やめてよね。俺が准将に転生しても同じように戦えるわけないだろ! 作:よみや
うちの会社は凡庸なナチュラルしかいないので。
ナチュラルの社員なんているかよ!
デブリベルトへの航海を無事に終えた【アークエンジェル】は、これから回収作業を始めようとしていた。
モビルアーマーである、作業用に換装した【ミストラル】が、【アークエンジェル】から複数発進していく。それを追い掛けるように、【ストライク】も発進する。
そこは、まさにゴミの山だった。人類が宇宙進出してから撒き散らし続けたデブリたち。しかし、見方を変えれば宝の山でもある。単純な瓦礫から、破壊された戦艦やモビルスーツ。玉石混淆ではあるが、使える物は無数にある。これなら、ジャンク屋という職業が成立するわけだ。
「海賊紛いのジャンク屋に注意しろ。奴らはデブリベルトにも出没するらしい」
「レーダーに反応。大きいです!」
ナタルの言葉に、同じ【ミストラル】に搭乗していたサイが反応した。
「大陸? こんなところに?」
トールが大陸と勘違いしているが、違う。大陸は大陸でも、人工の鋼鉄の大陸だ。
「《ユニウスセブン》……」
キラたちは、《ユニウスセブン》に降りて探索を始めた。そして、原作通りに見つけた。親子の死体を。ミリアリアが悲鳴をあげる中、キラは痛ましい気持ちになりながら、アスランのことを思った。
(アスランのお母さんも、どこかにいるのか?)
劇中に出てくるアスランの母親、レノアの墓は空っぽだ。他の大多数の犠牲者の墓も。243721名。それだけの人が亡くなったのだ。
結局アスランのお母さんは見つからないまま、《ユニウスセブン》は2年後に地球へ落ちる。
◆◆◆
水は結局、《ユニウスセブン》でしか見つからなかった。広いデブリベルトを探せば、他にも水はあるだろうが、近場で見つかる保証も無いし、量がある保証も無い。
皆、思うところはありつつも、《ユニウスセブン》から水を回収することになった。しかし、なにもしないのは心苦しいので、オーブに伝わる折り紙で花を作って手向けることになった。
そして、ミリアリアが完成した両手一杯の花を《ユニウスセブン》に向かって投げる。それと同時に皆が黙祷を行う。キラも【ストライク】の中で祈った。もう2度と、こんなことが起きなければ良いのにと。それが叶わぬ願いと知りながらも。
作業は順調に進んだ。凍った水を切り取り、撃沈された戦艦から弾薬を回収する。
キラは【ストライク】で護衛だ。【ミストラル】は戦闘力皆無なので、敵が来たらヤバい。しっかりと、まわりを気にしなければ。そしてなにより、ラクスの救命ポッドを見つけなければ。
そして見つけた。最近撃沈されたと思われる民間船を。キラは素早く【ストライク】を隕石の陰に隠した。
ピピ
【ストライク】のセンサーがモビルスーツを捉えた。【ジン強行偵察型】。偵察特化の複座のジンだ。
キラは、狙撃用のスコープを引き出した。スコープの中で、【ジン強行偵察型】がロックされる。キラは、操縦桿のトリガーに指をかけたまま様子を窺う。
このまま帰るなら、それで良い。しかし、原作と同じなら……。
(帰れ!)
