トウホウテンセイイブンロク   作:まめ三等兵

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7.夢

 

 

「やあ、レミリア君。また会いましたね」

 

「トウマ……」

 

 

 

 全てが曖昧な空間の先、不明瞭な何者かがいる。

 レミリアはすぐにトウマと呼びかけた。

 

 トウマのことはなにも分からない。

 しかしわからないまま、レミリアの中では、もう間違えようのない者であった。

 

 トウマの表情はわからないが、レミリアとの再会に喜びにも安心にも似た気配を感じた。

 

 ーーと。

 トウマと入れ替わるようにして、また別の何者かが姿を見せる。

 

 

 

 

「よお、レミリア。また変な夢見ちまったな」

 

「キョウイチ……」

 

 

 

 3人は揃うと、誰が合図するでもなく曖昧な空間を歩き始めた。

 

 レミリアはこの夢の中で、最初に彼らと出会ったときのことをはっきりと思い出せた。

 

 

 

ーーまた……なにかあるの……?

 

 

 

 すこし歩いたところで、レミリアは足を止める。

 目の前に、最初の夢で会った水浴びをしていた女が立っていた。

 青いスーツに身をつつんだその姿にレミリアはハッと息を飲んだ。

 

 

 

ーーそうだわ……カフェで見た女の人……この人だったじゃない、たしかユリコって人…………一体……。

 

 

 

 ユリコはレミリアを待っていたようであった。

 レミリアと目が合うと彼女は微笑みこう言った。

 

 

 

 

「また会えてうれしいわレミリア。私はずっとあなたの傍にいるのよ、忘れないでね……」

 

 

 

 ユリコはそれだけ言いのこすと、微笑を浮かべたまま姿を消した。

 

 

 

「おい、行こうぜ」

 

 

 

 しばらく立ちすくんだままのレミリアに、キョウイチが声をかけた。

 

 

 

「……うん」

 

 

 

 歩みを再開してすぐ、ぽっかりと暗がりが広がる入り口が見えてきた。

 3人はその前で立ち止まる。

 

 互いに不明瞭な顔を見合わせた。

 トウマとキョウイチが、レミリアに向かって頷く。

 レミリアは中へと足を踏みいれた。

 

 

 

「なんだ……? この気味悪い儀式は……」

 

「悪魔でも呼び出そうとするんでしょうか……?」

 

 

 

 キョウイチとトウマの声が張り詰めている。

 暗がり中では、不気味なローブに身をつつんだ者たちが、なにか儀式を行っていた。

 彼らはレミリアたちと違い、みんな明確な姿を持っている。

 

 レミリアたちは岩陰に隠れて様子をうかがうことにした。

 

 剣を下に向けた屈強な男を左右に置いて、儀式の中央にいる司祭のような男が両手を上に掲げて何か述べ始めた。

 

 

 

「……深きに眠る、我が暗黒の王よ。この若き魂を受け取りたまえ!」

 

 

 

 司祭が述べ終えると、儀式の広がりのところに、新たな不明瞭な者が出現した。

 どうやら生贄であるようだ。

 

 

ーーッ!? ……だめ……ダメッ!

 

 

 

 生贄にされる不明瞭な少女を見た瞬間である。

 突如レミリアの心はカッと熱くなって、儀式に飛び出そうとした。 

 ところがキョウイチがレミリアの腕を掴んで止めた。

 

 

 

「おい! 後ろの奴は剣持ってる、こっちは丸腰だ、無茶だぜ」

 

「お願い放してッ。……なぜかわからない……わからないけどあの子は助けないといけないッ!」

 

 

 

 その時ーー。

 

 

 

「何者だ! 我が儀式を邪魔するのは!」

 

 

 

 司祭がレミリアたちに気づいた。

 そのとき、何者かの張り裂けんばかりの別の声が空間を響かせた。

 

 

 

「レミリア!? レミリアだな!? 助けに来てくれたんだな! はやく私を呼んでくれッッッ!!」

 

