。
「……ただ街を出るだけじゃないんだろ、フリーレン。何をする気なんだ?」
「内緒。上手くいったらこっそり街に戻ってくるから、その時に合流しようか」
「なんだよそれ?俺たちにも言えないようなことなのか?」
「私の事はいいから、そっちも上手くやってね。じゃあね」
後ろ手に手をひらひらと振って、そのまま歩みを止めずに進む。
流石に追いかけてはこないようだ。それでいい。
……これからやる予定の戦いには、賭けの要素がいくつかある。
殺し合うのだから、絶対安全な保障などないのは当たり前だが、最悪の場合でも2人を巻き込まずに済むほうがいいだろう。
だから私1人で向かう。ここから約10㎞先で感知できる、絶大な魔力反応のもとへと。
「私だって強い相手との戦いは大嫌いだ。嫌な事は早めに終わらせないとね」
そう独り言ちて、なお歩き続ける。……そして街を出た。
そのまま歩き通して、すっかり日も暮れて夜になったころに目的地に着いた。
そこは周囲を森に囲まれた、平地といったところだ。
その平地に並ぶのは夥しい数の首なしの騎士たちと、一匹の魔族。
死者の軍勢の先頭にいるその身覚えある魔族に、冷たく声をかける。
「久しぶりだね、アウラ」
「そうねぇ。80年ぶりかしら、フリーレン」
微笑を浮かべたまま答えるその魔族は、断頭台のアウラ。
唯一無二の魔法である
手に持った天秤に自分と相手の魂を乗せ、現在の魔力量を比較し、勝った方に永劫の支配権を与える魔法。
リスクをあえて受け入れることで、魔法は強くなる。今時あまり使われない古い理論だが、これは事実でもある。
アウラは自分が逆に支配されるリスクを呑むことで、対象が死してもなお続く永劫の支配などという非現実的なことを実現している。
そしてアウラはそのリスクを事実上踏み倒している。自分が500年以上生きた、人に比べて絶大な魔力を持つ魔族であることによって。
しかし80年前、その魔法を使うより速く斬り付けたヒンメルによってこいつは撃退された。
それ以後は鳴りを潜めていたのだが、しかし牢で一度面会に来たフェルンから聞いた話によれば、ヒンメルが死んだ直後に再び暴れだしたらしい。
それから28年間ずっと、かつてヒンメルに侵攻を阻まれたグラナト伯爵領地の街を再び狙って攻撃しているようだ。
そして遂には、偽の和平交渉で使者を受け入れさせるなどという絡め手まで使いだした。
おおかた目的は、街を守るフランメ大結界の解除といったところだろう。
……なんとも臆病で、慎重で、執念深く、そして狡猾な事だ。こいつを見過ごすことはできない。
しかしわかりきったことだが、一応撤退の意思はないのか確認だけはしておく。
「この先の街に行くつもりでしょ。引き返してくれるとありがたいんだけど」
「嫌よ」
「なんで?」
そう返してくるのは想定内。しかし一応聞いた質問への返答は、少々予想外だった。
「あの街に和平交渉に行ったドラートが死んだわ。リュグナーもさっき死んだ。交渉は決裂よ」
「交渉なんて口実で、騙して結界を解除させたら街を襲う気のくせに」
「そんなことないわ。2人が死んだのは、どうせあなたの差し金でしょう?あなたのせいで交渉が決裂したのよ」
「嘘ばかりついて、本当に不愉快だね」
……アウラの言葉を聞いて長距離探知で確認したところ、確かに街から魔族の反応らしきものが一つ減っている。
どうやらフェルンたちがもう、魔族を1匹始末したらしい。これについては本当のようだ。
それも街中で捕まった時に聞いた名前によれば、使者代表のような振舞いをしていた男の魔族だ。
仕事が早くて良い事だ、と思いながらアウラとの無駄な会話を続ける。
