英雄神話 空の記録FC   作:ゲーマーN

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第2幕 地方都市ロレント

 ――ロレント市*1

 

 地方都市ロレント――リベール王国の北東に位置するロレント地方の中心都市。第一次産業が産業の中心となっており、揶揄的に田舎と呼ばれることもあるが、導力器(オーブメント)に欠かせない七耀石(セプチウム)を産出する鉱山を擁するなど導力器(オーブメント)産業にとって非常に重要な都市である。

 

「ちょうどいい時間だね。早すぎもせず、遅すぎもしないってとこかな」

 

 ロレント市に到着したヨシュアは、街の象徴でもある時計塔で時刻を確認する。遊撃士協会(ブレイサーギルド)での研修まで時間はあるが、買い物をする余裕もないわけではない絶妙な時間だ。

 

「うう、教会の日曜学校を卒業したばっかりなのに……遊撃士(ブレイサー)になるために、こんなに勉強させられるなんて夢にも思わなかったよ~……」

 

「それも今日が最後じゃないか。好きで志望したんだから、このくらいは苦労して当然だよ」

 

 憂鬱そうに肩を落とすエステルを、ヨシュアが苦笑しながらなだめる。

 

「そうそう。上級遊撃士(ブレイサー)を目指すとなると、もう少し勉強する必要もあるけど……それは、本当に一握りの上澄みだけだからね。あとは試験に合格するだけだよ」

 

「それもそっか。……よし! 最後くらい気合いを入れて、シェラ姉のシゴキに耐えるぞっ!」

 

 姉のハルにも励まされたエステルは、気を取り直すようにガッツポーズをしてみせる。

 

「さてと、まずは雑貨屋に行って父さんのお使いを済ませようか」

 

「うんっ!」

 

 ヨシュアに促されて、エステルは元気よく返事をするとのんびり歩き出す。そのまま3人はロレント市の大通りを歩いていき、やがて目的地の雑貨屋に辿り着いた。

 

 

 ――リノン総合商店*2

 

 ロレント市のメインストリートに面した大きな店舗で、雑貨だけでなく薬や食材などの日用品全般の品揃えも豊富だ。入口の看板には達筆な文字で《リノン総合商店》と書かれている。

 カランコロンと心地よい鈴の音を響かせながら店に入ると、店内はそれなりに広くでゴチャゴチャ感があった。小物や雑誌などの商品棚が所狭しと並んでおり、奥のカウンターには店主のリノンがニコニコしながら座っている。

 

「おはよう、リノンさん!」

 

「やあ、ブライト家の三姉弟か。こんな朝早く珍しいね。新しい靴を買いに来たのかい?」

 

「えっ、新しいの入ってるの? 《ストレガー》の新作とかっ!?」

 

 エステルがくわっと目を見開きながら反応すると、ヨシュアはため息をもらす。

 

「さっそく目的を忘れかけてるし」

 

「あはは……エステル、今日の目的はお父さんに頼まれた『リベール通信』の最新号でしょ?」

 

「あ、そうだった☆」

 

 すっかり忘れてた、とエステルは舌を出してウインクする。相変わらずの調子に、ハルもリノンも苦笑を浮かべるしかなかった。

 ちなみに、エステルが口にした《ストレガー》とは人気スニーカーを生み出すメーカーで、大陸中西部に位置する《レマン自治州》に本社を置いている。そのデザイン性の高さと機能性は若者を中心に評判で、エステルもこのメーカー製のスニーカーの愛好家である。

 

「はは、相変わらず熱心にコレクションしてるね。残念ながら、ストレガーの新作は出てないよ。『リベール通信』最新号なら今日の昼頃に入荷すると思うけど」

 

「お昼頃か……ギルドの研修の真っ最中ね」

 

「研修が終わったらまた来ようか」

 

「ん、そうしよっか。ハル姉もそれで……ハル姉?」

 

 ヨシュアの提案に同意したエステルだが、隣を振り返るとなぜかハルがボーッとしていた。様子がおかしいことに気づいた2人が心配そうに声をかける。

 ヨシュアとエステルが声をかけても、ハルは心ここにあらずといった表情で商品棚の一点を見つめていた。エステルが彼女の視線を追うと、そこにはひとつのぬいぐるみが置かれていた。白く丸っこい鳥のような姿をしており、口の端からちょろっと舌を出している。

 

「えっと……ナニコレ? ブタ? それともカバ……?」

 