キラの思いも虚しく、【ジン強行偵察型】は一度離れかけるが、【ミストラル】に気づき戻ってきた。
「うわあぁぁ!」
【ジン強行偵察型】に攻撃されて、カズイが悲鳴をあげた瞬間、キラがトリガーを引いた。
【ストライク】の『ビームライフル』からビームが放たれ、【ジン強行偵察型】を貫いた。
爆散する【ジン強行偵察型】。キラは震える手で、スコープを戻した。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ!」
乱れる呼吸を必死に整えるキラ。他から通信がたくさん来ていたが、全て遮断した。
キラにとって人を殺したのは、これが初めてだった。准将はここに来るまでに、既にミゲルを殺していたが、キラは殺していない。
初めての感覚に、ぎゅっと拳を握り締める。こみ上がる吐き気に耐えていると、センサーがまた何かを捉えた。それは待ちに待った、待望の反応だった。
◆◆◆
「君は、落とし物を見つける才能でもあるのか?」
しょうがないなみたいな雰囲気のナタルが、救命ポッドに取りついたマードックに合図を出した。
「開けますぜ」
マードックがロックを操作すると、ハッチがゆっくりと開いていく。待機していた兵士たちが銃を構えた。
「ハロハロ!」
緊張とは裏腹に間抜けな声が響き、パタパタとピンクの球体が現れた。
「ありがとう。ご苦労様です」
可愛らしい声が響き、救命ポッドから優しいピンク色の髪の少女が出てきた。ラクス・クラインだ。
長いスカートの裾をなびかせて宙を漂う彼女は、原作と同じく呆気にとられて誰も受け止めてくれないので、慣性で飛んでいってしまう。
「あら? あらあら?」
そのまま流されそうになったラクスを、原作を覚えていたキラが手を掴んで止めた。
「ありがとう」
微笑みながらお礼を言ったラクスだったが、すぐに困ったような表情になった。
「まあ、これはザフトの船ではありませんのね?」
新たな厄介事の気配に、マリューとナタルはそっと胃を押さえた。
場所を士官室に移して、ラクスから話を聞こうとしているマリューたちに、キラも混ざっていた。発見したのは自分だからと、少し強引に着いてきたのだ。
(今頃、ドアの外に人集りが出来てるんだろうなー)
「それで、お名前は?」
「わたくしはラクス・クラインですわ。これはお友達のピンクちゃん」
「マイド!」
既にマリューは頭痛が痛そうだった。誤字じゃないよ?
「プラントの最高評議会議長もクラインじゃなかったか? 確かシーゲル・クライン」
ムウの言葉に、ラクスがニコニコと返事をした。
「あら、シーゲル・クラインはわたくしの父ですわ」
ムウも頭を押さえた。やっぱり頭痛が痛いのかもしれない。
一瞬話が途切れると、士官室のドアが開き、たくさんの男が部屋に倒れこんだ。ナタルが外の様子に勘づいてドアを開けたようだ。
ナタルは冷たい極寒のような視線で、彼らを見下ろすと雷を落とした。
「まだ作業が残っているだろう! さっさと作業に戻れ!」
あまりの剣幕に、実はちょっと八つ当たりも入ってない? とキラは思ったが、指摘はしなかった。わざわざ見えている地雷を踏みに行く必要は無いのだ。
「そんな方が、どうして救命ポッドに?」
「わたくし、《ユニウスセブン》の追悼慰霊のために事前調査に来ていたのですが」
今のは無かったことにしたマリューの問いかけに、ラクスが答えていくが、その内容にマリューたちの顔が強張っていく。
「その最中に地球軍の船と出会ってしまって。その方々には、わたくしたちの目的がお気に召さなかったようで……。些細なことで、酷い争いに……」
まあつまり、要約すると地球軍が民間船をムカつくから、叩き落としたというわけだ。絶対ブルーコスモスだろ。
「わたくしはまわりの者たちに、ポッドで脱出させられたのですが……。あの後どうなったのでしょう……。皆も無事だと良いのですが……」
◆◆◆
話が終わり、マリューたちが立ち去った後、ラクスは部屋のモニターで船外の映像を見ていた。
