アグネス先輩!よろしくお願いします!~コンパス新人隊員の華麗なる(?)日常~ 作:クスクス
最後までお付き合いいただけると嬉しいです!
※直接的ではありませんが残酷な描写と一部差別的な表現がありますのでご注意ください。
4機編隊で目標に向かう。
2隻の巨大な陸上戦艦とその周囲の護衛MS部隊が視界に入る。
だが…護衛のMSはストライクダガーやダガーのような旧型が大半を占めており、ウィンダムの姿はわずかだ。戦力が払底したという事なのだろうか。
「旧型ばっかりねぇ…雑魚は私とルナで相手するわ。いいでしょ?」
「ああ!リズは前の戦艦を!俺は後方の戦艦をやる!狙うのはエンジンと武装だけだ!」
アグネス先輩とルナマリアさんが地上に降り立つと群がるダガーやストライクダガーを華麗な連携で血祭に上げていく。
私も大型戦艦の主砲にツオーンを叩き込んで破壊し、後方に回り込む。
シン先輩のデスティニーは進路上にあるあらゆるMSを対艦刀でなぎ倒しながら突進し…そのまま大型戦艦の武装を叩き切るのが見えた。
「これで…終わりです!」
私の放った背部高エネルギー砲「フラムベルク」が機関部に命中。一瞬の沈黙の後、巨大な火柱があがり、戦艦が擱座する。
同様にシン先輩ももう一隻を仕留めたらしい。
盛大な黒煙を噴き上げて2隻のハンニバル級が停止する。
私は旗艦前方の甲板に降り立つとシールドビームライフルで艦橋を狙う。
「降伏してください!もう勝負はつきました!」
「ふむ…我々はテロリストではない。誇りある軍人だ。そのように扱ってくれるのかね?」
思想に染まった狂信者かと思ったが。意外にも落ち着きはらった余裕さえ感じる声。
貫禄を感じさせる壮年の男が通信ウインドウに映る。
この人がエミール中佐!
「それを決めるのは私ではありませんが…非人道的な取り扱いをしない事はお約束します!」
「君のお仲間にもその言葉を守る理性がある事を願うよ…君に従おう」
アグネス先輩やルナマリアさんと戦っていたMS隊も武器を捨てる。
ルナマリアさんがミレニアムに秘匿通信で降下要請を出すのを確認する。
ミレニアムが降下を開始する。
無事に任務を達成できた事に安堵するが、とんとん拍子で事が進む事に違和感がぬぐえない。
資料を見た限りブルーコスモスは死に物狂いで抵抗すると踏んでいたのだが。
それともユーラシア軍という最後の後ろ盾を失い、邪魔者として粛清されようとしている集団などこんなものなのだろうか。
「ところで…レイダーのパイロットという事は君もナチュラルだろう?コーディネーターに媚びへつらい、踏み台になるのがそんなに楽しいのかね?」
「無視しなさいリズ…それからエミール中佐、降伏したのなら速やかに退艦しなさい」
ルナマリアさんが通信に割り込む。
「ただの世間話だよ…それに今は艦のダメージコントロールをしているところだ。負傷者もいる。せっかくの捕虜が爆発で吹き飛んでは君たちも面白くないのではないかな?」
からかうような調子でルナマリアさんに返答するエミール中佐。
「…退艦するだけならそれほど時間は必要ないはずよ。10分以内に退艦しなさい」
固い声で答えるルナマリアさんの声を聞きながら考える。
「了解したよ…だがまだ時間はある。少しぐらいいいだろう…それでレイダーのパイロット君?」
再び私に問いかけるエミール中佐。
「エミール中佐…私は誇りに思っていますよ。信頼できる上官を上に乗せる事を」
「君はまだ若い…そして幸運にも戦争の惨禍を経験しなかったのだろう。いずれ君も理解する。我々の大義を。戦いの価値を。我々ナチュラルが生き延びるにはやつらを根絶やしにするしかない事を」
まるで聞き分けのない娘を諭す父親のように慈愛に満ちた声で穏やかに語りかけてくるエミール中佐。
その独善的な押し付けがましさに虫唾が走り、思わず余計な事を口走ってしまう。
「私の父親はエンディミオンクレーターで戦死しました。でも…私はコーディネータの人に復讐しようなんて思いません!」
「何故だ!!」