「大体それならなおの事、引き返したらどうだ。もうお前の計画は失敗したようなものだろ」
「まだリーニエが残ってるわ。あの子は若いわりに使えるから、きっとやってくれるわよ。それにね」
アウラの言葉と同時に、1体の首なしの騎士が一気に攻め寄せて斬りかかってきた。横に避けて躱す。
……しかし、そのわずかな間に他の騎士に囲まれる。
「まだまだ私の方が、圧倒的に優勢なのよ」
「そう」
ここからは、殺し合いだ。
囲んで順に攻撃してくる騎士たちの斬撃やら刺突やらを、走って避け、退いて避け、しゃがんで避け続ける。
「どう?私の不死の軍勢は強いでしょ?」
……アウラはそう言うが、おそらく本来の彼らの実力はこんなものではないはず。
力こそ生前のままだとしても、己の意思なき者たちの動作は全体的に荒く、軌道の予測がしやすくなっている。
そうでなければ、魔法使いの私が至近距離で避け続けられるはずもない。
ただしアウラのいう強さはそういう事ではないのもわかっている。
もはや彼らは疲れる事はない。痛みも感じない。恐れも迷いもしない。
馬鹿正直に接近戦に付き合っていれば、いずれ狩られるのは私の方なのは目に見えている。
なので、こうする。
「……驚いたわ。私の魔法を解除するなんて。こんなことは初めてだわ」
私が杖から放った解除の光を浴びて、周囲数体の死者たちはアウラの支配から解き放たれた。
彼らは本来そうであるべき眠りについた。もう起こされることのないように願う。
……80年前、ヒンメル達と一緒にアウラと戦った後に研究して、やっとできたのがこの解除魔法だった。
しかしいまだにアウラの支配の魔法自体は解析できていない。魔族の魔法は、時に人には理解しきれないほどに高度で複雑だ。
とはいえ解除されただけでもアウラにとっては驚きらしく、そのまま問いかけてくる。
「でもこれほど強力な解除魔法、魔力の消費も相当なものになるはず。どうしてこんな回りくどい事をするの?前はもっと派手に吹き飛ばしていたじゃない」
「後でヒンメルに怒られたんだよ」
「なら、ますますこんなことをする必要はないでしょ?」
「どうして?」
私の返答に、心底不思議そうにして、アウラの言葉が続く。
「ヒンメルはもういないじゃない」
ああ、やっぱり。
「そうか。よかった。やっぱりお前たち魔族は化け物だ。容赦なく殺せる」
こいつは殺さないとダメだ。
……それからしばらく時間が経って。
私が殺意を固めたのも空しく、状況はほぼ変わっていない。
違いは私の周囲に転がる死者たちの人数。既に両手の指を超えて解除魔法を使い、そろそろ100人に届くだろうか。
……予想以上にアウラが慎重だ。あまりいい流れではない。
私が退きながら死者たちを解放し続けた事で、徐々に隊列は間延びして、後方にいるアウラの周囲を守る死者はまばらになった。
しかしそれでもなお、アウラの死者の軍勢は、まだまだ残っている。
これだけの死者を同時に操る強力で高度な魔法。趣味の悪さに反吐は出るが、人類には想像もつかない高みなのは事実。
このまま消耗戦に付き合うのは、私でもなお分が悪い。
流れを変えるために、再びアウラに問いかける。
「お前の自慢の軍勢は、どんどん減っているね。このままでいいの?」
「あら。私は良いのよ?あの街が落ちれば、補充し放題だもの。質は劣るだろうけど、数は今よりももっと増えるわ」
「その自信はどこから来るんだ。お前の思う通りに行く保証がどこにある?」
「ちゃんと長距離探知も定期的にした方が良いわよ?目の前のことで大変なのはわかるけどね」
「……何が言いたいんだ」
その私の言葉に、アウラが薄く笑う。嫌な笑みだ。