モニターに写っているのは、無惨にも砕かれた人工の大地と、その周辺を漂う破壊された民間船。そのどちらも、人がいたというのに、今はとても寒々しい。
ラクスの瞳には、人の温もりが漆黒の闇に呑まれていくかのように見えた。
「祈りましょうね、ハロ……。どの人の魂も安らぐようにと……」
優しい面差しが悲しみで曇った。
ラクスは祈る。彼女には祈ることしか出来ないから。今の彼女には、運命を覆すほどの思いも力も無い。例え、このまま自分が地球軍の元にいれば、どうなるかわかっていたとしても。
◆◆◆
ラクスとの話し合いが終わった後、搬入作業に戻ったキラは野暮用も終わらせめでたく作業終了となった。
ようやくご飯だと食堂に向かえば、なにやら騒ぎが起きているようだ。キラには、すごく覚えがあった。有名なあのシーンだ。
「嫌ったら嫌!」
「なんでよ!」
キラが食堂に入ると、フレイとミリアリアがキャットファイトせんばかりに睨み合っている。知ってるけど、話を進めるためにカズイに聞いた。
「なにごと?」
「キラが拾ってきた女の子の食事だよ。ミリィがフレイに持ってくの頼んだら、フレイが嫌だって。それだけ」
うむ、予想通り。とキラが思っていると、フレイが叫んだ。
「嫌よ! コーディネーターの子のところに行くなんて、怖くて……。あの子は、ザフトの子でしょ!? キラとは違うじゃない!」
あれ? こんな台詞だったかな? とキラが困惑しているが、ミリアリアとフレイは止まらない。
「コーディネーターの強さなんて、見た目じゃわからないじゃない! 凄く強かったら、どうするの!?」
「まあ、誰が凄く強いんですの?」
突如響いた声に、キラたちの動きが止まった。キラが振り返ると、話題の張本人がのほほんと立っていた。
「あら、驚かせてしまったのならすいません」
ラクスは、話しながら食堂に入ってきた。
「実はわたくし、喉が乾いて……。それに、笑わないでくださいね? だいぶお腹も空いてしまって。こちらは食堂ですか? なにか頂けると嬉しいのですけど」
にこやかに微笑むラクスに、キラ以外の3人はやっと理解が追いついたのか、ぎょっと仰け反った。
「え、鍵とかかけてないの!?」
「やだ! なんでザフトの子が、勝手に歩き回ってんの!?」
カズイとフレイが驚愕しているが、ラクスはぽやっとしている。うーん、強い。
「あら、勝手にではありませんわ。わたくしちゃんと聞きましたのよ。出かけてもよいですかーって。お返事はありませんでしたが、三度もお聞きしたので良いかと思いまして」
「それは勝手にじゃないかな」
キラのツッコミは、聞き流された。
「それにわたくしは、ザフトではありませんわ。ザフトは軍の名称で、正式には──」
「なんだって一緒よ、コーディネーターなんだから!」
ザフトは、正確には軍ではない。プラント自体が国として認められていないのだ。いくらプラント側がザフトは義勇軍だと言っても、国じゃないならテロリストと変わらない。そもそもザフトの前身は政治結社だし。
「一緒ではありませんわ。わたくしはコーディネーターですが、軍人ではありませんもの」
ラクスがフレイの全身を眺めた。
「あなたも、軍の方ではないのでしょう? なら、わたくしとあなたは同じですわね?」
ラクスが、見るものを魅了する笑みを浮かべて、フレイに手を差し出した。しかし、フレイはそれを見て後ずさった。そこにあったのは、純粋な恐怖だ。
「ちょっと、やだ、やめてよ! なんで私があんたなんかと……。コーディネーターのくせに、馴れ馴れしくしないで!」
フレイの言葉に、ラクスの表情が曇った。それを見ながらキラは考える。なぜ、ラクスは部屋を出たのだろうと。
アニメではわかりづらいが、ラクスは状況をよく理解している。小説の描写から、これから自分がどうなるかもわかっている。
ならば、なぜ部屋を出たのか? おそらく知りたかったのだろう。ラクスは、プラントからほとんど出たことが無いはずだ。ナチュラル、特に同世代のナチュラルとの交流など皆無だろう。だから、話をしてみたかったのではないか。その結果がこれとは、ラクスも悲しいだろう。まあ、コズミック・イラらしいが。