突然の怒声に思わず息を呑む。先ほどまでの超然とした態度はなりを潜め、憤怒の顔に表情を歪めた中佐の顔が映る。怨念と狂気にとりつかれた幽鬼のような顔。
これが…この男の本当の顔か。
「なぜ…君は愛する家族の無念を引き受けない?愛していなかったのか?」
「私だって父を愛していました!でも!そんな事で関係の無い人々を殺していい理由なんてありません!」
「…君はあの地獄を知らない。空の化け物どものニュートロンジャマーのせいで生まれた地獄を。愛する人々…部下、友人そして家族が飢えていくのを黙って見ているしかなかった私の気持ちが!やせ衰えた妻と娘の身体の軽さが!君にわかるかね!」
「それは…」
返答に窮する。
確かに私の住んでいた地域は幸運にもNジャマーの影響をそれほど受けなかった。
Nジャマー投下による混乱に伴う死者は数億人ともいわれるが、私の身の回りで死んだ人はいなかったのだ。
「リズ!捕虜を刺激しないで!」
ルナマリアさんの怒声。
だが、エミール中佐は空虚な明るさを帯びた声で淡々と続ける。
「いいんだ…コーディネーターの諸君にも聞いてもらおう。…私と娘がどうやってあの地獄を生き延びたかを。妻は私と娘に全てを捧げた。文字通り全てを」
ルナマリアさんとシン先輩の驚愕する声が通信機から響く。
流石のアグネス先輩もひきつった顔をしている。
「あの日以来…私は…私達は義務を負った。愛する者の無念を、想いをつないでいく責務を。生き残った者には皆、等しくその義務がある。それこそが愛だ。」
”リズ…お願い…きっとお父さんの仇を討ってね”
母の声が脳裏によみがえる。
母が父親の形見を見ながら思い出を話した後、コーディネーターへの恨み言とともに必ず繰り返したフレーズだ。
だから…私はユーラシア軍に入った。
「同志達も皆同じだよ。愛する者を亡くした者たちだ。そして…私達が倒れても私達の愛は死なない。いつか、あの砂時計を焼き尽くすまで」
そこで私は我に返る。
この男に降伏するつもりなんてない!
でももう武器もないのにどうやって?
迷いながら私は口を開く。
「皆さん…この男は降伏するつもりなんてありません!」
「言いがかりはやめてもらおう!レイダーのパイロット君!君のような存在こそ許されない!安易に義務を捨て!わかりあえるなどときれいごとで媚びへつらい!父親の死を勲章がわりにしてお涙頂戴か!悲劇のヒロイン気取りでコーディネーターどもにちやほやされるのはさぞ気分がよかろう!!」
「…っ!私と笑いあってくれました!両親を亡くした子が!同じ人間同士なんです!きっと分かり合えます!」
「わからないさ!君が私の無念をわからないように!そのコーディネーターの事もわかってはいない!一時の感傷で笑いあう事はできる…だが夜が来れば、失ったものを思い出す!明日はどうだ!10年後は!かつて笑いあった口で憎悪を口走り!取り合った手で君に刃を突き立てないとどうやって保証できる!」
そこで言葉を切り、笑顔になるエミール中佐。
「…ああ、そういえば君の信頼できる上官達もいたな。きっと褒めてくれたのだろう?それでその気になったというわけだ…憎しみを捨てた模範的なナチュラル。まったく反吐が出るよ。」
言葉を無くした私に向かって突然穏やかな口調になるエミール中佐。
「知っているかな?今は残酷だという事でなくなってしまったが…前世紀には猿回しという芸があった。猿に人間の真似をさせて笑うんだよ。彼らにとって君はさぞかわいい猿だっただろう。もしくは犬かな…教えた芸をちゃんとやる動物ほどかわいいものは無い」
眼の前が暗くなる。
私は安易にわかったつもりになっていたのだろうか…
わかりあえると、同じ人間だとそう言えば褒められるから芸を仕込まれた犬のようにそう繰り返していた…?
”まるで誰にでも尻尾を振る駄犬ね!”
アグネス先輩の言っていたという台詞を思い出す。
もしかしてアグネス先輩には全部わかって…?
劣ったナチュラルが自分に媚びを売るのを見て笑っていた…?
