トウホウテンセイイブンロク   作:まめ三等兵

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11.キョウイチとの出会い、そして自宅へ

 

 

 ワードッグとは病院前で別れることになった。

 彼も吉祥寺民であるため、一度家の様子を見ておきたいとのことだった。

 レミリアは、合流するつもりならと、自宅の場所をワードッグに伝えた。

 

 

 

「悪魔扱いされて身内に殺されちまうかもな。それでも向こうが生きてりゃそれでいい。どこか安全な場所に避難させて最後のお別れをしてくるぜ」

 

 

 

 そう言い残しワードッグは去っていった。

 

 ワードッグを見送り、自宅に急ぐレミリアとトウマ。

 所々で人の驚きや悲鳴が聞こえてくる。

 病院に閉じ込められている間に、街は騒然とした空気に満ちていた。

 

 院内でさんざん悪魔と戦ってきたレミリアだが、様相の変わった地元に、レミリアの心は一段と焦燥が深くなった。

 

 レミリアがトウマを呼び止めたのはアーケードに差し掛かった時だった。

 

 

 

「待ってトウマ、カフェは探した?」

 

「カフェ? どこのですか?」

 

「そこのアーケードのカフェ。私もマリサもよく行くの」

 

「いえ、たぶん知りません」

 

ーーそっか、連れてきてないのね。

 

「行ってみましょ、マスターもマリサのことよく知ってるから」

 

「わかりました」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「マリサちゃんもキミのお母さんも今日は来てない。ここは避難所にしてるから、見かけたらすぐに連れておいで」

 

「ありがとうマスター。トウマ、マリサの家に急ご」

 

「はい」

 

 

 

 カフェはシャッターが半分ほど降りていた。

 中を覗き込むと20人ほど人がいて、マスターがどこかに電話中だった。

 レミリアが扉をノックすると、マスターはこちらに気づき目を丸くして裏口から出てきてくれたが、マリサも母リョウコも一度も見ていないということだった。

 

 

 

「そうだ! ちょっと待ちなさい!」

 

 

 

 店を後にしようとしたレミリアをマスターが呼び止める。

 

 

 

「?」

 

「立花くん! レミリアちゃんだ」

 

「え? ーー先輩!? 立花先輩!」

 

 

 

 すると、マスターの後ろから立花が顔を覗かせた。

 立花が青ざめた顔で安堵の息を漏らす。

 

 

「レミさんよかった……無事だったんだね……ーーっ!? レミさん肩にのってるそれっ、もしかしてキミも……」

 

 

 

 立花はレミリアの肩にいるピクシーに気づき口をあんぐりさせた。

 ピクシーは立花を見ると『あっ!』と声を上げた。

 

 

「レミー、このニンゲンもワタシの仲間を連れてるよー、やっほー」

 

 

 

 そう言ってピクシーは立花に手を振る。

 立花はしどろもどろで手を振りかえした。

 

 

 

「立花先輩も……立花先輩、部長と大杉先輩もここに?」

 

 

 

 立花は首を横に振った。

 

 

 

「先生から学校に避難するよう家に電話が掛かってきたはずだけど、たぶんレミさんは知らなかったんだろうね。僕たちは家族を連れて一旦は学校に避難した。でもどこを探してもキミの姿が見当たらないから、部長がレミさんの家に行くって、それでキミのお母さんも一緒に連れてくるって。さすがに僕たちだけジッとしてるわけにいかないから、大杉は学校に待機、僕はここで待つことになった。もしかしたらレミくんはここに来るかもしれないから。部長はキミのお母さんとキミを学校に避難させたら、一度ここに来ることになってるけど……」

 

 

 

 レミリアは立花の腕を握りしめ頷いた。

 立花の肩が固まる。

 

 

「ありがと先輩。じゃあ部長は私の家に?」

 

「そ、そのはずなんだけど……もうずいぶん経つ」

 

「ーー立花先輩ありがとっ」

 

 

 

 レミリアはアーケードの表に駆け出す。

 立花が声を張り上げた。

 

