やめてよね。俺が准将に転生しても同じように戦えるわけないだろ! 作:よみや
早起きしたキラは、早朝から元気に【ストライク】の調整に励んでいた。ゆうべはお楽しみでしたね。
「おおよその地上用のセッティングヨシ。でも、重力に対する設定が甘いよなー。接地圧の問題もあるし。やっぱり、夜までにテストしとくか」
現在整備班は【ストライク】と【アークエンジェル】の整備が終わって死んだように寝てるので、キラのワンオペである。
「他はマードックさんが起きてきてからやるとして、【スカイグラスパー】のセッティングをやっておくか。空中換装なんて当分しないし、【ストライク】側は後回しだな」
【スカイグラスパー】のコックピットに座ったキラが、超速でタイピングしていく。既にシステム関係で言えば【アークエンジェル】で一番のキラが弄れば、初期設定くらいは瞬殺だ。誰か相棒枠で、ハインライン連れてきて。
「細かい設定はムウさん本人にやってもらうとして、後はシミュレーターか?」
二機分の調整を朝飯前に終わらせたキラは、組み立てだけは済んでいた【スカイグラスパー】のシミュレーターを弄くる。
「どうせカガリやトールはやるんだろうし、難易度上げちゃお」
立ち上げなんてお茶の子さいさいなので、ついでに難易度を弄っておく。どうせ止めても乗る奴が二人程いるので、理不尽レベルの難易度を作っておく。なんて優しいんだ。
結果、ナチュラルのバグであるムウですらギリギリレベルの難易度が爆誕した。名付けるならルナティックやナイトメアを超えて、コズミック・イラと言ったところか。なんで、時代名が難易度なんだよ。……残当かな。
「まあ、ムウさんならクリアできるだろ」
理不尽な信頼がムウを襲う。頑張れフラガマン。
「特にトールは、これをクリアできないと実戦に出られないようにしよう」
一人でうんうん頷いていたキラは、朝食の時間になったので、作業を切り上げた。
◆◆◆
朝食を美味しく頂いたキラが食堂で休んでいると、フレイが現れた。
「ねえキラ、ゆうべはどこにいたの?」
目に隈ができてるし、顔色も悪い。極めつけに、目にハイライトが無い。病んでるね。
「最近、毎日いないじゃない。どこにいってるの……?」
ユラユラ揺れながら迫ってくるフレイは、普通にホラーだ。ギャルゲの選択肢ミスったみたいな状況だな。
「えっと……」
言い淀むキラに近づいたフレイが、匂いを嗅いだ。
「……女の匂いがする。ミリアリアじゃないわね……まさか!」
急にフレイが食堂を飛び出して行ったので、嫌な予感がしたキラは慌ててフレイを追い掛けた。
キラは走りながら、フレイも父親が死んだばかりで精神が不安定なのではないかと思い至った。自分が折れそうな時に支えてもらったから大丈夫だと勘違いしていたが、大丈夫なわけがなかったのだ。
キラ自身余裕が無くてよく見れていなかったが、本当はキラが一番気に掛けなければいけなかった。
フレイは、迷いなく艦長室に突撃した。
「ラミアス艦長!」
マリューは丁度、朝食がてらナタルと打ち合わせをしていた。そこにフレイが飛び込んできたので、驚愕した。
「ど、どうしたのフレイさん?」
フレイは無言でマリューに近づくと、首もとの匂いを嗅いだ。
「え、あの、ちょっと」
「やっぱり! キラからする匂いと同じ!」
ギクッと顔文字のような反応したマリューは、目を泳がせた。その隣でナタルは、もう中身の無いマグカップを口に運んだ。
「ラミアス艦長どういうことですか? 最近キラが夜部屋にいないのは、ラミアス艦長と一緒にいるからなんですか?」
「えっと、その」
詰め寄るフレイに、冷や汗ダラダラなマリューは何とか誤魔化そうとするが、言葉が出てこない。
そんな状況で、キラが部屋に飛び込んできた。
「フ、フレイ!」
「ねえ、キラ。私じゃ駄目? あなたの心を守るのは、私じゃ駄目?」
まるで、自分にはそれしか残っていないかのように、ただ一つ残ったものに縋るかのように、フレイはキラに抱きついた。
「私は……、私は……」
泣きじゃくるフレイに、キラとナタルがオロオロしていると、マリューがいち早く再起動した。
フレイの精神状態が普通じゃないと気づき、フレイの父親が死んだことを思い出した。あの後ラクスを逃がしたりと、元気一杯にやらかしていたから忘れていたが、普通の少女が目の前で父親を亡くせばおかしくもなるだろう。
「フレイさんには、正直に話すわ」
なので、リハビリも兼ねて巻き込むことにした。
それから、キラと自分たちの関係を粗方話した。最初の報酬の話から、キラのメンタルケアについても。
話している内に落ち着いてきたフレイを、マリューが抱き締めた。
「ねえ、フレイさんも手伝ってくれないかしら?」
「え?」
優しく語り掛けたマリューに、フレイが驚いた。
「実は私とナタルだけじゃ、手が足りない部分もあるのよ。私達はどうしても、艦長と副長の仕事を優先しないといけないから」
背中をポンポンと叩きながら、ゆっくりと話すマリューに、フレイの体の強張りも解れていく。
「だから、私達三人で支えましょう、キラくんを。私達三人で寄り添うの」
「……はい」
完全に緊張が解けたのか、フレイはぽけーとしている。今にも目蓋が閉じて、寝てしまいそうだ。圧倒的なバブみ!
