その娘は蒼い鬼火と共にやってくる   作:ジト民逆脚屋

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アビドス編どうしよ
あと、友人から言われたけど曇らせタグ要るかしら?


不可視の楽園

「ラン先輩、こっち」

「コハル」

 

トリニティ総合学園内にあるカフェテリアで、大小の姿があった。

一人は腰と頭に黒い翼を持ち、同じ正義実現委員会の下江コハルがランに手招きする。

 

「今日は手伝ってくれてありがとうございます」

「いいよ。委員長からコハルを手伝えって言われてるし、今週は平和だから」

 

先日のシャーレでの一件以来、ランは実働から外されている。

どうにかミネにはバレなかったが、ツルギからは大目玉を食らい、イチカからも説教を食らった。

なので、反省期間として後方勤務となった。

 

「でも、ラン先輩」

「なに?」

「先輩はちょっと入院し過ぎです。皆、心配してますよ」

「ご、ごめん。えと、お詫びになにか奢るよ?」

「誤魔化されませんからね。……じゃあ、このランチプレートを」

「じゃあ私はアスパラサラダ」

 

ぼんやりとした様子で注文を決めるラン。コハルにとって、ランは尊敬する先輩の一人であり、妙に親しみ易い不思議な先輩でもある。

他の先輩達の様な堂々とした風格も凛々しさも無い。いつもオドオドとして自信が無く、コハルはおろか、ハスミすら見上げる規格外の体格を持つのに、幽霊の様に存在感が薄く威圧感の欠片も無い。

 

だが、正義実現委員会の中でも頭抜けて優しい。

顔と袖の隙間から僅かに見えている左手首の摩りきれた様な異様な傷。

本人は上着と手袋で隠しているが、同じ正義実現委員会として全身に刻まれた傷を知っている。

暴力を嫌う性格のランが、何処でその傷を得てしまったのか。それはランが語らない以上、知る事は出来ない。

きっと、コハルが知らない一年の間に何かあったのだろう。

 

「そういえば、シャーレに先生が来たって聞きました。どんな人でした?」

「んー、不思議な人?」

「不思議な人ですか?」

「何て言うか、イチカっぽい? いや、うーん。あんまり見ない感じの人かなあ?」

 

外見だけを伝えるなら、男女の区別が曖昧などっち付かず。声を加味してもはっきりしない。男としては高く、女としては低い。髪型もどうとも取れるショートヘア。

イチカが気の迷いで本気の男装をすれば、雰囲気だけは伝わるかもしれない。

性格も少し話をしただけで、ランにはよく分からない人だ。

 

「副委員長ならもう少し知ってるかも?」

「分かりました。今度、ハスミ先輩に聞いてみますね。……あ、あと、ラン先輩」

「どうしたの?」

 

着いたサラダとプレートをつつきながら、コハルが聞き難そうに問うてきた。

 

「最近、大丈夫ですか? なんか、先輩達がラン先輩がよく魘されてるって……」

「大丈夫だよ」

 

この夢も今の光景も、人殺しがのうのうと生きている罰だから。

アスパラサラダに付属のドレッシングを追加しながら、ランは努めて普段通りの笑みを浮かべた。

 

「本当に大丈夫なんですか? ハスミ先輩達、ランタンを点ける度に魘され方が酷くなってるって……」

「うーん、傷が痛むのかな? でも大丈夫だよ。私、変に頑丈だし」

 

他の皆は壊れて居なくなっても、自分だけは何故か壊れず生きている。

あの人は貴重なサンプルだと言っていた。

意味は分からないが、多分何か目的があったのだろう。

 

――あれ? あの人って、……皆って誰だっけ?

 

よく分からない味のドレッシングがかかったアスパラを噛みながら、ランは首を傾げた。

ああ、それよりコハルの心配を晴らさないといけない。

でも、どうすればいいのだろうか。

 

 

何も考えるな。殺せばいい

うるさい、こいつからもう奪うな!

 

 

「あの、ラン先輩?」

「……んえ? どうしたの、コハル」

「やっぱり調子悪いんじゃ……」

「ちょっと疲れてるのかな? なんかぼんやりするよね」

「それ、何時もじゃないですか」

「じゃあ大丈夫だよ」

 

そうは言うが、コハルはやはり納得出来ない。

ぼんやりとしているのは何時もの事だが、先程一瞬だけ噂に聞く状態になっていた。

 

トリニティの蒼い鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)

コハルはランが戦っている姿を見た事は無い。知っているのは、病室でボロボロになっている姿だけだ。

そんなランは蒼い鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)と、影でそう呼ばれているという噂を耳にした。

 

あれは持ち主の魂を食らう炉、例えその腕をもがれても、その目を焼かれても奴は決して歩みを止めない。

蒼い鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)に導かれるままに、道連れを増やそうとこちらに忍び寄る。

 

そんな普段のランからは想像も出来ない姿。

聞きようによっては、自身を省みず敵対者を打ち倒す英雄の様にも聞こえる。

だが、コハルはその噂が大嫌いだった。

 

「ラン先輩、もう怪我しないでください」

「え?」

「ラン先輩が怪我をする度に心配になるんです。今は大丈夫でも次はって……。傷だらけになるラン先輩は見たくないです」

「でも、私は……」

 

人殺しだから罰を受けないと

そう言えなかった。はっきりと言わなければいけないのに、何故か言葉が出ない。

ああ、そうか。お前は人殺しの癖に、誰かに見捨てられるのが怖いのか。

あんなに殺しておいて、今更それか。

今更、お前の過去も知らない話せない相手に見捨てられるのが怖いのか。

なら、お前は何も考えるな。

何も考えず、思考も意思も何もかも使い潰して殺せばいい。

 

姉を、妹を、家族を殺したお前には考える事は許されない。

 

 

ラン、あなたは生きて

 

 

「……うん、分かった。頑張るよ」

 

ランはコハルの願いに答えた。

その答えにパッと花が咲いた様に微笑むコハル。

嗚呼、きっと喜んでいるのだろう。コハルは優しい子だから、こんな優しい子は自分を使い潰して護らないと。

黒い靄が滲み始めた視界で、ランはそう考えた。

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