その娘は蒼い鬼火と共にやってくる   作:ジト民逆脚屋

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ミリしらブルーアーカイブだから許して


ウィル・オー・ウィスプ(1)

ああ、またこの夢だ

 

――Toten sie(殺せ)

 

また何度でも引き金を弾く

 

――Toten sie(殺せ)

 

知った誰かを、知らない誰かを殺す

 

――Toten sie(殺せ)

 

引き金を、銃口を、殺意を向けて殺して殺して殺し続ける。

 

――ラン

――Toten sie(殺せ)

 

また誰かを殺す。

 

――Toten sie(殺せ)

――Toten sie(殺せ)

――Toten sie(殺せ)

――Toten sie(殺せ)

 

そうして出来上がった血の死沼で、伸びてきた手を撃つ。

自分の意思は無く、ただこの鬼火に誘われるまま意思も感情も思考も捨てて、機能として引き金を弾く。

 

――ラン、行きましょう

――ほら、こっちっすよ

――ヒヒ、こっちだ

――ラン、こっちだってば

 

――Toten sie(殺せ)

 

――Toten sie(殺せ)

 

――Toten sie(殺せ)

 

――Toten sie(殺せ)

 

誰かの声 ■■■や■■■も、■■■に■■■すら殺す。

そんな自分が必要なのか。

守りたい人達にすら銃口を向けるなら、こんな頭は……

 

 

ラン、そっちじゃないよ。そっちに行っちゃダメよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ン、起きなさい。ラン!」

「ひゃい!?」

 

キヴォトスD.U.内のメトロ内で、ハスミに頭を叩かれて目が覚める。

目も覚める青空、その下には近未来的な町並みが広がり、煉瓦造りの建物が目立つトリニティとは違う光景だ。

 

「まったく、あなたは本当に呑気というか……」

「す、すみません……」

「まあ、いいでしょう。話が早く済めばちょっと寄り道もしましょう。あなたはトリニティから出た事がないでしょう?」

「はあ?」

 

どうにもぼんやりとした返事を返すランに、ハスミは内心で溜め息を吐きながらも、興味深そうに流れていく景色を眺めるランに安堵する。

 

ランと同学年で友人の阿慈谷ヒフミから、昼寝やうたた寝をするランが魘される頻度が増えていると伝え聞いた。

先程もそうだ。自分の隣で眠る彼女は確かに魘されていた。

そして、左手はランタンへと伸びていた。思わず目を見開いて左手を掴みにかかったが、その動きはふとして止まった。

それはまるで、見えない誰かがランの左手を引き留めた。そんな風にも見えた。

 

「確かD.U.には美味しいパフェを出す喫茶店があった筈です」

「それ、副委員長が行きたいだけじゃ……」

「ええ、あなたはトリニティから出た事がないでしょうから、時間が出来たら私が案内してあげます」

 

明らかに私欲だと、鈍いと周囲に評されるランでも分かる。というか、ハスミは◯回目のダイエット中の筈だ。

しかし、ランは黙って従った。

ハスミのダイエット失敗はいつもの事で、それに突っ込むと大体怒られるからだ。

 

「それで、なんで私を連れて連邦生徒会に?」

「……単純に圧を掛けたいからです。あなたは無駄に図体が大きいですから」

「え、えぇ……」

 

ランの疑問に澄ました顔で答えるハスミだが、それは嘘だ。

本当はツルギ達と考え、ランが戦いから離れる日を作る為だ。

現状、トリニティとゲヘナはエデン条約という友好条約に向けて動いている。そしてこの条約は連邦生徒会長が発案したものだ。

だが、もうじき締結という時期になり連邦生徒会長からの連絡が完全に途絶えてしまった。

今回の訪問はそれについてと、連邦生徒会の機能不全による治安の悪化に対する保障をどうするかの説明を求める為だ。

そしてこれを始めとし、ランを後方勤務へと移す。

急に後方勤務へと移すのはランの立場もあり厳しい。だが、エデン条約が締結されれば新しい治安維持機構が立ち上げられ、そこのタイミングに合わせる形になる様に徐々に後方勤務へと移していけば、問題無く事は進むだろう。

ランの戦闘能力だけは、自分とツルギが抜けた後は彼女が抜けた負担はイチカやマシロに掛かるが、二人はそれを了承した。

 

「……私がそうなら副委員長だって」

「何か言いましたか?」

「なんでもありません! あ、ほら。D.U.饅頭ですよ。お土産にどうです?」

「今ではなく帰りです。それにその饅頭ですが、何故鶏?の形なのでしょう?」

「え、さあ……?」

 

駅に降り立ち、ランが指差した饅頭の見本は、どことなく見覚えがある鶏の形をしていた。

具体的に言えば、ヒフミが暴走する形だ。

 

「まあ、その饅頭は帰りに買うとして。行きますよ」

「はい」

 

そして、二人はバスに乗り換え、連邦生徒会本部があるサンクトゥムタワーへ向かう。

 

