トウホウテンセイイブンロク   作:まめ三等兵

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8.病院 前編

 

 

「そこに入ってろ!」

 

「ッ! 眩ッ……」

 

 

 警官がレミリアの頭に被せていた袋を取り払った。

 白い光がレミリアの目に飛び入ってくる。

 最後に手錠を外されたレミリアは、警官に突き飛ばされ床に身体を強く打ち付けた。

 

 結局なんの説明もないままレミリアは投獄された。

 

 逮捕される覚えなく、こんなデタラメな話はないと、レミリアは頭に血が昇り鉄格子に飛びかかっていくが、さすがにこの堅牢な部屋では手のうちようがない。

 

 

 

ーーはやく家に戻らないといけないのに…………もうッ!

 

 

 

 レミリアは鉄格子に八つ当たりをした。

 

 

 

「……キミも捕まったんですか……」

 

「ーーえ?」

 

 

 

 とつぜん後ろから声がした。

 レミリアは反射的に振り返る。

 

 声の主の姿に、レミリアは驚きの表情を浮かべたが、それは相手も同じだった。

 

 

 

「……キミは……レミリアくんですか?」

 

「………………トウマ?」

 

 

 

 衝撃と確信が2人の身体を走り抜ける。

 間違いない、夢で出会った者が、この現実にいる。

 

 トウマは信じられないと言った面持ちで、恐る恐る立ち上がる。

 

 2人の視線は忙しなく、本物か真実か、確かめ合うようであった。

 

 

 

「はい……トウマです……夢じゃないんですね」

 

「よりによってこんなところで……あなたも捕まったの?」

 

 

 

 レミリアの問いに、トウマは我に返ったような表情を浮かべた。

 

 

 

「それが……聞いてください。僕の彼女が行方不明になってしまいました。彼女を探してるうちに悪魔が襲ってきてーー」

 

「っ!? ……悪魔」

 

 

 

 レミリアは昨日のハンチング帽の男を思い浮かべた。

 いままで知り得た情報が自然と繋がり、それはさらに強固なものになっていく。

 

 殺人、悪魔、そしてプログラム。

 

 

 

「それで、戦っていたら警察に捕まったんです……レミリアくんは? どうしてここに」

 

 

 

 トウマの質問に、レミリアは無言で首を振った。

 

 

 

「さっぱり……朝散歩して、家に戻ろうとしたらいきなり……ぁっ、もしかしてこれのせいかも」

 

 

 

 レミリアはポケットから折りたたみナイフを取り出して見せた。

 ハンチング帽の男が持っていた例のナイフである。

 しかしトウマは軽く笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

「そんなことだったら、僕なんてホラ」

 

 

 

 するとトウマは懐から小型拳銃を抜きだした。

 

 

 

「本物……?」

 

「もちろんです。とてもではないですけど、悪魔と戦うには」

 

「悪魔……そんなあちこちに?」

 

「少なくとも昨日まではあそこまでひどくは。今日ーーいまから数時間前、急にですね……」

 

「もぅ……だったらなおさら家に帰らないといけないのに」

 

「ーーあの、レミリアくん」

 

 

 

 トウマはあらたまってレミリアを呼んだ。

 

 

 

「?」

 

「……彼女を探すの、手伝ってくれませんか? もちろん僕もなにか手伝います。家に戻りたいというなら、きっと力になれます」

 

 

 

 レミリアはトウマの願いを聞きながら数回頷いた。

 

 早くに承知を受け取ったトウマは、大きなため息と共に『ありがとうございます』と言って額に手を当てる。

 

 

 

「私はとにかくここから出たい。それだけなの」

 

「ぜったい大丈夫、チャンスはあります」

 

 

 

 レミリアは頷きつつ瞼を閉じた。

 彼女の方も、トウマとの出会いに一息いれることができたようだ。

 レミリアは壁際に身体を預けた。

 

 

 

「彼女の居場所、もう散々探しつくしたと思うけど、まだ探せてない心当たりはあるの?」

 

 

 

 トウマは下唇を噛みしめ肩を落とした。

 

 

 

「マリサが行きそうな所は、あらかた調べたんです。でも……」

 

「ーーマリサ? 彼女、マリサって言うの?」

 

「……ーー知ってるんですか?」

 

 

 

 レミリアは顎に手を当てた。

 トウマもあの夢を共有してるはずである。

 そのトウマの口からマリサという名前が出てきたが、夢の中のマリサのことについて少しも触れなかった。

 

 もしトウマの彼女が夢のマリサを指しているなら、あのときのトウマも、いま目の前のトウマも、何か反応があるに違いないとレミリアは考えた。

 ならばレミリアに思い当たる別のマリサは彼女しかいなかった。

 

 

 

「マリサって……まさか彼女のお父さん、お医者さん?」

 

 

 

 トウマの目が大きく見開く。

 

 

 

ーー……なるほど、どうりで。

 

 

 

 マリサが彼氏を隠したがっていた訳をレミリアは深く納得した。

 トウマは美貌の男だった。

 

