王国魔法ギルド 特認魔術課   作:穴熊拾弐

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第33話 もう1つの特認魔術④

 

 

 

 

 エリンたちが異空間で戦いを始めた、その直後。

 

 お昼を少し過ぎたテティアの中央通りはいつもの賑わいを見せていた。

 中継地点として立ち寄った旅人や忙しなく働く商人たち、昼休憩を終えて職場や家に向かう住人たち。

 

 そんな彼らは、ふと不思議な光景を目にして立ち止まる。

 大都市の南北と東西を貫く大通りの交差地点――文字通り都市の中心地点に、大きな魔法陣が出現したのだ。

 

 そこから現れたのは、人1人分はありそうな大きさの卵型装置。

 不気味赤黒く明滅するそれが、都市の中心部に突如として出現した。

 

「……なんだあ、これ?」

 

 たまたま近くにいた旅人の男が、訝しげに装置に近づいていく。

 不気味だが、どこか奇妙な美しさを感じるそれに、触れようとして――。

 

「がっ!?」

 

 触れようとした左手に激痛が走った。

 なんだ? と思って見てみると、肘から先が消失していた。

 

「――へ? ……は?」

 

 理解が追いつく間もなく、今度は男の腹が半ばから抉り、消えた。

 いつの間にか男と装置の間に出現していた、巨大な狼によって食い破られていたのだ。

 

「……?」

 

 そのまま血しぶきを上げながら、男だったものは倒れた。

 その一瞬の光景に、近くにいた誰しもが、驚愕し動きを止めていた。

 ただ1人を除いて。

 

「そこ、危ないですよ」

 

 甘ったるい、嗄れ声が響いた。

 こちらもいつの間にか、女が1人装置の真横に立っていた。

 

 煽情的な恰好をした黒髪の女。

 彼女は倒れた男だったものに触れると、妖艶な笑みを浮かべた。

 

「大切に使わせてもらいますよ。あなたも、()()()()

 

 そう言って、近くにいた者たちへと視線を向ける。

 そこまできて、ようやく人々は今何が起きたのかを理解する。

 人が化け物に喰われたのだ、と。

 

 直後、卵型装置から無数の影が姿を現した。

 男を喰らった狼のようなものと、羽ばたく大型の蝙蝠のようなもの。

 どちらも何故かドロドロの赤黒いナニカで覆われており、まともな生き物にはとてもじゃないが見えなかった。

 

「さ、始めましょ。沢山、お肉集めましょうね」

「――――!?」

 

 自由都市テティア、その中心部にて。

 突如出現した魔獣たちによる大虐殺が始まったのだった。

 逃げ惑う人々を眺めながら、女は満面の笑みを浮かべている。

 

「ふふっ、楽しいわぁ」

 

 軽快に飛び跳ねながら、彼女は魔獣もどきに喰われ倒れた人々に触れては死体を回収していく。

 

「あと少しで会える……待っててね……ふふっ」

 

 悲鳴と絶叫に溢れる街道を、女は歩いて行くのだった。

 

 

***

 

 

 肉団子の砲撃とランドルフの炎撃が飛び交う工房を、ソフィアは真剣な表情で眺めている。

 いつでも助太刀に入れるように構えているが、今のところそれは不要なようだ。

 

「みんな凄いですね……。アズール、そっちは……」

「静かに。……ソフィアさん、あそこまで連れて行って」

 

 話しかけてきたソフィアを制し、アズールは向かって右の壁を指さした。

 工房は長方形に近い形状で、入口からソフィアたちがいる奥の壁までが長辺側。

 その中で、エリンたちが中央に近い場所で戦っており、タナウとレヴンは向かって左奥で戦っているようだ。

 そしてアズールが指さしたのは2人とは反対側の右壁。

「そっち?」という当然のごとく浮かんだ疑問への答えを、彼女は素早く説明し始める。

 

「この工房にはウチらが出られないように魔法陣が張り巡らされてる。壁と床、あとは天井」

 

 計6ヶ所。どこからも出られないように封がされているのだと、アズールの『眼』は判断した。

 