「ラン、あなたは基本的に立っているだけで構いません。政治的な話になりますから」

「はい」

「しかし、意見があるなら言いなさい。その為に連れてきたのですからね」

 

バスの座席が狭く、座れないランはハスミの言葉にぼんやりとした様子で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅参を、正義実現委員会二名参りました」

「し、失礼します」

「だーかーら、連邦生徒会長を出しなさい!」

「ひえ」

 

連邦生徒会本部に着き、通された部屋に入って早々に耳にしたのはそんな怒声と、長髪の少女に詰め寄る二つ括りの青髪の少女の姿だった。

 

「……ラン、あなたが私に隠れられる訳ないでしょう」

 

聞こえた怒声に思わずハスミの後ろに隠れてしまう。しかし、ハスミは179(180)cmに対し、ランは230cmという長身であり、隠れようにも完全にはみ出てしまっていた。

 

「いや、でも」

「はあ……、トリニティ総合学園正義実現委員会の羽川ハスミと零場ランです。入っても?」

「え? ああ、ごめんなさい。みっともない所を……」

「構いません。ですが、連邦生徒会長は不在なのですか?」

 

ハスミが部屋を見渡すが、それらしい姿は無い。

代わりにミレニアムサイエンススクール、ゲヘナ学園、そして同じトリニティ総合学園の有力者が居た。

 

「どうやら不在の様でして、今説明を待っている所です」

「スズミさん、あなたも来ていたのですか」

「自警団の端くれですから、現状の治安悪化は見過ごせませんので」

 

長い銀髪と片翼の少女、守月スズミが少し困った顔で言う。

 

「しかし、連邦生徒会長の不在は困りましたね。私達も同じ要件なのですが……」

「ええ、それについての説明があります」

 

ハスミの言葉に、先程まで詰められていた連邦生徒会所属、首席行政官の七神リンが答えた。

 

「端的に申しまして、現在連邦生徒会長は不在。いえ、失踪中でサンクトゥムタワーの制御権を失った状態です」

「失踪って、はあ?!」

 

リンの返答にミレニアムサイエンススクールのセミナー所属の早瀬ユウカが、愕然とした声を上げた。

 

 

――マズイですね

 

 

オロオロするランは置いて、ハスミはスズミに目配せする。

これは最悪の事態だ。正直ハスミ、否、ツルギの手にも余る。

エデン条約の発案者の失踪、これは治安維持的にもキヴォトス行政的にも非常に厄介な事態だ。

現在、キヴォトス行政は全て連邦生徒会、つまり連邦生徒会長が執り行っている。

そしてエデン条約の発案と、トリニティゲヘナ両校の調整もそうだ。

 

また、今回の事態はトリニティにとって最悪とも言える。トリニティは三頭政治、トリニティ内の主流派閥のトップ三人、ティーパーティーによる統治が行われている。

このパワーバランスは、連邦生徒会長の介入も含めて保たれていた面があり、これが無くなるという事はティーパーティー内での主導権争いに繋がりかねない。

 

「……」

 

対するゲヘナ学園の風紀委員会、火宮チナツも同じ考えらしく、ハスミに視線を送ってくる。

トリニティに比べ、ゲヘナは統治機構はシンプルで万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)のみ。

なので、その一点だけを見ればまだマシだ。と言っても、マシなのはその一点だけで治安に関しては良くはない。

まだ狙いと行動を推察出来る美食研究会や、完全に独自の理屈で行動する最悪のテロリスト集団温泉開発部。

それらを始めとし、一般学生も好き勝手暴れるのがゲヘナ学園だ。

風の噂程度だが、ゲヘナ側でエデン条約を薦めたのは風紀委員会という話もある。

 

これが原因でエデン条約が流れれば、現ティーパーティーの責任を追及する声が出てくる可能性がある。

ゲヘナはどうか分からないが、そうなればトリニティ内での治安はますます不安定になりかねない。

 

「えっと、副委員長。これってマズくないですか?」

「ええ、かなり」

 

ハスミが内心でツルギへの報告内容と、自分達の戦力分析を纏めていると、リンが話を進めた。

 

「なので、連邦生徒会長が設立した超法規的組織である連邦捜査部シャーレに〝先生〟をお迎えします。先生、入ってください」

 

リンの言葉に全員が、隣の部屋に繋がる扉を見るが、誰かが入ってくる気配は無い。

 

「先生?」

 

リンが再び呼び掛ける。すると、もう一つの扉でありハスミやリンが入ってきた扉が開いた。

 

「いやー、ごめんね。待ってる間暇だったから、ちょっと探検してたら迷っちゃった。って、壁? いや、柔らか……」

「ひゃあっ!?」

 

そこにはちょうどランがぼんやりと立っており、早口で喋りながら入ってきた先生の、発言と行動にランは驚き尻を押さえて飛び退いた。

 

「あ、ごめんよ! つい揉んじゃった」

 

ランの巨駆が飛び退いた背後には、男とも女とも見える中性的という言葉がそのまま人になったような人物が、飄々とした様子で笑みを浮かべて立っていた。

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