トウホウテンセイイブンロク   作:まめ三等兵

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プロローグ2

 

 魔理沙が言ってた棚は、レミリア達がいた最下層から、4800Kmほど上にある。

 

 紅魔館は、外観と内部の大きさが比例しない。

 

 外から見るぶんには、館のサイズはこじんまりと常識的なものである。

 

 しかし内部はデタラメで非常識だ。

 

 中でも大図書館の広さときたら、紅魔館すべての部屋を合わせても、まったく比較に値しない。

 

 パチュリーは、短距離テレポート魔法を何度も駆使しながら、上へ上へと飛行していく。

 

 目的の棚に到着したとき、パチュリーは息をきらし、「カヒューカヒュー」と喘息の発作が起きていた。

 

 魔力こそ膨大なパチュリーであるが、虚弱体質の彼女には、魔法の連続詠唱は身に堪える。

 

 さらに普段の彼女は、1000Kmより上には、めったに行くことはなかった。

 

 パチュリーは、両手で抱えていた魔導書をそっと置くと、胸元をおさえ息を整えながら、棚から一冊の黒い本を手に取る。

 

 魔理沙が魔法金庫と呼んでいた本だ。

 

 パチュリーは表紙に手をかざし、大きく深呼吸を3回して、ボソボソと詠唱する。

 

 すると、無地だった表紙に、五芒星が輝きあらわれた。

 

 パチュリーは、眉が動いたり指先が動いたり、まるで何かを探っているようだ。

 

 そのとき、バサバサドオーとパワフルな羽音と風が起こって、パチュリーのフリルの帽子を巻きあげた。 

 

 

 

「あっ! みっけ!」

 

 

 

 音と風の正体はレミリアだ。

 

 レミリアは空中でキャッチしたフリルの帽子を、パチュリーの頭にポンとのせて着地する。

 

 にぎやかなコウモリ達が主人の腕に戻っていく。 

 

 レミリアはパチュリーの顔を覗きこんでたずねた。

 

 

 

「これが魔理沙の言ってたやつね? 手紙ってなにかしらね?」

 

 

 

 レミリアの目はクリクリとして期待でいっぱいだ。

 

 だが当のパチュリーは、レミリアの問いかけに反応せず、本に手をかざし目を閉じたまま。

 

 レミリアは黒い本に視線を向ける。

 

 そして、あどけなくも整った顎に指をあて、首を傾げながら「ウ~ム」と唸ると、

 

 

 

「……。うん! やっぱり知らないわ。なんのことかさーっぱり!」

 

 

 

と言い、パチュリーが面してる棚にもたれ掛かり、彼女の反応を待つことにした。

 

 

 

「ーー本の封印が解かれた痕跡はない」

 

 

 

 レミリアが待つこと20分。

 

 ふいにパチュリーが口を開く。

 

 

 

「解かれてない? ……ふーん」

 

「むぅ、なによ。わたしが間違ってるっていう気?」

 

 

 

 レミリアの言葉に、パチュリーは眉頭を上げ、不服をもらした。

 

 

 

「間違ってるかどうかなんて、私にはわからないわ?」

 

 

 

 レミリアはそう言葉を返すと、パチュリーの背後にまわってギュッと抱きしめ、自身の頬を彼女の頬にくっつけた。

 

 そして言葉を続ける。

 

 

 

「じゃあ手紙なんてなかったのね。魔理沙も自信なさげな伝えかただったし。『もし手紙があったのなら』だものね?」

 

 

 

 レミリアのやけに楽しそうな声色が、パチュリーの頬ごしに伝わってくる。

 

 

 

「……もしかして私が嘘をついてるって言いたいわけ?」

 

 

 パチュリーの言葉にレミリアはクスクスと小さく笑ったが、なにも返さなかった。 

 

 からかわれているような気がしたパチュリー。

 

 密着してくるレミリアの両手をほどき、彼女の頬を、手でムニニと押しのけると、

 

 

 

「ぜんぶ見せないとダメっ? ぜんぶぜんぶぜんぶっ、なにもかもぜーんぶ見せないとダメなのーっ?」

 

 

 

と言って、頬を膨らませ拗ねてしまった。

 

 パチュリーは、魔法金庫のことをレミリアに教えてなかった。そのことに対してのレミリアの態度だと、パチュリーは思ったようである。  

 

 

 

「ま、失礼ね。秘めてこその魔術じゃない。わたしにもパチェ自身にも失礼だわ?」

 

 

 

 あいかわらず、なにかがおかしそうな笑みをうかべるレミリアに、パチュリーは軽くそっぽをむく。

 

 レミリアはパチュリーの手を握って言葉を続ける。

 

 

 

「つまり魔理沙の目的って、嘘をついてパチェに魔法金庫を開けさせることかしら? あ、ということは近くにいたりして」

 

「……違う気がする。とても不可解」

 

 

 

 不可解。

 

 その言葉に、レミリアは高揚する気持ちを抑えられず、小さく何度も飛び跳ねた。

 

 そしてパチュリーの顔を至近距離で覗きこむ。

 

 しばらく見つめ合うふたり。

 

 瞳をビー玉のようにさせるレミリアと、ただただ曇った表情のパチュリー。

 

 

 

「わかったわよ解くわよぉ……この封印にどれだけ時間がかかると思ってるの……ったく」

 

 

 

 折れるのはいつもパチュリーである。

 

 パチュリーは、ため息をひとついれると、ふたたび本に手をかざした。

 

 今度はキビキビとした口調で、封印を解く魔法を詠唱する。

 