「リーニエはまだ生きてる。その近くにいた、別の魔法使いの反応は消えて暫く経つわ。あなたの仲間か何か知らないけど、殺されちゃったみたいね」
「……」
「あの子は本当使えるわね。面倒くさがりなのは良くないけれど。探知も私の次に得意だし、いい拾いものだったわね」
「……そうか。それで?」
「そういうわけで、私は急がないのよ。どうせ結界が解除されるまで待たないといけないし。あなたをすり潰す時間は、十分にありそうでしょう?」
……どうやらアウラは私を軍勢に襲わせている間も、長距離探知で定期的な確認を行っていたらしい。
二度もアウラの後手に回り、気に食わないが……改めて探知してみれば、確かにリーニエとやらと思しき反応は健在だ。
そしてフェルンの反応は探知できない。……これで死んだとは限らないが、アウラはそう判断したようだ。
本当に良くない流れだ。アウラはどうやら、完全に私が抵抗できなくなるまで追い詰めるつもりになったらしい。
支配の魔法を使ってもアウラにとってはさしたる危険もないと思えているはずなのに、慎重に慎重を重ねる腹積もりのようだ。
大局的に勝てるのなら、ムダに思えるコストを支払ってでも絶対の安全を図ろうとする。
臆病だと謗るのは簡単な事だが、これは間違いなくアウラの強みだ。
どうしたものか。流れを変えられなければ、遠からず強硬手段に移らなくてはいけなくなる。
それはそれで賭けだ。撃退はできるかもしれないが、この場で仕留められるかは怪しい。
何か、転機があれば……
……その転機は、全く意外な形で訪れた。
突然、アウラに一番距離が近い側面の森から、ガサッとかき分ける音がした。
驚いてそちらを見ると、森から飛び出した赤い影が疎らな死者たちの間を抜け、戦斧を構えて猛然と走り寄る姿が目に映る。
その姿を見間違えるはずもない。……シュタルクだ。なぜここにいるのか?
いやそんなことはいい。ダメだ、間合いが遠すぎる。
案の上、アウラが薄ら笑いを浮かべながらシュタルクの方へ顔を向ける。
なんとか止めようにも、それを当然予測したアウラの指示により、私の方へより多くの死者が襲い掛かってきた。
このままでは───
「アゼリューゼ」
「!?……」
その一言と共に、アウラが手に持つ天秤へとシュタルクとアウラの魂が乗って、アウラ側に傾き。
既に斧を振り上げて斬りかかる態勢にまで入っていたシュタルクが、息を呑むような様子を見せる。
そのまま、振りかぶっていた斧を下ろし、横に捨て、走りを緩めて、アウラのもとに歩み寄って。
……頭を垂れて、まるで騎士が主君にそうするように片膝をついて傅いてしまった。
「……森を伝ってここまで来たのね。こんな魔力じゃ獣と変わらないからわからなかった。フリーレン、あなたのお仲間かしら?」
……非常にまずい状況だ。今すぐ強行突破を試みるべきか。
そう考えているうちに、アウラの言葉が続く。
「まあどうでもいいわ。あなたもフリーレンを殺すのを手伝いなさいな。ここまで来たご褒美に、私直々に首を落としてあげるわ」
「……っ!」
「あら?動けるのね。伊達にここまで来たわけじゃないって事かしら。それでどうする気……」
そう言って傍らの騎士から剣を受け取ろうとするアウラの前で、シュタルクがぎこちなく動き出す。
鍛え抜かれた者のみが持つ、鋼の意思による抵抗。魔力や魔法によるものではない支配の魔法への抵抗手段。
その抵抗の意思そのものを奪うために、アウラは支配した者の首を落とす。残酷だが合理的な処置だ。
だが抵抗されたところで動きは鈍っていて、不意打ちでもされない限りはさほどの脅威にはならないようだ。
それがわかっているのか、アウラは薄ら笑いを僅かにしかめる程度の感情しか見せない。何をするのか眺める余裕さえある。