 

「ダメだレミさんっ! ここで部長を待った方がいいっ!」

 

「そういうわけにはいかないのっ! 先輩も気をつけて!」

 

 

 

 自宅に向かってアーケードを駆け抜ける最中、けたたましい怒声をあげる複数人の不良たちにレミリアとトウマの足が止まった。

 

 不良たちは、地面に倒れうずくまっている少年を取り囲み、罵倒を浴びせ暴行を加えている。

 少年はレミリアとトウマと同じくらいの歳に見えた。

 

 

「調子くれてんじゃねぇッ! なにが悪魔だ寝言こきやがって! てめえらもっと痛めつけて二度と立てなくしてやれッ!」

 

 

 

 リーダー格と思われる男の言葉を皮切りに、不良たちの暴行はいっそう過激さを増した。

 

 

 

「なにをしているやめろ!」

 

 

 

 とつぜんトウマが不良たちの輪に飛び込み、リーダー格の男に立ちはだかった。

 

 リーダー格の男がトウマを睨みつけるが、トウマの目は微動だにしない。

 やがてリーダー格の男は舌打ちをするとうずくまっている少年を見下ろし、

 

 

 

「おい小僧、二度とふざけたまねすんじゃねえぞ」

 

 

 

 と言って仲間を引きつれ去っていった。

 

 

 

「……クソッ……あんなゲス野郎なんかに……絶対に……クソッ……」

 

「キミ、大丈夫ですか?」

 

 

 

 トウマが少年に手を差し伸べ、声をかける。

 しかし少年はトウマの手を振り払った。

 

 

 

「うるさい! ……何を今さら……くそっ……」

 

 

 

 ところがーー。

 顔を上げる少年の顔が驚愕で広がった。

 そしてそれはレミリアとトウマも同じであった。

 

 

 

「キョウイチッ! ……あなた、キョウイチよねっ!?」

 

 

 

 レミリアがキョウイチに駆け寄る。

 トウマの時と同様であった。

 レミリアは生半じゃない強烈な直感で、彼がキョウイチだと確信した。

 

 キョウイチは頭から流れる血を拭い、信じられない様子でレミリアとトウマを見つめた。

 

 

 

「……ま、まさかおまえたちが……お前がレミリアか……じゃあお前が……」

 

 

 

 トウマは頷きながら回復魔法で彼の傷を手当した。

 

 

 

「はい、僕がトウマです。キョウイチ君ですね。まさかみんな吉祥寺にいただなんて」

 

 

 

 トウマの魔法にキョウイチはハッとした。

 

 

 

「っ! お前も力を使えるのか……?」

 

「ええ、ということはキミにも力があるんですね」

 

 

 

 キョウイチは無言で頷きながら立ち上がる。

 そして迷彩柄のコートを手で払うと、

 

 

 

「そうか……助けてもらったんだな……ちくしょう! 俺にもっと力があれば……ッ!」

 

 

 

 と言って拳を固めた。

 レミリアが声をかける。

 

 

 

「一緒に行動するでしょ?」

 

「ああ」

 

「よかった、でも今から家に戻らないといけないの」

 

「かまわん、ついて行く」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 レミリアは自宅前に来るとマリサの家に駆け込んだ。

 

 

 

「マリサッ! マリサッ! ねえおじさんッ! マリサいるっ!? ねえッたらッ!」

 

 

 

 すると診察室から血の気の失せたマリサの父親が姿を見せた。

 

 

 

「レミリアちゃん、おおトウマくんも……マリサは新宿に行くと言ったっきり帰ってこないんだ……こんなときに……たのむ、探してくれ……」

 

「新宿だと……?」

 

 

 

 キョウイチが呟く。

 トウマがキョウイチの呟きに反応した。

 

 

 

「新宿がなにか?」

 

「知らないのか? いまは戒厳令が敷かれて吉祥寺からは一歩も出れないはずだぞ」

 

「カイゲンレイ……?」

 

 

 

 要領を得ないレミリアにキョウイチが答えた。

 