「ッ!? ーーマリサッ!!」 

 

 

 

 レミリアは咄嗟にマリサと叫んだ。

 すると司祭たちの声色が変わった。

 

 

 

「そ……その名は……グ、グワーッ!」

 

 

 

 マリサの名に動揺した司祭たちは、くぐもった悲鳴をあげながらかき消えていった。

 

 あたりが静まり返ると、マリサは今度は立ち姿で、レミリア達の前に姿を見せた。

 

 

 

「助かったぜ、あぶなかった……もう少しで生贄にされるところだった。魔王がな……アイツら私を使って魔王を呼ぼうとしてやがったんだ」

 

「……マリサ」

 

 

 

 レミリアはそっと彼女の名を呟く。

 マリサの声が、彼女の存在そのものが、レミリアに言いようのない焦燥感を抱かせた。

 

 

 

ーー……なにか……なにか……なんだったっけ……。

 

 

 

 しかしレミリアは、その焦燥感の正体をまだ掴めない。

 不明瞭な姿のマリサは、レミリアに視線を止めると、こう言った。

 

 

 

「おまえと会えるのは、まだ先の話なんだ。しかも会ってしまったら一度はグッバイ。ーーま、とにかく待ってるぜレミリア」

 

「レミリアいつまで寝てるの? 今日は部活動のみんなが来るんでしょ? はやく起きてらっしゃい」

 

 

 

 マリサが姿を消し、次に母リョウコの声でレミリアは夢から現実へと連れ戻された。

 

 目が覚めても、レミリアは夢の事を振り返っていた。

 

 

 

 

ーー……マリサ……マリサ……ッ!? そうよマリサって……でも……。

 

 

 

 

 レミリアの脳内に浮かび上がって来たのは、隣に住む同級生で幼馴染のマリサである。

 

 

 

 

ーー……違う。

 

 

 

 レミリアには、夢のマリサが幼馴染とは到底考えられなかった。

 口調から雰囲気から、とにもかくにもなにもかも違いすぎた。

 

 とはいえである。

 偶然と括ってしまうのも、しこりが残る。

 

 

 

「レミリア、はやく起きてらっしゃいってば」

 

「はぁーい起きてるよ」

 

 

 

 レミリアはベッドから飛び起きた。

 手早く着替えをすませる。

 すぐに隣のマリサに会いに行こうとレミリアは思っていた。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 ふとパソコンを見る。

 すると何者からメールが届いていた。

 

 

 

「……あっ」

 

 

 

 届いたメールを確認したレミリアの口から自然と声が漏れる。

 

 悪魔召喚プログラムを作ったStevenと名乗る者から、また新たなプログラムが届いていたからだ。

 

 

 

ーー……オートマッピングプログラム? ……あいかわらず変なの……これホントに先輩達じゃないのかしら?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「夢? 夢なんかみてないわよ? なに、夢占いかなにか? ……ぜんっぜん、らしくない。なにかあった?」

 

 

 

 レミリアは昨晩の見た夢のことを幼馴染のマリサに聞いたが、返ってきた答えは、ある意味予想の範疇だった。

 

 

 

「……なんでもないわ、変なこと聞いたわね」

 

「べつにいいけど。あーあ……それより今日、本当はデートだったのに……」

 

 

 

 目を丸くしたレミリアに、マリサは自身の口を慌てて塞いだ。

 幼馴染のわかりやすい反応に、レミリアの目尻が下がった。

 

 

 

「彼氏いたんだ、もしかして結構前から?」

 

 

 

 レミリアの言葉に、マリサは歯に噛みながら黙って頷く。

 

 顔を真っ赤にしたマリサのあまりの嬉しそうな様子に、レミリアは思わず白い歯をこぼした。

 

 

 

「その感じ、幸せの絶頂期ね。いつか紹介してくれる日がくるかしら」

 

「……ううん、ずっと誰にも紹介しない」

 

「わぁ」

 

 

 

 そのあと、しばらく取り止めのない話をしてから幼馴染の家を後にしたレミリア。

 

