怪しさMAXの陰陽師は、むしろ一級陰陽師になりたいようです。 作:S・DOMAN
色々な集落や街を転々としていると、持ちきれないほど多くの荷物ができる事もある。主にフリーレンが原因なのだが。
フリーレンの物欲は留まるところを知らない。二つ前に訪れた街では単眼巨人の頭蓋骨を。更にその一つ前では抱えきれないほど大量の魔導書とくれば、普段は……温厚なフェルンであっても怒らないほうが難しいだろう。
道中必須となる食料の購入代金まで魔導書購入に充て始めた時は、何かやらかしたドーマンに向けるのと同じ目を向けていた。それ以降流石のフリーレンもちょっとは反省したのか、激しい物欲も鳴りを潜めている。
今は。
……旅の荷物は少ない方が楽であると分かっているのに、旅行鞄にはできる限り沢山のモノを詰め込みたがるのが人間の性だ。
因みに、フリーレン達が持ちきれなかった分の荷物はドーマンが保管してくれているのでとても安心。
もちろんフリーレンは何か言いたそうな顔をしていた。していたのだが、『でしたらやっぱりお店に返してきますか?』とジト目で言われてしまったため引き下がるしか無かったのだ…
そして、今は村を出発して半日ほど。朝の五時にフェルンとドーマンの二人がかりで優しく激しく叩き起こされた彼女にとって幸いなのは、冬季の朝にしては大分優しい寒さだった点だろう。
「そろそろ見えてくるはずなんだけど……お、見えたよフェルン。あれが次の拠点になる街だね」
「冬季なのに妙に賑わっていますね。お祭りの準備をしているのでしょうか?」
「…………うん。その……あの街の近くにはリーゼル渓谷っていうのがあるんだけど…」
「えっ?それってアイゼン様の住んでおられる場所では…」
「そうだよ」
「―――マズいですよフリーレン様!?アイゼン様のお誕生日プレゼント何も用意していません!」
「ふっふっふ。大丈夫、抜かりはないよ。この日のためにちゃんと用意しておいたんだからね」
フリーレンはやけに自信満々な様子でそう言うが、フェルンは心配で落ち着かなかった。ああいう顔をしている時のフリーレンは大抵何かやらかすので、あまり信用できない。
心配だ…
設備や建物の新しさ、露天商の垂らす天幕の汚れ具合などを見るに、そもそもこの街は数年前まで無かったのではと感じた。
事実、すれ違った町人に話を聞いてみると、この街はまだ出来てから十年も経っていないのだという。元々あった村を取り壊し再開発したのだとか。
道行く人々は皆笑顔で、上水道がしっかりと整備されており、家の扉には鮮やかなリースが飾られている。人伝に聞くばかりの、聖都の華やかさにも劣らないだろう。
お祭り前夜といった街の浮かれ具合に当てられて頬も自然と緩むというものだ。
だがそれも無理はない。あと数日もすれば、この街を守る勇者一行の一人、戦士アイゼンの生誕祭が開かれるのだから。
……念の為、この生誕祭は決して本人が要望したものでは無く、『せっかく本人がいるのだから生誕祭を開けば儲かるに違いない』という商魂たくましい者と、ただ単に騒ぎたい者達によるお祭りである事は知っておいてほしい。
宿を取ろうとしたらどこも観光客で一杯で泊まれなかったので、とりあえず先にアイゼンの所へ行くことになった。
「お、フリーレンか。事前に連絡した通りだな」
「フェルン達が朝ゆっくり寝かしてくれないからね……ここ数年は時間通りに起きてるよ…」
「そうか。フェルン、フリーレンの世話は大変だろう」
「どうしても起きない時はドーマン様も手伝ってくださいますし、今のところは大丈夫です」
「あ、はいこれ、お土産」
「ありがとう……何だこれは。薬か?」
「ふっふっふ。『服だけ溶かす薬』だよ。アイゼンってこういうの好きでしょ?―――あだっ」
「……あ、どうも。フリーレン殿がいつもお世話になっておりまする。こちらお土産の火酒と内陸部では滅多に食せぬ海鮮系のツマミですので、今度ハイター殿と会った時にでも…」
「おう。そうか。よく俺の前に顔を出せたな。あれだけ『臆病だから脅かすのを止めてくれ』と言ったのにお構いなしに夜襲撃を仕掛けてきやがって。おかげであの旅の間、俺はほとんど寝不足だったんだぞ」
「何をおっしゃいます!?ちゃんと加減したでしょう!?」
「そもそもするなと言っているんだ」
「ンフフフフ…」
「笑ってごまかせると思っているのか……まあいい。流石に魔王討伐直前には襲撃して来なかったからな―――それはそれで腹が立つな。フリーレン。少し席を外すぞ」
「ソソソ?厠ですかな?」
「お前も来い、ドーマン」
「ソソソソソ…」
最後までいやいやと抵抗を続けていたドーマンだったが、見かねたフリーレンに杖で頭を小突かれ『ちゃんと反省しないとダメだよ』と言われると、遂に観念したのかアイゼンに首根っこ掴まれて引きずられ、扉の向こうへ消えていった。
「どうしましょうフリーレン様。ドーマン様が連行されちゃいましたよ」
「………………ま、多分悪いようにはならないと思うよ」
「―――?そうだと、いいのですが…」
閉じた扉の向こうを見るフリーレンの眼差しは、心無しか先程より幾分冷ややかなものだった。
暫くして戻ってきたドーマンは、見る方が痛くなりそうな位に顔を腫らしていた。音を置き去りにする速度で放たれた拳がドーマンの頬を的確にブチ抜いた結果である。
「まったく酷い目に合いましたぞ。ソソソソソ…」
「お疲れ様。薪と具材は用意しといたから、顔を治したら牛乳と卵取ってきて」
「容赦ないですねフリーレン様…」
「あ、ハイ」
「治るんですね…」