 

 

「俺も詳しくはない。たしかゴトウって軍人が軍隊使ってクーデターを起こして東京を自分の管理下に置いてる。自衛隊が道路を封鎖してたろ」

 

ーーゴトウ? ……たしか。

 

 

 

 車椅子の男の口から、その名を聞いたことを思い出したレミリアだが、今はそれ以上考える余裕はなかった。

 

 トウマがマリサの父親に言葉をかける。

 

 

 

「とにかくマリサは僕が必ず見つけます。思い当たるところ、ぜんぶあたってみますから」

 

「本当に頼むよ……」

 

「レミリアくん、キミの家に急ぎましょう」

 

「ええ。おじさん、戸締まりはしっかりね」

 

 

 

 レミリアはマリサの家を出て自宅の扉をあける。

 ゲージに入っているパスカルがけたたましく吠えた。

 

 

 

「パスカル、ちょっと待ってね。ねぇお母さんっ、お母さんいるっ?」

 

「ーーレミリア? あら、お帰りなさい、遅かったわねぇ」

 

 

 

 姿は見えないが、リビングから母リョウコの声が返ってきた。

 レミリアは胸を大きく撫で下ろし、みんなに上がるよう手招きする。

 

 リビングに入ると、リョウコはエプロンを身につけキッチンに立っていた。

 キッチンテーブルには幾つかの料理が並んでいる。

 

 並べられた料理を見て、レミリアはこれは先輩達をもてなす為のものだと思ったが、すぐ違和感を覚えた。

 しかしその違和感も、リョウコが無事だったことの安堵感で有耶無耶になってしまった。

 

 

 

「お母さん、部活の先輩来なかった?」

 

「誰も来てないわ? それよりどこ行ってたの? 心配したじゃない。ーーほら、こっちいらっしゃい」

 

「ーーえ? 先輩来てないの? ……そんな……どうしよう」

 

 

 

 重い胸騒ぎがレミリアの心にのし掛かる。

 考えたくもない最悪の未来が脳裏をよぎる。

 

 

 

「そんなことよりレミリア、はやくおいで、抱かせてちょうだい」

 

 

 

 リョウコは笑みを浮かべながらレミリアに歩みよる。

 レミリアはその場で立ち尽くし、はたして今どうすべきか考えていた。

 

 

 

「……でもお母さん、先輩、お母さんを迎えにーーっ!?」

 

 

 

 その時、トウマがレミリアの腕を思いっきり後ろに引っ張って後方に立たせた。

 とつぜんのことにレミリアはバランスが崩れそうになった。

 

 

「わっ! ちょっと、トウマ」

 

 

 

 キョウイチがレミリアの前に立つ。

 キョウイチはリョウコにジッと視線を向け、首をゆっくりと横にふった。

 

 

 

「ーータチ悪いぜ」

 

 

 

 その後ーーしばしの沈黙を破ったリョウコの口から出た言葉、その声は、レミリアの命以外のすべてを止めてしまった。

 

 

 

「勘がいいな……お前の母親は頂いた……」

 

「ッ…………ッッ」

 

 

 

 リョウコの口から濁音混じった甲高い反響声が漏れた。

 あきらかに人でないもののそれであった。

 

 

 

「お前のことを本当に心配してた、お前のこと……ずっとお前のことを……ケケケ、へケケケ……悲しむことはないぜぇ?……腹の中で合わせてやる……ケヘヘ」

 

 

 

 リョウコ姿のそれは、レミリアの反応を覗き見るようにして心底おかしそうに腹を押さえ笑った。

 

 

 

「…………」

 

「あの子の命だけは助けてやってくれってなぁ? 自分は好きにしていいからって……クックック……俺はなァ、どこまで本気か知りたくなったァァァ……」

 

「…………」

 

「剥いでやった……だからお前の母親の皮を生きたまま綺麗に剥いでやった……これどうだ? 上手く剥がせてるだろ? グァケケェ……」

 

「…………」

 

 

 