そしてそのままシュタルクがどうするのかといえば……手で首を庇う姿勢で、丸まってしまった。亀のように。
「……私に斬りかかろうとか、掴みかかろうとしたのは何人もいたけど。こんなことしたのは初めてよ。……何しに来たの、あなた」
……アウラの声から、困惑と呆れが伝わってくる。
……まあ少し、同意しなくもないが。
そのままため息をついて、アウラは騎士から剣を受け取るのをやめた。
代わりに、その騎士に命令を下す。
「下らない。こいつはもういいわ。手ごと首を斬りとってしまいなさい。兵士にはできないけど、肉壁程度には使えるでしょう」
ダメだ、もう助けないと。
そう思って死者の群れを抜けるために飛行魔法で空に上がろうとすると、その前に剣やら槍が飛んできた。
……解呪の光の届かない位置から、騎士たちが武器を投げつけたのだ。
死しても元は名のある英傑たちだ。咄嗟に展開した防御魔法を、いくつかの武器は抜いてくる。
それを避けるために咄嗟に身を躱したのは良いが、間髪入れずにまた次の武器が飛んでくる。飛び上がる隙がない。
「やっぱり仲間だったのね。人間は仲間を助けようとするから。……まあ、あなたはそこで見てなさいよ」
「待て……」
私がそう言うよりも早く、騎士の剣がシュタルクに振り下ろされる。
斬撃が手に当たって、鮮血が飛び散って───
……斬れていない。いや斬れてはいるが、首を庇う手の途中までのようだ。
……アイゼンほどではないが、やはり戦士は頑丈だ。思わずほっとする。
しかし状況は悪いままだ。あれでは何度も斬られれば、いずれ首まで行くはずだ。
アウラもそう考えたのか、似たような感想を漏らす。
「無駄に硬いのね。でも、何回耐えられるのかしら?とりあえずもう一度……」
そう言ったアウラの言葉が止まる。なぜかと言えば、剣を引き戻そうとした騎士の手が不自然に止まっているからだろう。
……シュタルクから僅かな魔力の発露を感じる。振り下ろされた剣を咄嗟に『固定』したのか。
こんな使い方は想定外だ。もっとも、魔法使いが真似したら先に手がなくなるだろうが。
「……妙な魔法を使うのね。でもそんな脆弱な魔力じゃ、そんな魔法でも長く使えないでしょうに」
アウラは全く呆れて、つまらないものを見ているといった様子だ。
どれだけ高度な魔法を扱えるかも評価の基準になる魔族にとっては、こんな取るに足らない魔法を見せること自体が軽蔑の対象なのだろう。
そして、下らなさすぎて気分を害したという様子で吐き捨てる。
「本当に下らない。そんなに死にたくないなら、ずっと隠れてればよかったじゃない」
アウラはそのまま別の騎士たちを数人呼び寄せ、自身は少しシュタルクから離れてその後ろへと下がった。
「もういいわ。囲んでズタズタにしてあげる。硬くてまずそうだし、残った肉は捨てるしかないわね。本当に何の役にも」
次の瞬間、はるか上空から光線がアウラのいた場所に叩き込まれた。
ドオンと音が鳴り、光の爆発で一瞬その場が見えなくなる。
しかし。
「……立たないわけじゃないのね。この下らない奴は囮だったってわけ?」
アウラは咄嗟に騎士たちの陰に入り、その光線を防いでいた。
その視線の先にはその光線、一般攻撃魔法を放った魔法使いがいる。フェルンだ。
そしてアウラの問いかけにも答えず、上空から二の矢、三の矢と魔法を放つ。
……しかし、巧みにアウラに避けられ、またシュタルクを殺すために集めた騎士たちを盾にして防がれる。
騎士たちの鎧にも、
「ここまで私に探知されずに魔力を隠蔽して近づくなんて、大したものよ。魔法使いらしくない、卑怯な行いだけどね」