とりあえず、このままにはしておけないので、キラが前に出た。
「フレイ、言い過ぎだ」
「あっ……」
キラの言葉に、フレイはハッとした。しかし、雰囲気は最悪だ。キラは、フレイに犠牲になってもらうことにした。
「まったく、お仕置きだ」
キラは、中指を親指で押さえると、フレイの額に向けた。
「え?」
ズドンという重い音が響いて、フレイが崩れ落ちた。
「いっ! 痛ったー!」
額を押さえたフレイが、のたうちまわる。
「ま、マグナムデコピン。キラ、いくらなんでもやり過ぎじゃ? あれ、凄く痛いんだよ?」
既にくらったことのあるカズイが腰を引かせながらキラに訴えるが、キラは肩を竦めた。
「ただのデコピンで大袈裟な」
「キラのは、威力がおかしいんだよ!」
「ハッハッハ」
笑って誤魔化したキラは、配膳カートに2人分のご飯と、水の入ったピッチャーを乗せると、目を白黒させているラクスを連れて食堂を出た。
部屋に戻ると、ラクスは膨れっ面になった。
「また、ここに居なくてはなりませんの? わたくしもみなさんと、お話しながら頂きたいですわ」
キラにはわからなかった。これはわかって言っているのか、わからないから言っているのか。雰囲気通りの天然ではないことはわかっている。でも、それだけだ。細かい心情まではわからない。
ラクスとは仲良くならなければならない。しかし、キラは准将とは違う。無意識にクリティカルを連発する准将とは違うのだ。キラは、ラクスのスパダリにはなれない。
「本気で言ってんの?」
「え?」
「この艦には、ザフトに攻撃されて《ヘリオポリス》が壊れたから乗っている人も多い」
「それは……」
キラが、ラクスをベッドに押し倒した。
「あッ……」
「俺もその1人だ」
ラクスが息を呑んだ。キラは、ラクスをジッと見ている。彼女の本音を聞き出さなければ。動揺すれば、ペルソナが剥がれるかもしれない。
「そんな状況で、若い女の子が1人。どうなるかなんて簡単にわかるだろ」
ラクスは表面上は変わらないように見えるが、よくよく見れば、少し顔色が悪くなっているし、呼吸も少し浅く、目も若干揺れている。
「俺は──」
きゅるるー
キラの言葉の途中で、可愛らしい音が響いた。途端に、ラクスの顔が真っ赤になる。
音はラクスのお腹から響いていた。
「ブフッ」
キラは堪えきれずに、体を震わせるとラクスから離れた。
「そうだよな。お腹空いたよな」
笑いながら、配膳カートから食事を用意していく。ラクスはぽかんとしている。
「待ちきれないみたいだし、ご飯にしようか」
「ち、違いますわ!」
慌てて起き上がったラクスが叫んだ。
「な、なんなのです!? いきなりわたくしを押し倒したかと思えば! それと、さっきのは違います!」
まあ、緊張とストレスがお腹にいったのだろう。タイミングは完璧だったが。
その後、しばらくわちゃわちゃしてから食事となった。
ラクスは恨みがましい目で、キラを見ている。恥をかかされたので当然といえる。
「なぜ、あんなことをした後に、平然と一緒に食事が出来るのですか?」
「あれは君の反応を見るためにやっただけだから、本気じゃないよ」
キラの言葉に、ラクスはむくれる。
「本気でなければ、許されると?」
「まあ、怒るとは思ったけどね。でも、こうでもしないと素を見せてくれなさそうだったし」
ブスッとしているラクスに、キラは言葉を続ける。
「でもさっき言ったことは事実だよ。君が1人で出歩いたら、かなり危ない」
キラの言葉に、ラクスは目を伏せる。
「だから、話し相手くらいは俺がやるよ」
「え?」
「君がよければだけど」
ラクスは嬉しそうな顔をしながらも、キラを睨んだ。
「あなたは意地悪ですけど、優しいんですのね」
だいぶ年相応の表情になってきた。最初のゆるふわ笑顔固定より良いだろう。
「お名前を教えていただけますか?」
「キラ。キラ・ヤマト」
名前を聞いたラクスは、年相応の軽やかな笑顔を浮かべた。
本日中に、もう1話投稿します。