王国魔法ギルド 特認魔術課   作:穴熊拾弐

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第16話 消える魔道具③

 

 

 

 ポピアとロロンに礼を言って別れると、エリンは都市中央を貫く大街道を通って北へと進む。

 道中で部屋に戻ってぱんぱんの革鞄を置いてから向かったのは、冒険者ギルドテティア中央支部である。

 

 魔法ギルドの少し北側に位置する武骨な石造りの建物である冒険者ギルド。

 ここはその名の通り、各地を旅して様々な問題事を解決する冒険者たちが集まる場所である。

 

 大陸各地には、神話の時代の古代種が残した遺跡が眠っている。そこからは魔獣たちが生まれ、恐ろしい迷宮と化しているらしい。

 また、都市を離れれば天然の洞穴やら森の中などに魔獣たちの巣が造られ、街道や集落を脅かしている。

 

 彼ら冒険者は人々の依頼を受けてそういった場所の調査や巣の破壊などを行っている武芸者たちである。

 

 人々の暮らしを平穏にする役割を果たしている彼らだが、個人で強力な武力を有しているが故に市民からすれば恐ろしい存在でもある。

 暴れられでもしたら魔獣より恐ろしいと、ギルドを都市の外に置くべきという議論は長年行われているそうだ。

 

 そんな彼らを適切に管理するために、ギルドの職員たちもまた武芸に秀でた者が多く、様々な事情で冒険者を引退したものがその職に就く場合もあるという。

 

 つまり、何が言いたいのかといえば。

 

「――何の御用でしょうか?」

「あ、あの。対魔犯罪課の方ってどこにいるのでしょうか……?」

 

 そうエリンを睨みつけるように告げる職員も、筋骨隆々の禿頭の男性であり。

 要はとっても怖いのだと、エリンはビビりながら要件を告げるのであった。

 

「……対魔犯罪課、ですか?」

「ひっ!? そ、そうですけど……」

 

 くわっ!と眼を開いてその男が聞き返してくる。

 なんでそんな反応が大きいの!?とビビりながらもエリンは頷く。

 

「本当に? 他の課と間違えているわけではなく?」

「はい、間違いないと思いますけど……」

「そうですか……少々お待ちを」

 

 今度は不思議そうに首を傾げ、最後はすん、と大人しくなってしまった。

 一体何なのだ……。

 

「――あれ、エリンさん?」

 

 そんなエリンへ、背後から声がかかった。

 振り返ると、探していた対魔犯罪課のヴァファルが立っている。

 

「ヴァファルさん、良かった、探してたんです」

「ファルでいいですよ。僕の名前、少し呼びづらいでしょ? ……それで、どうしたんですか? 何か事件でも?」

「そうなんです。相談したいことがありまして」

「成程。それなら僕らの部屋まで行きましょうか。こっちですよ」

 

 そういって歩き出す彼に付いていくが、ふと受付を振り返ってみれば、先程の禿頭の男が信じられない様な目でこちらを見てきたのだった。

 ……そんなに来客が珍しいのだろうか、この課。

 なんだか親近感を覚えるエリンであった。

 

 

 

「さあ入ってー」

「お邪魔します」

 

 そうして案内されたのは、椅子と机が並べられた簡素な部屋。

 特魔課とは違って来客が想定されておらず、机にも書架にも煩雑に物が積まれた、職員たちの執務室だ。

 壁の書架には機密であろう捜査関連の資料が格納されている筈だが、入って良かったのだろうか。

 そんなエリンの心配を余所に、ヴァファルは自身の席の真横を指さした。

 

「ここ座って。彼女、今日休みだから」

「ありがとうございます。……ひょっとして、皆さんお休みなんですか?」

 

 彼の他に人は見当たらず、壁にある装備棚には複数名分の武器とマントが掛けられている。

 

「うん。今日はみんな非番で僕だけだよ。冒険者ギルドは休みがないから、週末は人を減らして交代制にしてるの。新人の僕が初日担当なんだ」

 

 依頼があれば仕事をする冒険者には決まった休みが存在しない。

 人によっては本当に無休で働き続ける者もいると聞く。だからギルドもそれに合わせた運営体制になっているのだ。

 

「あ、でもセロスさんなら近くにいるから呼べば来ると思うよ」

「そうなんですか? 近くにお住まいとか……?」

「ううん。休みの初日は、いつも近くの孤児院にいるんだ。あの人、そこの出身でね。子どもたちに字とか剣を教えてるんだ」

「へえ……」

 

 眼があったら殺されそうな威圧感があったが、案外優しい人なのかもしれない。

 なんてことを考えていたら、ヴァファルが紙を載せた木板を手に隣の椅子に腰かけた。

 

「それで、どうしたの? 今日特魔課は休みだよね?」

「はい。それが――」

 

 そうして、エリンは今日調べてきたことをヴァファルへと話していった。

 

 

「――というわけでして」

「ふぅん……消えて戻ってくる魔道具、か」

 

 話を聞き終えたヴァファルは、天井を見上げて悩ましげに呟く。

 彼は紙――調書というらしいそれにエリンの話をまとめながら聞いていた。

 

