王国魔法ギルド 特認魔術課   作:穴熊拾弐

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第12話 事後報告

 

 

 

 犯人を捕えた後、先輩方が後処理を行う中、エリンはタナウと共にギルドへと戻った。

 ギルド長への報告と、まだ窓口業務が残っているためである。

 

「――以上が犯人確保の経緯です」

 

 4階のギルド長室にて、タナウが簡潔に事件のあらましを説明した。

 まだ犯人と魔道具を確保しただけ。彼らの所属や動機といった詳細な捜査はこれからになる。

 ただその仕事は我々特認魔術課――特魔課の仕事ではなく、セロス達冒険者ギルドの対魔犯罪課の役割である。

 特魔課は魔道具の確保が済めば、基本的にはお役御免となるそうだ。

 

 

「ふむ、承知した。2人ともご苦労!」

 

 報告を聞き終えたレチシアが、気持ちのいい大声でそう言った。

 その一声でかちり、と気分が切り替わり、一仕事を終えた安堵の空気が場に広がる。

 

「街中で魔道具を使われたのは不味かったが、幸いエリン君たちが上手く対処してくれたおかげで被害も殆どない。よくやってくれた」

「ありがとうございます」

 

 正直、場所が良かったとしか言いようがないのだけれど。

 あの路地がもっと狭かったり短かったりしたら、猛火は燃え広がり、より酷い事態になっていただろう。

 ――やはり次は武器を持たれる前に制圧しよう。

 そう密かに誓うエリンであった。

 

「流石はユラリア魔法学院の卒業生だ。どうだ? 今度どこかで手合わせでも……」

「ひっ……!?」

「――地下室、また壊す気ですか?」

 

 突如始まりそうだった物騒な話を、タナウが鋭く断ち切った。

 

「……む。お前までそう言うか。いいじゃないか、ちょっとだけだから、な?」

「あれのせいで、しばらく都市外周まで魔法の試射をしに行かないといけなくなりました。おかげで仕事がとっても滞りましたっけ……」

「むむ……」

 

 ほう、とため息を吐き出して、タナウがにっこりと笑ってギルド長を見た。

 

「それで? なんでしたっけ?」

「……わかったわかった。やめとくよ」

 

 タナウの圧に渋々引き下がってくれた。

 危ないところだったと、エリンは息を吐き出した。あんな恐ろしい人と戦うのは絶対にごめんである。

 それに一歩も引かなかったタナウも凄いけれど。

 

 というか、壊したのか? 地下室。……やはりこのギルド長、ただの戦闘狂なのでは?

 そんなエリンの恐ろし気な視線に気づかず。むう、と不服そうな表情を浮かべながらも、レチシアは話を戻す。

 

「しかし、やはり違法魔道具だったな。最近やけに多い」

「2週間前にも似たような事件がありましたね」

「2週間前……?」

 

 封印指定とあった書類を思い出す。あの日付が丁度2週間前であった。

 やはりこの『特別業務』に関連したものだったようだ。

 

 先程確保した魔道具について、アズールは二度と使われないように保管庫に封印すると言っていた。

 破壊した方が安全なのだろうが、使用方法さえ間違えなければ有用であり、なおかつ刻まれた魔法陣を残しておくことで『誰の』作品かの同定に役立つのだという。

 

 そして書類には『封印指定』とだけ表記をし、どういった魔道具だったのかなどの情報は一切消去する。

 そうすることで万が一書類を盗み見られても模倣されることもない、というわけだ。

 

「そう、それだ。2週間前に見つかったのも上級魔術の魔道具だった。あんな凶悪な物、年に2、3個出てくれば多い方だ。それが僅か2週間で……。こうも連続するなど普通はあり得ん。どこかで新しい魔道具師が現れたか?」

「学院の卒業式がある時期です。新たな魔道具師たちも多く登録されているでしょう」

「モグリが動くには丁度いい時期か……。なら、まだありそうだな」

 

 魔道具を造ることができる人材は限られる。それが上級魔術となればかなり希少だ。

 更に非認可で魔道具を造る魔道具師(モグリ)となればその数は10に満たないだろう。

 卒業したばかりの学院生がモグリになるとは思えないが、優秀な新人に追い出されたベテランが――ということはあるのかもしれない。

 

 自由都市と謳われ、多くの人や文化が入り乱れる繁栄の都市テティア。

 その裏側は、自由が故の危険も数多く潜んでいるということだ。

 

「よし、改めてご苦労だった。ソフィアが特認魔術課の窓口を代わりにやってくれている。戻って手伝ってやってくれ」

「「――はい」」

 

 礼をして、2人でギルド長室を辞した。

 

「さ、戻りましょうか」

「はい」

 

 扉を閉じて歩き出したところで、タナウがこちらを見やって口を開いた。

 

「初出動お疲れ様。いきなりあの事件じゃ、驚いたでしょ?」

「そうですね。少し……いえ、かなり驚きました」

「無理もない。皆最初は驚くから」

 