 すると、本が強い白光と風圧を放ち、彼女の帽子はふたたび宙を舞う。

 

 レミリアは嬉々として帽子をキャッチ、また彼女の頭にのせてあげた。

 

 パチュリーは本をゆっくり開く。

 

 のぞきこむレミリア。

 

 本の中は、パチュリーの筆跡とわかる魔法文字が書かれてあるのみである。

 

 レミリアは、パチュリーの魔法文字を読むことはできない。

 

 しかし、ざっとページを眺めたレミリアは、収納物を魔法文字に変換しているのではと推測した。

 

 パチュリーは、ゆっくりと、でも手を止めることなくページをめくっていく。

 

 やがて、あるところで手がとまった。

 

 

 

「あっ! 見つかったっ!? ねえっ!」

 

 

 

 レミリアの視線が、パチュリーと本のあいだを、行ったり来たりと忙しい。

 

 パチュリーは、落胆してため息をつくと、ある魔法文字を指でサッとなぞった。

 

 すると、ベージュの封筒が、紙面上から芽吹くように出てきた。

 

 パチュリーは封筒を手にとり、くるりと裏返す。

 

 ガタガタの字で、レミリアへ、と書かれてあった。

 

 パチュリーは、プイと明後日のほうを見ながら、手紙をレミリアに手渡す。

 

 

「ふふふっ、いったい何かしらね? ねっ?」

 

 

 

 レミリアは、さっそく封筒を開け、中の便箋をとりだした。

 

 便箋には、このようなことが書かれていた。

 

 

 

【退屈反逆同盟No.2! レミリア・スカーレット! 刻は来た! 今こそ我ら退屈反逆同盟が狼煙を上げるときだ! さあ同志よ! 霧雨魔法店前に集え! ところでそこにパチュリーはいるか? きっといるな! たぶん怒ってるだろうから伝えてくれ。これはほとんど私の力じゃないってな! まあアレだ、スゴイ魔導書をそこで見つけたんだ。さてはおまえ、このスゴイ魔導書の存在しらなかったな? 表に出ろとは言わんが、たまには身体を動かせよ。で、話をもどすが、スゴイ魔導書に危険はつきものだろ? だからまずは試しにと……この手紙をだ、いまの私じゃ絶対に解けないパチュリーの魔法金庫の中に……で、これを読めてるってことは、うまくいったんだな! なあパチュリー、手紙はどんな風に入っていたんだ? 金庫の封印は解かれていたのか? それとも解かれてないのに入っていたのか? 近いうちに遊びに行くから聞かせてくれ! それよりレミリア、これ見たなら早くこいよな! ああそうだ、言っとくが家の中には入るなよ? 外で待っててくれ。なーに待たせないさ! 霧雨魔理沙より】

 

 

 

 レミリアは声に出して読み終えると、封筒の中をのぞいてみた。

 

 便箋のほかに何もない。

 

 

 

「どうやら便箋だけみたい」

 

「魔理沙のやつ、ほんっとに……。それとレミィ、タイクツハンギャクドウメイってなに?」

 

「知らないわ」

 

「ナンバーツーなんでしょ?」

 

 

 

 パチュリーは疑いを向けながら、レミリアが持っている手紙をトントンと指差した。

 

 

 

「ほんとに知らないってば。アイツのことだから好き勝手いってるだけよ」

 

「その言葉が初耳ってだけで、退屈反逆同盟のNo.2になっちゃってる事に、なにか思い当たる節はあるんじゃないの?」

 

 

 

 今度はパチュリーがレミリアの顔を覗きこむ。そろった前髪がサラサラと流れた。

 

 

 

「んー……そうなの……かなぁ」

 

 

 

 レミリアはそう返すと、上を見上げ腕組みをした。

 

 

「もぉ、はぐらかすんだからっ。あるに決まってるわよ」

 

 

 

 パチュリーはまたプイとそっぽをむいた。だが見た目ほど機嫌を損ねてない。

 

 レミリアはいつもこんなだからだ。

 

 そのレミリアはパチュリーの肩に手をのせると、  

 

 

 

「ありがとパチェ。じゃあ行ってくるわね」

 

 

 

 と言って、細かい彫刻が施された木製の手すりの上に、フワリと立った。

 

 

 

「ちょっと待って」

 

 

 

 パチュリーが呼び止める。

 

 

 

「?」

 

 

 

 振り向くレミリア。

 

 パチュリーはレミリアをジッと見つめ、少し間を置いた後で、

 

 

 

「ーーあなたにこんな言い方は逆効果なのは分かってる。なにより止めるべきじゃないことも。でも私が後悔したくないから素直に言うわ。行くのはやめて欲しい。かなりいやな予感がする。それでも行くんだったら、魔理沙を止めるために行ってちょうだい。あのバカ……自分の能力を超えた力を使ってるに違いないんだから」

 

 

 

ーービュウゥゥゥッ!

 

 

 

 レミリアは風を残して去っていった。

 

 フリルの帽子が床に落ちた。

 

 

 

「……。知ってた」

 

 

 

 おたがい、やりたいことは邪魔しない。

 

 それがなんであろうと、どれだけ時間を使おうと。

 

 レミリアとパチュリーは、そうやって仲を深め育んできた。

 

 これからも変わることはないだろう。

 

 それでも……と、パチュリーは心中で思う。

 

 

 

ーーふたりとも思いっきり叱ってやるんだからっ……だから無茶はしたらダメよ。

 

 

 

 遠くからチュパカブラの鳴き声が反響した。

 

 

 

 

 

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