「なんとも不思議な事が起きてるんだね。目撃者もいなくて、大きな魔道具を盗んで直す……か」

「そうなんです。……こういった事件が起きたことってあるんでしょうか?」

「ん? あるわけないよ、こんなこと!」

 

 くるくるとペンを弄るヴァファルに聞いたら、満面の笑みで即答された。

 

「姿を隠して盗むことはあっても、直してから戻す泥棒なんているわけないでしょ」

「ですよね……」

 

 わかってはいたことだけれど、こうもはっきり言われると全くもって意味がわからない。

 そんな泥棒、いるわけないのだ。

 

「てことは泥棒じゃない、って事なんだろうけど。なんだろうね、辻修理屋さん?」

「辻って、一体何のために……」

「それはほら、腕を磨きたいとか」

「もう、とっくに凄腕でした。あんな魔法陣が書けるなら修行も不要だと思います」

 

 数多の魔法陣を見てきたエリンから見ても、あれは美しい魔法陣だった。

 

「そうみたいだね。エリンさんが言うならよっぽどなんだろうね。……じゃあ、別のアプローチかな」

 

 そう言うと、ヴァファルは近くの机から大きな紙を取り出して広げる。

 それは、この街の地図であった。

 

「魔道具に理由がないなら、次は場所の理由を探ってみよう」

「場所の理由……?」

「うん。盗まれたのは普通の人の役にはたたないものだったんでしょ? 犯行時間は分かってて、犯人と動機は分からない……なら、あと考えるべきは『その魔道具が置いてあった場所』じゃない?」

 

 彼は持っていたペンで、ロロンのお店のある場所に印をつけた。

 

「僕は魔法に詳しくないからね。エリンさん以上のことは分からない。だから考えるなら別のこと。……その犯人の目的が『特定の機能の魔道具』じゃなくて、『特定の場所にある魔道具』だったら……ってね」

「なるほど……!! あ、じゃあお店の場所言っていきますね」

「うん、お願い」

 

 何故その場所が狙われたのか、魔道具ばかりに気を取られ、思いつきもしなかった。

 流石は事件を専門にしている人である。

 そして、順番にお店を記していくと――驚くべき答えにたどり着く。

 

「これは……」

「円、ですね」

 

 被害にあったお店を地図に纏めていくと、それは巨大な円を描いていったのだ。

 ロロンたちの店があるのは、古くからの住民たちが集まる南西部の閑静な住宅街。

 そこの3割ほどを囲むようにして、大きな円が現れた。

 

「本当に、場所が理由みたいですね」

「そうだね。まさかあってるとは……」

「え? 当てずっぽうだったんですか? あんなに自信満々だったのに……」

「可能性の1つ、って話だよ。これが駄目なら他の可能性を考えてたさ。まさか、一発目から大当たりだとは」

 

 でもこれでわかったね、とヴァファルは微笑む。

 

「辻修理屋さんの目的は、この南西地区の一部分を円形に囲むように魔道具を修理していくことだ。そして、それはまだ終わってない」

 

 彼の言う通り、円は未だ隙間がある状態である。

 現時点で被害があったのは8軒。一筆書きに縁を描いていくのではなく、各方角を満遍なく、ランダムに盗んでいるようであった。

 あと4軒も盗難があれば、綺麗な円が出来上がるだろう。

 

「つまり未だ修理は続くわけですね」

「うん。そして、続くなら対処法も分かる――張り込み、しよっか」

「へ?」

 

 満面の笑みでそう告げると、ペンで円の隙間が大きい場所を叩く。

 

「円を作ってるなら、次どこのお店が狙われるかが分かるでしょ? そこに貼り込んで、犯行の瞬間を抑える。……それでいこうか」

「それはつまり、犯人を捕まえるってことですよね?」

「うん? 捕まえたくないの?」

「そうではないんですが……」

 

 衛兵に任せるつもりだったのに、この流れでは自分も一緒に張り込むことになりそうだ。

 折角の、休みが……。

 ロロンさんたちから貰ったテティア名産品コレクションで、夕食を楽しもうと思っていたのに……。

 

「犯行は夜が多いみたいだから、明日の夜にしよう。今日はここにいないといけないからね」

「……わかりました」

 

 良かった、明日ならまだましだろう。少なくとも今晩は自由だ。

 それに、正直言えばエリン自身もこの事件の真相が気になっているので、素直に頷いておいた。

 あの魔法陣をつくった魔法使いがどんな人物なのか、是非会ってみたい。

 

「後は何処のお店で張り込むかだね。深夜の張り込みになるから協力してもらう必要があるんだけど……」

「候補なのはどのお店ですか?」

「えっとねえ――」

 

 そうして挙げられたお店の中に、エリンが聞き覚えのあるものが1ヶ所あった。

 

「あの、そのお店ならもしかしたらいけるかもしれません。私が聞いてきますよ」

「ほんと? 助かるよ。僕は他のお店をあたってみるね。明日の昼に一度集まろうか」

「はい。ありがとうございます」

 

 そうして、集合時間と場所を決めて、エリンは目的の店へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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