 路地裏からギルドに戻った際、いつも通り賑わう窓口を見て、さっきまで体験していた出来事は本当に現実だったのかと疑った程だ。

 知って初めてわかる、平穏な日常の大切さ。

 そしてこの平和な日常を、脅かす悪意があることもエリンは知った。

 

「最近よく起きているんですか? その……魔道具の密輸入って」

「……ええ」

 

 あまり表情の変わらないタナウであったが、その問いにはほんの僅かに眉をひそめる。

 

「このひと月で既に2回目。しかもどちらも上級魔術……こんなのは初めてよ」

「そうなんですね……」

「あなたも大変な時に来たわね。忙しくなるかもしれないけど、その分、頼りにしてるわ」

 

 そう言って、タナウは微笑んだ。

 妖精は総じて美形が多く、彼女もまた例外ではない。透明感抜群の青髪美女に笑いかけられたらドキドキしてしまう。

 

「が、頑張ります……!!」

「うん、よろしくね」

 

 そんな話をしている間に階下の居室へと戻ってきた。

 従業員用の扉から中へ入ると――。

 

「聞いてよソフィアちゃん! この間来たお客さんがねー?」

「なんじゃそいつは! 追い返せばよかろう」

「んもう。そんな気軽に言わないでくださいよ。客商売なんですから」

「……おふたりとも、もう用は済んだのでお帰りを……」

「「まだ話が終わってない!」」

「……ええ、そうですね……」

 

 いつもの常連組にたじたじにされているソフィアの姿があった。

 何故だか彼らはソフィア1人を前に居座っているらしかった。

 一体何が……と呆然とするエリンの肩を、タナウが叩く。

 

「……エリン」

「はい?」

「私は報告書作りがあるから、窓口は任せた」

「ええ!? 私ですか?」

「うん。頼りにしてるわ」

 

 そう言って颯爽と席に向かったタナウを恨めし気に眺めてから、エリンは半泣きのソフィアに呼ばれていつもの窓口業務へと戻るのだった。

 

 

***

 

 

「――結局、見つかった魔道具は2本だけか」

 

 一方、エリンが戻った後の路地裏では、アズールの下にリセツ・ランドルフが合流していた。

 アズールが眼を輝かせて路地を探る中、彼女から仔細を聞いた2人が情報を整理している。

 

「どちらも上級魔術ではありますが、少なすぎますね」

「《霧隠》のマントもあったでしょ? 4つじゃないの?」

 

 《霧隠》自体は中級の水魔術にあたり、当然危険魔道具に指定されている。

 

「いや、マントの方は大分使い込まれていた。あいつらの常用装備だろう。それに、武器の方は箱に入っていた。ご丁寧に魔力が漏れないように対魔術処置のされた箱に、だ。あれだけで結構な値が張る代物だぞ?」

「その上、ダミー用の武器に混ぜて運んでいたようですから、まず間違いなく常習犯でしょうね」

 

 馬車にはかなりの数の武器を積んでいたから、密輸入だけが目的ではなかっただろう。普段から武器を運ぶ商人だった筈だ。

 そう考えれば武器の販売が主目的で、魔道具はついでに運んだだけと考えれば、たった2本という数もおかしくはない……が。

 

「……いや、それにしたって少なすぎる。たった2本じゃ大して稼げねえだろ」

「ですが、2週間前の時も同じでした。そういう手口なのでは?」

 

 ランドルフの言う通り、2週間前の事件も同じ状況であった。

 あの時は風の魔術が暴発を起こし、馬車内の積み荷の農産物が辺り一面にまき散らされて大変だった。

 吹き飛んだ南瓜が腹部に激突した護衛の冒険者は、今も療養中と聞いている。

 

 こういった魔道具に込められた魔術の暴発というのは、密輸入ではそれなりの頻度で起こる。

 何せ誰でも使えるように燃料が込められた兵器だ。うっかり起動させれば問答無用で魔術が放出される。

 

 しかも魔法輪のせいで、この都市の人間は魔力の制御が()()

 他の魔法を使おうとして魔力を流した状態で違法魔道具に触れてしまったら、それだけで暴発する可能性があるのだ。

 

 そして都市の中や近辺で暴発させたら最後。必ず特魔課なり他の組織なりに捕捉され、回収されてしまう。それ故小出しに、バラバラに運んで危険(リスク)を分散させるやり方は確かにある。……が。

 

「たった2本であの規模の爆発が起きたってか? んな用心深い手段を取るやつの管理方法にしちゃ、杜撰すぎるだろ」

「……ですね。ならば、魔道具が他にもあったとお考えで?」

「そうじゃなきゃ説明がつかねえだろ。だいいち、風の魔道具が出てきてねえ」

 

 アズールの見立てでは、あの爆発は火と雷、風の魔法の痕跡があった。

 だが見つかった魔道具に風のものはない。

 もう一人誰かがいたのか、爆発で消し飛んだのか。あるいは――。

 

「……結局、ここで考えてても埒が明かねえか」

 