フェルンは魔法の連射を続け、なんとか曲射も交えてアウラに当てようとしているが、しかし当たらない。
後方からの攻撃もまるで見えているように避けている。……いや、実際見えているも同然なのだろう。
「ゾルトラークを撃つのも速い。それにこれ、魔族を殺す用に改良してあるのね。私でも当たったら危ないわ」
そう分析するような口ぶりのまま、アウラはフェルンの攻撃を避けて、防ぎ続ける。
フェルンは連射を続けているが、やや焦りが見えはじめた。魔法の軌道から、それがわかる。
「じゃあなんで当たらないのかって?……あなた、魔法を撃つ前の兆候が見え見えなのよ。それじゃ大魔族には通用しないわ」
……フェルンは私の基準でもとっくに一人前以上といっていい技量を持っている。
決して未熟の証である魔法発動前の魔力発露が激しいわけではないが……しかしアウラにとってみれば、やはり未熟なのだ。
人外の魔力探知精度。それによりアウラは、魔法を撃ってくることどころか大まかな軌道まで予測して避け続けている。
それでも必死に魔法を撃ち続けるフェルンを嘲るように、アウラの言葉が続く。
「あなた、街にいた魔法使いでしょう?リュグナーを殺したのはあなたかしらね。あいつは歳のわりに魔力探知が下手だったから」
「それにリーニエはあなたを取り逃がしたのね。まったく諦めが早いんだから。あとで叱ってやらないといけないわ」
「まあリーニエでも隠れたあなたは探知できなかったでしょう。……そのまま隠れてればよかったのにね」
「……私の天秤は、別に一度に一人にしか使えないわけじゃないのよ?あなたの魂も乗せてあげるわ」
そう言って薄く笑いながら、攻撃の間を縫ってアウラは天秤をフェルンに向けようとする。
フェルンはそれを見て、攻撃を放ちながら更に距離を取ろうとするが……
「今更逃げようとしてももう遅いわよ。アゼ…」
……しかし魔法を使おうとしたところで、アウラの言葉がぴたりと止まった。
代わりに怪訝そうな顔をして、フェルンに問いかける。
「……あなた、魔力を制限してるのね。何のつもりかしら。それに何の意味があるの?」
……魔力制限を見抜かれた。私がフェルンに指導を始めてから、ずっと教え込んできた、対魔族戦の要。
しかしフェルンのそれは、流石にまだ荒い。抑えるように言ってきた魔力制限特有の魔力の揺らぎを、アウラには見抜かれてしまった。
もともと逃がす気はなかったが、これでアウラを絶対に取り逃すわけにはいかなくなった。
そして同時に、私自身としても一切の出し惜しみをしている場合ではなくなったことを悟る。
まだアウラが制限の真意に気づいていないうちに、元の想定とはまた違った賭けに出る時が来た。
まず、これまで範囲を抑えてきた解呪の光を、一気に広範囲まで押し広げる。
今まで範囲外に逃れていた死者たちも解放されて倒れだし、フェルンに注目していたアウラも流石にそれに気づく。
「あらフリーレン。自棄になったの?そんな事したら、あなたの魔力なんてすぐ尽きて……!?」
私を見た、アウラの言葉が止まる。
なぜなら、魔力制限を解いた私の魔力を見たから。
これまで見せかけてきた魔力の、10倍以上。1000年以上生きた魔法使いとして、相応しいだけの魔力。
私の本当の魔力総量は……500年以上生きた大魔族である、アウラの魔力総量を優に上回る。
「……なにそれ。ありえない。私が見抜けないはずが……魔力の揺らぎなんて、なかったはず……」
「お前ら魔族は、ものすごく正確に魔力を観測できるんだね。正直驚いた。
魔力を制限した状態こそが、自然な状態になるほどに。魔力を観測することに優れた大魔族のアウラですら、見抜けないほどに。
これを初見で見抜いてきたのは、ただ一人だけ。……魔王だ。