「じゃあそれを壊せば……」

「出られるよ」

 

 はっきりとそう言ってアズールが頷いた。

 その目は煌々と輝いており、言葉に確かな説得力を持たせている。

 

「でもそれならそこの壁の魔法陣を壊せばいいんじゃ……?」

「もうやった」

 

 そう言ってアズールは魔法陣を描くための魔石筆を振ってみせた。

 ソフィアの目には見えていないだろうが、アズールの眼には壁に隠された魔法陣――この異空間に自分たちを閉じ込めるための式が見えている。

 故にその記述を変更し、『閉じる』を『開く』へと切り替えたのだ。

 

「エリンちゃんの真似をしてみたけど、上手くいったね」

 

 エリンの魔蝕剣の仕組みを聞いて、その『相手の魔法陣を書き換える』という発想に感銘を受けたアズールが念のためにと持ってきていた装備だったが、早速役に立った。

 とりあえず魔法陣の1つを無効化してみたが、見る限り入ってきたゲートが復活してはいない。

 

「1ヶ所じゃ駄目みたい。全部やらなきゃダメなのか、幾つか壊せばいいかは分からないけど……」

「他の場所もやらなきゃダメってことね」

「そういうこと。だから、まずは右の壁から」

 

 最速を目指すなら全員で一斉に壊せばいいのだが、雑念を持たせて彼らの戦闘に支障が出ては不味い。

 戦いに参加していない、自由な我ら2人で完遂せねばならない。そういうことかとようやく理解して、ソフィアは頷いた。

 

「……やるしかないですね。先行しますから、ついてきてくださいね」

「うん、頑張る……!!」

 

 直後襲ってきた爆風を耐えてから、2人は脱出経路確保のために走り出した。

 倒れるのが先か、倒すのが先か、あるいは逃げるのが先か。

 生死と都市の未来を賭けた戦いは加速していった。

 

 

***

 

 

 迫りくる魔法の嵐に突っ込みながら、エリンの意識は過去の光景を映していた。

 学院に入ってまだ1年目。エリンがようやく自分の体質と向き合い始めたころだった。

 

「エリン、あんたまた無茶したでしょ」

「……ごめん」

 

 記憶の中のエリンは医務室のベッドの中にいて。

 包帯で片目を塞がれ、欠けた視界の先に同室のマイラが佇んでいた。

 

 そう、あれは先輩の魔法使いとの戦いの後だ。

 何故か、どうしてか、いつの間にか。

 エリンは不可抗力な理由で魔法使いと戦うことになり、当然自分に魔法は使えない。

 

 それでも勝たなければいけない戦いだった。

 だから仕方なく魔法とは真逆の技術――狩人の技だけで勝とうとしたのだ。

 

 マイラに作ってもらった、『魔法を仕込んだ爆弾矢』で相手を倒せたのはいいものの、エリンも手痛い反撃を受けて治療を受けたのだった。

 今思い出しても無謀な戦い方である。マイラからすればとんでもないのと同室になったと呆れていただろう。

 ……もうとっくに呆れられてたなんてことはない筈だ。多分。

 

「でも、勝ったよ」

「それは良くやった。でも、代償がデカすぎるでしょ……。その怪我、半月は寝てろって先生さんが言ってたよ」

「……半月で済むんだ、これ」

 

 他に寝ている人がいなければ、叫びたい程に痛かったのを覚えている。

 直撃を受けた右肩なんて千切れてるのでは?と疑ったくらいだ。

 それでも実際半月で全快したのだから、ユラリアの治療技術はすごかったのだろう。

 それほど死にかける人が大量生産される場所なのだという証な気もするが。

 

「それで? アンタ、これからどうする気だい?」

「……? どうって?」

「学院生活の話さ。わかったろ? この学院ではああいった戦闘がこれからも起きる。でもアンタは魔法がその……使えないだろ? このままじゃ死んじまうよ?」

「……そうだよねえ。そこは正直、甘く見てた」

 

 覚悟を持って学院に来たエリンだったが、自身では魔法を使えず、また市井では基本的に攻撃目的の魔法が使われることもないために、「学院生程度の魔法なんて大したことがない」と高を括っていたところがあった。