 犯人たちは今、セロス達が()()()取り調べをしている。

 そのうち、移動経路などの詳細が分かることだろう。

 今はそれを待つしかできることはなさそうだ。

 

「なーるほどねー」

「……んで、どうだった? あいつは」

「エリンちゃん? 凄かったよー! 聞いてはいたけど、まさかあんなに強いとはね。びっくりしたよ」

 

 実際、アズールは本当に驚いた。一瞬、慌てて捕縛杖の狙いを外してしまったくらいに。

 なにせ触れれば焼け焦げる上級火魔術相手に、ほぼ素手で突っ込んでいったのだから。

 よほど戦闘になれているか、頭のねじが数本ぶっ飛んでない限りはできない芸当である。

 

 その後に見せた戦闘技術も凄まじかった。

 柄が安全であることは魔力が見えるアズールにも理解はできるし、している。

 だが、あの短い時間で『どこまでなら触れて安全か』を正確に把握して対処するなんて芸当は不可能だ。

 良くも悪くもアズールの能力は『眼』に特化している。肉弾戦など完全に専門外だ。

 外見だけを見ればエリンも殆ど同じに見えたのだけれど……。

 

「あいつの身体、かなり鍛えられてたからな。相当に訓練しているんだろう」

「……魔法学院だったよね? 軍隊の出じゃないよね?」

「ユラリア魔法学院ってのはそういうところだ」

 

 魔法の研究や生活魔道具の開発等の『学問』と、魔法戦闘の研鑽や対魔獣兵器の開発といった『実戦』の両方を行う文武両道を地で行く魔導の学府。

 その卒業生たちは、同年代の若者と比べて確実に戦闘に慣れている。

 ……それにしたって、上級魔術相手に単身突っ込むのは、やはり異常ではあるのだけれど。

 

「本当はもう少しのんびり教えてやりたかったんだがな……。タイミングが悪すぎたな。暫くは仕事の合間に『こっちの業務』について教えてやる必要がある。お前ら、頼むぞ」

「承知しました」

「はーい。……で、課長、ランド、こっち来て」

 

 ちょいちょいと手招きするアズールに呼ばれて、3人が路地の奥へと向かう。

 だがそこには何もない、三方を壁と鉄柵に囲まれた空き地があるだけであった。

 

「見て」

「なんだよ。……何もねえぞ?」

「私にも何も感じませんが」

 

 聴覚や嗅覚に優れるランドルフも首を横に振る。

 それくらい、この路地には何もなかった。

 

「うん、そうだね。ここには何もない」

「あ?」

「逃走経路の話。何であの犯人、わざわざここに来たんだろうね? こんな何もないところにさ」

 

 エリンとアズールは犯人をここに追い詰めたのではない。勝手にこの場で立ち往生していた犯人に追いついたのだ。

 ならば彼はこの場所が目的地だった筈なのだが。

 

「迷った、なんてことは?」

「ないんじゃない? 常習犯なんでしょ?」

「そうでしたな……」

 

 自分が言ったことを指摘され、降参ですと両手を上げるランドルフ。

 

「となると、ここが目的地だったと」

「そうなんじゃないかな? でも、何もないんだよねー」

「お前でも何も見えないか?」

「駄目だね」

 

 目を煌々と輝かせながら、アズールは首を横に振る。

 一見何もない行き止まりでも、こと魔法の視点で見れば何かがあり得るのがこの世界。

 それを見抜けるアズールですら、ここには何もないと言う。

 

「もしかしたら何かがあったのかもしれないけど、あの火の魔道具で塗りつぶされちゃったね。ここには火の魔術の痕跡しかないよ」

「……怪しいな。間違いなく怪しい。ただ、なんの証拠もねえ、か」

 

 2本しか見つかってない魔道具も、何もない逃亡先も。

 そして2週間前に起きた似たような事件も。明らかに何かの意図を感じる。

 だが、確証といえるものは何もない。

 

「とりあえずセロスたちに任せるしかねえな」

「……ですね」

「じゃあもう帰るよね? もーウチは疲れたよ」

 

 今日の任務で一番疲弊したのは間違いなくアズールだろう。

 魔眼は魔力だけでなく体力も著しく消費する。しかも新人を守らなければという緊張もあっただろう。

 

「おう。いつも悪いな」

「帰りに肉串を所望します!」

「はいはい……帰るぞー」

 

 不穏な気配を感じながら、3人はギルドへと戻っていくのであった――が。

 

「あ、しまった」

 

 そう呟いて、リセツは立ち止まった。

 

「どしたの、課長」

「お前ら先に戻ってろ。寄り道して帰るわ」

「えー! お肉はー?」

「ランドに買ってもらえ」

「……何かありましたか?」

 

 財布の場所を探りつつ尋ねるランドの声に、リセツは指を立てて言った。

 

「明日、魔術教室の日だろ。その準備だ」

「「……ああ!」」

 

 そうして、本日の特魔課の事件対応は今度こそ終わるのであった。

 

 

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