そして私に欺かれた今のアウラは明らかに動揺し、狼狽している。
ずっと欺かれてきたことへの怒り、自分が見抜けなかったことへの驚愕、そもそもなぜそんなことをしているのかという疑問。
その全ての感情でアウラが動揺している間にも、私は解呪の光をどんどん広げる。魔力総量にものをいわせた、無茶な拡大だ。
……これは正直、ハッタリに近い。いくら私の魔力でも、全ての死者を開放するまでこんな事を続けたら、アウラの魔力総量を下回りかねないからだ。
だがそれでも、これまでと比にならないペースで死者たちがどんどん解放されていくのを見て、アウラが取る行動は。
「……!」
「逃げるのか。まあ、お前ならそうするよね」
かえって見事と言いたくなるような、脱兎のごとき逃走。
少しでも自分に分が悪いと見るや、迷いなく撤退を選択するアウラの性質。
80年前、魔法の発動が間に合わずヒンメルに斬られて追い詰められた時も、アウラはそうした。
ただし当時とは少し状況は違う。まず、当時の人類は空を飛べなかった。
だからアウラは、ヒンメル達が死者を不用意に傷つけたくないのをいいことに、死者たちを盾にした。
それで距離を何とか稼いだ後は、空に上がって逃げたのだ。それで私たちは追えなくなった。
だが今は違う。アウラが逃げ出したのを見て、逃がすまいとその前方の上空に回ってフェルンが魔法を連射で浴びせ続けている。
アウラはそれを、そばにいた死者数名を先行させることで盾にして防いでいるが、だからこそ空に上がれない。
自分が空に上がったら、死者の盾は使えない。防御魔法が使えないアウラは無防備になる。
いくら軌道が読めても、飽和攻撃に晒されれば流石にいずれ堕とされるだろう。だからアウラは、走って逃げるしかない。
そして私も空に上がって、追跡を開始する。範囲外から武器を投げていた死者も解放されて沈黙し、やっと隙ができたからだ。
解呪の光の拡大は、もちろん継続したままなので、私の通る範囲の死者たちもどんどん倒れていく。
アウラは振り向かないが、私が追って来たことはもちろん魔力探知で察知しているのだろう。足を速めようとする。
……しかしアウラに防がれるのを見越して、地面に魔法を撃って足止めを始めたフェルンの攻撃がそれを阻んだ。
鬱陶しそうに魔法で空いた穴を回避しながら逃げ続けるアウラは、しかし確実に足が鈍った。
本当はフェルンを支配したくてしょうがないのだろうが、しかしそれはできない。
魔力制限による総量の偽装がありうると気づいたアウラには、フェルンの魔力が自分より上回っている疑念をもう払えないからだ。
それでもアウラほどの感知能力ならば、冷静になればフェルンの総量すら察しはつくはず。しかしアウラは今や冷静ではない。
何よりアウラは実は、長く生きていない人間でも例外的に魔力総量が異常に多い例を知っている。
他ならぬ、フェルンの養父であるハイターだ。ハイターは私が制限した魔力の5倍……当時のアウラをやや上回るほどの魔力総量を持っていた。
だからアウラは私たちヒンメル一行と相対した当初、他の誰よりもまずハイターの事を警戒していた。
結局はその隙をつかれてヒンメルの接近を許したわけだが、その経験があってなお、魔族の習性とは改められないものらしい。
そして例外を知っていることは今やアウラを縛る枷にすらなっていて、フェルンの支配を躊躇ったままに、苦々しげに吐き捨てる。
「邪魔よ……!」
「逃げないでください。フリーレン様がとどめを刺せないでしょう?」
やっと口を開いたフェルンは、私がアウラにとどめを刺すものと思っているようだ。
……確かに最後にはそれを試みる。しかし私ですら、アウラに魔法を使う瞬間を察知されないとは限らない。
