英雄神話 空の記録FC   作:ゲーマーN

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第7幕 ルックとパット

 ――ロレント市*1

 

「おーい、早く来いよ~!」

 

「ま、待ってよ~!」

 

 2人の少年が街の大通りを駆け抜けている。彼らの名前はルックとパット。元気が有り余るルックは、後ろからついてくるパットを急かしながら先を走り続ける。ロレントの街に住む生意気盛りの子供たちだ。

 

「あれ、あんたたち……」

 

「げげっ、エステル!?」

 

「あ、ヨシュアお兄ちゃんたちだ」

 

 丁度、遊撃士協会の建物から出てきたブライト家の三姉弟にルックたちは出くわした。エステルの顔を見たルックは露骨に嫌そうな表情となり、反対にパットは彼女たちの元へと駆け寄った。

 

「ふっふっふっ……甘い! 甘すぎるわよルック! バーゼル農園のミルクより甘いわ!」

 

「へっ……? ま、まさか……」

 

「ホホ、つい先程をもちまして、あたくし遊撃士資格を得ましたの。正真正銘、本物のブ・レ・イ・サ・ァ☆」

 

 胸元にピン留めした遊撃士の紋章を見せつけながら、エステルは得意げにふんぞり返る。紋章は確かに本物の準遊撃士のもので、遊撃士資格を得た紛れもない証拠だった。よく見れば、ヨシュアの胸元にも同じ紋章が輝いている。ルックは口をあんぐりと開けて呆然とする。

 

「見習いみたいなもんだから、威張れるような立場じゃないけどね」

 

「そこ、水を差さないの!」

 

「あはは……でも、本当に頑張ったと思うよ」

 

 エステルはむっとした表情でヨシュアを睨みつけるが、ハルに褒めてもらえたのが嬉しかったのか、すぐに得意げな顔に戻る。そして、遊撃士の紋章にそっと手を這わせて笑みを零した。

 一方、ルックの方はまだ衝撃から立ち直れていない様子で、呆然としたままだ。そんな友人の反応をよそに、パットは憧れの遊撃士になった2人に尊敬の眼差しを向ける。

 

「わ、すごいすごい! お姉ちゃんたち、やったね!」

 

「あー、パットはいい子ね~。小生意気な悪ガキや捻くれたお兄さんと違って」

 

 パットの純粋な賞賛に、エステルはすっかり有頂天だ。よしよしと彼の頭を撫でると、パットは嬉しそうに目を細める。それを見たルックが苦々しげに歯嚙みした。しばらくして、やっとショックから立ち直ったルックが悔しそうに悪態をつく。

 

「そ、そんな……オレの方が先にブレイサーになるハズだったのに……ヨシュアにーちゃんならともかくエステルなんかに先を越されるなんて……」

 

「なによう! その『なんか』ってのは! 大体ねぇ、16歳以上じゃないとブレイサーにはなれないんだから! 教会の日曜学校に通ってるお子ちゃまには無理なんだからね!」

 

「大人げないなぁ。本気で張り合ってるし……」

 

 子供相手に本気で張り合うエステルを見て、ヨシュアはやれやれと肩をすくめる。しかし、ルックも黙ってはいない。彼は遊撃士の紋章が光るエステルの胸元にビシッと指を突きつける。

 

「くっそ~、覚えてろよ! オレも秘密基地で特訓してすぐにブレイサーになってやる! パット、行こうぜ!」

 

「う、うん……お姉ちゃんたち、またね!」

 

 ルックは一方的に言い捨てて、パットと共にその場から走り去った。エステルは彼らの背中を見送りながら、「……はぁ」と大きくため息をついた。

 

「まったくルックったら……すぐ突っかかってくるんだから。あたし、嫌われてるのかなぁ?」

 

「いや、むしろ逆だと思うけど」

 

「だよね。本当に嫌いなら、ああやって絡んでもこないだろうし」

 

「え? そうなの?」

 

「ま、男の子ってことさ」

 

 2人からの指摘にエステルはきょとんとした表情をする。その反応を見て、ヨシュアはやれやれと肩を竦めた。どうやら、彼女はルックの気持ちに気付いていないらしい。まあ、エステルだからそれも仕方ないのかもしれないが……

 

「それにしても秘密基地か。ちょっと気になるな……」

 

「……確かに、目を付けておいたほうがいいかもしれないね」

 

 ヨシュアは顎に手を当てて考え込む。『秘密基地』というキーワードを聞いて、ハルもなにか思うところがあったのか、表情が真剣なものとなる。それに対して、エステルの方はすっかり興味を引かれたようで目を輝かせていた。

 

「うんうん! なんか、そそられる響きよね。幼い頃のピュアなハートを揺さぶられるっていうか……」

 

「いや、気になるっていうのはそういう意味じゃないんだけど……」

 

 エステルは腕を組んでうんうんと首を頷かせており、ヨシュアのツッコミは耳に入っていないようだった。そんな可愛い弟妹のやり取りを微笑ましく思いながらも、ハルがルックたちの走り去った方角から目を離すことはなかった。

