アグネス先輩!よろしくお願いします!~コンパス新人隊員の華麗なる(?)日常~ 作:クスクス
眼前に死神が迫る。
光翼を輝かせながら物理法則をあざ笑うような機動で迫りくる機体はお前の運命は死だと宣告しているように思えた。
「これが……デスティニー……!! でも私だって!」
怯える心を闘争心で覆い隠す。
「向こうの模擬戦ではエースだったんですから! 滅殺!!」
私の機体……レイダーMKⅡの主兵装たる100mmエネルギー砲「ツォーン」を起動してデスティニーを狙う。
「舐めるなああ!!!! そんななまっちょろい攻撃で!」
デスティニーのパイロット……シン先輩の声が聞こえる。
普段の無邪気さとは裏腹の野獣のような叫び。
私のツォーンを回避してそのまま2つのブーメランが投擲される。
咄嗟にMS形態に変形してシールドで防ぐが、1投目を防いだところで体勢が崩れ、2投目でシールドもろとも右腕がもぎ取られる。
「やばっ!堕ちる!?」
姿勢制御機能問題発生。バッテリー残量不足。ツオーン発射不能。シールドおよび2連装ビーム砲喪失。
無数のアラートがディスプレイに表示され警報音でコクピットが賑やかになる。
私のレイダーが重力に引かれて落ちていく。
迫るデスティニーが対艦刀を振り上げる。
「それでも…まだ終わってない!!」
機体を変形させると全力加速で上昇。デスティニーに突撃する。
私のMS「レイダーMKⅡ」はその原型機たる「レイダー」の特徴を忠実に受け継いでいる。
変形すれば猛禽のような姿となりその飛行性能は他の追随を許さない。
そしてその爪にあたる部分には短距離プラズマ砲「アフラマズダ」が装備されている。
確かにデスティニーの対艦刀は強力無比だがその分取り回しは悪い!
「もらった! ……え……」
しかし勝利を確信した私は間抜けな声をあげる事になった。
なんとデスティニーは対艦刀をそのまま上へと投げ上げたのだ。
そして……あいた手のひらをこちらに向ける。
そこに宿る蒼い輝きを見たとき私は失策に気づいた。
「パルマフィオキーナ……!まずっ」
「落ちろっ!」
私の放つアフラマズダとパルマフィオキーナがつかの間拮抗し……屈したのは私のレイダーだった。
アフラマズダもろともクローが爆散し、今度こそ本当に堕ちる。
情けない悲鳴を上げるのを止められない。
フェイズシフト装甲ダウン。バッテリー残量0。
機体の制御を取り戻そうと悪戦苦闘する私が見上げるとそこには投げ上げた対艦刀を受け止めるデスティニーがいた。
そしてそのまま対艦刀を振り下ろす。
私は……その運命を黙って受け入れる事しかできなかった。
「レイダー撃墜判定! 演習終了です! お疲れ様でした!」
オペレーターの声が聞こえて、私は深くため息をついてずるずるとへたり込む。
全身を流れる汗の冷たい感触ですら私が生きている事を教えているようで今はありがたかった。
「ううう…負けた…負けちゃいました…」
演習後に食堂で机に突っ伏して愚痴る。
「情けないわねぇ…もう。山猿に負けたぐらいでいちいち落ち込んでるんじゃないわよ」
向かいに座っているのは私の指導役のアグネス先輩。
艶やかな赤い髪が素敵で、いつでも凛としている姿が素敵だ。
あと戦闘後でもばっちりメイクが決まっているのは何かの魔法だと思う…いつか教えてほしい。
「アグネス…そんな言い方しないの。大体リズが落ち込んでいるから慰めにいこうって言ったのはアグネスじゃない」
そんなアグネス先輩をたしなめるのはルナマリアさん。
どこかお母さんを思わせる優しい人で、デスティニーのパイロット…シン先輩の恋人だ。
その声に反応して顔を上げるとちょっと顔を赤くしてそっぽを向いたアグネス先輩の顔が見える。
「ちょっとルナ!…まあナチュラルのあんたにしてはよく持った方じゃない?大本の機体性能からして違うんだから気にしないの」
そんなアグネス先輩にルナマリアさんが苦笑している。
ここは先輩方の心遣いに甘えさせてもらおう。
「でもでも!一発も有効弾無しって落ち込みますよ~!これでもユーラシアの演習では無敗のエースって呼ばれてたんですから!」