むしろ奴は、飛行魔法で飛ぼうとする私を妨害してきたりしたのだから、程度はともかく察知されると見るべきだろう。
だからそれは最後の手段。あえて私は、まだ攻撃魔法を撃たない。邪魔になるから。
……そうするうちに、先ほどまでアウラのいた場所の上空を通過した。
そして、賭けに勝ったらしいことを俯瞰で確認し、口角を上げる。
アウラは取るに足らない者としてもはや気にも留めていないだろうが……私は、仲間を信頼することにしているのだ。
───飛行魔法を使う私よりも速く、己の意思を奪われた死者たちよりもずっと力強く、赤い影が駆け抜ける。
死者たちのものと違う鬼気迫る足音と、もともと少ない魔力をほぼ使いきって微小になった反応の接近にアウラが気づいた時には、もう遅かった。
ダンッと跳躍する音が響いて、荒れた地面を一息に跳び越えた彼がアウラの背中に跳びかかる。
「がっ!?…お前…」
アウラが振り向く前に、その肩に死者の腕ごと引きちぎってきた剣が叩き込まれる。
杭を叩きこむような音が響いて、アウラは地面に串刺しにされた。
そして剣を突き刺した勢いのままアウラに馬乗りになり、更にその頭の角を、己の鮮血で血濡れになった手が掴む。
「アゼ!!」
なんとか後ろ目に自分に跳び乗った者を確認したアウラは、最後に己の絶対魔法に頼ろうとしたのだろう。
───しかしそれより速く、ベギと生木をへし折るような嫌な音がして、アウラの首が180度以上回転した。
角を掴んだ手が、まるで片手で円を描くようにして、アウラの首を捩じり折ったのだ。
ビクンと一瞬アウラの手足が跳ねて、ぱたりと地面に崩れ落ち、粒子化が始まる。
残っていた死者たちも、アウラの支配が解けてバタバタと倒れだした。
……アウラは死んだ。多くの戦士を支配し、死後も弄んだアウラは、戦士の手によって殺された。
そのアウラを殺した戦士……シュタルクの表情は、私からは見えない。
だがそれを見たらしいフェルンの顔は見える。……なにか、怯えているような。
ともあれアウラの死を確認したらしいシュタルクは、消えゆくアウラへの馬乗りをやめてふらふらと起き上がった。
そして腕ごと持ってきて力任せに地面に叩き込んだ剣を、何とか引っこ抜く。
そのまま振り返って、それを持ってこちらへと戻ってくる。今度は彼の表情が私にも見えるが、なんだか憔悴しているようだ。
そして今の彼の眼には、私すら映っていないらしい。そのまま地面だけを見て、さっき駆け抜けて来た道をふらふらと戻る。
そのまま歩いていって……どうやら目当ての者を見つけたらしく立ち止まった。
……シュタルクの首を斬ろうとして、そしてアウラの支配が解けたシュタルクに咄嗟に腕ごと剣を持っていかれた騎士の遺体だ。
シュタルクはその彼の、本来あるべき場所に持ってきた腕と剣を添えたあと、なぜかそのまま立ち尽くしてしまった。
……どうにも呆然としている様子の彼が心配になり、飛行魔法を解いて地面に降り、側まで歩いて行く。
フェルンも私の側に降りてきた。その両手には重そうにして、シュタルクの斧が握られている。見つけて拾って来たらしい。
そのまま2人で彼の側に行く。先にフェルンが、なぜか少しためらうようにシュタルクに声をかけた。
「……シュタルク様。どうぞ」
「……拾ってくれたのか。……ありがとう」
自分の斧を渡されたシュタルクは、礼を言って片手でそれを受け取り、背に戻す。
だがフェルンを一度見た後は、また視線を騎士の遺体へと戻した。
その騎士は、見覚えのあるペンダントを付けている。これは確か……
「……グラナト家の紋章」
「……たぶん伯爵の息子さんだ。出陣して亡くなったって言ってた」
