トウホウテンセイイブンロク   作:まめ三等兵

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9.病院 中編

 

 

 あの黒い人魂は、まるで呼び水となったかのようであった。

 

 レミリアたちの行く先々に悪魔があらわれ牙を剥けてくるのだ。

 病院は本性を現したかのごとく、悪魔の巣の様相をていしていた。

 

 レミリアにはトウマのような不思議な力はない。

 だから小さなナイフで応戦するより他ないが、抜群の運動神経と度胸で死線を潜り抜けていく。

 

 当初、人型悪魔にナイフを刺し込むことに強い抵抗があったが、それも5分もしないうちに慣れてしまった。

 

 それはトウマが目の前で、小人の悪魔や、昨日出会ったものと同じ青黒い悪魔に容赦なく拳銃の弾丸を炸裂させるからである。

 

 そのトウマが肉体の損傷を治す力まで使えたのは幸いだった。

 彼のおかげで、レミリアは悪魔側も使ってくる超常的な力に怯まされながらも、踏み込んだ撃退を行うことができた。

 

 しかしレミリアには、悪魔の脅威とは別に、自身への焦りと苛立ちがあった。

 

 

ーーもしかしてこれ病気なの、なによこの怠さ……ちっとも治らない。

 

 

 昨日から感じる体調の不良が改善しないのである。

 その原因は、これらすべてに関連しているかもしれないと推測するレミリアだが、この時ほど自分の身体の怠さが煩わしいと思ったことはない。

 

 

 

「キャーッ! …………」

 

 

 

 突然、どこかで女の悲鳴がした。

 レミリアとトウマは顔を見合わせる。

 沈黙の中、助けに行くかどうか2人は決断に迷っていた。

 

 

 

「ギャッ!! ……」

 

 

 

 次は子供の悲鳴。

 トウマは短く息を吐き、声のする方へと駆けていく。

 レミリアも後に続いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 その病室の光景は、2人の言葉を失わせるのに十分だった。

 

 床一面、損傷ひどい死体が累々と積み重なっている。

 その死体が敷き詰められた病室の真ん中にはドーベルマンのような顔をした人型悪魔が立っていて、棒武器を片手に息を荒げていた。

 いまにも飛びかかってきそうな凶暴な精気を剥き出しにして、こちらを睨みつけている。

 

 トウマは前で組んだ両手を悪魔に向け攻撃の態勢をとる。

 レミリアもナイフを前にして重心をおとした。

 

 犬頭の悪魔は、レミリアとトウマを交互に見比べたあと、

 

 

 

「おめえら、どうやってここまで来た。もしかしてあのクソ野郎をぶっ殺したのか?」

 

 

 

 と言った。

 

 

 

「誰のことです?」

 

 

 

 トウマは警戒を解かないまま会話に応じた。

 すると犬頭の悪魔は足元に転がっている死体の頭を力任せに踏みつぶし喚き散らす。

 

 

 

「院長のクソに決まってんだろうがァッッッッ! クソッッッ!」

 

 

 

 犬頭の悪魔は凶暴さを撒き散らしているものの、その対象はどうやらレミリアたちではないようであった。

 とても警戒は解けないが、敵意をこちらに向けてくるようすがない。

 

 意外ななりゆきに、誰が味方で誰が敵かわからくなったレミリア。

 思いきってこちらから話かけてみた。

 

 

 

「院長と何かあったの?」

 

「あ? なにかあったかだと?」

 

 

 

 そう言うと、犬頭の悪魔はやけにゆっくりとした足取りでレミリアに近づいた。

 

 

 

「それ以上近づくと殺します」

 

 

 トウマは警告とともに指に超常の力を集めた。

 金属音が鳴り空気が震えている。

 

 犬頭の悪魔は歩みを止めるとニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

「イチャコライチャコラずいぶん楽しそうじゃねーか。揃いも揃ってイイ面ぶら下げて二十四時間どこでもお花畑ってわけだ。てめえらこそあのクソに改造手術されてしまえばよかったぜ」

 

「……。院長に会えば、ここを出れるのかしら? 私たち、一刻も早くここをでないといけないの」

 

 

 

 レミリアは挑発に付き合わず質問する。

 犬頭の悪魔が鼻で笑った。

 

 

 

「あのクソに会っても出れるかよボケ」

 

「そう。でもいるのね、こんな状況なのに」

 

「当たり前だろ。ここ仕切ってるのはあのクソ野郎だ」

 

「わかった。だったら私たちは院長に会わなきゃ」

 

 

 

 犬頭の悪魔は、値踏みするよう目を二人に向けると、こういった。

 

 

 

「あのクソを殺しきるか、この見た目になるかの二択だ。こいつら雑魚どもとは話が違うぞ」

 

「……え? まさか元人間?」

 

「あたりめぇだろ見てわかんねぇのかッ! ああッ!」

 

 

 

 犬頭の元人間は床の死体をけりとばした。

 

 

 

「鈍かったわ、ごめんなさい」

 

「ーーチッ、行っちまえ、目障りだ」

 

「……。あなた、私たちを襲わないの?」

 

「ぁあ?」

 

「レミリアくんッ!」

 

 

 

 警戒を保ったままのトウマがレミリアに言葉をとばした。

 

 

 

「だって……だったら院長が改造した目的はなに? 悪魔に対抗するため? ーーいまここで、あなたが私たちを襲わないのは、かなり重要だわ」

 

「ーーまさか手を貸せってんじゃねえよな?」

 

「ハッキリ言えば良かった、手を貸して」

 

「ッ!? 本気ですかレミリアくんッ! 油断を誘ってるかもしれないですよ」

 

「変わりに協力して欲しいことは? 元の人間の姿に戻ること? 私たちにその力はないけど、戻る方法がないか一緒に探すわ。それにどの道、あなただって院長に会わなきゃ、そうでしょ?」

 

「……ッッ」

 

 

 

 犬頭の元人間は舌打ちをしながら部屋をぐるぐる回った。

 そして1分ほどして、

 

 

 

「逆だよボケ」

 

 

 

 と言った。

 

 

 

「逆? どういうこと?」

 

「逆だつってんだよ。あのクソが俺たち人間をこんな風にしたのは悪魔のパシリを増やすためだ。だが俺の改造手術は失敗した。身体こそこんなになっちまったが、中身はまんまだ。アイツらの命令なんて受け付けねえ。だから俺はここで悪魔や手下どもを殺しまくってた」

 

 

 

 トウマが話しかける。

 

「これはそうことですか。やはり院長も悪魔なんですね」

 

「あたりめえだろボケ」

 

 

 

 レミリアが手を差し出した。

 

 

 

「私はレミリア。この人はトウマ。あなたの名前は?」

 

「……チッ、ワードッグ」

 

 

 

 ワードッグはレミリアの手の平を叩いた。

 

 

 

「そうじゃなくて本名よ」

 

「黙れ。ワードッグだつってんだろ。この見た目で本名で呼ばれたらますます立ち直れねぇだろーが」

 

「わかったわ、ワードッグ。院長を探しましょ」

 

「あのクソは2階院長室にいる。この病院中の鉄格子をコントロール出来るのは、たぶんあの部屋だけだ」

 

 

 

 

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