「ああ、それかい? ペロロと言ってね。ジェニス王立学園を中心に流行しているらしい《モモフレンズ》というマスコットの主役格だそうだよ」

 

 リノンの説明を聞き、エステルは改めて《ペロロ》なるマスコットを見つめる。

 羽のような部位からして鳥のようにも見えるが、仮にそうだとしても丸っこい姿からすると明らかに飛べそうにない。エステルにはそれがなんだかおかしく思えてしまい、プッと噴き出すと笑いが止まらなくなってしまった。

 その笑い声でようやく我に返ったらしいハルは、慌てて取り繕うような笑みを浮かべる。

 

「……ごめんね。ちょっと懐かしいものを見つけて、ボーッとしちゃってたみたい」

 

「懐かしいものって……もしかしてこのぬいぐるみのこと?」

 

「うん。……昔、友達にモモフレンズが大好きな子が何人かいてね。その子たちと一緒によく遊んだりしたんだ。ペロロ様、なんて言ってたっけ」

 

「へ~……」

 

「その子たちとは、もう随分と会ってないけどね。……元気でやっているといいな」

 

 そう言って、寂しそうに笑う姉の顔を見て、エステルはなぜか胸にチクリと痛みを覚えた。ヨシュアも何かを察したように黙り込み、3人の間にはしばし沈黙が流れる。

 

「それじゃ、そろそろ行こうか?」

 

「え? ああ……」

 

「……うん、そだね! じゃ、リノンさん。またあとで!」

 

「ああ、待ってるよ」

 

 エステルとヨシュアはそれ以上深く追求せず、リノンに別れの挨拶をして店をあとにする。

 そうして、3人で店を出てロレントの大通りをしばらく歩いたところで、エステルはこっそりとヨシュアに声をかける。その口調はやけに神妙なものだった。

 

 

 

 ――遊撃士協会・ロレント支部*3

 

「やっほ、アイナ!」

 

「おはよう、アイナさん!」

 

「おはようございます」

 

「あら、おはよう。シェラザードはもう来てるわよ」

 

 支部に入ると、エステルは真っ先にカウンターへ駆け寄る。そこでは、金髪のウルフカットをした女性が書類の整理をしているところだった。彼女の名前はアイナ・ホールデン。ハルと同い年だが、こちらはロレント支部の受付嬢として日々忙しなく働いている。

 

「エステル、ヨシュア。今日の研修が終われば、2人も晴れて遊撃士の仲間入りね。頑張って」

 

「うん、ありがとう!」

 

「頑張ります」

 

 エステルとヨシュアが笑顔で答えると、アイナも笑顔で頷いてみせる。彼女によれば、シェラザードは2階の部屋で待っているらしい。2人は挨拶もそこそこに階段へと向かう。

 その後ろ姿を眺めながら、ブライト姉弟とは5年の付き合いになるアイナがクスクスと笑う。

 

「やれやれ、そんなに急がなくてもシェラさんは逃げたりしないのにね?」

 

「ふふ、エステルらしいわね。元気で、明るくて……見ているこっちまで元気になれるわ」

 

 アイナとそんな会話を交わしてから、ハルも2人の跡を追って階段を上っていく。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 2階では、銀色の髪で褐色肌をした女性が机にタロットカードを広げていた。彼女がシェラザード・ハーヴェイ、このロレント支部が誇るC級遊撃士(ブレイサー)である。姉御肌でサバサバしており、幼い頃からの妹分だったエステルからは「シェラ姉」と呼び慕われている。

 

「『星』と『吊し人』……『隠者』と『魔術師』……そして逆位置の『運命の輪』……これは難しいわね。どう読み解いたらいいのか……」

 

「シェラ姉、おっはよー!」

 

 真剣な表情でタロットと向かい合っていたシェラザードは、エステルの明るい声によって現実へと引き戻される。顔を上げると、エステルとヨシュアが階段を上がってきたところだった。

 

「あら、エステル、ヨシュア。珍しいわね。こんな早くに来るなんて」

 

「えへへ、最後の研修くらいはね。とっとと終わらせて遊撃士になってやるんだから!」

 

「はあ……いつも意気込みはいいんだけど」

 

 自信満々な体で宣言するエステルに、シェラザードは小さくため息を漏らす。

 

「ま、その心意気に応えて今日のまとめは厳しく行くからね。覚悟しときなさい」

 

「え~っ、そんなぁ……」

 

