↓
ちょっと書く
↓
無理や……←いまここ
「ベルタ駐屯所っすか?」
「そうだ。エデン条約締結までに、そこの問題を解決する」
珍しくとは言い様だが、ツルギが奇声を挙げずに書類を片手に説明する。
「聞いた事ない場所ですけど、何かあったんですか?」
「ベルタ駐屯所は今は違うが、元々トリニティの林業に関わる重要地でな。トリニティ郊外にある山間部にあるという関係上、我々とは違う自警団が治安維持に当たっていた」
「それが何か問題に?」
イチカの問いにツルギは頷く。
「近く締結されるエデン条約、それが決まれば今までの治安維持機構は刷新され、新しい治安維持機構が発足する」
「そこでその自警団が邪魔になるって事っすか」
「そうだ」
新しい治安維持機構については、二人も聞き及んでいた。
トリニティとゲヘナの友好条約であるエデン条約、それが締結されれば現行の治安維持機構であるトリニティの正義実現委員会、ゲヘナの風紀委員会は解体され統合される。
だからその前に、独立した治安維持機構を解体したい。それが今回の話だ。
しかし、そこで一つの疑問が湧いた。
「でも、それなら通達を送るだけでいいんじゃないですか? 別に違法な組織って話じゃないんですよね?」
「それもそうっすね。何かあるんすか?」
「……頭の痛い事に、ベルタ自警団はその通達を跳ね除けている。自分達は自分達でやる。とな」
「それはまた……」
頭痛に耐える様にこめかみを押さえるツルギに、二人は何と言えばいいか分からなかった。
言ってしまえば、このエデン条約は国同士の決まり事だ。そこで一地方の自警団が異を唱えても意味はない。
強制的に執行されるだけだ。
なのに、ベルタ自警団はそれを拒んでいる。
という事は
「何か隠したい事、やましい事があるって事すね」
「その通りだ。ベルタ駐屯所には約二年前に、膨大な量の弾薬や物資が誤って納入されている事が判った」
ツルギから手渡された資料を見ると、二人でも驚愕する物量だった。
ざっと計算するだけでも、正義実現委員会の実働隊が一年間毎日休まず全員が稼働して、ようやく消費しきれる量の物資が納入されていた。
「これに、今まで気付かなかったんですか……?」
「ああ、書類上は数十回に分けて納入されていたらしい。しかも、いちいち期間を空けてな」
「ありゃりゃ、これは汚いお仕事の匂いがするっすね」
「それについては、当時の担当者がミスを誤魔化す為に書類を改竄したらしく、もう処罰は済んでいる。問題はベルタ自警団と納入されている物資だ。……痛くない腹はつつかれたくない。というのが上の判断だな」
ゲヘナの
ツルギはそう付け加え、もう一枚の書類と封筒を差し出す。
「ベルタ駐屯所までの地図と通達書、そして調査任命状だ。その任命状に記載されている期間、お前達はティーパーティーに準ずる決定権を行使可能になる」
「ち、ちょっと待ってください! ティーパーティーに準ずるって、それってほぼ委員長と同等って事じゃないですか?!」
「そうだ」
「荷が重いっすね……。というか、それなら委員長が出れば済む話じゃないっすか?」
「……簡単に言うが、私が出て穏便に済むと思うか?」
ツルギの問い掛けに、二人は顔を見合せて黙った。
ツルギは普段、こういった場では冷静に会話が出来るが、少しでもテンションが上がればハスミ以外には通訳が不可能な奇声を発し出す。
それにツルギは〝トリニティの戦略兵器〟の異名で通っている。そんな彼女が出て穏便に事が運ぶかと言われれば、このキヴォトスでは否と返すしかないだろう。
「それに、私はティーパーティーから呼ばれ、ハスミはその間の取り纏めだ。そして、私達が卒業すれば次はお前達二人だ。今の内にあちこち顔を売っておけば、後々の為にもなるだろう」
「……そうっすね」
ちらと、ランを見るツルギをイチカは見逃さなかった。ランはやはり鈍いので気付いていないが、この次代の責任をランの重りにしたい。ツルギはそう考えているのだろう。
ツルギとハスミ、イチカも薄々は勘づいている。ランの戦い方は自分を使い潰してしまう方法だ。
まるで、自分なんかは後に残さなくていい。今だけをどうにかしたい。そう見える。
ランが自分の事をどう考えているか、それは本人ではない自分達には分からない。
しかし、ランはツルギの大事な後輩で、イチカにとっても大事な仲間だ。
そんな彼女に後悔を残させないのではなく、後々まで自分を続けさせないといけない。
そう考えさせたい。というのが、ツルギの今回の指示の真意だろう。
それに、あのミネも次何かあれば迷い無く、正義実現委員会に襲撃を仕掛けてくる。
あの破壊神はマズイ。とりあえず、怪しいからで
以前も何を勘違いしたのか、突然委員会部室棟に襲撃を仕掛けてきた。
あの時は酷かった。まず降ってきたミネの着地でマシロが潰されて、ランは訳も判らずオロオロとし、自分はぶち抜いてきた壁に吹っ飛ばされ、結局ハスミとツルギが出て救護騎士団に引き渡して事態は治まった。
「それに今回の事は急務だ。頼んだぞ」
ツルギがいつもの凶悪な笑みで言うと、二人はげっそりした顔で了承した。
しかし、面倒な話になった。
ツルギの話から予想するに、担当者のミスではない。
ツルギに渡された地図から、ベルタ駐屯所からトリニティ総合学園との単純な距離を計算する。
――直線の道を整備すれば、一日ってところっすか
ランはぼんやりと地図を眺めているが、ある程度は理解している。
これは戦時を予測した備蓄の可能性がある。
「ああ~、ホントに平和になんないもんっすかね」
「だよね……」
「キヒ……」
疲れきった顔で三人は肩を落として溜め息を吐いた。