「湯瀬ルイカ、ベルタ自警団の団長で、学籍はトリニティの三年。しかし在籍はベルタ分校。まあ、複雑っすね」
「ベルタ分校自体も、在籍してるのは自警団の十六人だけで、統合される予定みたい」
周りに客が居ない列車に揺られながら、ランとイチカは資料を確認しつつ、これからの予定を組んでいた。
「実際問題、ベルタ駐屯所自体も林業関係者くらいで、目立つ商業施設は無し。限界集落そのものっす」
「昔は色々な店があったみたい」
はっきり言って、若者が居着く理由が無い土地。
ベルタ自警団が頑なに解散を拒む理由は無いに等しい。
その筈なのに
「メールの返事は同じ、我々ベルタ自警団は問題無く活動出来ている。だからトリニティの援助の必要な無し」
「あからさまに来るなって話っすか」
「というよりこれは、やっぱり物資関係で何か隠してる。それか……っ!?」
ランが何か言おうとした時、列車がけたたましいブレーキ音と揺れを伴い緊急停車した。
つんのめるイチカをランが支え、乗務員に無事を問い掛ける。
「だ、大丈夫ですか?!」
「こっちは大丈夫。だけど……、ああ、やっぱりベルタの連中か!!」
乗務員が拳銃を抜き放ち、先頭車両へ突っ走っていく。キヴォトスの列車事業は全てハイランダー鉄道学園が担っているが、その特徴の一つに異様なまでに銃を抜くのが早いというのがある。
ランもそれは理解しているが、今回のこれはちょっと早すぎないだろうか。
「ラン、私達も行くっすよ」
「う、うん」
立ち上がり、イチカが先行する。ベルタ方面行きの列車には二人以外に客が居ないのが救いだろう。
低い扉を潜り、二人が見たのは線路を占拠する様に停車した一両の戦車だった。
「……クルセイダー、うちの正式車両っすか」
「資料にあった物資には戦車の部品もあったから、多分それから組んだやつだ」
正義実現委員会でも採用している巡行戦車、それが列車とラン達を睨み付ける様に砲頭を向けていた。
「……ラン、その左手を離すっすよ」
「あ、ごめん……」
無意識にランタンに手を伸ばしていたランを、イチカは窘める。
ランは対装甲戦において最大火力を持つ戦力だが、その火力を発揮するには接近する必要がある。
そしてその結果、毎度の大怪我だ。しかも今回の相手は実戦経験がほぼ無いだろうとはいえ、普段の不良達とは装備も訓練も違う自警団。
――今回ばかりは、ちょっとマジで止めないとマズイっすね
連携も何も無い不良相手にあの怪我なのだ。今回は最悪の結果すらありうる。
「おら、さっさと退けや!」
「形だけの自警団が調子乗んな!!」
「……イチカ、あれ不味くない?」
「いやー、挑発は止めてほしいっすね」
ハイランダーを始め、インフラ関係の血の気の多さはどうにかならないのか。
イチカは頭を悩ませながらも、ハイランダー生徒を掻き分け前に出た。
「トリニティ総合学園の正義実現委員会の者っす。ベルタ自警団に通達と捜査の必要有りと参上しました」
「……っ!? イチカ、下がって!!」
「ちょっ! ラン……?!」
ランの耳が戦車内の音を拾った。
それはランの本能に刻み付けられた合図、砲弾が装填される音だ。
ドア・ノッカーを抜き、イチカの襟首を掴み引き寄せ、銃口を向ける。
――間に合わない……!
砲弾の装填、砲口の向き、全てを計算してランが出した答えは砲撃を止められない、だ。
しかし
「失礼、緊急時につき少々示威行為をさせてもらった」
戦車から出てきたのは、砲弾ではなく人だった。
キューポラから出てきたのは、トリニティよりゲヘナの風紀委員会に近い意匠の制服だが、腰から生える翼が彼女をトリニティ生徒だと雄弁に語っていた。
その彼女はハイランダーとイチカを一瞥すると、鼻で笑う様に見下していた。
「……ベルタ自警団で間違いないっすかね」
その態度に普段細めている目を僅かに開いて、イチカが怒りの色に染めた声で確認する。
「如何にも。現在、ベルタ駐屯所近辺は厳戒体制を敷いている。まさか、トリニティ総合学園の正義実現委員会の者が知らぬと?」
居丈高に明らかに嘲りを含んだ色の声に、イチカのボルテージが上がる。
冷静で飄々とした雰囲気のイチカだが、その本質はツルギに近い。今の雰囲気や立ち振舞いは、意識して作り上げているに過ぎない。
それに気付いたのか。ベルタ自警団の車長は更に嘲りの色を濃くし続けた。
「ふん、噂に聞く剣先ツルギが率いる兵と思っていたが、簡単な連絡すら行えないとは、戦略兵器と呼ばれる所以か」
「……その簡単な通達にすら、是と言えない烏合の衆が言うじゃないっすか」
あまりに剣呑な雰囲気に、先程までヒートアップしていたハイランダー生徒達も息を呑み引いている。
そんな今にも鉄火場になりそうな中、口火を切ったのはランだった。
「あ、あの……」
「なんだ? ……ああ、そのランタン。貴様がトリニティの
「……その名で呼ばないでほしいっすね。彼女は零場ランって名前があるっす」
「それを連れてきておいて、よく言えたものだな」
「あの、それは今どうでもいいんですけど、とりあえず場所を替えませんか? これ以上はハイランダーの人達にも迷惑になりますし……」
オドオドと巨躯に見合わない様子で物申したランに、毒気を抜かれたのかどうかは分からない。しかし、車長は、その腰に提げているランタンを見た後、ランの瞳を見て、一瞬だけ驚愕した様に目を見開き何かを決意したかの様に戦車の乗員達に指示を出す。
「警戒任務終了、これより帰投する。……お客様より先に着け」
「なら、こっちはゆーっくり向かわせてもらうっすよ」
「ふん、そうするがいい。ノロマなトリニティにはお似合いだ」
イチカが言い返そうとするのを、ランが羽交い締めにして止めるのを鼻で笑い、戦車が動き出す。
そして、イチカ達が小さくなり始めた頃、戦車の乗員の一人が口を開いた。
「……車長」
「ああ、見たのか」
「いえ、車長の反応です」
「そうか……、トリニティの
我々の同類だ。
戦車に揺られながら、振り向いた車長の視界には運行を再開した列車が走り出していた。