私の呟きに、シュタルクが答える。
決して他の遺体なら傷つけていいというわけではないが、しかしよりにもよってという相手だ。
もっとも、乱戦になった時点でやむをえずフェルンが他の者にも一般攻撃魔法で攻撃してはいるのだが……
しかし耐性のある鎧に守られているので、それらについては遺体そのものの痛みはそれほどではないだろう。
私たちのせいで明確に欠損といえる状態になったのは、たぶんこの遺体のみだ。
シュタルクはそのことを気にしていたらしい。続く声も、震えている。
「ひでえことを、しちまった。俺は…」
「今気にしてもしょうがない。先に手当しよう。手、怪我してるでしょ」
とりあえず適当な口実で、シュタルクの手を引いて遺体たちの側から離れた場所まで連れて行く。
特に抵抗することはなく、力なくついてきた。フェルンもその後に続く。
適当な地面に3人で座って、シュタルクの手を見る。傷は浅くはないが、なんとか機能に支障はなさそうだ。
そして手当と言っても、残念ながら僧侶のいない私たちにできることはあまりない。
ただシュタルクがいつも腕に巻いている包帯の余ったところをちぎって、新たに傷の上から巻き直す程度が精々だ。
しかしそんな応急処置でも、なんとか止血程度はできたようだ。
シュタルクの表情もやや落ち着いたようなので、見計らって声をかける。
「落ち着いた?」
「ああ……ありがとう。助かったよ、フリーレン」
「大したことはしてないよ。包帯もシュタルクのだし」
「……これだけじゃなく、あいつの魔法を解除してくれたのもフリーレンだろ。それもだよ」
シュタルクからアウラの魔法の話が出たので、その話を続けることにする。
これについては、注意しておくべき事があるからだ。
「それなんだけど、シュタルク。アウラの魔法にわざとかかりに行ったでしょ。少なくとも食らってもいいと考えた。そうだね?」
「……そういう作戦だったんだ。俺にアウラが気を取られているうちに、フェルンに撃ってもらおうと思って。最悪、俺ごと撃ってくれって話でさ」
「一般攻撃魔法なら、巻き込んでも装備耐性で死にはしませんから。でも失敗しましたね。そもそも当たらないのですから、それ以前の問題でした」
余りに無謀な作戦だ。一般攻撃魔法に巻き込む云々ではなく。
そのことを認識していないようなので、2人に顔を近づけるようにしてより強く注意する。
「アウラのは違ったけど、七崩賢ほどにもなると、そいつが死んだ後にも効果が続くような魔法もありうる。殺せばそれで済む保証はないんだよ」
「……そうなんですか」
「いつも私が解除できるとも限らない。だからあえて魔法にかかってみようなんて事は二度とするな。わかった?」
「……ああ。悪かった。二度としないよ」
フェルンだけでなく、シュタルクもやけに素直だ。
逆に毒気を抜かれてしまったので、注意はそこでやめて別の事を聞くことにした。
「それで2人とも、随分早くここに来たけど、どうやったの?というか、よく場所がわかったね」
「……あの後、グラナト伯爵のところに魔族を殺しに行ったんですけど。魔族が先に、伯爵を捕えて拷問していました」
「その場でリュグナーとかいうのは俺が殺して、伯爵はなんとか助けた。それとリーニエとかいう奴はフェルンが無力化して、ここの場所はそいつに聞いたんだ」
……どうやら、私が想定したよりも面倒なことになっているらしい。
アウラが言っていた予想とも違う。いったい何があったのか。
「詳しく話してくれるかな」
私がそう言うと、二人はぽつぽつと経緯を語り始めた───
リュグナー・リーニエ戦の回想以降を入れると長くなりすぎるので一度分けました。
実質前編です。