「寝てもいいわよ。ベッド使って」
マリューが誘導すると、フレイはすぐに眠りに落ちた。
しばらく様子を見ていたマリューは、溜め息を吐いた。
「迂闊だったわ。フレイさんが、ここまで追い詰められていたなんて」
マリューの言葉に、ナタルとキラも溜め息が出た。
「正直私も色々あって、全く気にしていませんでした……」
「俺も気づけませんでした。俺が一番近くにいたのに」
何せ、キラとフレイのメンタルダメージは同時期に起こったので、マリューとナタルはキラで手一杯。キラは自分のメンタルで一杯一杯。誰もフレイまで、気が回らなかった。
「取り敢えず、フレイさんもローテーションに入ってもらいましょう。人数が増えるのは正直助かるし」
「ヤマト少尉に依存気味ですし、悪くはなさそうですが」
ナタルがチラッと見れば、キラは頷いた。
「フレイは、俺がメンタルケアします」
救ってもらった分、今度は自分が助けると気合いを入れたキラは、眠ったフレイをマリューに託して、格納庫へ向かった。
キラを見送ったマリューは、表情を曇らせた。
「また、キラくんに負担をかけてしまうわね」
「本当は病院で見てもらうのが良いのでしょうが」
ナタルが、寝ているフレイの前髪を撫でた。フレイの顔色が、少しずつ良くなっている。
「船医に見せますか?」
「彼に体の傷は治せても、心は無理でしょう」
既に大気圏突入後のキラの体調を検査した際に、デリカシーの無い発言をしていた船医をマリューは信頼していなかった。
発言したナタルも一応言っただけで、本心はマリューと同様なようだ。
あの船医は第8艦隊からの補充要員で、デリカシーが無かったり、銃の管理が甘かったり無能なのだ。
「私達でなるべく気に掛けていきましょう」
◆◆◆
夕方、【ストライク】の調整が終わり、キラが部屋に戻るとフレイが待っていた。
「あ、あのキラ、朝はごめんなさい。私、頭がどうかしてて」
申し訳なさそうに縮こまっているフレイに、キラは笑顔を浮かべながら首を振った。
「俺こそごめん。あんなに一緒にいたのに、気づかなくて」
二人は取り敢えずお互い謝ったので、この件は終わりとした。切りがないしな。
「それで、今後のことなんだけど」
キラの言葉にフレイは、頬を赤く染めた。
「うん、私が今晩担当なの」
「それなんだけど、フレイはそれでいいの? 無理してない?」
キラの真剣な表情に、フレイも表情を真面目なものにした。
「私はむしろ嬉しいわ。だって、キラのことが好きだもの」
フレイの曇りなき瞳が、キラを貫いた。フレイの真っ直ぐな気持ちが、痛いほど伝わってくる。
「きっかけは、深く知り合ったのが戦争に巻き込まれてからだから、ちょっと普通とは違うかもしれない。でも、この気持ちは嘘なんかじゃない」
ここまで、真正面から気持ちを伝えられると、キラとしても胸が詰まった。
今のフレイは、原作とは違う。戦争で傷つき、おかしくなっていった少女ではない。傷つき苦しみながらも、確かに前へと進もうとする少女だった。
「俺もフレイのこと好きだよ」
キラは画面越しではなく、リアルでフレイを初めて見た時に惚れていた。だから、どうしてもフレイを助けたかったし、お父さんを助ける為に無茶もした。
「良かった。嬉しいわ! でも、戦争が終わらないと、先のこと考えられないわね」
「そうだね。……フレイのことは守ってみせるよ。俺が、今度こそ」
拳を握るキラの手を、フレイの手が優しく包み込んだ。
「キラが私を守って、私がキラを守る。これなら、何があっても大丈夫ね」
優しくも強い微笑みを浮かべたフレイは、とても美しかった。
闇落ち回避したけど、ヤンデレフレイも悪くない。