 このまま家に戻ってもよかったが、いま家にもどったら、母のリョウコが今日は二度と出してくれない気がした。

 

 お昼までまだ2時間以上あるんだからと、レミリアは自宅とは反対方向に向かって歩きだした。

 

 

 

ーー大丈夫、危ないところには行かないから。

 

 

 

 しばらく歩くと、整備された林道が視界に入ってくる。

 

 井の頭公園である。

 公園は封鎖されておらず、少数ながらチラホラと人の姿があった。

 

 朝の陽光を受けた樹木の葉が風に揺れキラキラと光を反射している。

 この時間、こうして足を運んでみれば、とてもあんな事があったとは思えない。

 

 しかし、レミリアの脳裏に母の言葉がよぎる。

 さらに昨日のこともある。

 レミリアは腕を組んだ。

 

 

 

ーーもう封鎖されてないんだから。それに、いまここで、また何か起きるなんて考えられない。むしろよ、今が一番安全よ。うん。

 

 

 

 レミリアなりに葛藤はあった。

 何度か引き返そうともした。

 

 

 

ーーこれもデジタルサバイ部の性ね。

 

 

 

 レミリアは都合よく部を利用すると、足取り軽く林道に向かって行った。

 

 

 

「ーーわっ! ちょっ…………ぇっ……と……ご、ごめんなさい、おじいさん」

 

 

 

 林道に入ってすぐ、道の真ん中を歩いていたレミリアは何かにつまづき大きく態勢をくずした。

 

 林道の真ん中に、老人が座っていたのである。

 

 いつのまにそこにいたのか。

 そんなところに誰かいれば、絶対に気づくはずーー。

 

 

 

「お前がレミリアか」

 

 

 

 老人はレミリアの名を呼んだ。

 だがレミリアの方には心当たりがない。

 

 

 

ーー……。

 

 

 

 不思議な空気を纏う老人にレミリアの頬は緊張を覚えた。

 きっと、今の状況を切り離しても、老人の印象になんら変化はないように思えた。

 

 

 

「あの……どちらさまですか……?」

 

 

 

 それは恐れからくるものではなく、レミリアは神妙な面持ちでたずねた。

 

 

 

「おおいなる力を使いこなせるかもしれんな」

 

 

 

 老人はレミリアの言葉に返事せず、自分の言葉をつづけた。

 

 

 

「……あの」

 

「光と闇、法と混沌。世界のバランスが崩れようとしておる。いずれに傾こうと結果は同じじゃ。お前ならどうする?」

 

「……」

 

「いずれにせよ、もう引き返すことはできぬ。とりあえず力を見せてもらおうか」

 

 

 

 老人が言い終わると、レミリアの意識は遠のいた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「今度はなにがあるんでしょう」

 

「マジかよ、昼間から夢見てるなんて」

 

 

 

 気づけば、トウマとキョウイチがレミリアの目の前にいた。

 

 

 

ーーこれ……またあの夢……? でも……。

 

 

 

 レミリアたち3人は、例のように不明瞭な姿であるものの、周囲の様子がこれまでとは違っていた。

 

 空間は朧げに揺らいでいたが、どこかのビルの景色が広がっている。

 

 

 

ーー……っ! 自分で歩けない……。

 

 

 

 再度、今までと違う変化に遭遇する。

 自分の意思で歩いてないにもかかわらず、身体はどこか先へと進んでいく。

 おそらくトウマとキョウイチも同じだろう。

 

 レミリアたちの身体は、階段を見つけると上に昇っていく。

 なにか明確な目的地をめざしているように思えたが、とにかくいまは見守るしかない。

 

 どれくらい昇っただろう……?

 ある通路を曲がったとき、3人の身体は急停止した。

 

 そしてーー。

 目の前に立つ者の姿に、レミリアの息が止まった。

 

 

 

ーーッッッ!? …………お、お母さんッ!? どうしてここに……ッ!?