 レミリアはトウマに、自分とマリサとの関係を聞かせた。

 

 

 

「まさかレミリアくんが、マリサの隣の家に住んでて、しかも幼馴染だなんて……」

 

「マリサ、今朝は家にいたわ、すこしお邪魔したの。9時半くらいかしら」

 

 

 

 トウマは2、3度うなづく。

 

 

 

「じつは今日、会う予定をキャンセルしたんです。……でもやっぱり心配になって……僕が家に行ったときには、もういませんでした。マリサのお父さんに『すこし出かけてくる』と伝えてたみたいで……それで僕は」

 

「マリサ、あなたのこと考えるだけでほんとに幸せそうな顔してたの。あんな嬉しそうなマリサ初めてみた。あらためて協力するわ」

 

 

 

 トウマは視線をおとして静かに笑みを浮かべた。

 

 それからかなり長い間、レミリアたちはここで足止めされた。

 事情が事情なだけに、2人が抱える不安と焦りは時間の経過と共に大きくなっていく。

 やがて言葉がなくなり、レミリアとトウマは沈黙に身を委ねつづけた。

 

 どれくらい経過しただろうか。

 とつぜん外科医のような格好をした男が入ってきた。

 

 

 

「手術の時間だ、出てもらおう」

 

ーー手術?

 

 

 男は鉄格子のロックを外す。

 その隙をトウマはみのがさなかった。

 

 俊敏な初動で男との距離を詰めると、その股座に蹴りこむ。

 男は腰が抜けるように崩れ落ちた。

 

 

 

「レミリアくんッ、今のうちに外へ……はやくっっ」

 

 

 

 呆気にとられているレミリアをトウマが急かす。

 レミリアは慌てて駆けした。

 

 部屋の外の景観に、トウマもレミリアも眉をひそめた。

 

 

「そうよね、ここやっぱり病院よね」

 

「ええ、逮捕したのに何故か病院……でも警察より好都合かもしれません。レミリアくん、とにかく今は」

 

「うん、急ごう」

 

 

 

 受付や待合室はガランとしてひと気がない。

 しかし各病室からは人の気配があり、大小さまざまな声が聞こえてくる。

 院内は所々蛍光灯が切れており、病院として機能しているのか疑わしい不穏な空気が漂っていた。

 

 病院の玄関前まで来たレミリアたちに、想定外のことが待ち受けていた。 

 トウマはその場で怒りを滲ませ、眼前のそれを力任せに叩いた。

 

 

 

「くそッ、どうなってるんだッ」

 

 出入り口にまで、鉄格子が取り付けられているのである。

 レミリアはこの病院が初めてじゃない。

 こんな鉄格子など見覚えがなかった。

 

 

 

「そう言えば……」

 

「?」

 

「あくまで噂だけど、確かこの病院の院長、最近おかしいって……」

 

「……聞いたことあります」

 

 

 トウマはうつむき長髪をかきあげた。

 

 

 

「なんか、ここから出るかどうかの選択肢は、こちら側にはないって言われてるみたい。…………病院だけじゃない……ホント、これどうなってるの」

 

 

 

 レミリアは折りたたみナイフを片手で弄りはじめた。

 トウマはほんのひと時、レミリアのナイフを無言のまま目で追っていたが、やがてなにか決意したような雰囲気を持って口を開いた。

 

 

 

「レミリアくん、院長室か手術室を探した方がいいかもしれません」

 

「ええ、それしかなさそうね」

 

 

 

 レミリアは了承するーーその時。

 突如強烈な耳鳴りに襲われ、レミリアは両耳をグッと押さえつける。

 ナイフが落ちた。

 

 

 

「レミリアくん気をつけて! 悪魔が来るッ!」

 

 

 

 レミリアの背後で残響がかった唸り声がした。

 振り返る。

 すると何もない空間に黒い大きな人魂が出現した。

 よく見れば人の顔が確認できる。

 

 

 

「ッ! ……ぁ」

 

「僕に任せてくださいッ」

 

 

 

 トウマは人魂に向けて両手を前で組み人差し指を突き出す。

 

 

 

ーーっ!? 空間……空気が歪んでる……?

 

 

 

 レミリアの目には、トウマのすぐ前の空間が歪に曲がってるように見えた。

 

 そしてつぎの瞬間、キーンという金属音がしたかと思えば、破裂音と共に黒い人魂が霧散した。

 

 

 

 何が起きたのかハッキリと分からないレミリアだが、トウマが何かした事だけは確かだった。

 

 

 

「今のって……?」

 

 

 

 レミリアの驚きの視線を受け、トウマは口を開いた。

 

 

 

「あの夢を見てから……自分の中で不思議な感覚が芽生えました。はじめは気づかないようにしてましたが……まさか、すぐにこう言った形で使うことになるなんて……」

 

「……そう。とにかく助けられたわ、いなかったらどうなってたか、ありがとう」

 

 

 

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