 そこまで言うと、リョウコ姿のそれは、右手で自身の頭頂部を掴み、ゆっくりと皮膚を引き剥がしはじめる。

 

 まるで映画で使うシリコンの皮膚のようだった。

 リョウコの姿が見る間に萎んでいく。

 

 リョウコの皮を被っていたのは、緑色の体色をした一本角の鬼、邪鬼アマノサクガミであった。

 

 アマノサクガミはリョウコの皮膚を投げ捨てた。

 

 

 

「ケケケ……お前の母親は本気だったぜぇ? クケケケ……皮を全部剥がれてもヨォ、お前を助けてくれって……ケケ、ありゃ傑作だったァァァ……俺に喰われながらもまだレミリアを助けてやっーーッッッ!!」

 

 

 

 金属音と衝撃音が悪魔の挑発を引き裂いた。

 アマノサクガミは言い終わるより先に後ろに吹っ飛び、壁が崩壊するほど身体を叩きつけられた。

 レミリアの視界のはしから無欠の美貌を怨鬼のようにさせたトウマがアマノサクガミに殺到していく。

 

 アマノサクガミはこれまでのどの悪魔よりも疾かった。

 トウマの至近距離からの拳銃を回避すると、反撃に転ずるべく鋭い牙を剥いてトウマに飛びかかっていく。

 

 

 

「キョウイチ君ッッッ!」

 

 

 

 トウマは腹を引き絞るような声でキョウイチの名を叫び、二撃目の魔法に力を溜めつつアマノサクガミを迎え撃つ。

 

 まさに悪魔の所業に言葉を失っていたキョウイチだったが、トウマの一声で意識を死地に戻した。

 

 キョウイチはこめかみから額にかけ、ミミズのように血管を浮き立たせながら詠唱すると、真横に伸ばした右腕の先に直径200センチほどの大きな火球を生み出した。

 

 

 

「後ろに飛べトウマッッッ!」

 

 

 

 トウマの視界外からキョウイチの怒号が飛ぶ。

 トウマは咄嗟に前の壁を蹴り、反動を利用して後ろに大きく跳躍して倒れ込んだ。

 

 キョウイチが投手のようなモーションで放った火球は、アマノサクガミにとって想定外の大きさだった。

 アマノサクガミは避けきれず半身にダメージを負った。

 

 キョウイチの魔法は信じられないほどの大パワーで、アマノサクガミはもとよりトウマも戦慄した。

 

 たった一撃の魔法で、アマノサクガミの半身は壊滅し使い物にならなくなった。

 余裕と疾さが失われ、顔が恐怖と激痛に染まる。

 まともに喰らっていたら勝負がついていたのは明白だった。

 

 真っ先に倒すべきは火炎魔法の使い手であると判断したアマノサクガミ。

 ふらつきながら高速詠唱すると、キョウイチを睨む片目が鈍く光った。

 

 一瞬なにをされたか分からないキョウイチだが、すぐ違和感の正体を身をもって知ることになる。

 

 アマノサクガミはキョウイチの声を封じ詠唱できないようにした。

 

 

 

「グォェッ」

 

 

 

 ところがアマノサクガミは、果敢な魔法使いの男二人に気を取られ、幽霊のように接近してきた肝心な第三の存在に、直前まで気づけなかった。

 

 レミリアはアマノサクガミを強く抱きしめながらナイフを心臓に突き刺さした。

 そして湖に沈んでいくように一緒に倒れ込む。

 

 半身が壊滅しているアマノサクガミは、思うようにレミリアを突き放せない。

 レミリアは無言のまま抱きしめ、ナイフを握る手ごと抉り込ませようとしていた。

 

 破壊された半身と、心臓に突き刺さっているナイフが、アマノサクガミの体温と意識を絡め取っていく。

 

 蹂躙するつもりが逆にこちらが蹂躙され、アマノサクガミは憎悪の雄叫びを撒き散らすと、眼前の青白い滑らかな首すじに鋭い牙をたてた。

 

 レミリアの首すじから勢いよく血が噴出する。

 尋常な量ではない。

 