 

「念のために……ね」

 

 

 

 ――リノン総合商店*2

 

「いらっしゃい。無事、遊撃士(ブレイサー)になれたかい?」

 

「モチのロンよ! 今日からあたしのことは『ハイパーブレイサー・エステル』とでも呼んでもらおうかしら?」

 

「ねえ、エステル……。その二つ名だけはやめてほしいんだけど……」

 

「なによ、ヨシュアのいけずっ! せっかく気合を入れて考えてきたのに!」

 

 自信満々に答えるエステルに対して、ヨシュアは先ほどから頭痛が止まらないようだった。ハイパーブレイサー……確かに遊撃士とはわかりやすい二つ名かもしれないが、聞いているこちらが恥ずかしくなってくるネーミングセンスだった。

 もう少し、こう……落ち着いた名前にしてくれてもいいのではないだろうか? 膨れっ面をするエステルに苦笑いしながら、ハルはここに来た本来の目的を果たすべくリノンに尋ねた。

 

「ところでリノンさん。『リベール通信』は入荷してるかな?」

 

「ああ、昼過ぎに入ってきたよ」

 

「じゃあ、一冊お願い」

 

「まいど、100ミラいただくよ」

 

 リノンはカウンターの下から一冊の雑誌を取り出した。リベール通信、王都グランセルに本社を構えるリベール通信社が出版している社名を冠したニュース雑誌だ。グランセルの最新情報から各地の魔獣目撃情報、街の事件や人々の話題まで幅広く扱っている。

 

「……ふぅん」

 

 100ミラと引き換えにリノンから雑誌を受け取ると、さっそくハルはペラペラとページを捲りだした。記事の内容に目を通していく内に、彼女は徐々に表情を険しいものへと変えていく。

 

「うちの父さん、いつもこの雑誌買ってるけど……コレ、そんなに売れてるんだ?」

 

「腕の良い記者とカメラマンがスクープをモノにしてるらしくてね。あと、女王生誕祭に関連した連載記事が当たっているらしいよ」

 

 リノンの言うとおり、本年60歳となられるアリシア女王陛下の生誕祭に関する特集が主で、祭典の準備が進む中で新商品を開発する商人の情報や、東街区で評判のアイス屋がモモフレンズとのコラボ商品を出すこと、女王陛下主催の武術大会についてなどが掲載されている。

 その中でハルが注目したのは、『ボース各地で強盗事件』という社会面の事件記事だった。

 

『本誌に入った連絡によると、ここ数日ボース市を中心とした一帯で強盗事件が多発。ハーケン門駐留の王国軍国境師団は警戒を強めている模様だ。

 軍からの公式発表はいまだないものの、目撃情報からグループによる犯行であることが明らかになっている。一刻も早い犯人の逮捕が望まれる。                     』

 

 ボース市、商業都市ボースはロレント地方と隣接するボース地方に位置するリベール王国第2の都市だ。エレボニア帝国との交易も行われており、北のハーケン門を経由して多くの物資や旅行者などがここボースに集まっている。

 そのボース市を中心として事件が多発しているというのならば、件の強盗グループがいつロレント地方に魔の手を広げてもおかしくはない。ハルが警戒するのも当然だろう。

 

「あ、そうそう。リノンさん。これはいくらなの?」

 

「そうだね、100ミラでいいよ」

 

「じゃあ、はい。これで」

 

「まいどあり。今後ともごひいきにね」

 

 余ったお金で、エステルがリノンの店の商品をいくつか購入する。何を買ったのか気になったハルが顔を上げると、ペロロ様のぬいぐるみを差し出すエステルの姿が目に飛び込んできた。

 

「え……?」

 

「ハル姉にはいつもお世話になってるし、プレゼント! ほらほら、遠慮しないで!」

 

「日頃からの感謝の気持ち……ハル姉さん、受け取ってほしい」

 

「エステル、ヨシュア……ありがとう、大切にするね」

 

 思いがけない贈り物に戸惑いながらも、しっかりと2人からのプレゼントを受け取る。嬉しそうにはにかむ姉の姿に、エステルとヨシュアも満足げに頷いた。そして、そんな三姉弟の微笑ましい一幕に、リノンも思わず頬を緩ませるのだった。

 

 

 

 ――ロレント市

 

 リノンの店で買い物を済ませた3人は、そのままエリーズ街道の方まで足を運んでいた。両親に頼まれた買い物を済ませ、さあ郊外の我が家へ戻ろうとしたところで、エステルたちを呼び止める声が聞こえた。

 

「3人とも! いいところで見つけたわ!」

 

「あれっ、アイナさん?」

 

「どうしたんですか?」

 

「なにかあったの? やけに慌ててるみたいだけど……」

 

 声に振り返ると、遊撃士協会支部の受付嬢をしているアイナが通りを走ってきていた。彼女はエステルたちの前まで来ると立ち止まり、膝に手を当てた。息が荒い。どうやら、ずっと走りっぱなしだったようだ。3人の質問に対して、息を整えながらアイナは口を開く。