 だが、学院生でも使える下級魔法でも、直撃すれば人は殺せるのだと今回で十分に思い知った。

 

「甘く見てたって、アンタねえ……」

 

 マイラは勘違いしていたが、エリンはそもそもこの学院のことを調べていたから、戦うこと自体は覚悟していたのだ。こんなに早く機会が訪れるとは思わなかっただけで。

 そして、魔法が使えない自分は、魔法の脅威に生身を晒しながら戦わなければいけないことも。

 だから考える事は『どうやったら戦いを避けれるか』ではなく、『どうやって勝つか』であった。マイラには信じられないことだろうけれど。

 

「今回みたく魔道具を使えば、戦闘自体はできると思うの。もう少し数があればもっと強い人とも戦える筈。あとは授業で使った、あの唱石と筆魔板ってやつ! あれがあったらかなり変わると思うんだよね……」

「その魔道具ってアタシが作るのか……?」

「あとは、攻撃を防ぐ手段を考えないと。マイラ、何かないかな?」

「……はあ」

 

 呆れてたけど、マイラはこの後もずっと魔道具を作ってくれた。

 本当に大切な親友である。

 

「魔法を防ぐ手段は魔法しかないよ。一応騎士様が使う盾とか、軍隊では移動して設置できる携帯式の壁なんかが使われるらしいけど、アンタじゃどっちも無理だろ? それよりは()()()()()()()()()()()()がよっぽど現実的だね」

「――――!!」

 

 ま、そんなことできたら苦労しないけどね、と笑うマイラだったが、告げられたエリンは真剣な表情で黙り込んだ。

 

「……そうか、避ける……」

「ちょっと、エリン……? アンタ大丈夫?」

「マイラ、それ、採用」

「はあ?」

 

 天啓だと思った。

 魔法は魔法で防ぐ。学院の教本の最初のほうに載っている基礎項目である。

 そこを疑う者は殆どいない……筈だった。

 

「魔法に当たらなければいい。……簡単なことだった」

「……アンタ、大丈夫?」

「? 怪我なら痛いけど大丈夫だよ」

「そっちじゃ……まあいいか。アタシも色々と作ってみたい物はあるし」

 

 多分、頭の事を言われていたのだろうと、今では思う。あの後も何度も聞かれたし。

 でも、確かにこの時からだったのだ。

 私が魔法戦という『常識』を無視して、戦うようになったのは。

 

 だって、そうしなければ私は勝てない。

 魔法使いとの戦いだけじゃない。『奥』へ行くという人生を賭した賭けに、勝てないのだ。

 

 そこから私はあらゆる攻撃魔法を調べ上げた。

 詠唱の長さ――発動までの猶予。

 飛距離に威力、影響範囲も。

 勉強の意味ももちろんあったが、何よりその全てを完璧に回避するために――。

 

 あらゆる魔法を死蔵する図書館とまで言われるようになった私の魔法知識収集は、戦いで生き残るための模索から始まったのだった。

 

 

***

 

 

「――エリンちゃん!」

「はっ!?」

 

 呼ばれた声に意識を取り戻すと、視界は真っ赤に染まっていた。

 炎魔法の砲撃だ。

 怪物の懐に入ろうとして、風魔法で転ばされた所を狙われたのだと思い出す。

 

 ――いけない。死ぬには、まだ早い。

 

 飛び出して火魔法を避けると、分かっているようにその先に別の魔法が飛来する。

 

「……っ!!」

 

 空中で体を回転させ、無理やり方向を変えて跳んで避ける。

 魔法を避ける際、エリンは小さく飛び跳ねるように移動する。直ぐに方向を切り替えられるよう、体重と勢いをのせないように動くのだ。

 万が一着地先に魔法が飛んできても――

 

「ふっ!」

 

 剣を地面に突き立てて無理やり軌道を変えられるように。

 エリンの剣の右手側は、こういった動きを可能にするために風の魔法で身体を浮かせる機構を仕込んでもらっている。

 左の蝕剣、右の浮剣。この2つでエリンの魔法避けを補助している。

 

 相手からは滑るように移動しているように見えるらしく、氷魔法でも使えるのか?と疑われたこともあった。

 だったらどんなに良かったか!