 

 

「レミリア君ッッッ!」

 

「おいッ! (不用意に近づきやがってーーちっ!)」

 

 

 

 トウマとキョウイチはレミリアにかけ寄り引き剥がそうとするも、アマノサクガミの牙は根元まで食い込み容易ではない。

 しかも当のレミリアがアマノサクガミの背に腕をまわし肩に顔を埋めたまま離れようとしないのである。

 

 

 

「ャぷッッ!?」

 

 

 

 とつぜんアマノサクガミが素っ頓狂な悲鳴をあげた。

 見れば火球をまぬがれた片方の目に鉄の棒が突き刺さっている。

 棒の出所を確かめるべく振り返ったトウマとキョウイチは目を剥いた。

 キョウイチは急いでMP5マシンガンを構える。

 

 

 

「撃たないでキョウイチ君ッ! 彼は仲間ですッ!!」

 

「ッ!? ……ッッ?」

 

 

 

 そこには病院で別れたワードッグがいた。

 ワードッグはアマノサクガミの目に棒武器を突き刺しながらレミリアを見下ろしている。

 

 

 

「そこの色男よりソレのが御好みってか、どんな趣味してやがんだ。やっぱてめえ悪魔好きだな」

 

 

 

 そう言ってワードッグは鼻を鳴らすと、キョウイチに言葉をかけた。

 

 

 

「おい、俺に向けてるそいつでさっさとトドメ刺しちまえよ」

 

 

 

 ワードッグへの不審が完全に消えないものの、キョウイチはアマノサクガミの額に銃口を押し付け火を噴かせた。

 アマノサクガミは頭を痙攣させ中のモノを外にぶちまけながら息耐え消えた。

 

 戦いで掻き消えていたパスカルの鳴き声がリビングに響き渡ってくる。

 トウマとキョウイチは大きく息を吐き額の汗を拭った。

 

 ずっと隠れていたピクシーが恐る恐る姿を見せると、レミリアやトウマ、そしてキョウイチに無言のまま回復魔法をかけてまわった。

 そしてワードッグにも回復魔法をかけようと手をかざした。

 

 

 

「俺はいらねえ、回復は間に合ってる」

 

 

 

 ワードッグがそう言うと、ピクシーはうつ伏せに倒れたままのレミリアの肩口に降り立った。

 

 血に染まり微動だにしないレミリアはまるで死人のようだった。

 トウマがレミリアに声をかける。

 

 

「……。レミリア君……こんなときに何を言ってもなぐさめにならないだろうけどーー」

 

 

 

 するとキョウイチがトウマの肩に手をおいて言葉をとめた。

 

 

 

「そっとしておいてやれ、母親が殺されたんだぞ」

 

 

 

 キョウイチはレミリアから距離を取ると、壁際に腰をおろした。

 

 やがてレミリアに動きがあったが、まるで赤子のように這いつくばったまま、起き上がることができないかのようであった。

 

 レミリアはアマノサクガミが投げ捨てた母の残骸にたどり着くと、それをたぐり寄せ両手で抱きしめ顔をうずめる。

 母の匂いが残っていた。

 

 

 

ーーお母さん………。

 

 

 

 心の中で母を呼ぶ。

 リョウコの微笑む姿がフラッシュバックし、レミリアの心に形容しがたい痛みをもたらす。

 

 いまレミリアに襲いかかっている苦しみと悲しみは、指数関数的に膨れ上がりつづけまるで限界がない。

 

 我慢などになんの力があるだろう。

 母の死は、ただひたすらレミリアの心を生きながらにして無限的に殺しつづけるばかりだった。

 

 

 

ーーおかあさん……ねぇ……ねぇ……ーーおかあさァア゛ン゛ッッッ!

 

 

 

 レミリアの肩が震えはじめる。

 ボロボロと大粒の涙が溢れ出てくる。

 大口を開け顔をぐしゃぐしゃにする。

 レミリアは声を出すのも忘れ号泣した。

 

 

 

 

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