「お・だ・ま・り。毎回毎回、教えたことを次々と忘れてくれちゃって……そのザルみたいな脳みそからこぼれ落ちないようにするためよ」

 

「え~ん、ヨシュアぁ! シェラ姉がいぢめるよ~!」

 

 シェラザードがジト目で見つめられると、エステルはすかさずヨシュアに泣きついた。

 昔から集中力に難があり、全身を使わない作業をするとすぐに眠くなるエステルは、座学などの勉強を苦手としていた。それとは対照的にヨシュアは読書などを趣味としており、座学に関してはエステルよりも優れた成績を収めていたりする。

 ヨシュアはエステルの泣き言を苦笑しながら受け止め、そのままシェラザードへと向き直る。

 

「大丈夫ですよ、シェラさん。エステルって、勉強が嫌いで予習復習も滅多にやらないけど……ついでにむやみとお人好しで余計なお節介が大好きだけど……勘の良さはピカイチだから、オーブメントも実戦で覚えます」

 

「そうそう。百聞百見は一験にしかず。一度実際に経験した方が、エステルは覚えが早いしね」

 

 弟妹2人に遅れて階段から上ってきたハルも、ヨシュアの言葉に同意する。エステルのフォローに回った姉弟の発言を聞き、シェラザードはやれやれと頭を振りながらエステルを見つめる。

 

「はぁ、こうなったらそれに期待するしかないわね……」

 

「ちょっとヨシュア……なんか全然フォローしてるように聞こえないんですけどっ?」

 

「心外だな。君の美点を正直に言ったのに」

 

「まったくもう……」

 

 ヨシュアが涼しい顔でさらりと言ってのけると、エステルは不満そうに頬を膨らませる。しかしヨシュアはどこ吹く風といった具合で、エステルの抗議などまるで意に介していないようだった。

 

「あ、ところでシェラ姉。タロットで何を占ってたの? なんだか難しい顔してたけど」

 

「ああ、これね。近い将来、身の回りで起こることを漠然と占ってみたんだけど……ちょっと調子が悪いみたい。読み解くことができなかったわ」

 

「読み解くことができない?」

 

「へえ……そんなことってあるんですか?」

 

「珍しいね。シェラさんが占いの解釈に困るなんて」

 

 エステルとヨシュアが首を傾げ、ハルも目を丸くする。シェラザードのタロット占いの腕はロレントでも有名だ。彼女の卓越した洞察力とそれを裏付ける技量は、若くしてC級遊撃士(ブレイサー)となったことも頷けるほどである。

 その彼女が、読み解くことができない。エステルとヨシュアの疑問ももっともだった。

 

「ええ。あまりに意味深な形になると逆に解釈に困ることがあるのよね」

 

 シェラザードはゴソゴソとタロットを片付けると椅子から立ち上がり、軽く背伸びをして体をほぐす。そして、研修の仕上げに入るためエステルとヨシュアに向かって宣言する。

 

「まあ、それはいいわ。最後の研修を始めましょう。今まで習ったことを一通りおさらいするわよ。遊撃士(ブレイサー)として活動するのに必要な最低限の常識だからね。……特にエステル。ちゃんと聞いておきなさい」

 

「うい~っす」

 

 シェラザードに釘を差されたエステルは、渋々といった様子で気怠そうな返事をした。

 そうして、最後の研修が始まった。エステルとヨシュアは今まで習ったことを復習し、シェラザードは2人の疑問に答えながら詳しい説明を付け加えていく。合間合間でハルも解説に加わり、エステルとヨシュアは教えを頭の中に詰め込む。

 そんなこんなで、座学の時間はあっという間に過ぎていくのだった……。

*1
【推奨BGM:地方都市ロレント】英雄伝説 空の軌跡FCより

*2
【推奨BGM:Lovely Picnic】ブルーアーカイブより

*3
【推奨BGM:Romantic Smile】ブルーアーカイブより




TIPS:
モモフレンズ。ゲーム『ブルーアーカイブ』に登場するファンシーキャラクターブランド。
同ゲームの登場人物『阿慈谷ヒフミ』曰く流行しているらしいが、誰でも知っているというほどではないらしく、まったく知らない生徒も少なくはない。ファンと興味のない生徒の温度差がある描写が多く、一部の層に深く愛されるタイプのマニアック路線のキャラクターたちである模様。

当然、本来はゼムリア大陸に存在するはずのないマスコットたちである……のだが、リノン曰く、ジェニス王立学園を中心に流行しているらしい。
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