 剣はあくまで補助。全ては血の滲む特訓の――筋力の賜物である。……父のように筋骨隆々(ムキムキ)にならないか不安でならないが、今のところは平気なので祈るしかない。

 

 ともかく。

 走り、跳び、軌道を捻じ曲げ、エリンは怪物へと迫る。

 その距離は――。

 

 ――後、10歩!

 

 数度回避して、『奴』の使える魔法は理解した。

《烈火球》は燃える範囲は精々2m。《疾風閃》の速度は級友だった騎士君の刺突程度。《雷鞭》も《炎火渦》も――その全てをエリンは知っている。

 

 魔導書を読み込んでその性質を理解し、学院の同級生に()()してもらった。

 

 軌道と範囲が分かれば、あとはひたすらその範囲を避けるだけ。

 馬鹿でかい図体は、細かな腕の向きの調整を許さない。

 魔法を放つ腕を変える知能もなさそうだ。

 つまり、エリンには見えている。あの化け物に到達する、道筋が。

 

「ランドルフさん!!」

 

 全力の跳躍をする直前、エリンが吼えた。

 化け物の背後で彼が何かしているのは音と光で分かっている。

 

「切ったら、焼いて!!」

 

 それだけを叫んで。

 エリンは石畳を吹き飛ばす勢いで蹴り飛ばして――飛び出した。

 

『――――!!』

 

 『肉団子』が再びエリンを狙おうと砲撃を放つが、その全てをエリンはもう知っている。

 1歩、真っ先に飛んできた雷撃を飛び越えて。

 1歩、受ければ吹き飛ぶ突風を斜めに飛んで受け流し。

 1歩、叩きつける炎球を潜り抜けて。

 

 エリンは屈んだ状態から再びの跳躍。

 怪物の麓を駆け上り、腕へと到達した。

 

 ――全部、ぶった切る!!

 

 まず1本を切り落とし、僅かに残った根元を足場に次の1本へと飛びあがる。

 後はこれを繰り返せばいいだけ。内側へと入り込んだエリンに、『肉団子』ができることはない。

 

 そしてエリンはやり遂げ、左側全ての腕を切り落とし、そのまま前方へと飛び出して、残った右側の腕をも全て切り飛ばした。

 

「……ランドルフさん!!」

「……っ、無茶を言う……!!」

 

 エリンの声に呼応して、遅れて登ってきていたランドルフが腕の断面を焼いていく。

 彼の炎ならあの化け物でも再生はできないだろう。

 そもそも、後から着けただろう腕が再生するとは思わないけれど、念のためだ。

 ……できないよね?

 

『――――!!??』

 

『肉団子』の全身が揺れ、声なき悲鳴が響き渡る中、少し遅れてランドルフがエリンの横へと着地した。

 

「エリンさん、あなたはなんて無茶を……!!」

「すみません! でも、話はあとです!」

 

 これで化け物の攻撃手段は無くしたが、それでもあの巨体は健在だ。

 後はどうやってこの肉塊を倒すのかを急ぎ考えなければ。

 

『――――』

 

 背を抉られ、砲台の腕をもがれても尚、『肉団子』はエリンたちにゆっくりと向き直る。

 あの質量を壊す手段はエリンにはない。

 エリンの技は良くも悪くも対人に特化しているのだ。

 

「あれを壊しつくすのは一苦労ですね……」

「何か手段があればいいのですが……」

「――あるよ」

 

 突如響いた言葉とともに、巨体がエリンの真横を通り過ぎて化け物の腹に激突した。

 

「……っ!?」

 

 驚き見開いて激突した何かを見ると、それはレヴンであった。

 吹き飛ばされてきたらしく、剣を持つ腕が奇妙に折れ曲がっているし、埋もれる肉団子の腹は多少離れたエリンたちもわかるくらいに窪んでしまっている。

 それをやったのは間違いなく……。

 

「……タナウさん」

「ん。よくやったね。おかげで楽になるよ」

 