 

「はあはあ。す、少し面倒なことになったの。ルックとパット、知ってるわよね?」

 

「もちろん。さっき会ったばかりだし」

 

「彼らがどうかしたんですか?」

 

 エステルとヨシュアが首を傾げる。おそらく、アイナの口ぶりから察するに何らかの事件があったのだろうが、あの2人に一体何があったというのだろうか? エステルたちの疑問は続くアイナの言葉ですぐに解消された。……ただし、その答えは非常に衝撃的なものだったのだが。

 

「それが……ユニちゃんが教えてくれたんだけど。2人して、北の郊外にある《翡翠の塔》に行ったらしいのよ」*3

 

「《翡翠の塔》!? あそこ、たしか魔獣の住み処になっていなかったっけ!?」

 

「ええ、その可能性が高いわ。シェラザードも出かけてるから、ハルに保護を頼みたいの」

 

 3人の視線が一斉にハルに向けられる。視線を集めたハルはタブレット端末型の導力器で何かを確認しているようだった。オーバルタブレットの画面には、《翡翠の塔》に続くマルガ山道の地図と、その地図の上を移動する赤い点が表示されている。

 

「……確かに、ルックたちは《翡翠の塔》に向かったみたいだね」

 

「へっ……どういうこと?」

 

「『秘密基地』っていうのが気になってね……2人に『目』を付けておいたんだよ」

 

 そう言って、ポーチの中から取り出したのは指の間に収まるくらいの小さな機械だった。羽虫のような見た目をしたそれは、音を立てることなく空中に飛び上がる。ラフム――ミレニアムサイエンスグループの開発した光学迷彩機能付きのこの超小型ドローンこそが、ハルが秘密基地の話を聞いてから密かに仕込んだ『目』だった。

 

「このドローンで、ルックたちの行動を追跡してたんだ。今も2人の位置をリアルタイムで教えてくれてる」

 

「なるほど……流石は姉さんだね」

 

「遊撃士たる者、見えざる脅威に備えるため、常に感覚を研ぎ澄ませておくこと。気になることがあったら、すぐに対応できるようにね。遊撃士の心得の1つだよ」

 

 1人の先達として、エステルとヨシュアに教えを授けるハル。その目は真剣そのもので、彼女の経験の豊富さを物語っているようだった。しかし、そんな姉の教えはエステルには少し難しかったようだ。真面目な顔で聞き入るヨシュアとは対照的に、目をぱちくりさせている。

 とはいえ、自分たちのやるべきことは見えた。ハルは表情を引き締める。エステルとヨシュアもアイナに向き直り、遊撃士としての責務を果たすべく口を開いた。

 

「アイナさん、あたしたちも行きます!」

 

「1人より2人、2人より3人の方が良いはずです。急げば、塔に着く前に追いつけるかもしれませんし」

 

「でもねぇ、あなたたちは資格を取ったばかりだし……」

 

 エステルとヨシュアも、アイナの言わんとすることは理解できていた。遊撃士見習いとしての経験も実績もない自分たちが手を出したところで、逆にハルの足を引っ張ってしまう可能性があるかもしれない。ルックたちの身の安全を第一に考えるならば、ここはベテラン遊撃士のハルに任せるべきなのだろうが……それでも、何もせずにここで待っているだけなんてできない。

 私たちは、もうただの子供じゃないんだから――エステルとヨシュアは互いに顔を見合わせて頷き合う。その目には揺るがぬ覚悟があった。

 

「……アイナ、2人はもう遊撃士の仲間だよ。もう少し、2人を信じてあげてくれないかな?」

 

「ハル……」

 

 アイナの肩に手を置き、優しい微笑みを浮かべるハル。その言葉には有無を言わさぬ力強さがあった。姉ではなく、1人の遊撃士としての立場から告げられる言葉。アイナは迷ったように視線を揺らすが、やがて観念したように小さくため息をついた。

 

「わかったわ。遊撃士協会からの緊急要請よ。一刻も早く子供たちの安全を確保して」

 

「うん、任せて」

 

「了解ッ!」

 

「わかりました」

 

 街の出口から街道へ。3人は力強く頷き返し、《翡翠の塔》へと駆けだしたのだった――

*1
【推奨BGM:Connected Sky】ブルーアーカイブより

*2
【推奨BGM:Lovely Picnic】ブルーアーカイブより

*3
【推奨BGM:Fade Out】ブルーアーカイブより




TIPS:
ミレニアムサイエンスグループ。
クロスベルで様々な事業を展開している企業。クロスベル中央銀行の総裁、ディーター・クロイスの娘にして、クロスベルの《ビッグシスター》リオ・クロイスが代表取締役を務める。
元ネタは、『ブルーアーカイブ』より『ミレニアムサイエンススクール』及び同校を取り仕切るセミナーの生徒会長『調月リオ』。
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