超A級スナイパーは口下手すぎて周囲に誤解を与えてしまうのをなんとかしたい 作:Yuri_____
「あ! そうだ。千佳、せっかくならタッキーに教わったらどう?」
「え、」
「瀧原さん、にですか?」
「そう! タッキーはね、本部で活動してるソロのB級隊員なんだけど────…」
「B級とはいえ瀧原先輩は狙撃手一位にもなったことのある超A級のスナイパーだ。例えどんなに建物の中や死角に居ようと瀧原先輩には通用しないし、1000ヤード以上離れていても必ず敵を撃つ程の技術を持ってる凄い人だし、隊員にあまりいない機動型スナイパーのトップに君臨してる人だ」
「ちょっととりまる! 私のセリフ奪わないでよ!」
やめて。わたしそんなすごくない。
実際SEに頼ってる様なもんだし、言わゆるズルまたはチートみたいなものだから。
「オサム、1000ヤードって?」
「えっと、ボク自身あまり知らないから簡単なことしか分からないけど…ヤードっていう言わゆる何cm、みたいな単位があって確か1ヤードが0.9144m。つまり1000ヤードだから……」
「大体910mだね」
「きゅうひゃっ、ほぼ1kmじゃないですか!」
「おお、それはすごい。近界でも中々見ない程の腕ですなぁ」
い、いやあ。照れますなぁ。
だけどこれはSEによって出来る芸当だし…もしこれがなかったら私みたいなやつはきっと下の下の人間だったし。
「私は、凄くない」
「何言ってんのよ! タッキーは凄いわよ! ねぇ?」
「はい。瀧原先輩は凄く尊敬し敬愛している先輩です」
「そうそう! SEがあるから、とか自分の努力を卑下しないでください」
「例えSEがあろうと、1000ヤード先の敵を撃てるのは努力の賜物だろう。胸を張れ」
なみだでそう。
玉狛の皆いつも私の事肯定してくれる。
ああ、世界は私に優しい。
「たきはらセンパイは何のSEを持ってるの?」
「立香先輩のSEは『空間把握』。簡単に言えば普通の空間把握より視野が凄く広くなって例え死角にいたり建物内に居ようと相手の位置、場所が分かるんだよ。最大距離は2km!」
「2km!?」
「すごい…」
「まあ、欠点としてはSEに集中しすぎると周りが見えなくなっちゃうんだよね」
「周りが?」
「一点に集中しすぎる…つまり、もの凄い離れた場所、建物内に修くんがいるとして、その修くん限定に集中すると周りの人が襲ってきたら分からなくなっちゃうみたいな」
「なるほど……でも、そんなに凄い人がどうしてA級ではないんですか?」
「タッキーは陰キャ、コミュ障、口下手っていう人として生きていくのに必要なものが欠けてるから誰にも話しかけれないし、普段から真顔だから誘われないの」
「」
「あ、立香が死んだ」
「小南先輩の人でなし」
「どうしてよ!!」
私のハートにクリティカルヒットッッ!!!
確かにそれは事実だけども。事実だけども!!
口に出して言われると物凄く胸が痛い。
「ははは、でも立香は元々幼馴染みとオペレーターの三人で部隊を組んでA級5位になってたんだけどオペレーターの子が県外に引っ越すことになっちゃって解散。そして幼馴染みが部隊を作ったことでひとりぼっちになって今に至る」
「それはそれは」
「でもいいんじゃないか? 瀧原はコミュ障や口下手が解消するかもしれないし、雨取は技術が上がる。win-winだろう」
「───」
「荒船にも教えてたし、しかもマスターランクになってる程でしょ」
そ、それは荒船氏による努力の賜物ですしおすし…私は基礎を教えただけだったから。
「荒船氏の努力」とただただ簡潔に言いやがったこのお口に木崎さんがフォローしてくれた。
もうちょっと喋れ、私の口。
「荒船の努力もあるが、瀧原の教え方が上手かったのもあるだろ。実際、荒船も瀧原のおかげだと言っていたしな」
あ、やばい。今荒船氏への好感度が限界突破した。
例え人の好意にチョロい女と言われようと、このゴミクソ陰キャコミュ障口下手の私にとって嬉しいとしか言いようがない。
神か。今度いいとこの焼肉に連れて行ってあげよ…まあ予約なんて怖すぎて取れないからそこは匡貴くんにお願いしよう。
イマジナリー荒船氏を心の中で奉りながら、私は雨取ちゃんの方を向く。
すると、雨取ちゃんはビシッと固まってしまった。
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ゴメンネ。
やっぱり私なんかが師匠だなんて嫌だよね…生きててすいません。
でも、ちゃんと言葉にして話さないと何も始まらない。
影浦くんにも言われたように自分の中で完結させないでハッキリと。
「どうして」
「え?」
「どうして、ボーダーになるの」
「それ、は…」
逆にどーしてこの口は私の言いたいことと別のことを言っちゃうんだい??