 ぽん、とエリンの肩を叩くのはタナウ。

 彼女は先ほどと変わらない無傷の状態で微笑んでいた。

 結構な時間戦っていた筈だが……妖精の身体というのは随分と、想像以上に強靭らしい。

 そしてそれは相手も同じ。

 

「あのレヴンってやつ、相当しぶとい。いくら折っても、直ぐ再生するのよ」

「折って……やはり、再生能力持ちですか」

 

 案の定『白い腕の女』は他者に何かしらの術で再生能力を持たせているらしい。

 そしてあのレヴンは『白い腕の女』の仲間ではなく手下――そういう関係の様だ。

 

「そうみたい。だから厄介なのよね……。報告通りなら、魔断輪をしたら死んじゃうでしょう?」

 

 魔断輪はあらゆる魔法を断つ。

 活きる屍と化す『白い腕の女』の魔法ですら停止させてしまうのだろう。

 倒すだけなら簡単だが、あの男からは情報を得ねばならない。

 

「でも、あっちのデカブツなら私の領分。だからあの男は2人に任せるよ」

 

 そう告げると同時に、タナウは腰から硝子筒を2つ引き抜き、それぞれをぶつけて叩き割った。

 急に何をするのかと驚いたが、更に驚くことが起こった。

 筒の中に入っていたらしい水が、空中に浮かび上がっていたのだ。

 

「これは……」

「ん? 見たことない? 妖精魔法」

 

 そのまま彼女は次々に筒を取り出しては割っていき、彼女の胴体程の巨大な水塊が出来上がった。……一体何本持ってたんだ?

 驚くエリンに、タナウが笑いかけた。 

 

「なら見せてあげる。ここなら、私の魔法を使えるし」

 

 人型3種の1柱、妖精。彼らは大いなる自然の眷属である。

 自然より生まれ自然に還っていくという特殊な生態を持つ彼らは、人間や獣人には不可能な超常現象を可能とする。

 それが妖精魔法と呼ばれる御業――彼らは自身の属する自然を自在に操ることができる。

 

 木妖精ならば木々を操り、時には森丸ごとが彼らの武器となる。

 土妖精なら大地を隆起させ、腕の一振りで山を作り出す。

 そしてタナウ達水妖精は――水を操る。

 

「凄い、水が……」

 

 水塊はタナウの頭上へと浮遊し、どんどんとその大きさを増していく。

 いつの間にかエリンの身長を軽く超えるサイズにまで成長していた。

 

「この水、どこから集めてるんです!?」

「身体の中にも隠してるから。実は私、結構重いのよ? 後は周りからちょっとね」

 

 そしてエリン数人分の巨大塊と化した水を見上げて、タナウはなんの余韻もなしに指を振る。

 

「ほい」

 

 直後、水塊は凄まじい勢いで急降下を始め、ぐるりと周囲を回って、積まれていた石や金属の瓦礫たちを吞み込んだ。

 美しかった水塊は瞬く間に黒と灰に塗れた悍ましい球体へと変じ、勢いはそのままに再び急降下して――怪物の腹に激突。

 水が弾け、瓦礫が粉砕する轟音が鳴り響いた。

 

「――――っ!?」

 

 ただの水ではない、質量の暴力。

 山に住んでいたエリンはあれに似たものを知っている――土砂崩れだ。

 人も、魔獣ですら残らずすり潰す自然の脅威。

 彼女はそれを、指の1振りで実現して見せた。

 もし近くに湖や海があったなら、もっと簡単に潰してみせただろう。

 

 このように妖精魔法は、1個人が都市を軽々と破壊できる威力を有す。

 それ故に人類の都市は妖精たちの魔力を弾くような素材で作られてきた。

 人類、特に人間が文明を発達させたのは、そうしなければ妖精魔法で簡単に壊滅させられるからである……と言われる程に、妖精魔法というのは凶悪なのだ。

 

 水妖精タナウ。

 水さえあれば都市さえ呑み込む、特魔課最強の事務員である。

 

 

 




なんかすごいことに……読んでいただきありがとうございますー!
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