「じゃあ、これで全員って事かな」
相変わらず性別がはっきりしない容姿の先生が、教壇から教室を見渡すと五人の生徒がそれぞれに感情を見せていた。
一人目は阿慈谷ヒフミ、どうにも申し訳ない表情だ。
二人目は白州アズサ、なんだかよく分かってない顔だ。
三人目は浦和ハナコ、感情が読めないがこちらを観察している様子がある。
四人目は下江コハル、現状に納得がいかないといった顔。
五人目は零場ラン、ヒフミ同様申し訳ないといった様子。
――さて、どうするか
一応、先生という教職ではあるがこの癖の強さは、中々に悩みどころだ。
特にハナコの感情の読めなさが厄介だ。依頼主の桐藤ナギサからある程度の事前情報は得ているが、どうにも読めない。
まず阿慈谷ヒフミ、彼女は成績は普通寄りの優秀、聞けばブラックマーケットでも言っていた例のペロロ様のイベントでテストをすっぽかしたから、今回の補習授業部入りした。
本当に何をやっているんだろうと思うし、あのクリーチャーの何が彼女をここまで駆り立てるのか理解出来ないが、元々の成績は悪くないので問題は無しとする。
次に白州アズサ、今回の補習授業部入りも、成績についてはよくわからない。成績というより素行に問題があり、どうやら正義実現委員会相手に立て籠り、二時間の激闘を繰り広げ、校舎を一つ破壊したそうだ。
アビドス、ミレニアムと続いて、ここの学校というのは何処かで爆発なりを起こさないと気が済まないのだろうか。
若干だが、ランの事をちらちらと見ている。
続いて浦和ハナコ、彼女が一番の問題児の様な気がする。成績は劣悪、そして素行もアズサとは違う意味で悪い。水着で深夜徘徊や際どい衣装でシスターフッドのミサに潜り込んだり、公序良俗に反する嗜好を持っているらしい。
……言ってはなんだが、今まで交流してきた一部生徒も、
そして下江コハルと零場ラン、人見知りなのかランの巨駆に隠れる様にしてこちらを見るコハルは単純に成績不振。元々あまり成績は良くなかったらしいが、何を思ったのか二年のテストを受け、今回の補習授業部入りを果たした。
ランは度重なる負傷でシンプルに出席日数不足。成績自体は問題無い程度には良いらしい。
だが、先生はランを見て背中に冷たいものが走った。
以前、シャーレで会った時は迷いがあり、自分がどうすればいいか分からなくなっていた感じがあった。
だが今は違う。
どう表現するべきか、迷い自体はある。しかし、何か決定的な答えを出してしまっている様な、なのにそれに迷っている。
一番不安定な状態だ。
――答えを見つけたのはいいけど、これはマズいね
あの日、シャーレで見た戦いは神話の英雄を思わせる様な一面と、自己犠牲に進む聖職者の様でもあった。
だがそれは遠目から見ただけの印象に過ぎない。
あれは、あの姿は英雄でも聖職者でもない。人である事すら捨て去り、この世を彷徨う幽鬼のそれだ。
蒼い鬼火に誘われるまま、死沼へと進んでいく。
恐らく、ランが出してしまった答えは死沼へと向かうもの。
このままではマズい。だが、今は何も出来ない。何か切っ掛けがこの補習授業部で生まれればいいが。
「あの、先生?」
「ん? ああ、ちょっと補習内容を考えてたんだ。と、その前に簡単な自己紹介といこう。私はシャーレの先生だよ」
「あ、えっと、阿慈谷ヒフミです。トリニティの二年で好きなものはペロロ様です」
「浦和ハナコです。好きなものは……、うふふ」
「白州アズサ、好きなものはよく分からない」
「あ、零場ランです。好きなものは……、平和です……」
「し、下江コハル、好きなものは、ラン先輩と一緒です」
辿々しいがまあ上々だろう。
さて、補習といっても内容は極々普通の基礎問題だ。
ナギサが提示してきた基準を越える事は難しくはないだろう。
しかし、嫌な予感がする。
「先生、補習とは何をするんだ?」
「まあ、学校の基準に合わなかった科目の再履修。つまりお勉強だよ」
「ふむ、勉強か。任せろ」
アズサが胸を張るが、任せられないから補習授業部なのだが、その辺を理解しているのだろうか。
「でも、その前に掃除しませんか? ここ、ちょっと埃っぽくて……」
ヒフミが言う様に、今居る場所はトリニティ総合学園で、もう使われていない旧校舎だ。
つまり手入れも外観の維持を最低限にしかされていないのだろう。確かに埃っぽく、気分も滅入る。
これから彼女達は追試に受かるまで、この校舎にカンヅメに近い状態になるのだ。
――それ考えたら私もか
プラモ、途中で放置してたな。あと、DXカイテンジャーの超合金が届くの今日だと、大掃除に向けて動き出した五人を眺めながら、益体の無い事を考えた。
「……先生」
そんな考え事の最中、ぬっと影が降りてきた。
この巨駆で気配が無い。声を掛けられなければ、下手をしたら気付かなかったかもしれない。
「どうしたの、ラン」
「私と先生はあっちで窓拭きだって」
「あ、私もやるんだ」
「えぇ……?」
雑巾を手渡すと、のっそりと歩いてバケツと雑巾を持っていく。
その後ろ姿すら、何処か薄く幽霊の様でもある。
シャーレの時も存在感が薄かったが、今は更に顕著だ。
ナギサからの話といい、中々に骨が折れる仕事になりそうだと、ランから受け取った雑巾を片手に担当の窓へと向かった。
そして先生は気付けなかった。そのあまりに薄く朧気なランのヘイローに走る亀裂に。
これ、プール掃除時の水着で波乱が起きるな