自分で自分の口を制御出来ないとか……以前影浦くんに「お前中身騒がしいのになんでそれが声に出せねぇんだよ」と言われたが、私にも分からないので無理です。
「…近界民に連れ去られた友達と兄を探したいんです」
「…!」
「そのために逃げるだけじゃなくて、わたし自身の力で戦えるようになりたい。だから、ボーダーに入ることを決めました」
友達とお兄さんを……お兄さんの事に付いては少し疑問があるけど、二人を助けたいって気持ちは本当なんだと思う。
ならボーダーの先輩として、少しでも支えてあげないと。
それに…友達がいなくなる気持ちはとても分かるから。
私はぽん、と優しく雨取ちゃんの頭に手を置くと優しく撫でて目線を合わせた。
「…わかった。教えるの下手だけど…こんな私が力になれるなら幾らでも力を貸す。よろしく、千佳」
「っよろしくお願いします!」
よし。調子乗って名前呼びしちゃったけど嫌な顔されなかったからクリア。
天は私に味方した。
「タッキーに指導してもらえるなんて、千佳は贅沢者ね! ま、あたしが勧めたんだけど」
「ふむ、たきはら先輩の指導は贅沢なのか?」
「基本的に瀧原はコミュ障もあって弟子を取らないスタンスだから、ある意味超激レアな指導者とも言える」
「ほほう。つまり千佳は確実に強くなれるってわけか」
「…千佳の頑張り次第。私から言えるのはそれだけ」
「はい。わたし、頑張ります」
「ん」
その後、千佳ちゃんの私や匡貴君なんか足元にも及ばない程の桁違いのトリオン量があると知ったり、烏丸くんから頼まれて修くんに射手としての技術を──苦虫を噛み潰したような顔をしながら(無表情)──教えたり、たまに遊真くんに仮想訓練でボロクソに殺られながらも結構仲を深めて言った。
ああ、後輩って可愛いな。
それと何故他の二人も名前呼びかというと、玉狛の皆が三人の事を下の名前で呼んでいた為私も乗ってみたという事だ。
調子乗りすきで後ろから刺されそうだから口に出さないけど。
「そういえば今日でまた一年終わっちゃうのねー…」
「あっという間でしたね」
12月31日の大晦日。
今年の大晦日は新しい玉狛メンバーが加わったことで皆で年明けをしようと本部所属だけど玉狛に招待された。
そして大晦日と言えば一年の終わりの日であり、明日から新しい年が始まり私は受験シーズンに突入する。
大学どうしよう。
「メガネくんは色々ありすぎていつもより早く感じたでしょ」
「確かに今年は例年とは違った年だったので…今思えばあっという間でした」
「ふむ、今日はなんの日なんだ?」
「今日は大晦日と言って、一年が終わる日の事だ」
「明日の1月1日から新しい年が始まって、12月31日でその一年を締めくくるの」
「玄界には面白い文化があるんだな」
「そっか、近界にはそういう文化はないものね」
「じゃあ遊真にとっては初大晦日か」
「………」
「立香さん、どうかしたんですか?」
「…今日、誕生日か」
スマホに届いていた親からのメールを見てぽつ、と声を漏らすと賑やかだった室内が一瞬で静まり返った。
あ、あれー? 私なんかしちゃいました??
「え、立香先輩今日お誕生日なんですか!?」
「そういえば私たち、立香先輩の誕生日聞いたことなかったかも…」
「ちょっと! どうしてそんな大切なこと言わないのよ!」
「そーだそーだ!」
「ただ生まれただけの日だから…言う必要ないかな、って」
それに私のことを祝ってくれるのは両親と匡貴くん、それに幼馴染みぐらいだったし。
毎年祝ってくれていた二人は今お父さんの仕事の都合でお母さんも県外について行ったから朝から言ってくれる人いなかったのもある。
あ、匡貴くんからも来た。今日は防衛任務だから今度焼肉奢ってくれるらしい。
匡貴くんああ見えて私に甘いから、この誘いは有難く受け取っておく。
「迅さん」「迅」
「あー…ごめん。完全に読み逃してた。俺も立香の誕生日知らなかったから…」
「え、でも瀧原先輩って皆さんと仲も良いし結構長くボーダーに所属してるんですよね? 一人くらい知ってたんじゃ」
「「………」」
「(えぇー…)」
「これがボッチ故の弊害、というやつか」
「かハッ」
「ああ、りつか先輩がっ」
「レプリカ、あんたなんてこと言うのよ!」
「そうだぞ! りつかちゃんはおとうふメンタルのガラスのハートのもちぬしで、こころがものすごくよわいんだぞ!」
「陽太郎、それ以上はいけない」
「オーバーキルがすぎる」
後日、桐絵ちゃんや栞ちゃん、烏丸くん達によって私が大晦日誕生日だったということを聞いて沢山の誕生日プレゼントをもらったり、どこから聞きつけたのか影浦くんや荒船氏に凄い怒鳴られたりしたけどこんなに沢山の人達から祝って貰えるとは思わなくて私は泣いた(心の中で)