そう。先のファウンデーション動乱で疲弊したユーラシア連邦は長らく渋ってきたコンパスへの加盟を決断。
その第一歩として新鋭機「レイダーMKⅡ」と有望な若手パイロット…つまり私を派遣した。
だから私がいいところを見せる必要があるのだが…現実は非情である。
「あんたねえ…演習しかしてない新米のくせに生意気な事言わないの。あんたは大人しく私の援護さえできればいいのよ」
「もう…でもアグネスの言う通りよ。これは演習なんだから焦らないでいいわ。そもそもこう言ってるアグネスだってシンに演習で勝てないの」
「核搭載のデスティニーにギャンで勝てるわけないじゃない!…アンタ山猿と良い感じだからって調子乗るんじゃないわよ!?」
じゃれあい始めたアグネス先輩とルナマリアさんに焦っていた自分が馬鹿らしくなり…元気が出てくる。
「わかりました!頑張ります!!」
「私が勝てないのを聞いて元気になるんじゃないわよ!っと…先に行くわ。いつまでもアホな新米に付き合ってられないのよ。…午後からは小隊単位での訓練になるんだから足を引っ張らないでよね!」
そう言うとアグネス先輩は席を立った。
二人でそれを見送っているとルナマリア先輩が小声でささやく。
「アグネスがごめんね。…でもあの子なりにあなたの事を気に入ってるのよ。私と会うとすぐあなたの事を話すし、よく褒めてるわ」
まったく素直じゃないんだから…とルナマリア先輩が笑う。
私もじんわりと胸の中が温かくなるのを感じた。
「大丈夫です…!アグネス先輩は私にすごく良くしてくれるんですよ!レイダーのシミュレーターの微調整だってアグネス先輩からメカニックの人たちに頼んでくれたしそれにこの前も~」
私の話すエピソードにルナマリア先輩は一瞬あっけにとられた顔をしたがすぐに優しく目を細める。
そこにどこか温厚な犬を思わせる小柄な青年…シン先輩が飛び込んできた。
「ルナ!リズ!演習の時間だぞ!そろそろ行こう!」
その柔和な笑顔は本当にデスティニーのパイロットと同一人物か疑わしくなるほどだ。
格納庫に向かいつつシン先輩と話をする。
「さっきの演習だけど…リズの動きはすごく良かったよ。ただ敵機の武装はちゃんと把握しておく事が大事だ。また今度シミュレーターで練習しよう!」
「シン!あんまり無茶はさせちゃだめよ?…リズも無理だったら断っていいわ」
ほっとくとずっとシミュレーターやってるんだから…と嘆息するルナマリアさん。
アグネス先輩もルナマリアさんにシン先輩…良い先輩達に巡り合えて本当にこの部隊に来て良かったと思うのだった。
「キラ准将強すぎじゃないですか!?フルバーストかわすだけでも大変なのに!なんですかドラグーンって!あんなのチート!チートですよ!どうやってよければいいんですか!?」
「私が聞きたいわよ!昔はあんなに厳しくなかったのに…やっぱり私がラクス総裁から寝取ろうとしたのをまだ怒ってるのかしら…」
なお午後の演習ではキラ准将を仮想敵として訓練を行ったが…開幕数分で私とアグネス先輩が撃墜され、夕食の食堂で仲良く突っ伏す事になるのであった…。
そしてアグネス先輩からさらっと放たれた爆弾発言…。
前言撤回…やっぱりこの部隊でやっていけるかちょっと不安です!!!
全国5000万人のアグネスファンの皆様におかれては後輩に優しくするなんてアグネスじゃないよ~!という方もいらっしゃると思いますが、主人公がナチュラルで女としてもパイロットとしても格下なのでノブリスオブリージュの精神で優しくしてくれているという事でどうかご理解ください。
以下オリジナル機体の設定(読み飛ばしても問題ありません)
レイダーMKⅡ
先の大戦で少数のエース機にMA部隊が蹂躙された事に危機感を覚えたユーラシア連邦がレイダーのライセンスを取得しMA開発で得られた技術をフィードバックして開発された機体。全体的な機動性・操作性能の向上に加え、武装はミョルニルがオミットされた代わりにビームサーベルを装備。背中に高エネルギー砲が追加されている。(デストロイの砲の小型版のイメージ)