いやアグネス先輩だけじゃない…ルナマリアさんにシン先輩、キラ隊長にラクスさんも。
過分にかわいがってもらっている自覚はあった。
それもみんな、喜ぶ私を見て裏で笑うために…?
そんな事はないと叫ぶ理性と裏腹に足元が崩れていくような感覚を覚える。
「ふざけるな!リズは俺達の仲間だ!」
「リズ!通信を切りなさい!こんな男の言う事!聞く必要はないわ!」
激昂するシン先輩とルナマリアさん。
これも嘘なのだろうか…聞かせたくないという事は本当という事?
「信頼など!容易に崩れ去る!コーディネーターとナチュラル!我らを隔てる壁の前ではな!これでわかっただろう!わかりあえるなどとおごり高ぶった挙句に何一つ信じられるものなど無いとわかった気分はどうだ!」
勝ち誇るエミール中佐。
「ふぅん…でもあんただって同じナチュラルなのにこの子の事、何にもわかってないじゃない」
それまで黙っていたアグネス先輩が口を開く。
「えっ」
思わず声を上げてしまう。
「私はナチュラルとわかりあうなんてあんまり興味ないの。少なくともそれでこの子を褒めた事なんてないけどこの子はミレニアムに来た時からずっと言ってた。わかりあえる。平和のために戦うって。それってこの子の本心って事でしょ?」
「貴様以外に褒められたからだろうが!」
「おあいにくさま!この子は私の事が一番好きなのよ!それ以外の有象無象に褒められたってどうでもいいでしょう?…それに信頼がどうとか言ってたけど、もっともらしい嘘と知ったような事を言えば愛しあう恋人同士だって簡単に引き裂けるわ。あんたのやり口はそれなのよ!」
アグネス先輩の言葉に絶句するエミール中佐。
凄まじい超理論だしなんか勝手に私がアグネス先輩の事を一番好きな事にされてる!
…まあ間違ってないけど。それと後半なんかやけに具体的じゃないですか?
でも…胸の中に空いた穴がふさがっていくような感覚になる。
”穴”?
廃棄された鉱山地帯、レーダーに映っていなかったウィンダム。
執拗に私を挑発して皆の注意をそらしたエミール中佐。時間稼ぎ。
全てが繋がっていく。
「皆さん!退避してください!こいつら坑道に部隊を隠しています!そして狙いは…ミレニアムです!」
私の叫びにエミール中佐は先ほどまでの興奮した顔から指揮官の顔に戻った。
「予定より早いが…やむをえないか…作戦発動」
「蒼き清浄なる世界のために!」
その無線を残してデスティニーの乗っている戦艦が巨大な爆発を起こす。
自爆…!
「くそっこいつら…正気じゃない!」
「シン!!大丈夫!?」
私の警告で退避したデスティニーガンダムは爆発の直撃こそ避けたが、余波でかなりのダメージを受けたようだ。
ルナマリアさんのインパルスが援護に向かう。
だが、戦艦の自爆で空いた穴から坑道内に待機していた無数のウィンダムとザムザザーが出撃してくる。
このために戦艦を配置していたのか。
「まだやれる!すまないリズ!アグネス!少しだけ持ちこたえてくれ!」
「来るわよ!シン!」
インパルスとデスティニーが迎撃する。
激しい戦闘が開始される中、部下の死をまったく気にしていないような口ぶりでエミール中佐が命じる。
「アンナを出せ。決着をつけよう」
「しかし…中佐!彼女はあなたの娘で、まだ13歳ですよ!?」
副官らしい男の声が聞こえる。
「聞いていなかったのか?彼女にも義務がある。諸君らと同じようにな。レイダーのパイロット君…紹介するよ…娘のアンナだ。君と違って愛を知っている良い子だよ」
戦艦の格納庫が開き…異形のMAが現れる。
デストロイガンダム。
破壊と殺戮を目的としたMAが牙を剥こうとしていた。
SEEDのキャラについて書きたかった事は大体書けたので、リズちゃん自身の物語を終わらせる頃合いだと思いました。
あと少しだけお付き合いいただければ幸いです!
ブルーコスモスといえば流れるようなヘイトスピーチだよなと思って書いてみたんですが、中々難しいですね…
原作のワードセンスが強すぎる…