 

 

 

 母のリョウコが立っているのである。

 リョウコは白いエプロンを身につけていた。

 

 今日は部活のメンバーが家に来る。

 お昼ご飯の準備をしていた母がこの夢にいる。

 レミリアは驚きと共に違和感を持った。

 

 

 

「ダメよ! レミリア、この先は危険なの! みんなもやめて!」

 

 

 

 リョウコはエプロンをギュッと握りしめ切羽詰まった声色でレミリア達に訴えかけた。

 

 

 

「……ッ!? ……ッ」

 

 

 

 ところがレミリアは声が出ない。

 身体が勝手に動き出してから、すべてにおいて自由が効かないのである。

 

 リョウコは歯痒そうに足をモゾモゾさせていたが、やがて視線を下におとすと、

 

 

「……止めても無駄なのは分かってるの……でも、あなたがいなくなったら、わたしはどうすればいいの……」

 

 

 

 と言いのこし姿を消した。

 ふたたび身体が動き出す。

 母リョウコの事を考える余裕を与えてはくれなかった。

 

 

 

ーーお母さん……。

 

 

 

 リョウコが姿を消した先の部屋入ると、研究員のような男の背中が見えた。

 男の左右には巫女がいて、お祓い棒をしきりに振っている。 

 

 

 

「我が同胞よ、今こそ魔界より来れ」

 

 

 

 儀式をしているようである。

 レミリアは昨晩の夢と重なった。

 

 研究員の男はなにかぶつぶつと言葉を発していたが、レミリアたちの気配を察知すると儀式を中断し、こちらに振り返った。

 

 

 

「いったいなんの用でここに足を踏み入れたのだ。儀式を見たからにはお前たちを生かせては帰さんぞ」

 

 

 

 強い風が巻きおこり、研究員の男のシルエットが大きく伸び上がる。

 研究員は平安装束を纏う頭を剃り上げた大男へと変化した。

 数珠を絡めた掌をこちらに向け、見えない力でレミリアたちを金縛りにすると、大きな炎で包みこんだ。

 

 

 

ーーァアアアーッ!

 

 

 

 炎に巻かれ、レミリアは断末魔をあげたが、意識はそこで途切れた。

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 

 

 目覚めたとき、レミリアは元いた井の頭公園の林道に立につくしていた。

 汗をびっしょり掻き、息切れがひどかった。

 痛みや熱さの余韻が、いまだ身体に残っている。

 

 

 

「どうやら今のお前では無理のようじゃ。定めなら、奴ともう一度あいまみえようぞ、こころしてかかれ……」

 

 

 

 背後からあの老人の言葉が聞こえた。

 レミリアは振り返る。

 しかし老人の姿はなかった。

 

 

 

ーー最悪……なによ今の……。

 

 

 

 昨日から奇妙なことが続いているが、レミリアはそれらに現実味を感じられなかった。

 どこか他人事のような、あるいは夢の中ような感覚だったのである。

 

 ところが今の夢は、レミリアを不愉快にさせ、彼女を現実に向き合わせた。

 

 夢とは思えないほどの痛みと、母リョウコの悲痛な顔が、レミリアの心に深く刻まれたのである。

 

 お母さんを心配させてはいけない、一緒に料理を手伝うべきだと、レミリアは家へと急いだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

ーー……警察。

 

 

 

 自宅の前に到着すると、パトカーが止まっており、3人の警官が立っていた。

 

 中に入ろうとするレミリアを警官が呼び止める。

 

 

 

「ちょっと待て。お前、レミリアか?」

 

「……はい、そうですけど」

 

 

 

 すると警官たちは間髪入れずに飛びかかって来た。

 

 

 

「逮捕する! とりおさえろ!」

 

「ッ!? なに放してちょっとッ!! イヤ痛いッ……ほんとになによッ!? 家に戻らせてッてばッ!」

 

 

 

 警官たちはレミリアに手錠をかけ頭から袋を被せパトカーに乗せた。

 そして、けたたましくサイレンを鳴らしながら、どこかに向かって走っていった。

 

 

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